2014年3月11日火曜日

映画 「それでも夜は明ける」


                    

http://www.imdb.com/title/tt2024544/
「黒人文学」という言葉がある。
20世紀に、黒人が黒人のための小説を書いた先駆者、リチャード ライトや、ジェームス ボールドウィンによる、数々の名作を指す。リチャード ライトは、激しい黒人差別の残るミシシッピー州で生まれ、当時の慣習から学校教育を受けられず、貧困から脱出するために、自力で字を習い、ものを書くようになった。彼の小説「ブラック ボーイ」は、白人社会における黒人の苦闘を描いた自分自身の話だ。簡易な英語で書かれているので、難しい単語や難解な言い回しが苦手の外国人が、初めて読む英語の「原書」として、勧められる。ジュニアスクールの教科書にも紹介されている。易しい言葉で、黒人として差別社会を生きる者の怒りを、全身で表現している得難い小説だ。ベトナム戦争が拡大し、マーチン ルーサー キング牧師が市民を率いて黒人民権運動を広げていった時期に 時流に乗って黒人文学は、ひろく世界中で読まれるようになった。しかし、今考えれば、「黒人文学」とは何だ。白人文学という言葉がない以上、特に黒人を強調することによって、人種差別を促す危険を含んでいるではないか、ということになる。時代は変わる。

人間社会は、いずれ「黒人文学」ということばも、「白人社会」という言葉も無くなっていくだろう。黒人が学校教育を拒否され、白人と同じ電車やバスに乗り、同じレストランに入ることを拒否された時代は、「恥の歴史」として過去に葬られる。同じようにして「男尊女卑」、「男性優位」とか「父兄会」とかいう言葉は過去のものになり、人のことをMENといっていた時代は去り、MEN AND WOMENに言い換えられるようになった。
そのようにして、さらに進んで、「MAN」でも「WOMAN」でもない、そんなものは書く必要がない時代が、すぐに来ることだろう。結婚証明書や、戸籍謄本や、身元証明書に「男」とか、「女」とか書く必要がない。男も女もトランスジェンダーも、自分を男と認める人や、自分を女と考える人や、性転換をした人など、すべてを含めて雇用や結婚に際して、すべて差別してはならない、という時代が来る。「黒」でも、「白」でも「黄色」でもない、また「男」でも「女」でもない、すべて等しく人間であることを認め合う平等社会に向かって行くことだろう。ただし、きわめて、ゆっくりのペースで、おびただしい犠牲者を出しながら、、、、。

映画「それでも夜は明ける」は、150年前にソロモン ノーサップによって書かれ出版された。自分が、ニューヨークで自由の身であったにも関わらず、誘拐されて南部に送られ、12年間奴隷にされていた自身の記録だ。ソロモンの経験を描いたこの本は、その後のアメリカ市民戦争に大きな影響与えた。また、翌年の1854年に、ハリエット ビーチャー ストウ夫人が「アンクルトム キャビン」(1854年)を書いて出版しているが、彼女のフィクション小説の多くの部分でソロモン ノーサップの実際の経験との類似点がみられる。

ストーリー
1841年、ニューヨークで大工として働き、ヴァイオリンの名手でもあったソロモン ノーサップ(キエテル イジョホー)は、妻と二人の子供を持ち、市民として地元では信頼、尊敬されていた。ある日彼は、ヴァイオリンの腕を見込まれて、サーカス団の一行とともに演奏旅行する仕事を依頼され、ワシントンに向かう。そこでソロモンは 紹介された男たちに歓待され、泥酔する。目が覚めてみると、彼は鉄の鎖につながれていた。自分が自由の身であることを叫びたてても、鞭で打ち据えられるばかり、獣のような白人の奴隷売買に引き立てられて、南部に船で送られる。
最初の主人は、テキサスのウィリアム フォード(べネデイクト カンバーバッチ)で、コットンファームの大土地所有者だった。ここで、ソロモンは大工だった経験を高く主人に評価されて、大事にされる。しかし、それが読み書きもできず、建設技術にも無知な白人マネージャーたちに憎まれる結果となり、ルイジアナの別の主人へと売られていく。最後の10年間は、最も冷酷な主人、エドウィン エップス(マイケル ファスベンダー)のプランテーションで酷使される。逃亡すれば極刑、隠し事をすれば鞭打ちの日々、理由もなく鞭打たれる毎日に希望を失いかけたころに、小屋の建設を手伝っていて、カナダからきていた技術者、サミュエル バス(ブラッド ピット)に出会う。ソロモンは彼に、自分の数奇な運命を語り聞かせる。話に感銘を受けたサミュエルは、南部に居ては自分の命が危険にさらされることを悟って、ニューヨークに向かい、ソロモンの救出のために奔走する。そして、ついにニューヨーク市の法律にのっとって、ソロモン救出のための行政官が、ルイジアナまで来て、ソロモンを家族のもとに連れ帰る。
というお話。

今年のアカデミー作品賞受賞作。
奴隷たちが、敬虔なクリスチャンである姿が悲しい。奴隷たちは、この世で苦しむのは、神が与えた試練であって、苦しめば苦しむほど、あの世で美しい来世がくると信じて熱心に信仰している。苦しすぎるので、死を願って、盗みを働いたと嘘の告白をして自ら極刑に身をさらす少女や、泣くことを止めない女、逃亡を試みる少年の姿が哀しい。生きる希望を次々と絶たれていく残酷さ。

原作は150年前の作品だが、今日もまだ、新しい。現実にソロモンのように鞭で打たれはしなくても、弱いものは肌の色やジェンダーゆえに 不理屈に解雇されたり虐待されたりしている。ソロモンのように誘拐されて奴隷にされてはいなくても、いまだに学校や職場で弱いもの虐めが、幅を利かせている。時代を超えて、ソロモンの痛みは 私たちの痛みでもある。
よき社会、差別のない社会への道は まだ遥かに遠い。そこまでの変化は、きわめてゆっくりしたペースで、おびただしい犠牲者を出しながら、、、。

邦題:「それでも夜は明ける」
原題:「TWELVE YEARS A SLAVE」(12年間奴隷だった)
原作:1853年 ソロモン ノーサップによる同名の回顧録
映画プロデユーサー:ブラッド ピット
監督:ステイーブ マックイーン
キャスト
ソロモン ノーサップ :キエテル イジョーフォー
ウィリアム フォード :べネデイクト カンバーバッチ
エドウィン エープス :マイケル ファスペンダー
サミュエル バス   :ブラッド ピット

http://www.youtube.com/watch?v=6LpiwM4yGDk