2013年4月23日火曜日

映画 「コンチキ」


   
ノルウェー映画
原題:「KON-TIKI」
監督:ヨアキン ローニング
   エスパン サンドベルグ
2013年アカデミー賞、ゴールデングローブ賞候補作

ノルウェーの人類学者で冒険家、トール ハイエルダーによる「コンチキ号漂流記」(偕成社)や、「コンチキ号探検記」(ちくま文庫、河出文庫)は、子供の時に、夢中で読んで、愛読した。冒険物語の中でも ピカイチ。ドキドキワクワクの連続だ。実際に、ハイエルダーがコンチキ号で、南米から南太平洋まで航海したのは、1947年だが、彼の航海記は、いま読んでも大人も子供も楽しめて、全く古さを感じさせない。ユーモアたっぷりで、ウィットに富んだ、気品のある文章は、いつまでも人を惹きつける。20世紀の名著の一つだそうだ。

実際航海中に クルーによって撮影されたフイルムは、長編ドキュメンタリーに編集されて、1951年のアカデミー賞、長編ドキュメンタリー賞を受賞している。

コンチキとは、インカ帝国の太陽神ピラコチヤ コンチキの名前からきている。ノルウェーの人類学者トール ヘイエルダールは、南太平洋ポリネシアの島々を学術調査して、ポリネシアの神々がインカ帝国のそれに酷似していることや、人々が東からやってきたと、言い伝えられていることから、ポリネシア人は 南米から移ってきた民族であることを確信する。当時、ポリネシア人が はるか、8千キロもの海を渡って 南米から来たという学説を信じる者はいなかった。そこで、彼は、自説を証明しようと、コンチキと名付けた「いかだ」を作り、南米から南太平洋に向かう計画を立てた。インカ帝国を征服したスペイン人の残した図面をもとに、バルサという南米産の常緑樹や、松、竹、マングローブなどを使って、いかだを組み、麻でマストを作る。何の動力もつけずに、風と、フンボルト海流を頼りに、5人のクルーとともに、太平洋を渡る。

南米ペルーを1947年4月に出発、102日後の8月に、彼らは、遂にポリネシアのツアモツ諸島に到着。7000キロ余りの距離を航海して、ペルーからポリネシアまで 人々が海流にのって移動することができることを証明した。ポリネシア人の先祖が南米のインデアンだという学説が証明された形になったが、のちに、ヘイエルダールの学説は否定される。DNAなど、科学的な調査によって いまではポリネシア人はアジアを起源とすることが、定説になっている。
しかし、ヘイエルダールはいつまでも、ノリウェーの英雄であることに変わりはない。現在、コンチキ号は、ヘルシンキの博物館に展示されている。

2006年に、ヘイエルダールの孫たち6人が、再びコンチキ号を作って、ペルーから太平洋を横断する航海に挑戦した。ヘイエルダールが作ったのと同じ、いかだを作り、ポリネシアに渡った軌跡をなぞることによって、今日の海洋汚染が海中動物や植物にどのように影響しているかを調査するのが目的だったそうだ。60年経っても ヘイエルダールの冒険心は、孫の代まで受け継がれているようだ。

映画は 今年のアカデミー賞候補になったが、受賞にならなかったのは、アング リーの「ライフ オブ パイ」の同じような海の漂流ものが重なったのが不運だったのかもしれない。映像の魔術師、アング リーの鮮やかな色彩の氾濫、光と影の芸術、最新技術を駆使しての映像美には、誰も勝てはしない。
しかし、「コンチキ」の自然描写も、秀逸だ。海から日が昇り、海に日が沈む。サメの襲撃による恐怖、くじらの群れとの交流、光り輝くクラゲの遊泳、降るほどの星々。

ハイエルダールの描き方も良い。自分の学説の曲げず、それを証明するために学識者や「ナショナルジェオグラフィー」や、新聞社などから 航海に必要な資金を集めようと、足を棒にして回るが、一向に資金提供者を見つけられない。ペルー大使に直談判して 誇り高いペルー民族が ポリネシア人の先祖だと、熱心に説得して資金を引き出すところなど、涙ぐましい。航海のクルー探しでも、経験者を集められず、やってきたのは、冷蔵庫のセールスマンで、海を知っているどころか、泳ぐこともできない男だ。
やがて航海が始まり、6人6様の個性の強い男たちが、協力したり、ぶつかったり、いがみ合ったりするが、キャプテン ハイエルダールのいつも穏やかな人柄が救いになる。

唯一の外部との連絡を果たす無線機がだめになっても、現在位置がわからなくなっても、客観的にみて、全く希望がないように思える局面でも、自分の根底に楽天性をもち、自分を信じることが大切だということが よくわかる。冒険物語はいつも自分を励ましてくれる。だから、読むのも、見るのも大好き。
この映画をみていると、ノルウェー人にとって、いかにハイエルダールが、大切な存在で、みなが誇りにしているかがわかる。アムンゼンにしても、本当に立派な冒険者たちを生んだ国だ。
 6人のクルーとキャスト
トール ハイエルダール :パル ヘイゲン
エリック ヘイゼルベルグ:オッドマグナス ウィルアンソン
ベント ダニエルソン  :グスタフ スカルスガード
クント ホーグラン   :トビアス サンテマン
トルステイン ラビー  :ヤコブ オフテブロ
ヘルマン ワジンガー  :アンドレア クリスチャン
Kon-Tiki -- The legendary explorer Thor Heyerdal's epic 4,300 miles crossing of the Pacific on a balsa wood raft in 1947, to prove that this could have been done in pre-Columbian times for South Americans to settle in Polynesia.

2013年4月22日月曜日

小野伸二、がんばる

      

4月2日の日記で、小野伸二が シドニーパラマッタを拠点とするサッカーチーム、ウェスタンシドニーワンダラーズで、大活躍していることを報告した。
小野伸二、33歳、背番号21、ポジションはMID、25ゲームで8ゴールを成功させ、さらにチームを、レギュラーシーズンで、みごと、優勝させた。トニー ポポヴィッチ監督は、今年の最優秀監督賞を受賞した。新造チームが 10チームあるプロのチーム戦で 上位に食い込むことは不可能と言われていたにも関わらず、強豪チームを次々と破り、優勝したのは、胸のすくような快挙。昨年9月に小野伸二が 加わってからは小野の人気はすごい。試合ごとに、オージーファンが、オーノ、オーノ、を連呼していた。

昨日の午後、サッカーのグランドファイナル戦があった。レギュラーシーズン戦とは別に、10チームの総合点を上げた2チームが、最終的に戦う、いわばオーストラリアで一番強いサッカーチーム王者決定戦だった。小野伸二のウェスタンシドニーワンダラーと、セントラルコースト マリナーズとが試合をした。マリナーズは、過去3回続けて優勝している強豪チームだ。どちらのチームも、熱狂的なファンが多い。観客は、どちらもチームの選手たちと同じシャツを着て、応援に来る。でも、昨日は地元、シドニー勢のウェスタンシドニーワンダラーの、赤と黒の縞のシャツを着たファンがずっと数では多く、試合前から異様な盛り上がり方をした。オリンピック会場につめかけたのは、4万2千人余り。4万2千人と軽く言うが、シドニーの人口は、376万人だ。野球の巨人戦で東京ドームに2万人集まるといっても、東京の人口は 1千322万人だ。これまで、これほどサッカーの試合が 盛り上がることはなかった。シドニーでサッカーがこれほど熱くなっていて、それを日本人の小野が機動力になっている。

試合結果は0対2で、ウェスタンシドニーワンダラーは、優勝を逃した。善戦したが、前半で得点をあげられ、後半、ペナルティキックで点を取られた。SBS国営テレビのサッカー解説者で、自分もサッカーのエースだった クレイグ フォスターは、試合を振り返って、「2回もペナルテイーを取られた。これについては賛否両論あるだろう。」と言っていた。サッカーのペナルテイーは、たった一人のレフリーの判断に任される。公正な判断だったか、疑問をもつことも多い。
小野もシュートしたが、得点にならなかった。残念。

グランドファイナルには 優勝できなかったが、ともかくも、レギュラーシーズン戦ではチームは、優勝した。小野は 今年の契約延長にサインした。
ニュースでも、小野の顔写真を引き伸ばしたお面を、オージーの子供たちがかぶって、オーノーオーノー、シージー シージーと黄色い声を上げて声援している。小野伸二の活躍が 嬉しい。

2013年4月18日木曜日

映画 「オブリビオン」

    

映画「オブリビオン」を観た。原題「OBLIVION」アメリカ映画、サイエンスフィクションアクション。日本での公開は 5月31日。
監督:ジョセフ コジンスキー
キャスト
ジャック:トム クルーズ
ビーチ :モーガン フリーマン
ジュリア:オルガ キュリンコ
ビクトリア:アンドレア ライズボロー

ストーリーは
地球はすでに60年前にエイリアン スカブによる攻撃で壊滅していた。生存者はみな、他の惑星に移住している。かつては、米軍海兵隊員だったジャック(トム クルーズ)は、地球に残って、残存するエイリアンの監視と始末をする命令を受けて、小型宇宙船に乗って毎日パトロ-ルしている。まだ、あちこちの洞窟や地下壕のなかに、エイリアンが隠れていて、生き残った人間を攻撃してくる。ジャックは、最新技術を駆使して作られた球形の攻撃型宇宙船で、任務を遂行する。指令は 他の惑星の司令塔から PCを通じて送られてくる。ジャックのパートナー、ヴィクトリアは、危険な任務のために出かけていくジャックを、二人が住んでいるカプセルから PCを通じて見ていて、後方援助する。家は、汚染された地面から、はるかに高い位置に建てられたカプセルで、中で、空気も水も人工的に作られている。

ジャックは 何度も何度も同じ夢を見る。それは、自分がニューヨークのエンパイヤビルデイングの展望台で 美しい女性と微笑みを交わしているシーンだった。そんなある日、パトロールをしていると、突然、大型のシャトルが墜落してきて、地球に激突する。大破したシャトルから、5つの人間を乗せたカプセルが散らばった。ジャックは、生存者を救助しようとするが、ジャックのパトロールマシンは、容赦もなく次々と 人を乗せたカプセルを 攻撃して爆破させる。ジャックは、必死で最後に一つ残ったカプセルを守る。残ったカプセルの中で眠っていたのは、ジャックが これまで幾度も夢で見た、美しい女性だった。

しかし、女性を保護したジャックは、何者かに襲われて拉致される。連れていかれた洞窟の中で、ジャックが対面したのは、マルコム ビーチと名乗る、地球に残ったレジスタンス軍の指揮官だった。そこで、ジャックは驚くべき事実を知らされる。
実は、地球には、エイリアンなど居ないのだった。地球を破壊したエイリアン、スカブは人間の中からジャックのような優秀な人を選んで、そのクローンをたくさん作って、思うまま使用している。ジャックやヴィクトリアも そうして作られたクローンであって、すでに人間ではない。しかし、ジャックは例外的に、人間だったときの記憶をもったまま生きている。
カプセルで眠っていた、美しい女性は、ジュリアという名の女性宇宙飛行士で、60年前に宇宙に飛び立ったNASAのミッションだった。しかも、ジュリアはジャックの妻だった。ジャックは、自分がクローンであって、ジュリアの本当の夫ではない、と知るが、ジュリアは、60年前のジャックの記憶をもったジャックを 自分の夫として受け入れる。

恐らく、マルコム ビーチらのレジスタンスとジュリアは 唯一の地球上の生き残りだろう。レジスタンスは 絶えず攻撃にさらされていた。ついに、司令官ビーチは 敵の攻撃で致命傷を受ける。ジャックは、エイリアン、スカブの本拠地に乗り込むために、捕獲したジュリアをカプセルごと連れていく、と連絡する。ジュリアは、ジャックをうながして、自分が原子爆弾を抱えて、エイリアンの司令塔に入り込み爆破するつもりでいた。ジャックは、それに同意したふりをして、ジュリアを再び眠らせてカプセルに入れて、安全な隠れ家に送り込み、カプセルには、致命傷を受けているビーチを乗せて、司令塔に向かう。二人は、宇宙に浮かぶエイリアンの本拠地に入り込み、爆破する。スカブの本拠地は 木端微塵の宇宙の塵となった。
3年の時が経つ。あれから ジュリアはジャックの子供を生み、泉のほとりの隠れ家で平和に暮らしている。生き残ったレジスタンスたちも健在だ。
というストーリー。

二人乗りの小型ヘリコプターのような 球形の戦闘機を自由自在に繰って、地上や空を飛び回る。真っ白でピカピカ光っている。その乗り物を小型にしたような球形のレーダーつきの戦闘ロボットが いつも 後からついてきて、援護射撃して守ってくれる。男の子ならば 誰もが乗ってみたい乗り物、誰もが夢中になりそうな戦闘ロボット。操縦士は、白い宇宙服を着て、ライフルのような銃を背中に背負っている。小型のバイクも 装備されている。いくつになっても 年を取らない、少年のようなトム クルーズが大真面目な顔で、ちょっと嬉しそうに それを操作している。うらやましい。
地上にそびえたつ、プール付き、寝室、台所付きの住宅カプセルには、戦闘機の発着できるへリポートが付いている。すべてガラス張りで美しい。それで、出かけていけば、訳の分からない玩具のようなエイリアンが潜んでいて、それをバリバリ倒していく。これは、メカ好きな男の子たちのための おとぎ話だ。見ていて、とてもわくわくして、うらやましい。

ふつうSFアクションに女性が出てくると とたんにメロドラマ風に 話がトロくなって、つまらなくなるが、この映画は、そんなことはない。さすが、トム クルーズだ。SFなのに、ラブシーンなどが入ってくると、「そんなことをしている場合じゃないでしょ。地球の存亡がかかってるんだからボヤボヤするんじゃない。」と 激を飛ばしたくなるが、この映画では必要ない。登場するジュリアも ヴィクトリアも人工的近未来の顔をしていて、愛だ恋だとべたつかない。ジャックの妻、ジュリアは宇宙飛行士だし、スカブを倒さないことには 人類の生存が危ぶまれる、と わかればすぐに爆弾を抱えて敵地に飛び立とうとする。立派だ。最後に3歳になった娘が出てきて、ふむふむ、そんな時間があったんですか、という感じ。ジュリアを演じたオルガ キュリエンコという女性、日本人かと思ったが、可憐で可愛い。SFだから、頭の良い人が見ると細かいプロットで理屈に合わないとか、科学的でないとか、地球上で生き残ったのはレジスタンスだけで動植物はどうなったのか、とか、放射線で破壊されつくした地球に他の惑星から指令がどうやって届いたのかとか、いろいろ、よくわからないところもあるだろうが、深く考えないで、画面を楽しむのが良い。

安物のSFでなくて、120ミリオンドルというような、沢山のお金をかけて、こういった美しいSFの映像を作り出すことができるハリウッド映画。やっぱり楽しい。見る価値はある。

http://www.imdb.com/title/tt1483013/

2013年4月16日火曜日

映画「ハイドパーク オン ハドソン」

     

月刊雑誌「文芸春秋」のはじめの数十ページは、いつも、その時々の様々な分野で活躍している人のエッセイが載る。そこで、誰の文だったか忘れたが、大学教授のエッセイで、彼が「日本は昔、アメリカと戦争したから、、」と話し出したら、受講中の学生たちが「えええー?」と心底吃驚した とあった。それで、教室のざわめきが静まったとき、一人の男子学生が恐る恐る、「、、、で、どっちが勝ったんですか?」と、教授に聞いたという。これには、たまらず、おなかを抱えて笑った。
また、もうすこし前の、やはり文芸春秋のエッセイで、ある美術大学教授が 自分が子供の時、B29に焼け出された話を 学生たちに聞かせたら、「えー?そんなに濃い鉛筆があるんですか?」と、問われたという。B29は、B1 とかB2と、数字が上がるほど太くなって、濃くなる鉛筆のことかと思ったらしい、と。
新人類だか、幼稚園大学生だか、ニートだか、ノマドだか、異星人だか、なんか知らないが、自分の国がそれほど昔でもない過去に、とんでもなく無鉄砲な戦争をして、米国の占領下に置かれたことがある現代史くらいは、知っていたほうが良い。その前時期に、今がとてもよく似ているように思えるから。

映画「ハイドパーク オン ハドソン」を観た。日本が太平洋戦争で戦った、相手国アメリカの当時の大統領、フランクリン ルーズベルトの晩年のエピソードを映画化したもの。ルーズベルトをビル マーレイが演じていて、今年のゴールデン グローブ最優秀男優賞の候補になった。
ルーズベルトと言えば、日本人にはなじみ深い顔だ。小学校高学年の教科書には、スターリン、チャーチルに並んで、彼がサインをする「ヤルタ会議の3人」の写真が載っている。この3人が戦後社会の舵取りとなった。
民主党出身。第32代大統領(1933-1945)で、アメリカ政治史で、唯一、4選された大統領。アメリカで最も高く評価されている大統領でもある。ニューヨークハイドパーク生まれ。裕福で 政治色の強い家庭で育ったユダヤ人。第一次世界大戦後の世界恐慌のなか、自分の信じるケインズ福祉国家を実行し、ニューデール政策をとって景気を回復させ、世界恐慌のどん底からアメリカを救った。また、当時各家庭にようやく普及したラジオを通じて、初めて国民に、じかに対話をした。
しかし、大戦中、在米日本人から財産を奪い、強制収容所に送り、アフリカ系アメリカ人の公民権運動を徹底して妨害した人種差別主義者だった。日本の敗戦を見ずして、直前に心臓麻痺で急死した。

監督:ロジャー ミッチェル
キャスト
ルーズベルト:ビル マーレイ
英国国王ジョージ6世:サミュエル ウェスト
クイーンエリザベス :オリビア コールマン
デイジー    :ローラ リネイ
ストーリーは
第二次世界大戦前夜。
アメリカ社会は 世界恐慌から抜け出しつつあったがフランクリン ルーズベルトの責任は重い。ヨーロッパでは、ドイツ、ナチスの力が拡大する一方で、脅威となっていたが、イギリスではジョージ5世が亡くなり、長男のエドワードが、ナチス、ヒットラーと密接な関係をもったシンプソン夫人と再婚するために、王位を捨てた。このため予想も期待もしていなかった若く、吃音障害をもつ次男のジョージが王位を継承する。1939年。ジョージ6世は、初めてアメリカに渡り、大統領に会う。国王は、チャーチルをはじめ、議会に押される形で、ルーズベルトに不穏なヨーロッパ情勢に理解を得、ナチスドイツにアメリカが組しないという約束を、是が非でも取り付けなければならなかった。

ルーズベルトは小児麻痺で 下半身麻痺の障害者だったが 彼には妻エレノアと愛人で秘書のルーシーが居た。そこに彼は 長年のお気に入りだった遠縁のデイジーを迎えた。デイジーは、田舎から出てきてルーズベルトの身辺の世話を頼まれるが、ハイドパークの自宅の裏に小屋を建てたのは、引退後は’デイジーと暮らすためだ、ルーズベルトに告白されて、舞い上がる。デイジーが恋心を募らせていると、じつはその小屋で、ルーズベルトと秘書が逢引していることを知ってしまう。一時は田舎に帰ったデイジーだったが、実家に迎えに来たルーズベルトをみて、デイジーは第3番目の女として 彼のために生きる決意をする。

一方、クイーンエリザベスを同伴してアメリカに渡り、ニューヨーク、ハイドパークまでやってきた英国王ジョージ6世は イギリスと違って、自分たちを歓迎する人垣もなく、警備もなく、イギリス史式礼儀をわきまえないアメリカの人々の対応に驚愕し、腹を立て、困惑していた。椅子に座ったまま出迎えるアメリカ大統領、、、「ハイネス」と呼ばずに、「ねえーあなたのこと エリザベスって呼んでいい?」と妻エレノアに聞かれて、「NO」と強く否定する王妃、、、。アメリカ人の友達のような馴れ馴れしい態度、客を迎えることに慣れていない使用人たちの礼儀を失した態度、到着翌日には アメリカンインデアンのダンスを見ながらホットドッグパーテイーをするという。英国王には、ホットドッグというようなアメリカ下層労働者の食べ物を 写真で見たことがあるが、どうやって食べるものなのか想像もつかない。意表を突いたアメリカ川の受け入れ態度に 若い国王は困惑するばかりだった。

しかし国王は自分の父親ほどの年齢のアメリカ大統領に、次第に惹かれていく。チャーチルからイギリスの命運がかかった手紙を持たされてきた緊張は、ルーズベルトとのフランクな会話でほぐされて、癒される。国王は、大統領と互いに心を許し合えたと同様に、イギリスとアメリカが 強い絆で結ばれていることを確信する。ジョージ6世は、チャーチルの手紙を渡さずとも、立派にミッションを務めることができ、帰国する。
やがて、時がたちルーズベルトは、終戦を待たずに亡くなり、デイジーも死ぬ。彼女の残した日記から、ルーズベルトの秘められた生活が明らかになった。
というお話。

優秀な政治家で、ニューディール政策で、アメリカ経済のどん底から救ったルーズベルトの私生活の秘話を いま映画化する必要があるのだろうか。映画「ヒッチコック」でも 立派な業績を残して、いまだに彼ほどの天才的な映画監督はいないと、高く評価されている監督の私生活が 今になって表に出て映画化されて、私は悲しかった。なんだ、男としてはサイテーな奴だったのか、と女性の目で見て思う。
まあ、昔は女はみな男に依存するしかなかったし、女は社会的地位がなかったし、という事情はわかるが、昔でも立派な男はいた。自分なりに倫理観を持ち、女性を人間として自分と対等の価値を認め、自分の命と同じに愛する相手を大切にした男たちは、どんな時代にも、どんなところにも居た。だから、秘書兼、愛人の女に彼を「シェアしていきましょ。」と言われて、それを許して、3番目の女になるデイジーには、共感のかけらも持てない。

ジョージ6世がとても良い。初めて訪れたアメリカで、誰も国王を見ていないのに、人にすれ違うたびに帽子をとって、とっておきの笑顔で挨拶する国王、自分自身に自信を持てないで、緊張で吃音を繰り返す悩める国王。単刀直入に息子に話しかけるようにして話す ルーズベルトの話術にはまって、徐々に自信を取り戻す国王の気持ちが 映画を見ていてとてもよくわかる。厳格すぎる父親から愛情をもって接することがなかった国王、、次男であるため、何の期待もされずに育った恥ずかしがりやの国王が、ルーズベルトに息子扱いされて、うれしくなり、有頂天になる姿が、痛ましく、また共感を呼ぶ。映画「英国王のスピーチ」も良かったが、この映画のシーンも良い。ビル マーレイの大仰な演技や、ローラ リネイのやぼったさには、まいったが、ジョージ6世の サミュエル ウェストの演技に救われた。



2013年4月6日土曜日

浅田次郎の小説「蒼穹の昴」

      

浅田次郎の小説が好きだ。人間に対する優しい目差しが感じられる。彼は物書きのプロ、ストーリーテラーの名人だが、手作りで自分の世界を紡いできた人の、文章に対する真摯な眼差しが好ましい。悲惨で、客観的に見たら残酷な人生を歩んでいる人の生と死を描いても、皮肉や裏切りやあざとさとは縁がなく、あくまでも人の道に対して真っ直ぐで、優しい。宮本輝にも共通する、人への愛があり、ある種の陽気で楽天的な明るさが根底にある。

彼の「鉄道員」は名作だが、このような切れ味の良い短編も良いが、長編も良い。彼の トレジャーハント(宝探)しシリーズ、とでもいうか「シェイラザード」と、「日輪の遺産」と「蒼穹の昴」を続けて読んだ。「シェイラザード」は、昭和20年に台湾沖で2000人余りの人命と膨大な帝国陸軍の金塊を乗せたまま沈んだ、弥勒丸の引き上げに集まった男女の物語。「日輪の遺産」は、終戦直後、帝国陸軍がフィリピンのマッカーサーから奪った200兆円に値する金を、終戦時の混乱のなかで、隠した軍人たちのお話。
「蒼穹の昴」は、清国の財宝、1000カラットのダイヤモンド(龍玉)を乾隆大皇が、人目の届かぬ台地の奥底に封じ込める、お話だ。3つの小説の中で、「蒼穹の昴」1-4巻が一番面白かった。これだけ中国の現代史に通じ、歴史的人物に絡めて、物語を作るには、どれほどの史実を調査し研究し、歴史を読み込んできたのか、、、彼が検証した資料の束がどれほどのものだったか、想像すると、気が遠くなる。読んでいると、北京の街並みのたたずまいや、様々な人々が交差する様子が、映像を見ているかのように、生き生きと想像できる。本物の小説家というのは、こんな人を言うのだろう。

ストーリーは
時代は清朝末期。
河北省静海の地主の次男、梁文秀(リアン ウェンシユウ)は、地主の息子だが 変わり者で、貧民で牛の糞を拾って売り歩く李春雲(リーチュンユン)の死んだ兄と幼馴染の遊び友達だったことから、気軽に春雲の話し相手になってやったりする。文秀は「科挙」の試験を受けるために、上京するが、占い師に’将来天下の財宝を手中に収めるであろう、と予言された春雲を連れていく。
梁文秀は みごと科挙の試験を主席で突破して、政府の官僚となる。学問も財力もない春雲は 自ら男性器を切り落として宦官となって、西太后慈禮(シータイホウツーシー)に仕える。大清国を君臨して観劇と飽食に明け暮れる西太后は、みごとな舞を見せる春雲を手元に置いて可愛がる。しかし、列強国に囲まれた清国は、植民地化しようとする日本やヨーロッパ諸国の侵略を受け 外部の力によって音を立てて壊れていく。清国を近代化して延命しようとする改革派の梁文秀と、西太后を守って清国を延命させようとする李春雲の命は、4億の中国人の命とともに 激動の歴史の流れに投げ出され翻弄される。
というお話。

清朝6代目、韓隆大皇は、「バイカルのほとり、ゴビ砂漠の果て、ヒマラヤの峻嶮な峰から、南蛮の島々まで史上空前の大帝国を作り上げた」人だ。1000カラットの龍玉を家宝とする。彼の知識の源であり、生涯の心の友が、ヴェネチアからイエズス会を通じて派遣されたイタリア人、ジュゼッペ カスチリョーネだった。ダヴィンチの再来と言われた画家で、技師で、天文学、生物化学にまで通じている学者だ。彼はジョバンニ、バチスタ,テイアポロなど、ベネチア時代の先輩だった。当時、アントニオ ヴィバルデイもイエズス会から中国に派遣されようとしていたがヴィバルデイは 直前に逃亡、カスチリョーニは、ひとり清国に渡って、若い韓隆に教育を施し、西洋の科学を教え、芸術を伝えた。
利発な子供だった韓隆が、カスチリョーネに与えられた望遠鏡をみて、地球が円いことに気が付くシーンは感動的だ。のちにキリスト教が禁止されたあとでも、カスチリョーネの機転で 孤児院が運営され、そこでガラス作りや工芸作品が引き継がれていくシーンも印象深い。

清国は、もともとタルタル女真族の連邦体だ。漢人ではない。タルタル族大ハーンの子孫、韓隆の直系は、西太后の他に置いてはいない。清国末期には、長すぎる西太后の治世が続き、暗殺未遂も起きるが、これはタルタル族内部の内紛が原因だった。内部紛争から清朝崩壊へと、なし崩しに会う清国では、満州旗人か、漢人か、国の存亡に危機にあっても、民族の血の濃さが権力を決めるのだ。
一方、列強諸国は、帝国主義日本も、欧州の国々も 寄ってたかって清国を侵略、分割しようとしていた。日本は遼東半島を強奪するだけでなく満州王国を我が物にした。ロシアは’旅順、大連を獲得しようと、待ち構え、フランスは広州湾の租借をとり、雲南で鉄道を施設、それを起点に植民地化を狙っていた。イギリスは香港、九龍半島全部を自分のものにして、ポルトガルはマカオを摂取した。アヘン戦争で中国を思いのまま蹂躙した英国は、香港を99年間租借するというこう交渉までしていて、植民地化は、1997年まで’続いたのだ。

宦官制度の描写がすごい。手術による死亡も稀ではない。切り落とした男性器は「宝貝」パオペイと言い、雇い主に担保として取られ、移動にたびに見せなければならない。勤め上げて この担保を買い戻せればよいが、できなければ一生借金を背負うことになる。李春雲は 手術台が払えない為、自分で手術する。彼のように貧しいゆえに、餓死するか、占い師の言葉を信じて宦官として出世するか 二者択一しかできないとしたら、人はどちらを選ぶだろうか。

中国の歴史を学ぶと必ず出てくる「科挙」という国家試験制度を、文秀は通過するところが 興味深い。身分に関係なく秀才が唯一出世できる試験のために、全土から優秀な若者が集まって上京してくる。省の試験に合格して、挙人となり、中央の会試を突破して、「進士」となって、国政に携わる。試験問題が 実際の国の外交戦力を問うもので、それらの問いに、若い進士達が次々と実践的な答えをしていくところが 感動的だ。日本の一級国家公務員試験など、この進士試験のように、国家政策を自分で述べる質疑応答だと、おもしろい。例えば、「シリアの反政府勢力を支持しながら、どのように対露、対中外交を進行させるのか。」とか、「5%の消費税を上げずに効率的に税収入を増やすには、」とか、返答をすべて漢語で書かせるとか。
同じ年に進士となった、文秀と、王逸(ワンイー)と、順桂(ジュンコイ)の3人の友情が素晴らしい。国を背負って行く若々しい官僚たちの熱意と知性。そんな新しい清国への改革が 次々とつぶれて、誇り高い若者たちに 3人3様の悲劇が待ち構えている。

登場人物がみな魅力的だ。
清国改革派の梁文秀と、西太后を自らの命を懸けて守る李春雲、清国外交の命運を握る李鴻章将軍(リーホンチャン)、光緒帝、軍の権力を握る栄禄(ロンルー)、春雲に愛される宦官の蘭琴(ランチン)、春雲の妹 玲玲(リンリン)、カスチヨリーネ神父、フランス人ファビエ神父、ニューヨークタイムス記者のトマス バートン、会津藩士族出身の新聞記者、岡圭之助、、、どの登場人物にも魅力があって、忘れられない。

清朝末期の歴史の重みに圧倒され続けて4巻まで読み進んだ。そして、今さらながら中国という国の大きさに目を見張る。3000年の歴史に人類の知恵が詰まっている。大国中国、こんな国と戦争をしてはいけない。日本は大陸から分離した今、大陸をマザーランドと呼ぶ、小さな島国にすぎないのだから。

2013年4月2日火曜日

小野伸二がんばれ!





シドニーに住んでいて、何らかのプロフェッショナルとして活躍している日本人は多い。
コンピューター技術者、研究者、医師、獣医、薬剤師、歯科医、フィジオセラピスト、ナースも私と定期的に交流しているナースだけでも12人くらいいる。しかし、スポーツのさかんなこの国で、先祖代々、肉だけを食べて生存競争に勝ち抜いてきたオージーたちに交じって、日本人が活躍してくれることは、驚異に値する。
日本人が3週間かかって大腿骨骨折から、やっと立ち上がり 歩くためのリハビリに入るのに比べて、オージーは,術後1週間で歩き始めるし、日本人が1週間絶対安静にする心臓のメジャー手術でも、オージーは5日で退院だ。出産後、産婦を1週間は入院させる日本と違って、オージーは、出産後すぐに、産婦に歩いてシャワーを浴びに行かせて、翌日自宅に帰させる。医療現場にいて、体力の差が歴然としている姿を見ているから、肉食欧米型勢力のやるスポーツに、米と魚を食べてきた日本人が 負けずに活躍していることは、大変立派なことだと思う。

サッカーの小野伸二(33歳)が、シドニーで活躍している。
チームは「ウェスタンシドニーワンダラーズ」で、ポジションはもちろん、(MF)ミッドフィールダー。彼が昨年9月に入団して以来、大活躍してくれて、そして遂に このチームが、シーズン優勝をした。もともと、ワンダラーズは、Aリーグ(日本でいうjリーグ)の中で、一番新しいチームで、全く優勝など誰も期待していなかった。優勝といえば、「セントラルコースト マリナーズ」か「、シドニーFC」だろう。今年、「シドニーFC」は、イタリアからアレクサンドロ デル ピエロを入団させ、このチームにはオーストラリア代表サッカルーズの主将ルーカス ニールも居る。また「ニューキャッスル ジェット」には、元イングランド代表のエミール ヘスキーが居る。新しいチームが優勝するとは、誰も思っていなかった。本当に、ワンダラーの優勝は、快挙なのだ。

ウェスタンシドニーワンダラーズの拠点地は、パラマッタという西部。西部の人間は他とは違う。西部劇に出てくる開拓民を思い描いてくれれば良いかもしれない。粗暴で男そのもの、とにかくスポーツに熱狂的で、すぐにヒートアップする。移民も多い。それだけに、オーストラリアで一番人気のあるフットボールよりも、サッカーファンが多い。

小野伸二が、チームのオファーを受けたのが、去年の9月28日、シドニーに到着したのが、10月1日。その日のチームファンたちの空港への出迎えは、熱狂的で、ニュースを見ていても、すごかった。日本語を知らないチームサポーターたちが、「オーノ オーノ シンジ― シンジー」の合唱だった。
9月のシーズン開幕後、彼は、すぐに試合に参加して、チームをまとめていた。彼は攻撃の全権を握り、守備では前線からの守備に貢献する。必要な時に、必要な場所にいて、パスで、アシストする。ボールをよくコントロールして、送り出す。24試合に出場して、7得点を挙げた。快挙だ。でも、10連勝して、臨んだ、3月23日、地元のパラマッタ スタジアムの試合で、足の付け根を大怪我をして、休場した。次の3月29日の試合で チームは勝ち進み、シーズン優勝が決定した。優勝戦に出られなくて、悔しかっただろう。

「ウェスタンシドニーワンダラー」は、Aリーグに参加初年度に優勝したことになる。トニー ポポヴィッチ監督、キャプテンはヴュー チャンプ、小さなチームで、控え選手とレギュラー選手との差がなくて、チームワークが良い。小野に言わせると「誰が出ても同じことをやる。」チームだ。
「セントラルコースト マリナーズ」、「パース グローリー」、「メルボルン ヴィクトリー」、「ブリスベン ロア」、「シドニーFC]、「ニューカッスル ジェット」、「メルボルン ハート」、「ウェリントン フェニックス」、「アデレード ユナイテッド」の10チームが戦い、レギュラーシーズン優勝が決まったので、これからは、後半戦で、セミファイナル2試合と、グランドファイナルがある。これに勝てば、ファイナルの王者となる。オーストラリアで一番のチームとなる訳だ。
すでに、シーズン優勝チームは、アジアサッカー連盟のACLの選抜対象になっている。だから、小野伸二は、オーストラリア代表として、アジアゲームに出場することになる。これは とても嬉しいことだ。
1日も早く、怪我から回復してほしい。がんばれ!