ヴァイオリンを弾く人ならば、一番やってみたいこと といったら、自分の気に入った先鋭の室内楽団と一緒に ソロイストとしてヴィヴァルデイの「四季」を演奏することではないだろうか。 先鋭というなら 例えば、オーストラリア チェンバーオーケストラ(ACO)とか、ブランデンブルグ室内楽団や、オーストラリアン アンサンブルなどだ。
「四季」は4つの季節に分かれ それぞれがまた3つずつの楽章に分かれていて ソロのパートがきわだって美しい曲だ。クラシックの曲にしては珍しく 作曲家自身の曲の説明が 詩になってついているので解釈がわかりやすい。胎教に最も良いといわれており、CD屋さんのクラシック部門の売り上げは 変わることなくいつもトップの座を占めている。
映画「4」は、今年のシドニー映画祭で好評だったが、ヴィヴァルデイの「四季」をテーマにした映画。ドキュメンタリー部門で 優秀賞にノミネイトされた。サンドラ ホール監督。現在も、クレモンオピアンで上映中。好評で上映8週間目に入った。 「春」の部分を 何とか言う日本女性ヴァイオリニスト、「夏」を、アデレートをベースにするオーストラリア人ヴァイオリニスト、NIKI VASLAKISが、「秋」を、ニューヨークの若いヴァイオリニスト、「冬」をフィンランドの奏者が演奏していた。それぞれ、これから世界的に活躍が期待されている若い奏者が どう ヴィヴァルデイをこなすか、各国の季節にからめて丹念に取材したフィルムだった。中で、世界で一番寒い国、ラップランドに住むフィンランドのヴァイオリニスト ペッカ クーシスト(PEKKA KUUSISTO)が、素晴らしかった。クラシックのワクにとらわれないラップランドの民謡や、ソウル、ジャズのリズムを取り入れた独特の音の世界を持っている。
この人の演奏をシドニーで二回、聴いた事がある。オーストラリア チェンバーオーケストラ(ACO)のリチャード トンゲッティが 彼を見出してフィンランドから引っ張ってきて、ACOをバックに、彼にソロを弾かせた。このとき、彼は、チャイコフスキーと、バルトークを弾いていた。こんな、稀有な才能を 地の果てから連れてきて、紹介するトンゲテイもすごい人だが、期待にこたえる力をもつペッカも偉い。その、まだ子供のような姿のペッカの演奏を 世界がまだ注目する前に聴くチャンスに恵まれた私も幸運だった。今後も才能をどう開花させてくれるのか、しっかり、見届けたいと思う。
そんな、リチャードトンゲッティの ACO、11月の定期演奏会を聴いてきた。テーマは「ソニック」。作家、マイケル レニグ(MICHAEL LEUNIG)が読む詩に、俳優ドリュー フォーサイス(DREW FORSYTHE)が パントマイムをつけ、それに作曲家のアンソニーパテラ(ANTHONY PATERA)が 曲をつけて、ACOと一緒に演奏する というパフォーマンスだった。ベースは、サンサーンスの「動物の謝肉祭」をもじって「人間のカーニバル」。 合衆国の国歌とラリアの国歌を同時に演奏して その不協和音を聴かせるというような、悪趣味もあって、みな げらげら笑いながら聴いていた。国連の同意なくイラクに軍を送り戦闘を続けている合衆国に 盲目的に追従し 戦力を送っているラリアのハワード内閣への批判でもあろう。
ACOはサンサーンスを沢山演奏したが、なかでも、チェロのソロ「白鳥の踊り」は、だんとつに良かった。チェリストは、ACOのメンバーテイモ ビヨッコ バルブ(TIMO-VEIKKO VALVE)。リチャードトンゲッティは、国宝級のヴァイオリン、ジュゼッペーグルネリが作った、10億円の価値のヴァイオリンを貸与されているが、このチェロも、同じグルネリで、アメリカの億万長者がACOに貸与を申し出た名器だ。大学をでたばかりのスエーデン出身のチェリストには 荷が重いだろうが、良く弾きこなしていた。
作曲家、アンソニーパテラは コンピューターの電子音も使いながら、ACOの音と、作家による朗読と、俳優によるパントマイムを よく監督し統合していた。音を立体的に捉えて見せる。クラシック音楽を 電子音に合わせて総合的なパフォーマンスに仕上げる といった試みに挑戦している。今後の コンサートのありようを、垣間見せるような、コンサートだった。