2010年7月2日金曜日

オーストラリア初の女性首相 ジュリア ギラー


かりに ここに人気商売を営む社長が居たとする。
弁護士出身の優秀な妻がいて、右腕となってやってくれるので、仕事は順調そのもの。3年間、何事もなくやってこられた。ところが新しい税金対策で、ちょっと人気が下降気味。やばいかな、と思いつつ ある日職場に出てみると、100%信頼していた妻が社長の椅子に座っていて、副社長、腹心の者もすべてが妻の忠実な部下になっていた。おまけに、自分の席が会社から無くなっている。机も無ければ椅子も処分されている。たった、一晩で社長として提供されていた家も ただちに出て行かなければならないと宣告される。もし そんな立場に 自分がなったら、どうだろう?

オーストラリアの新首相 ジュリア ギラーの登場はこのようなものだった。何の疑念もなく信頼を置いていた副首相が、実は 裏で自分の支持票を集めていて、謀反を起こすなど、微塵も考えもしなかったケビン ラッドのショックの大きさは計り知れない。政治というものは そういうもの 昨日の味方は今日の敵、と言えばそれまでだが このような形で起きた オーストラリア初の女性首相の登場を 素直に喜べない。
フェアでない。彼女を人々が首相として信認した訳ではなくて、一連の政治劇の結果だった。

2007年12月 ケビン ラッドが首相の座についてから、彼は歴代のなかでも飛びぬけて 高い国民の支持率を 維持してきた。多い時は60%代、悪い時でも45%を下ったことは無かった。
就任と同時に アボリジニーの子供達を強制的に親から取り上げて 教会や白人家庭で教育を施した歴史を取り上げて、アボリジニーに正式な謝罪をした。また 地球温暖化、環境悪化の問題で、京都議定書に同意サインをした。13年間の長期にわたった保守自由党にあきあきしていた人々にとっては ケビンの登場は待ちに待った改革と新しい指針だった。
彼が資源会社の利益に40%の課税をする税制改革案を出すまでは、ケビンは人気者であり続けた。

オーストラリアの基幹産業は その豊富な地下資源にある。中国、インドなどの経済発展にともない、資源ブームが起きて、鉄鉱石、石炭、ガスなどの輸出企業は、笑いが止まらなかった。資源会社がすでに充分利益を得ていることから、この利益に課税して、富みの分配をして国内のほかの部門を強化する というのが、ケビンなど労働党の考えだった。

税制改革の趣旨は
1)資源から得た利益に 40%課税する。
2)各州は今までどおり採掘権料を徴収できるが 連邦政府は企業に対して その払い戻しを求めることが出来る。
3)法人税は現行30%から28%に引き下げ、中小企業を応援する。
4)年金は 雇用者負担を現行9%から、12%に引き上げる。
というもので、一般の働く人は賛成だと思う。趣旨の4では、今まで私が仮に100ドル 働いて稼いだとすると、雇用主は 自動的に私の年金口座に9ドル入れなければいけないところを 新案では12ドル入れてくれることになるわけだ。

要は 資源ブームに乗じて利潤を上げすぎた資源会社から高い税を取り 他の中小企業や労働者を援助する案だった。
当然ながら、資源会社は猛反対する。何度も首相と企業側との話し合いが持たれていた。

オーストラリアは世界で初めて 女性に選挙権を与えた国だ。そんなことは、ローマ人にもできなかった。マーチン ルターにもできなかった。トーマス ジェファーソンにもできなかった。男女平等の権利として女性に選挙権を与えたのが、イギリスから島流しにあった囚人たちで、建国したオーストラリアだった というのは愉快な話し ではないか。そんな国で、初めて迎える女性首相が、奇妙な政権争いの末にでてきた ということが、とても残念だ。

ジュリア ギラー英国生まれで、ウェルスで司法を学んだ。数年前、彼女が労働党入党の際、二重国籍でイギリス国籍を残していることが、問題になったことがある。3年前、ケビン ラッドに指名されて、初めての女性副首相に抜擢されたとき、テレビインタビューが自宅を訪れた。このときの様子をニュースで見た人々が、女性の家なのに、花1本、果物ひとつあるわけでない、およそ生活臭のない家を見てショックを受けた とかいう与太話もある。

オーストラリアは今年 総選挙をひかえている。
政局が流動的だ。ともかく、国のトップと、労働党のヘッドが ケビン ラッドから ジュリア ギラーに替わった。要は何が 変わったのか、ということだ。ジュリアはケビンとは、スタオルが違うと言う。政策は何も変わらないのに スタイルが変わるということは、何なのか、さっぱりわからない。課税対策は同じなのだろう。資源会社から40%の税金を徴収するのも同じなのだろう。でも、スタイルが違うということは、40%でなくて、主婦が40なら買わないけど39.8なら 思わず買ってしまうような気分で、39.8%にでもするつもり なのかしら。

首相の首の挿げ替えは、選挙対策だという。でも、ナンバー2が ナンバー1に隠れて票を集め 背後からつき落とすようなことをした政党が 果たして選挙で勝てるだろうか。
保守自由党の党首トニー アボットも、同じようなことをして、タンブル党首を抹殺した。トライアスロンに登場したり、水上救急隊で活躍してみたり すぐ裸姿をみせたがる。大嫌いだが、こんな男が、案外 今回の選挙で勝ってしまうのではないだろうか。
そうだとしたら、数ヶ月間だけの女性首相だった、ということになる。こんなことで良いのか。