2007年10月13日土曜日

映画 「僕のピアノコンチェルト」


スイス映画「VITUS 」を観た。邦題「僕のピアノコンチェルト」。クレモンオピウム、各地デンデイー館で上映中。監督、フレデイー ミューラー。ローマフィルムフェステイバルで オーデイエンス賞を取った。音楽雑誌などが、絶賛している。

IQ180の天才的頭脳と、プロ並みのピアノの腕前をもっている少年ヴィトスのお話。 6歳のヴィトスを BRENO GANZ、12歳のヴィトスを、TEO GTHEORGHLYが演じている。

実際に12歳の テオ ゲオルギューは、名門の音楽学校在学中の学生で 映画の中で演奏しているのも、バックグラウンドで流れているピアノ曲も、みな彼が弾いている。映画のラストシーンで コンサートホールで、フルオーケストラをバックに、ピアノコンチェルトを弾き終わり、20分もの、スタンデイングオベイションを 得たのも、実際にあったできごとだそうだ。

ストーリーは、 ヴィトスの父親は機械工学のエンジニア、母親はパートタイムでオフィスに勤めるごく普通の家庭だが、ヴィトスの成長とともに、頭が良くて、音楽の才能に恵まれていることがわかる。7歳で 難解なバッハのピアノ曲を弾けるようになると 両親はそれが自慢でならない。職場で余り評価されていなくて、うだつがあがらない父親は、職場の上司達をパーテイーに招待して、ヴィトスにピアノを弾かせて、びっくりするのを観て日ごろのうっぷんを晴らしたりしている。学校でも、とびぬけて数学ができて、先生方は彼を、12歳で飛び級させて、高校に行かせる。どんどん難しい数学に挑戦して、まわりを 驚愕させるが、ただそれだけ。友達もいなくて、親は期待するばかり、母親はヴィトスのために、仕事を辞めて ピアノレッスンに圧力をかけるばかり、、、次第にヴィトスはそんな日常に耐えられなくなっていく。

汽車で1時間ほど行った田舎に おじいさんが一人で住んでいる。木工作業場を持っていて、家具などを作っていた。ヴィトスは、このおじいさんが大好き。おじいさんは 昔から空を飛ぶ夢を持っていた。飛行士になりたかったという。ヴィトスが7歳のころ、木工細工で大きな翼を造ってくれた。12歳になって 閉塞した日常から、飛び出したくなって、ヴィトスは、ある日 その翼をつけて、高層アパートのベランダから、飛んで身を投げる。全身打撲で、意識不明になって病院に運ばれたヴィトスは、奇跡的に怪我こそしなかったが、検査の結果、180あったIQが、120に落ちて12歳意のごく普通の子供の知能にもどってしまったことがわかる。

失望のどん底に落ちる母親。父親は失業の憂き目にあい,家庭は暗くなるばかり。自然、ヴィトスはおじいさんと一緒に手作業をしたり、散歩したりして過ごすことが多くなり、高校もやめて、小学校に入りなおす。友達もできて、好きな女の子もできる。 ただ、過剰な期待をかけて、圧力をかけてくるだけの両親と違って、ありのままを愛してくれるおじいさんは 本当は ヴィトスが事故でIQが低くなったわけでも、ピアノが弾けなくなったわけでもない事実をあとで知るが、誰にも言わない と約束する。ヴィトスは母親の「管理」や、教師の「指導」のないところで、ピアノが弾きたかっただけなのだ。

おじいさんの古い家の天井が落ちそうだが、資金がなくて、修理ができないとわかって、丁度、失業したお父さんの会社の株の操作をして、ヴィトスはおじいさんを巻き込んで、大金を手に入れる。お金持ちになったおじいさんは、まっさきに ヴィトスに相談もなく、欲しかったものを、手に入れる。飛行機操縦のシュミュレーション機械と、本当の飛行機だ。ヴィトスは自分でアパートを手に入れて、そこで、思い切りピアノを弾いて過ごす。

しかし、本当に、おじいさんの家の天井が落ちてきて、そのときの怪我が原因でおじいさんは亡くなる。最後まで自分が買ったばかりの飛行機で空をかけめぐる夢をヴィトスに語りながら。ヴィトスは、おじいさんの夢を実現すべく、一人で飛行機を操縦して、遂に空を飛ぶ。そして、自分が習いたかったピアノの先生のお屋敷に飛行機を着陸させる。世界中からお弟子になりたい生徒が訪ねてくる先生の家に、突然空からやってきた少年を、先生は笑顔でむかえる、と言うお話。

おじいさんと少年の心の交流がとても良い。いくつになっても子供の心をもったおじいさんと、少年の心が しっかり結ばれている。反して、事故にあった子供が、普通のIQにもどったと知って絶望して、やけっぱちになってタバコを吸ったりしている母親は醜い。飛びぬけて優秀だった息子が誇らしかったが、普通の子供人なって、自慢できなくなった自分が悲しいだけなのだ。こんな親になってはいけない。

仲良しになったクラスメイトと自転車で乗り回すシーンが良い。相手はロックをイヤホーンで聞きながら自転車を乗り回しているが、ヴィトスは、リストのピアノ曲を頭の中で反復しながら乗っている。 そして、もちろん ラストシーンの、オーケストラと、ヴィトスのピアノコンチェルトの大成功のシーンは素晴らしい。この小さな音楽家、演技をしていると言う感じがしない。地で、演奏し、演じている。立派な音楽家に成長するだろう。