2010年10月28日木曜日
「ウィキリーク」と映画「ミレニアム2火と戯れる女」
イラク戦争に関する米軍軍事機密をハッカーして、公表したウィキリークは、現代のヒーローと言って良い。今回 公表された機密事項は 40万点。
米軍が発表したよりも はるかに多くのイラク市民が 米軍とその連合国軍によって殺されていたことも、極めて残酷な国際法で禁止されている拷問を 捕虜に行っていたことも 証拠と共に明らかにされた。
事実を隠蔽して国家としての体裁を保とうとする国と、事実を国民に公表するハッカーとの間で、今後、ますます情報合戦が激化していくだろう。
隠されていた事実が 人々の目にさらされることによって、歴史も変わってくることだろう。
ウィキリークを始めた人は クイーンズランド タウンズビル生まれの38歳、JULIA ASSANGE オージーだ。これからは、新聞を読むよりも 先に、「WIKILEAK」を読む人が増えてくるだろう。
映画の邦題「ミレニアム2 火と戯れる女」、原題「THE GIRL WHO PLAYED WITH FIRE」を観た。コンピューターハッカーの女のお話だ。
スウェーデン映画。ベストセラー小説の映画化で、ミレニアム3部作のうち、2番目の作品。「ドラゴンのタットーをもつ女」の続編。
本で読むほうが、絶対おもしろい。でも映画もすごくドキドキする。2時間あまりの映画の間 心臓がずっと早鐘のように鳴りっぱなしだった。
第1作「ドラゴンのタットーをもつ女」の映画評は、下記につけておく。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1468298751&owner_id=5059993
スウェーデンは北欧福祉社会国家のモデルといわれ、ゆりかごから墓場まで国民の暮らしが 政府のあつい福祉政策で保護されている。その分だけ税金に給料の半分以上をもっていかれ 福祉社会特有のドラッグ アルコール中毒、暴力など社会の秩序を乱す犯罪は多発している。冬が長く、雪に閉じ込められる時間が長いため、精神病の発病や、家庭内暴力も多いが 徹底した個人主義のため犯罪が表に出にくい。
プロのコンピューターハッカー:リスベットと、ミレニアム編集長ミカエルはコンピューターを通じて知り合った。かつて死線を二人して掻い潜ってきた二人の間には 男と女の愛情や友情以上の 強い信頼関係が築かれている。
第1作「ドラゴンのタットーをもつ女」で、リスベットとミカエルは 人種差別に凝り固まった異常性愛の人殺しに 翻弄されたが、第2作では 国際犯罪のセックスワーカーの人身売買組織に狙われる。2つの作品を続けてみることで、リスベットが どんな悲惨な少女時代を送ってきたか なぜ彼女が無口で誰も信頼せず かたくなに孤独を守ろうとするのか、誰が彼女の本当の敵なのかが、わかってくる。
この3部作のおもしろさは パンクなハッカー女と、まじめな正義感あふれるジャーナリストのミカエルとのとりあわせの「不釣合いぐあい」にある。リスベットは一人で生きる女だから 誰も理解者も友達も協力者も必要としない。それを知っていて、ミカエルは リスベットの後を追わずに居られない。結果としてリスベットは ミカエルに助けられたり助けたりするのだけれど、そういったことでべつにリスベットは 嬉しくも何ともない。だ、けれども 居ても居なくても邪魔じゃない。そんな ふたりのコンビネーションが、とても良い「味」になっている。
ストーリーは
ロシアや東欧から送り込まれてストックホルムで働かされている セックスワーカーの人身売買を調査してきた 若いジャーナリストが ミカエルが編集長をしているミレニアムの仲間に入ってきた。若い正義感に燃えた 優秀なジャーナリストだ。
人身売買は、裏の世界で繁盛を極めているが、なかなか表に出てこない。それは 政府高官や 財界の大物が関与しているからだ。何十年も前に存在していた秘密警察まで これに関わっている。この犯罪組織を 告発することはミレニアムにとっても 命がけの大仕事になる。ミカエルは 持ち前の正義感から、熱心に組織の解明に取り組む。
ようやく、記事が仕上がったという連絡を受けたミカエルは、若いジャーナリストの家に 原稿を取りに行く。しかし一瞬の遅れで ミカエルは2人の記者の射殺死体を発見することになる。続いて リスベットの後見人の死体が上がる。死体の横に、リスベットの指紋つきの拳銃が置かれていた。
リスベットは3人の殺人容疑で指名手配される。ミカエルは リスベットの無実を確信しているが 証明することができない。リスベットは自分を破滅させようとしている犯罪組織に自分から近付いていく。なぜ、3人の殺人の罪を着せられたのか、、。巨体で先天的障害のため痛みを全く感じない 異様な殺人者に 追いつ追われつ 細身の一人の女の活躍ぶりに 息をつくひまもない。とても緊張する。
ストーリーは スリラーなので、これから読んだり観たりする人のために 話の筋をこれ以上言うことは出来ない。
映画でおもしろかったので、本を読む人も多いだろう。
パンクなハッカーが 細腕で活躍する しかもスウェーデン語で書かれた小説が どうして世界中でベストセラーになって 映画化されて高い評価をうけているのか。
ひとつには 取り上げている事件が「現代」をよく映し出しているからだと思う。コンピューター、ドラッグ、パンク、人身売買、ぺデファイル、猟奇殺人、何でもありだ。それと、国や大企業という巨大すぎて個人が太刀打ちできない力に対して、薄幸な少女時代を送った女が一人きりで 立ち向かっていく姿に魅かれるからだろう。
男に媚びない女の潔さ。
第1作の映画のなかで 好きな場面がある。リスベットが自分からミカエルのベッドに入り込み関係を持ったあと、何日かして、男のベッドで眠るリスベットの体に手をかけるミカエルに、リスベットは手を払いのけ 歯をむき出して怒る。「じゃあ、どうして自分のべっドで寝ないの?」と聞くミカエルに背を向けながら居座るリスベットを、ミカエルが優しい目ざしで笑うシーンだ。君がいてくれてもいい。居てくれなくていい。邪魔じゃない程度に居てくれるのが快適、というくらいが、理想的な関係だろうか。
男にしか出来ない仕事も、女にしか出来ない仕事も もうなくなってきた。同性婚も、異性婚も 子供を持つにしても実子も養子も そう遠くない将来全く同じ権利を法で守られることになるだろう。そうなれば男と女の結びつきも変わってくる。
あなたなしに生きられない、とか 愛に生き愛に死ぬ などというのは、オペラの世界でしか生き延びられないかもしれない。
第3作「眠れる女と狂卓の騎士」が楽しみだ。日本ではもう限られた劇場で公開されているらしい。
3作目のシドニーでの公開が待ち遠しい。