2010年3月5日金曜日

映画 「しあわせの隠れ場所」


ハリウッド映画「しあわせの隠れ場所」、原題「THE BLIND SIDE」を観た。
主演のサンドラ ブロックがアカデミー賞の主演女優賞にノミネイトされている。45歳のサンドラ、良い女優で「スピード」、「ザ インターネット」、「クラッシュ」、「デンジャラス ビューテイー」、「あなたはわたしの婿になる」など 沢山の映画でハリウッドに貢献しているのに 今までアカデミーに一度もノミネイトされたことがなかった。今度 受賞を逃したら 全く賞には縁のない不運な女優だった ということになる。

映画は本当のお話。マイケル ルイスの同名のノンフィクションを ジョン リー ハンコックが映画化した。アメリカンフットボールのNFLのボルチモア レイベンズの花形スター マイケル オハーがフットボールに出会うまでの テイーン時代を描いた作品。

監督:ジョン リー ハンコック
キャスト
アン リー トゥホイ:サンドラ ブロック
マイケル オハー:アーロン クレイトン

ストーリーは
アメリカ南部メンフィス。人々は保守的で豊かな白人層の住む郊外と、スラムを形作る黒人層とは 完全に分かれて生活している。
そんなスラムのなかで、ドラッグ中毒の母親から生まれたマイケルは 幼い時から暴力に脅えながら育った。母親は12人もの子供を 父親がわからないまま、次々と産んだ。自動車修理工の男に引き取られたマイケルは 運動神経が抜群だったことから、クリスチャンの高校に紹介される。その後 高校のフットボールコーチに認められ、裕福な子弟ばかりが通う私立の高校にスポーツ優待生として受け入れられる。巨大な体、小心で恥ずかしがりやのマイケルは 16歳になるまで きちんと教育を受けたことがなかったので 学校では完全に浮いていた。

リー アンは裕福な家庭のインテリアデザイナー。二人の子供をクリスチャンスクールに通わせている。ある真冬の夜 凍りつく夜道を車を走らせていると 娘と同じクラスのマイケルが 半そで半パンツの姿で学校に向かって歩いている姿に出くわす。学校の体育館をねぐらにしている という。リー アンは 家もお金もないテイーンエイジャーに出会ってしまった。理屈もへったくれもない。マイケルを自分の家に連れて帰り 暖かい寝床を与える。
翌朝、休日なのに マイケルは一晩寝かせてもらったカウチに 使ったシーツをきちんと畳んで 学校に向かって歩いて帰ろうとする。
リー アンは 一晩マイケルを泊めるだけ と思っていたがこの高校のスポーツ優待生は 寝場所も食費さえもないことを知って 放りだすことができなくなる。

学校に問い合わせても、マイケルの家庭の事情や 両親の名や 正確な生年月日さえもわからない という。学校の教師達に会って、わかったことは、マイケルのIQは80、知恵遅れというわけではなく 勉強しさえすれば学習の成果は期待できるし、セルフデイフェンスに関しては優れた身体機能をもっているということだった。
口数少なく 従順で穏やかな性格のマイケルを リー アンはクリスチャンとしての信念から、母親代わりになって親身に世話をする。小学校低学年の息子も、マイケルの親友になり、テイーンの娘も、学校で馬鹿にされて のけものにされているマイケルの肩を持つようになっていく。

リー アンをはじめ、家族のあつい声援に応えて、マイケルは フットボールの選手としてチームで活躍する。高校を終える頃には 沢山のプロのフットボールチームから勧誘され、多くの大学から奨学生の申し出がくる。リー アンファミリーは鼻高々だ。マイケルは最終的には 自分で選んだ大学に入り、その後は、オールアメリカンNFLチームに抜擢される。
というストーリー。

印象的なシーンは、休日のブランチで、夫も子供達も食べたいものをそれぞれの皿にとって、フットボールのテレビ中継を見ながら食べようとしていた時、皆に背を向けてマイケルはひとりテーブルに就いて食事する。そんな姿を見て、リー アンが決然とテレビを消して、家族をテーブルにつかせて お祈りをしてから食事を始めるシーンだ。マイケルの出現で 忘れていた家族の良い習慣が戻ってきたのだ。マイケルが ただこの家族のオマケなのではなく 相互の関係で互いに変わっていく契機になっていることがわかる。

リー アンの息子、マイケルの腰までも背丈が届かない小さな男の子が自分の体の何十倍もある マイケルをコーチする姿が 笑えて、観ていてとても幸せな気分になる。フットボールのルールを一から教え、走る瞬発力をつけさせるためにマイケルに走らせたり 筋肉トレーニングをさせるところなど、一人前のスポーツコーチになった気でいる この息子が可愛くて 天真爛漫で なまいきで頼もしい。とても良い役者だ。

リー アンの夫を カントリーシンガーのテイム マッグロウが演じている。事業家で 郊外に大きな家を持ち、美しい妻に二人の子供達、、、という典型的な南部アメリカの中流家庭のお父さん。妻の決めた事 子供達のわがまま、寡黙でちょっと知恵の足りない巨漢のマイケル すべてを笑顔で許容する 心の広い理想的なお父さんだ。

リー アンのクリスチャンとしての使命感、母性本能、仕事も家庭も
きっちりやって、友達付き合いもボランテイアもやる 頼りがいのあるお母さん姿がとても良い。
彼女の一番良いシーンは 初めのうちマイケルはフットボールのルールがよくわかっていない上、人が良いので攻撃をすることができず チームに全然貢献していないことを見て取った彼女が、つかつかとフィールドに出てきて「マイケルあんた ママが襲われたら あんたどうするの?やっつけてくれるんでしょう?そいつがママを追いかけてきたら あんたがちゃんとブロックしてくれるんでしょう?おなじようにこの子にボールがいくようにあんたがブロックして、あの子にボールが行くように つぎをブロックするのが あんたの仕事なのよ。」と、実に的確に、マイケルにわかるように彼の役割を指示するところだ。こんなシーンで サンドラ ブロックの良さが生きている。

場面が変わるごとに 次々と変わるサンドラのファッションを、見ていて楽しい。エルメスのワンピース、ルイ ヴィトンの靴とバッグ、バーバリのセーター、シャネルのガウン、、、みな、ごく自然に身についていて好ましい。20代の頃の はじけ飛ぶようなサンドラと違って 体の線がくずれていないのに、程よい40代の美しさを保っている。

アメリカンフットボールはアメリカ人にとっては「マッチョ=アメフト=命」みたいなもので、日本人の野球熱を遥かに超えた熱狂の世界だ。アメフトの映画もむかしから沢山あるがバート レイノルズの「ロンゲストヤード」、トム クルーズの「ザ エージェン」(JERRY MAGUIRE)、「プライド 栄光への絆」(FRIDAY NIGHT LIGHT)などがある。私は「プライド 栄光への絆」が好きだ。街中が地元高校のアメフト試合に興奮していて、それが時間がせまるごとに序序に高まっていき、はちきれそうな緊張感の頂点で試合が始まり、人々のエネルギーが爆発する。並みの恐怖映画やスリラーよりもスリルがあった。この映画にも マイケル役のアーロン クレイトンが選手の一人として出演していた。

私がこの映画を見る価値があると思うのは これが本当のお話だったこと。それで、今のアメリカでは、こういうことが もう起きないだろう と思うからだ。よき時代のアメリカ。アメリカに 良識と良心があった ちょっと前までの歴史をいま、振り返ってみたらいいのではないか と思うからだ。
日本では戦後 フルブライト奨学金で、日本からおびただしい数の留学生が海を渡った。貧しく、昨日まで敵国だった敗戦国日本からの奨学生を 自分の家にステイさせて 自分の子供のように世話をしたアメリカのお母さん達、彼女らを支えていたのは敬虔なクリスチャン精神と、良心と良識だったろう。

競争社会が良いことのように推進されて 人々は神を捨て、家庭を捨てた。良心も、良識もへったくれもない。また9.11のあとは、どこも敵だらけだ。信じられるものなど何もない。
そんな時だからこそ、こんなよき時代の良識あるアメリカ人の姿を見て失われた過去に じんわり心がぬくめられれば いいな、、と思う。