2010年7月5日月曜日

映画 「ロウ」


オーストラリア映画、新作「LOU」を観た。
監督:べリンダ カイコウ(BELINDA CHAYKO)
キャスト:ロウ : リリー ベル テイングレイ
   祖父ドイル: ジョン ハート
   母 リア:エミリー バークレイ
妹達:チャーリー ローズと、エロイズ マクレナン

ストーリーは
オーストラリア ニューサウスウェルス州 ニューイングランド。
見渡す限り とうもろこし畑が広がっている田舎の小さな町。28歳のリアは、幼い3人に娘を抱えて 生活苦にあえいでいた。11歳のロウを筆頭に、3人の娘を捨てて夫が家を出て行って、10ヶ月たった。クリスマスが近いというのに、家賃の取立てに男達が来ると リアは3人の娘を連れて逃げ回らなければならない。田舎町、女一人の稼ぎでは 娘達はいつも空腹だ。

そんなわびしい暮らしが続く ある日、ソーシャルワーカーが 一人の年寄りを連れてくる。それは、リアと3人の子供を捨てて出て行った夫の父親 ドリルだった。アルツハイマー病に冒されていて、自分の息子の嫁や孫たちの記憶はない。この病人を収容する病院がないので、もし自宅で家族が世話をしてくれるなら、その為の生活資金を 自治体で出してくれるという。リアは、給付される金額を聞いて、1も2もなく老人を引き取ることにする。

ドリルには記憶がなく、意識が混乱しており自分の身の回りの世話もできない大きな子供のようなものだった。そんな年寄りのために、自分の部屋を提供して 自分は地下室で寝なければならなくなった長女ロウは 始めドリルが憎くて仕方がない。わざと辛く当たって 意地悪をする。
11歳のロウには 新聞配達で町からやって来る少年に淡い恋心を持っている。密かに母親のところに通ってくる母のボーイフレンドに嫌悪感を感じている。幼い2人の妹と違って、自分はもう大人の世界が理解できるようになったつもりでいる。

ドリルは家族の一員になり 次第に孫達の良い遊び相手になっていく。ロウも序序にドリルに対して 憎しみよりも哀れみ そして優しい気持ちを抱くようになっていく。ドリルは亡くなった妻がニュージーランドの先住民族マオリ出身だったので よくマオリの唄を歌ってくれる。ロウは海を見ながら、そのむこうにあるニュージーランドという国の夢をみる。父親の先祖だったと言うマオリの国が、まるで夢のように自由で美しい国に、思えてくるのだった。

真夏のクリスマス。
庭でバーベキューパーテイーが開催される。新聞配達の少年も 近所の人々もみなやってくる。変化のない日々の中で クリスマスは子供達にとっても大人にとっても特別な日だった。翌日、みんなで海に行く約束だったのに、母親は酔っていて、約束を守らない。怒ったロウはドリルと2人の妹を連れて バスで海に行って、一日遊んで帰ってくる。
一方、母親リアは ロウがどこに行ってしまったのか分からなかったので、ボーイフレンドと出かける予定だったのに 出かけられない。それが原因でボーイフレンドは リアを捨てて出て行ってしまう。泣き崩れるリアに、ドリルもリアも なぐさめの言葉もない。

ソーシャルワーカーが 様子を見に来て 家族がきちんとドリルの世話をしていないので、病院に戻すことにした と言う。ロウは、ドリルを連れて家出をする。何もわからないドリルは脅えて家に帰りたがるが、ロウは頑として ドリルと自由の国 ニュージーランドに渡るために、港町を目指していこうとする。
というお話。

年寄りと少女の逃避行が、哀しくて 美しい。
現実には逃げることは出来ないのだけれども 逃れようとする二人の姿が 泣かせる。
年をとった俳優、ジョン ハートが とても良い。妻に先立たれ アルツハイマーになり、何のよるべもない世界でポツンと、立ち尽くす男の孤独感をよく表していた。混乱してロウを妻と間違えたり 必死でロウに指輪を差し出してプロポーズする真摯な姿、嫁のリアのボーイフレンドに嫌悪感をむき出しにするところなども、良い。
母親リアが、夫に捨てられ、ボーイフレンドにも去られ、私はまだ28歳なのに、、、といって泣き崩れるシーンなど、とてもせつない。
しかし、初めて役者をやった というロウを演じたリリー ベル テイングレイの演技が際立っている。11歳の怒れる少女、、。怒らずにいられようか。右も左も八方塞がりの中で、それでも夢を見続けずには、いられない。生きることが即、逆境と戦うことを意味するのだから。そんな怒りの演技をとてもよく表現していた。

ロウは結局 連れ戻され母親を和解する。しかし、もどっても またロウは怒り続け、反逆し続けなければならないだろう。