2012年4月29日日曜日

映画 「タイタニック 3D」



今年はタイタニック号沈没事故から100年目ということで、4月15日には 大規模な100年目の記念慰霊祭が行われた。1500名余りの犠牲者達の家族がイギリスのサウスハンプトンに集まり、タイタニック号が沈没した海域まで航行、鎮魂の慰霊が行われた。ニュースで遺族らが 沈んだ船のあるあたりに、次々と花束を投じている姿が報道された。


BBCでも タイタニックが何故あれほどの多大な犠牲者を出し、何故予想に反してあれほど短時間で沈んでしまったか、科学的な検証に基ずいて調査し、追及した結果をフイルムで発表、放映した。当時の製鉄技術が低く、鉄に不純物の硫酸マンガンが多量に含まれていたこと、鉄の動きに反する方向に打ち込まれていたリベットが衝突で抜け落ちてしまった などという技術的、基本的なミスがあった上、構造上にも問題があったことが指摘された。しかし、死者1500人以上と、海難事故最大の犠牲者が出た一番の原因は 救命ボートが乗客の半数分しかなかったことに尽きる。当時の人命意識の軽薄さ、エリートエンジニア、技術者達の奢りと過信に対する自然の戒めだったと考えることができる。

映画「タイタニック」(原題TITANIC)は、ジェームス キャメロン監督、脚本、製作による1997年のアメリカ映画。1912年4月15日、午前2時20分に沈没した豪華客船タイタニック号の史実をもとに、貧しい画家の青年と没落貴族の娘の悲恋物語を描いた作品だ。
1998年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、など11の部門で受賞した。全世界で18億3500万ドルという映画史上最高の世界興行収入を記録して、ギネスブックに載った。この記録は 同じジェームス キャメロン監督によって作られた 映画「アバター」によって新記録が出るまで更新されることがなかった。

世界興行成績で最高記録を出した「タイタニック」も「アバター」も同じ監督による作品だということは、大変名誉なことだろうが、当ジェームス キャメロンが、今年「タイタニック 3D」を発表した。3Dを作ったことについて、「作品に新しい命を吹き込みたかった」と語っている。300人のスタッフで、60週間、制作費1800万ドル掛けてオリジナルのネガを綺麗にし、エッジを明確にして3Dを作った。この結果オリジナルよりも美しい映像で立体感のある作品になったと言われている。

ストーリーは
1997年。タイタニックとともに沈んだ青いダイヤモンド「紺碧のハート」を掘り出すべくトレジャーハンターのブロック ロベットとその仲間は 小型潜水艇を使って 沈んだタイタニックを探索する。探し当てた金庫を引き上げて開けてみると あるはずの宝石ではなくて その宝石を身に着けた裸体の女性の絵があるだけだった。調べてみるとその女性はタイタニックから救助され生還したローズと言う名前の100歳を超える元女優だった。ローズはブロックたちに絵の説明を求められて、語り始める。

没落貴族ローズ ブケイターは17歳、アメリカ億万長者のキャルドン ボックリーと婚約させられて母親とともにアメリカに渡る所だった。気乗りしない結婚に気が滅入り 貴族同士の船内での社交にも益々身の置き所の無い思いでいた。一方、貧しい画家の卵、ジャック ドーソンはヨーロッパ各地を転々と画の勉強をして、ポ-カーで勝ってタイタニックの3等乗客チケットを手に入れ、自分が生まれたアメリカに帰るところだった。ローズとジャックは出会い、互いに惹かれあう。

ローズは、まわりの貴族たちから身分の違いや婚約者の立場を指摘され ジャックと二度と会わないことを約束させられるが、自分の意志でジャックのもとに走り、類まれな画の才能を認めたジャックに ダイヤモンド「紺碧のハート」を身に着けた画を描いてもらう。二人は結ばれるが しかしそれはタイタニックが氷山に衝突して沈みはじめる数時間前だった。二人は甲板にいて、船が氷山と接触したことを知り、船員達の様子から異常を察知して、母親のところに知らせに行くが、待っていたかのように、人々はジャックを罠にはめ、二人の間を引き裂こうとする。そして宝石泥棒の濡れ衣を着せられたジャックは、船底に連行され手錠で拘束される。
不沈の豪華客船タイタニックは沈み始める。救命ボートは乗客の半分しか乗せられる数がない。一等船客の婦女子を優先させる内、3等乗客たちは浸水に追われてパニックを起こしている。そんな中、ローズは船底からジャックを助け出し、共に逃げ回るが、、。
というお話。

ストーリが実に良く出来ている。
たった4日間のタイタニックの航行で、男女が出会い、氷の海に引き裂かれるように死別していく様子がスピーデイーに展開される。3時間余りの映画でダレたり退屈なシーンなど全くない。また、二人の動き以外に背景としてイギリスの貴族階級制度のなかに、成金階層が加わり初めて それを厭う没落貴族階級の様子や、当時、喰いはぐれて人生の活路を求めて渡米しようとした貧しいアイルランド人やイタリア人の姿が生き生きと描き出されている。

そういった古い階級社会から新時代に移る「過渡期」に、ローズのような新「時代の反抗者」が出てきて 新しい女の生き方をみせる手腕が鮮やかだ。ローズは没落貴族の 名誉と財産を守る為だけに 富豪に嫁ぐことを拒否して自分が愛した男の名前を名乗る。アメリカに到着して、入局管理管に問われて 彼女は「わたしはローザ ドーソンです。」としっかり答える。ここが感動的だ。その後の彼女の教養と積極性が女優として成功する活力になっただろう。タイタニックが沈んで救助され生き延びた人々は 財産も家族も思い出も、何もかも失ったが ローズは自分が滅び行く貴族ではなく ジャック ドーソンを選んだことによって、ひとりの自立した女性として生きる力を掴み取った。

映画のなかで たった17歳のローズが、ジャックとの会話で「暗示にかけるなんて フロイトみたい。」と言って見たり、当時 30歳でまだ無名だったピカソの絵を評価していて、「なんとかピカソとかいう変な名前の人の作品だけど。」と言いながら壁に画をかけるシーンがある。印象画の画家の絵を沢山所蔵していて、モネの絵を愛する教養のある女性だということがわかる。それをみてローズに、モネ独特の光と影、色の美しさを解説するジャックも、貧乏旅行しながらヨーロッパの各地を見てきた画家の教養をうかがわせる。そういったローズとジャックの時代のワクを超えようとする若者達の才覚と鋭利な感覚が よく表現されている。このようなヨーロッパで育った若い人々が、アメリカという国を作ってきたのだ。

この映画で、食事が終わると男達はタバコ室に移り、政治や「女にはわからない」文化の話しをする。そんな貴族たちのバカバカしい姿と、対比されたローザとジャックの生き生きとした会話とは、格段の違いだ。また、ローズがタイタニックの設計士トーマス アンドリューに船内の案内をされた時「救命ボートが乗客の半数分しかないのね。」と指摘するなど ローザの目は鋭い。1997年にこの映画を見たときは、若々しく麗々しいレオナルド デカプリオに目を奪われていて、ケイト ウィンスレットのぽっちゃり顔に余り惹かれなかったが 今回会話をよく聞きながら見てみるとローズという17歳の女性がいかに魅力的に描かれているかということがよくわかる。

沈みゆく船で自分達が取り残されて死ぬとわかっていて、最後まで楽器を離さず演奏し続けたカルテット楽士たちが出て来る。コンサートマスターが演奏を終え「グッドラック」といって、解散するが、独りきりになってから、アイルランド民謡を演奏し始めると 第2ヴァイオリンもヴィオラもチェロ奏者も戻ってきて一緒に演奏を弾き始める。熱いものが胸に迫るシーンだ。
1997年のタイタニックではなく、昔、子供のときに観た白黒映画のタイタニックでも、同様のシーンがあった。カルテットでなく、オーケストラだったと思うが、最後まで燕尾服を着て姿勢を正してモーツアルトを演奏しながら楽士たちが、流れ込んできた激流に押し流されていく姿が、強く印象に残っている。
氷の海で凍死していった1500人の人々にとっても、生き残った700人の人々にとっても過酷な海の航海だった。
何度みても、良い映画だ。3Dのテクニックが、だんだん良くなってきていることがよくわかる。