2014年3月30日日曜日
オペラ 「イーゴリ公」
オペラを観ていて眠ってしまった、、、で、目が覚めた時、眠る前と全く同じ情景で、同じ人たちが同じようなことを言いながら歌っていた。すごい。
これがロシアのオペラの醍醐味か、、、。
ニューヨークメトロポリタンオペラ
オペラ「イーゴリ公」: 「PRINCE IGOR」
作曲: アレクサンドル ボロデイン
指揮: ジアナンドリア ノセダ
音楽: ピッツバーグオーケストラ
ホスト: エリック オーウェンズ
イーゴリ公 :アブトラザコフ イルダ (バスバリトン)
妻ヤロスラザブナ:オクサナ デイーカ (ソプラノ)
ガレツキー公 :ミハイル ぺトレンコ (バス)
息子ウラジミール:セルゲイ セミシュクール(テナー)
コンチャクカーン :ステファン コツャン(バリトン)
カーンの娘 :アニータ ラチヴェリシュべリ(ソプラノ)
ストーリーは
プチバルの国のイーゴル公は、息子ウラジミールを連れて、コンチャック カーンの国を亡ぼしに全軍を率いて出陣する準備をしていた。ところが、いざ出陣に段になって、突然日が陰り、太陽が月に重なって日蝕が起きて、あたりが真っ暗になってしまった。人々は突然、暗闇に陥り恐怖に震え、これは、悪い予兆にちがいないと、言い出した。イーゴリ公の妻も、夫をひき止めようと説得するが、イーゴリは弟のガリツキーに後を頼むと、意気揚々と軍を率いて行ってしまった。
しかし戦争では コンチャク カーンの軍に完敗し、イーゴリ公は傷を負って捕虜となった。イーゴリ公の息子ウラジミールも、同じく捕虜になったが、コンチャク カーンの娘カンチヤコバに愛される。自由奔放で美しいカンチヤコバは、ウラジミールに甘い酒を飲ませ、楽しくて甘い生活を提供して、すっかり誘惑で骨抜きにしてしまう。イーゴリ公にもたくさんの誘惑が待っている。コンチャク カーンは イーゴリを敵をみなさずに友情を持って歓待する。しかし、イーゴリはかたくなに誘惑を拒み、沢山の兵隊を失って、自分は生きて敵の捕虜になったことを恥じて、苦しむ。
一方、イーゴリ公のいないプテイバルの国は イーゴリに弟ガリツキーによって規範を無くし堕落と退廃に陥っていた。ガリツキーの取り巻きたちは、このときとばかり羽目を外して酒に酔い、女たちを襲い、イーゴリの妻の権力を奪おうとしていた。そこに、イーゴリ公が捕虜になったという知らせが入る。妻ヤロスラブナが嘆く閑もなく、敵兵が襲ってきて、カーンの兵によって城は包囲されて、攻められ破壊された。ガレツキー公は殺される。
破壊された瓦礫に、傷を負い生き残ったプテイバルの人々が、肩を寄せ合って生きている。そこに、逃亡してきたイーゴル公が、ボロボロになってたどり着く。息子はカーンの娘との甘い生活に溺れて父親も故国も捨てた。イーゴリは一人帰国して、妻と再会する。イーゴリは敗戦も、国破れ、城が瓦礫となったのも、すべて自分の責任だったと自分を責めて、ひとり黙って、黙々と瓦礫を除いて破壊された城の再建に身を投じるのだった。というお話。
12世紀のロシアの英雄イーゴリ公の物語。
ボロデインの曲はロシアというよりも、トルコ系遊牧民族やモンゴルの草原の民の音楽に近い。
このオペラのみどころは、第2幕、幕が上がった途端、、、あっと びっくり、舞台が真紅のケシの花で覆われている。12万本のケシが咲き乱れている中を、流れてくるのが有名な曲、「韃靼人の踊り」だ。このオペラで一番有名な曲、「韃靼人の踊り」。もう ほとんどポピュラーと言ってよいほど有名で、誰でも聴いたことがあるはず。英語では、この曲を「ストレンジャー イン パラダイス」。じつは「韃靼人の踊り」も「ストレンジャー イン パラダイス」も、「韃靼人の行進」も、みな別々の曲だが、オペラの中で、全部をつなげて演奏しているように、ひとつの長い曲のようにバレエの舞台音楽としてよく使われている。曲の一部は、映画にもコマーシャルにも、携帯の呼び出し音楽にも使われている。オペラでは、この曲が果てることなく繰り返し繰り返し、延々と演奏され続け、真っ赤なケシ畑で、裸のような衣装を着た30人もの男女が身をくねらせて踊る。戦に負けて傷を負い、捕虜になったイーゴル公もウラジミールも このケシ畑で途方に暮れるが、やがて陶酔して甘美な世界に身を浸す。ケシは誘惑と陶酔の世界を象徴している。
この12万本のケシ畑を演出したのはロシア人、オデイミトリ チェル二アコフ、43歳で これがメトロポリタンオペラ演出の初デビュー作品になった。優秀な演出家で 主にイタリアで活躍している。またこの「韃靼人の踊り」は、「イーゴリ公」よりも、ブロードウェイミュージカル「キスメット」で使われて有名になった。1954年の「キスメット」は、ボロデインの弦楽四重奏曲と、管弦楽曲をアレンジして使っていて、ミュージカルとして成功し、高く評価されて、この年にトニー賞受賞、ボロデインもオリジナル音楽賞を受賞している。そのころボロデインはとっくに亡くなっていたけれど。このミュージカルは映画にもなっている。
アレクサンドル ボロデインは人物紹介されるとき、いつもロシアを代表する作曲家だが、化学者で医師でもあった、と言われる。1833年生まれ。貴族出身でサンクトぺテルスブルグ大学医学部を卒業し、化学者としてイタリアピサ大学をはじめヨーロッパの各地で研究に励み、有機化学の分野で大きな業績を残した。26歳のときに結婚した妻がピアノを弾くのに魅かれて、音楽に興味をもち、作曲を勉強し始める。二つシンフォニーを完成させており、1880年にフランツ リストがドイツでカレのシンフォニーを紹介したのが契機でヨーロッパでも彼の名前が知られるようになった。
オペラ「イーゴル公」は、ボロデインが、本職が忙しくて生前、完成できなかったが、彼の死後、ニコライ リムスキーとコルサコフ アレクサンドル グラズノフによって完成されて、上演されるようになった。ロシアでは、ロシアの誇りとして、ひんぱんに上演されて、ボリショイバレエ団の踊りとともに大人気の作品。ロシアでは多数のコーラス隊と、多数のバレエダンサーの出演を得て、規模の大きな、どでかい舞台に仕上がっている。それだけにヨーロッパではあまり上演されてこなかった。今季、メトロポリタンオペラでは、100年ぶりの「イーゴリ公」上演だそうだ。100年!!!
主役のイーゴリ公を演じたのは、若いロシア人、体格も良く、顔も良い。しっかりしたバスバリトンで、戦に敗れ、捕虜として辱められ何もかも息子さえも失って故国に帰ってきた苦悩する男の役を立派に演じている。インタビューで、このオペラを子供の時!!!から観て育ってきた、と語っている。すごい。4時間半の本格的なロシアのオペラを、ロシア人に歌わせて成功している。
貞淑な妻を演じたソプラノ、オクサナ デイーカはウクライナ出身で格調ある、とても美しい声をしている。メトロポリタン初デビューだそうだ。声は、素晴らしい高貴な声をだすが、演技のほうは堅くて重い。
バスの悪役イーゴリ公の弟も、息子のウラジミールのテノールも、とても良かった。コンチャク カーンのバリトンもすごく良い声だった。
コンチャク カ-ンの娘役で、ウラジミールを誘惑してすっかり骨抜き男にしてしまう自由奔放な娘を演じたアニータ ラチヴェリシュヴェリは、いま主役級の人気ソプラノ歌手だ。ジョージア出身。この人の主演した「カルメン」を見たことがある。腰まで長い黒髪をなびかせて、豊かな胸をさらけ出し、大胆で野性的。オペラ界の新しいセックスシンボルになりそうな感じ。のびのある美しいソプラノを歌う。
第1幕の出陣を前に、イーゴリ公が妻や弟や100人近い兵士たちを前に、あれこれ言っているシーンが延々と続くので思わず寝てしまったが、良いオペラだった。久しぶりお金を使い放題の大規模な重い本格的なオペラ、出場役者が200人以上に加え、30人のバレエ団、とびぬけて贅沢な舞台、こんなロシアオペラも良いものだ。4時間半、ライブフィルムを堪能した。
フィルム開始直前、暗闇の中で、となりの席に滑り込んできた小柄な女性が、ニューサウスウェルス州知事のマリー バシェール教授だった。ニュースでしか見たことのなかった人が、幕間に気軽に話しかけてくれたのが、なんか、とっても嬉しくてすっかり彼女のファンになってしまった。そんな のんびりした日曜の午後。