ヨーロッパで、毎年行われてきた世界最大の歌唱コンテストだが、今年はイスラエルによるガザでのパレスチナ人へのジェノサイトに抗議してスペイン、オランダ、アイルランド、アイスランド、スロベニアが参加を拒否した。
ヨーロッパ各国が代表する歌手が歌い、舞台を見ている10万人の聴衆と、テレビを通してみている1億人と思われる人々が携帯電話で投票して優勝国を決め、その優勝国が翌年の開催国となる。かつてアバやセリーヌデイオンなどを輩出してきた音楽祭だ。
ユーロビジョンは70年の長い歴史の中で、文化に抑制をかけてきた「東ヨーロッパ」の国々の間では、かつては、これを見ることができず、人々は自分たちでアンテナを手に入れて秘密警察から隠れて見ていた。隠しアンテナを持つことがレジスタンスでもあった。ユーロビジョンで歌われた曲を歌い、若者の間で共有することが抵抗運動でもあったのだ。
今年はオーストリアのウイーンで開催された。昨年の優勝者の男性歌手はボーイソプラノよりも高いハイソプラノの声で力強い歌唱力を見せる圧巻のパフォーマンスを見せた。2014年には、同じくオーストリアが優勝し、LGBTQで女性の姿でありながら、もと男性の濃いヒゲを残したコンチータ ヴルストが、声量のあるドラマチックな舞台を演出した。モーツアルトやシュトラウスが活躍したウイーンは、やっぱり文化が革新的で刺激的だ。
総じて女性シンガーのパフォーマンスは,元気いっぱい、激しいリズムのヒップでホップなボーカルと、ブレイクなダンスで舞台を圧倒したが、男性歌手は失恋や母親を恋い慕う歌とか、湿っぽい歌が多い様に思えた。昔は男性は涙を見せない強い男が良かった時代から、女性の支えがないとダメ男ばっかり、という本音を見せるようになった、ということか。
興味深いのは、投票をする人々が自国を投票できない仕組みなので、自分の国の近所の国に投票することだ。仮に少し前まで戦争をしていたボスニア、セルビア、アルバニアといった国々、英国とアイルランド、ギリシャとキプロス、といった決して仲の良くない敵対していた国が、自分たちと文化、言語が共通だったり、似通っていたりしている隣近所の国々の心情を共有していると思われる点は、興味深い。
ウイーンから16,000キロも離れた南半球の豪州は、何年も何年もユーロビジョンに参加したいと、団体に申し出てきた甲斐あって参加が許されて、今年はデルタゴッドラムが出場し、第4位に選ばれた。彼女の歌唱力とベテランパフォーマーとしての自信に満ちたピアノを弾きながらの舞台は立派だった。彼女は若くして人気絶頂だった時に死の病、ホジキン病になり苦しい化学療法の末サバイバルした人だ。
優勝国を選ぶ投票の開票を待つ間、セダーサムソンの語り弾きや、ビリージョエルの語りや、過去の受賞作を若い人達が歌ったりして、なかなかよくできた音楽祭だった。ただ舞台を派手に絢爛豪華にレイザーをふんだんに使って目まぐるしい舞台が続いて、10万人の観衆は目がチカチカして全員が、吐いたのではないか、、また出演者たちもキレキレの激しいダンスで、脳震盪を起こしたのではないか、と医療従事者としては心配したのであった。



