2012年4月22日日曜日

オット 春嵐にあう




ツアー10日目。
明日は 飛行機に乗ってシドニーに帰らなければならない。今日は忙しいぞ。朝はお花見。昼から墓参り、夜は送別会をする。

まず、お花見。新宿御苑までタクシーで行く。曇り空で、寒い日だが、桜がたくさん咲きそろってきた。新宿御苑に入ると入り口のところに素晴らしく大きな木蓮(マグノリア)が、いっぱいに白い花をつけている。オットが一番好きな花。これほど大きなマグノリアの木を見たことが無い、と嬉しくて嬉しくて叫んでいる。ニコンD5000を首から下げてきたから、バチバチ写真を撮っている。でもシャッターを押すのに モタモタしていて時間がかかる。入り口のマグノリアのために、30分くらいかけて、撮影していて動かない。あのー、その調子で一本一本の木に時間をかけていると、御苑を全部周るのに2-3週間かかるのではないかな? 

やっとマグノリアからオットを引き剥がして、歩き始める。お花見のグループが 早くも敷物を敷いてお弁当を食べている。桜と花見と弁当が密接に関連しているところが、実に日本的だ。のどかで、平和なニッポンの風景。ゆっくりゆっくり うすい桜色の花の下を歩く。日本庭園までは行けないだろうと思っていたが、喘息の胸をヒューヒューいわせながら、歩いた。オットが見たいと言っていた桜を見せてやることができた。嬉しそうに、桜をじっくり接写で写そうと ねばっているオットの姿を 後ろから写す。

膝が悪く、100メートル歩くのが限度、膀胱に原巣の病気を持ち、重度の喘息を持ち、黄班部変性で片目はほとんど見えない。医師には、8日間のツアーに参加しても良いが、ツアーで皆と一緒に動き回るのは無理でしょう、と始めから言われていたし、旅行そのものが「冒険」で、「ま、ホテルで半分は寝ていることになるでしょう。」と。しかし、人は楽しくて、それを支える人が居れば、いろんなことが可能になる。ハナから、医師の言葉は信用していなかった。オットは、楽しければ自分でも いろんなことができることがわかって、医師に言われて失いかけていた自信を取り戻したと、思う。
新宿御苑から 重くなってきたオットを、励まし励まし歩かせて、東口のコーヒーショップで、サンドイッチとコーヒーの昼食を取る。
意図して、オットを疲れさせるのは、午後は昼寝してもらわなければならないから。

お昼に爆音を立てて、友達がバイクで、ホテルにやってきてくれた。ちゃんと私の分のヘルメットをもって来てくれている。またバイク、買い換えたんだ。赤いヘルメット二人で被ったよねー。むかしむかしの話さ。颯爽と、と言うわけには行かず、ホテルのベルボーイの腕を借りて、やっとのことで、高い後座席に ずり登る。幸せなことにヘルメットが大きいから顔も年齢層も外から見るとわからない。おじさん、おばさん暴走族だ。で、どこに行くかというと、ロックな店やヒップな店にダチとつるみに行くわけでなく、線香くさい墓参りに行くのだ。はじめから時間がないから、バイクで飛ばして多磨墓地で墓参りして、送り届けてもらう約束。そんな無理な約束を、電話ひとつでやってくれる古い友達の友情が嬉しい。250CCのバイクの激しい揺れが怖くて、しがみついている。友達の汗のにおいが、なつかしい。こいつといつも隊列組んでデモに行ってた。おまえら双子みたいだなあ、と言われたこともある。

それにしても、何故か、風がいやに強い。、、そして、お墓に着いたころには ゲッ 最低。雨が降ってきた。友達に急かされながら、父の新しい墓にシーバスリーガルの小瓶を供える。それにしても、風に吹き飛ばされそう。台風みたい。バイクで帰ろうとすると、友達が雨の中をタクシーを、とっ捕まえてきてくれた。後ろから押されるようにしてタクシーに乗り込んで、ホテルに帰る。友達に、2年ぶりで会ったのに、あっけない別れで、話しもできなかった。ま、彼の広い背中にしがみつけただけでも良いとしよう。父も母も墓のなかで、暴風雨の中を会いに来て、5分で立ち去った娘をみて「あいつらしい。」と顔を見合わせて笑っていただろう。

夜は2日前に会ったスーマーさんと、大学レクチャラーと、屋久島出身の美形青年とその新妻と、スーマーさんの友達と、みんなで会って 送別会というか、西新宿のホテルのバイキングで大いに食べる約束をしていた。オットもとても楽しみにしていた。
午後5時に、屋久島の美形青年から、春嵐の強風と豪雨のために会社から強制帰宅させられて、電車が止まりそうなので夕食には来られない、という電話が入った。あわてて、テレビのニュースを見る。え、、そんなにひどい嵐だったのか。ニュースは非情にも、電車が止まり、タクシーは1時間待ちの状態で、交通は非情に混乱している、と伝えている。
ゆっくり日本最後の夜を 素敵な仲間達と過ごしたかったのに。スーマーさんからも 来られない旨の電話が入る。遠くに住んでいるので、やっぱり無理か。予約を8人分入れていたレストランのキャンセルの電話を入れる。
大学レクチャラーだけが、嵐のなかを、ホテルまでお別れを言いに来てくれた。律儀な人。来てくれたけど、無事に帰れるだろうか。ホテルで3人でビールを飲んで、彼も、風とともに去っていった。
愉快なはずの夕食会をぶっ壊してくれた、「春嵐」。そごく 悲しいぞ。