2007年7月19日木曜日

グルネリのバイオリン

オーストラリアチェンバーオーケストラ(略してACO)に、ジュゼッペ グルネリが 1743年に製作したカロダス という名のついたバイオリンが貸与されることになったのは、今年のビッグニュースだった。この、10億円の 歴史あるバイオリンを所有するアメリカ人の収集家が、ACO監督のリチャード トンゲッテイに貸与することに決めたのだ。

アントニオ ストラデイバリと、バルロメオ ジュゼッペ グルネリの二人は17世紀終わりから18世紀はじめにかけて、イタリアのクレモナでバイオリンを製作し、自らも優れたバイオリン奏者でもあった。いま、二人の残したバイオリンは 世界遺産、国宝級の扱いをされて、本当に選ばれた奏者だけが、所有したり、貸与されて、演奏することができる。

現在 世界中で ストラデイバリが、600、グルネリが100くらい残っていて、すべて、登録されている。で、この、カルダスという名のついたバイオリンは、パガニーニの愛用したバイオリンと、同じ樹から作られたものだそうだ。OSSY RENARDYというバイオリニストに所有されていたものが、彼が事故死したあと、50年間 だれにも弾かれないまま収集家のもとに保管されていて、やっと、ふさわしい演奏家に貸与され、日の目をみることになった。

バイオリンは木でできているが、可愛がり いたわり 演奏し使いこなしているうちに 生き物と同じように、呼吸もし、良い音が出るようになる。良い弾き手がいる限り 死ぬことはない。

リチャード トンゲッテイが チャンバーオーケストラをたちあげて、10数年、団員、20名あまりのちいさなチェンバーオーケストラが 100名の交響楽団よりも、豊かで、良い音を出す。政府の援助金を得て、団員が給料をもらっている、シドニーシンフォニーオーケストラの頭をかすめて、リチャード トンゲテイにグルネリのバイオリンが貸与されたことが、単純にうれしい。

彼はこのバイオリンをお披露目するために、ベートーベンのバイオリンコンチェルトと、べートーベンの、交響曲「英雄」をコンサートで演奏した。ACOは、どんな長い曲でも、全員 ずっと立ったまま演奏する。奏者の緊張がそのまま聴き手の心に染みとおっていく。クラシックは伝統だが、弾き手は常に現代を弾かなければ意味がない。今を生きている私たちの心の痛み、鬱屈した圧迫感、心の叫びを表現してくれる優れた今を弾く弾き手でなければならない。ACOの音はいつも新しい。

ACOは 定期コンサートでは 毎回ゲストを呼んで 共演するが ゲストが詩人だったり、アコーデオン奏者だったり、リコーダ奏者や民謡歌手だったりして、常に新しい共演にチャレンジしている。また、年に一度、1-2ヶ月かけて海外に公演旅行にでかけて 世界各地のさまざまな音楽家たちと共演 交流している。世界のどこからも離れた南半球の 井の中の蛙にならないためだ。これが若いオーケストラメンバーのは辛いらしく、育児や出産のために、海外遠征できず 辞めていく団員も多い。

にもかかわらず 自分がハンドルできるサイズのオーケストラで、自分の信念をずっと、通してきたトンゲッテイは えらいと思う。音楽にたいして、あくまでも真摯で誠実な態度が好ましい。また、いつまでも、少年のような 外観、立ち振る舞いも、好ましい。 グルネリのバイオリンで演奏される これからの、コンサートが楽しみだ。