2010年5月18日火曜日

映画 「コンサート」


映画 「コンサート」を観た。ルーマニア人監督による映画。日本では「オーケストラ」という題で公開されている。どうして「コンサート」という題が日本にいくと「オーケストラ」という題の映画になるのか そのままの題では何故いけなかったのか、わからない。
監督:ラド ミハイル
キャスト
アンドレ フイリポフ指揮者:アレクセイ グスコフ
ヴァイオリニスト アンナマリ:メラニー ローレント

ストーリーは
25年前 アンドレ フィリポフは、ボリショイオーケストラの常任指揮者だった。スターリニズムの嵐が吹き荒れる頃、彼は 命令に背いてユダヤ人演奏家をオーケストラから排除せず、中心メンバーとして演奏させたことで、当局から糾弾され、職から追放された。
生活のために、今はボリショイ劇場の掃除夫をしている。

ある日 他に誰も居ない 劇場のマネージャーの部屋を アンドレが掃除している最中、ファックスが届いた。パリの シャタレー劇場からだ。そこには、ロスアンデルス フィルハーモニーが 事故のため急に来られなくなったので、代わりにボリショイオーケストラに来てもらえないか という打診だった。
アンドレは、これは神の啓示ではないか、と思い立つ。ファックスを握り締め、昔の仲間を呼び集める。アンドレと共に 解雇された演奏家達は 散々になっていて、それぞれが生活のために、汲々としていた。タクシードライバー、引越し屋、商売人、カフェ経営者などなど、、、かき集めた仲間で オーケストラを編成して、パリに行く、、、そんな夢のようなことにために、皆一致して、金策に走る。そして、いよいよ、新ボリショイオーケストラはパリに向かう。

アンドレは、パリに住む 25歳の美しい、新鋭のヴァイオリニスト、アンナ マリーに独奏を依頼していた。様々な困難を 克服して、アンドレは 何が何でも パリでアンナ マリーにチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾かせなければならない理由がある。
アンドレと アンナ マリーは一体どういうつながりがあったのか?
と、いうお話。

ファックスを受け取ってからの アンドレの燃えるようなエネルギー。コンサートの場所はパリでなければならないし、独奏者は アンナ マリーでなければならないし、曲は絶対に チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトでなければならない。それでなけれな 彼の人生は完結しない。

そんなアンドレの気持ちとはうらはらに オーケストラのメンバーの お気楽さ。クラリネットも、ヴァイオリンも、フレンチホーンも、売り飛ばしてしまった 元団員が25年ぶりに、音楽を始めるのだから どんな様子か、それは笑える。田舎者でウォッカ漬けのロシア人が沢山集まって パリの街頭に出れば、どんな醜態をさらけ出すか、それも笑える。全員が リハーサルなど、そっちのけで、街頭やカフェで、演奏して小銭稼ぎに、走り回る。それで得た金で飲んだくれる。

一方では 解雇された指揮者と 両親を知らされずに育った25歳の孤独なヴァイオリニストの哀しい哀しいお話。でも、こころ温まるストーリーなのだ。見ていて、ついつられて涙が出た。でも、それは画面がどうあれ、チャイコフスキーが、劇場いっぱいに鳴り響いていたから、という単純な理由だ。

話としては、おもしろい。ボリショイオーケストラで、名声高い指揮者がいまは、掃除夫。それがパリから届いた一枚のファックスで かつての栄華をとりもどす。胸のすくような お話だ。
それに、パリ育ちの美貌のヴァイオリニスト 彼女は孤児で 何やら不遇の指揮者と関係があるらしい。ぞくぞくする謎めいた展開。
そして、音楽も良い。何と言っても チャイコフスキーの曲の数々。素晴らしい。

しかし、こんな映画を見てはいけない。時間と金の無駄だ。
ありえないお話だ。非現実的すぎる。全く、音楽をやらない人が作った 作り話だ。オーケストラを解散させられ、解雇され、生活のために楽器を売ってしまった団員達が、25年後に集まって借り物の楽器で すぐにチャイコフスキーが演奏できるわけがない。
映画では、みな団員達は飲んだくれてリハーサルさえ なしだ。あり得ない。プロでさえ、コンサート本番をひかえると、毎日5時間6時間と、練習をして、その上 何時間ものリハーサルを繰り返すのだ。本当の演奏家たちを馬鹿にしてはいけない。チャイコフスキーを愚弄してはいけない。

それと、主演女優の大根ぶりは、見るに耐えない。どうしてヴァイオリンを弾ける人を使わないのか。若く美しいヴァイオリニストは星の数よりも居る。音大に足を運んでみたら、チャイコフスキーのさわりくらい弾ける美しい女はいくらでもいただろう。それほど美しくも、名もあるわけでない女優にオーケストラをバックに独奏者としてヴァイオリンを弾く「ふり」をさせるなど、愚かで見苦しい。キラキラ星が弾けるようになった子供でさえ、この映画を見れば この女優が弾いているふりをしているだけだ ということがわかる。情けない。
こんなつまらない映画、見るべきではない。