第1位:「岳」 1-18巻 石塚真一
第2位:「ピアノの森」1-22巻 一色まこと
第3位:「聖おにいさん」1-8巻 中村光
第4位:「3月のライオン」1-7巻 羽海野チカ
第5位:「テルマエロマエ」1-5巻 ヤマザキマリ
第6位:「宇宙兄弟」1-19巻 小山宙哉
第7位:「ちはやふる」1-18巻 末次由紀
第8位:「バガボンド」1-34巻 井上雄彦
第9位:「神の雫」1-34巻 亜樹直作 オキモトシュウ
第10位:「きのう何食べた」 よしながふみ
第1位 「岳」
5月15日と9月17日に、この漫画について書いた。読み終わったときの感動が今でもそのまま続いている。むかし男の子が生まれたら穂高と名前をつけようと思っていた。その美しい山で、主人公、島崎三歩が小屋を作って山岳救助をしている。読んでいると、山から吹き降ろしてくる冷たい風が頬をなで、淡い山の陽が感じられて、乾いた風の音が聴こえてくる。一歩一歩踏みしめる雪渓の固さ、360度山また山の光景、突き抜ける青空、落葉樹や可憐な山岳植物、コッヘルで待ちわびるアルファ米入りラーメン、夜行列車の賑わい、茅野駅で電車を待つ間飲む味の濃い牛乳などなどが一気に蘇って来る。
島崎三歩は、沢山の人命救助をして、遭難死した山男達を背負って下ろし、救助要員を育て、山の事故で親を失った孤児の兄貴になり、山を愛する人々の心の支えになった末、ひとりでヒマラヤで、救助をしていて死んでしまった。酸欠でおぼろげになった意識のなかで ヒマラヤの山々を見下ろしながら「んまいコーヒー」を飲んで、その死の瞬間まで自分が生きて帰る自分を信じていた。悲しいけど、この終わり方が自然だった。これ以上のことを三歩に望めない。本当に心にいつまでもいつまでも残っていて、胸のうちで三歩が永遠に輝いている。第2位 「ピアノの森」
一之瀬海は「森の端」と呼ばれる色町で、15歳の売春婦玲子から生まれた。父親は玲子にもわからない。住んでいる家の横に 昔ストリップショーに使われて今はもう音の出ない古いピアノが捨ててあった。同年の子供など一人もいない色町で、海はピアノを唯一の玩具にして育った。小学校に上がってもいつも裸足でいる森の端の子供には、友達もできない。しかし海は生まれながらの天真満爛さで、暴力団やキャバレーの面々だけでなく社会から取り残された人々に愛されてきた。
小学校5年生のときに、将来ピアニストになる、と自己紹介をする雨宮修平が 東京から転校してくる。世界的に有名な日本を代表するピアニスト雨宮洋一郎の息子だった。父親は、学校の陰湿で人気のない子供嫌いの音楽教師 阿字野が、実は20年前、彗星のように世界に躍り出て、雨宮洋一郎をあこがれさせ、最高潮のときに交通事故にあい突然姿を消した、伝説になった幻の天才ピアニストだったことがわかる。
人気絶頂の時に手指の事故で世間から隠れるようにして生きてきた阿字野が、彼が昔特別に作らせたピアノを唯一の玩具にして育ってきた天然野生児、海に出会い、阿字野の失踪のあと血の滲む努力でピアニストになった雨宮とその息子修平が、海に出会う。この4人の運命の出会いが、太い縦糸になって、それにまつわる沢山の人々、暴力団、娼婦達、丸山誉子、海の弟子大貴、ジャン ジャックセロー、カロル アダムスキー、パン ウェイ、レフ シマノスキー、ダラナドス、タイスなどなど、登場人物が横糸になって物語が紡ぎ出される。それぞれの人々がみな魅力的で、それぞれの抱える物語がどんどん広がって、一大交響曲になっている。
10歳で出会った海を「宿敵」と断定した雨宮父子と、出会ったとたんに修平をピアノの「同志」と思い込んだ海との友情と憎しみと嫉妬と 音楽への深い愛情の行方から目が離せない。他のコンクールの候補者のショパンを聴きながら「なんと音楽は人を喜ばせることだろう。」という海のつぶやきが すべてを語っている。本当に音楽は何と人を幸せにしてくれることだろう。舞台がポーランドに移り、ショパンコンクールで一体誰が 優勝するのか、、。まだ、連載、継続しているので、この先が楽しみ。
第3位「聖おにいさん」
目覚めた人ブッダと、神の子イエスが東京立川のアパートで 下界バカンスを送っている。浮世離れした、二人の会話の豊さに笑いが止まらない。何度も何度も読んで同じところでいつも笑い転げる。
血の涙を流すマリア、天草四郎の踏み絵、悟れアナンダの単行本化、ヨセフの父としての疑惑、仲良しのヤクザの兄さん、ゼウスまで突然出てきて、もう本当に、笑って笑って、涙が出て、呼吸が笑いで苦しくなる。他人のいるところでは絶対読めない。ずっとこれからも笑わせてもらいたい。
第4位 「3月のライオン」
この世のすべての不幸を たった一人で背負うために生まれてきたような、親も兄弟も信頼できる親戚もない零が、ひとり将棋で戦っている。中学生で将棋で稼ぎ、高校生になって新人王を獲得。 零の唯一の心の安らぎをもたらせてくれる、やはり親のないアカリとヒナ姉妹。
正義感が強く、友達をかばったために、学校で陰湿ないじめにあうヒナと零の友情と忠誠心。ほかに、将棋の厳しい世界で日々戦う山崎五段とハト、順慶、不治の病気をもった二階堂、桐山五段、たくさんの人が出てきて、それぞれが壮絶な闘いを続ける。それぞれの将棋士たちに独白をさせるが、それがとても良い。
第5位 「テルマエロマエ」
第1巻が出たばかりの頃から愛読している。女性作家の作品と思えない。「そこはかとした」笑い。にんまりしながら読んで、終始顔がくずれる。古代ローマのハドリアヌス帝に仕える技師、ルシウスが、風呂のなかで「平たい顔族」の国の風呂にワープする。まじめ一方のルシウスが 馬のハナコにホレられたり、伊藤温泉でくつろいだ人々に囲まれて、旅館の半纏を着て働く様子など、何から何までおかしい。
このおかしさは、テイーンのころから理解ある母親から背中を押されてヨーロッパで絵を勉強しながら放浪した作者の、自由な発想からくるものだろう。作者自身が、とても魅力のある人だ。実際、立派な建築物を沢山残したハドリアヌス帝のところを 塩野七生のローマの歴史物語を読んでいるところ。今後も楽しみ。
第6位 「宇宙兄弟」
NASAに所属している六太と日々人兄弟が 一緒に月に行く希望もなかなか簡単には実現しない。日々人は月面での事故で、帰還後パニックアタックに苦しんだ。やっとそれを克服できたというのにNASAは日々人に残酷な決定をする。何をやっても優秀な弟、日々人に勝てなかったサエない兄ちゃん、六太は、いつも「何回目だ。こうやってあいつの背を見るの、、、。」と、つぶやいていたけれど、これからが兄の出番だ。兄弟愛、友情、信頼と敬愛。二人を取り巻く 沢山の人々が、みんな魅力的に描かれている。
第7位 「ちはやふる」
小学校6年で転校生、綿谷新に出会った綾瀬千早は、カルタのおもしろさを知って、カルタで日本一は世界一のこと、と世界制覇の夢を見る。そんな千早も もう高校生。原田先生の言うように、「個人戦は団体戦、団体戦は個人戦」千早と彼女を片思いする太一との二人三脚で、瑞沢高校は、高校選手権を成功させた。今度は 彼らが属する白波会から、名人戦 クイーン戦の前哨戦である吉野会大会にのぞむことになる。
いよいよ新と千早と太一が同じ土俵に登って戦うことになる。千早が可愛い。新も太一も素敵だ。
第8位 「バガボンド」
やっと34巻が出た。33巻まできて、作者が書く意欲を失ってしまって、ずいぶん待たなければならなかった。「スラムダンク」で青春の涙をふりしぼらせてくれた作者も中年クライシスか。吉川英次原作の「宮本武蔵」を彼らしい自由な発想で、佐々木小次郎をろうあ者にして人間としての魅力を引き出してくれた。絵がうまい。この人ほど生きた人間の表情を上手にとらえる漫画家を他に知らない。
第9位 「神の雫」
神咲豊多香の息子、神咲零と遠藤一青とのワインをめぐる争い。12本のワインを当てなければならないが、まだまだ先が長い。遠藤一青がじつは豊多香りの息子らしいが、二人にレースを強いることによって何を伝えようとしているのか知りたい。ワインに対する知識が増えた。ボトルが怒り肩のボルドー、下半身がデブのブルゴーニュ、ブルゴーニュの最高の畑でできるロマノコンテインが どうして高級なのか、カビを利用した貴腐ワイン、凍結するまで収穫しない糖度の高いアイスワインなどなど、とっても勉強させてもらった。
第10位 「きのう何食べた」
ふたりの男の作る料理の魅力的なこと。これをもとに、料理上手になる若い人が増えているらしい。よしながふみの描く絵が大好きだ。