2012年12月11日火曜日
映画 「ザ セッション」
原題:THE SESSIONS
監督:ベン レウィン
キャスト
マーク オブライエン:ジョン ホーク
チェリー グリーン :ヘレン ハント
米国の作家、マーク オブライエンの自叙伝を映画化したもの。独立系プロダクションによる小作品。サンダース映画祭で上映され、観客賞を受賞し、スタンデイングオべーションとなった作品。
マーク オブライエンは6歳のときにポリオを患い、首から下の全身麻痺、人口肺(鉄の肺)の助けが無ければ呼吸も自由に出来ない。ストレッチャーに横臥したままの姿勢で ベッドに取り付けられた酸素を吸入しながら、学校にも行き、大学も優秀な成績で学位をとった。大学を出たあとは、アパートで猫と一人暮らし、生活の何もかもヘルパーに頼っている。
書き物は口でくわえたペンでタイプライターに活字をタイプする。電話も口でくわえた棒でダイヤルをまわす。
下半身に感覚はないが、性機能はあるらしい。寝たきりで自分で性器を見ることは出来ないが、異様な感触は残っている。38歳になったある日、彼は人並みに性体験を持ちたいと考えて 親しくしている神父に相談する。様々な人の協力を得て、彼はチェリーというセックスセラピストなる女性に出会う。彼女は、家庭をもって、理解ある夫と息子を持った普通の女性だ。セックスセラピストと娼婦の違いは高額のお金をとるかどうかの違い、とチェリーはさばさばと、のたまう。
セックスセラピーのセッションが始まると、彼女は 患者に男と女の体の違いを良く理解し、互いに体を触れ合ううちに共に、満足の得られる性行為ができるようになるまで セラピーが続けられることを説明する。マークは、四肢が麻痺していて、話をすることは出来ても顔を自由に動かすことが出来ない。チェリーに体を触れられ、次第に興奮して思いを遂げられるようになるまでセッションは続く。マークは当然のように、チェリーに想いを寄せるようになる。ここまで親身になってケアしてくれる人が 今まで他に居ただろうか。マークはペンを口にくわえて、チェリーに思いつくまま 愛の詩を書いて、チェリーに送る。
チェリーのほうは これはあくまでセラピーで仕事は仕事と考え、彼女の夫も息子も医療における彼女の仕事の重要性を理解している。しかしマークから美しい詩が届くようになると、チェリーはマークの純真さに魅かれ始めていた。それで、、。
というお話。
マーク オブライエンは実際6歳から49歳で亡くなるまで、人生のほとんどの時間を鉄の肺の中で過ごした。鉄の肺とは、首から下を鉄でできた棺桶のような箱に全身を入れ高圧酸素を流す治療方法。今でも潜水病の治療などに使っている。この映画を製作したオーストラリア人の監督、ベン レウィンも小児麻痺で障害を持ち、杖をついている。
障害者で24時間他人の世話がなければ生きていくことが出来ない全身麻痺の状態、勿論便や尿文字分ではコントロールできない失禁状態の男が 一人前にセックスが出来るようになり 彼を取り巻く何人もの女性達と冗談を言い合い心の交流をする。前を向いて生きていくマークの勇気がまぶしい。
停電になって アパートの電気が止まり鉄の肺に圧縮酸素が送られなくなって死にかかったり、猫が横を通って毛を落としていって、鼻がかゆいがかくことが出来ない自分を、心の中で鼻を掻くことで自分を笑うシーンがある。自分で自分を笑う精神の強さに目を瞠る。決して弱気にならず、常にユーモアをもって前を向いて生きている。亡くなったときは、たくさんの女性から 惜しまれて逝く。
稀有な映画。
マーク役のジョン ホークは出演中に熱演して自分の脊椎を痛めてしまい、病院のお世話になったそうだ。一方、セラピストのヘレン ハントは49歳とは思えない美しい全裸を惜しげもなくさらけ出して出演している。知性派女優でナチュラル志向。この映画でもマゾヒストではないかと思うほど 女の体をマークに理解させるために、マークの顔にまたがったり、生の自分をさらけだしてセラピスト役をこなしている。彼女は、ジャック ニコルソン共演の「AS GOOD AS IT GETS」でオスカーを受賞している。自然派で整形手術やボトックスなどを拒否、自分で脚本を書いて監督した「THEN SHE FOUND ME」という作品では 49歳、全く化粧なしの体当たり演技をしてみせて話題になった。
マークが亡くなって アパートに残された鉄の肺の無用な姿。そこにマークが残した猫が乗っている最後のシーンが いつまでも心に残っている。