2010年9月11日土曜日

北北西に進路をとるのだ




旅にでることにした。
3交代勤務の職場で働いているので、年に6週間有給休暇がある。10年間 同じところに勤めていると その6週間の上に さらに1ヶ月有給休暇がご褒美でもらえる。けれど、それは まだ先のこと。
年6週間の休暇を どう過ごすかというと 大抵のオージーの同僚は海外を旅しているようだ。「オージーの4人に1人は海外生まれ。」という、移民で形作られている国なので 多くに人は 休暇で自分の生まれた国や親戚のいる国を訪ねる。ご多分にもれず私も 父が元気な内は 二人の娘を連れて毎年日本に帰っていた。しかし、98歳で、記憶を失くした父に会いに行くのは つらい。今年の1月に帰国しているので、残った有給休暇を 国内旅行で過ごすことに決めた。

オーストラリアに住むこと15年にして、初めての大がかりな国内旅行だ。北上することにした。オーストラリア大陸のほとんどは 乾燥した砂漠だ。人は住めない。大陸を一周する海岸線の一部に緑と水のある豊かな土地が散在しており大部分の人がここに集中して住んでいる。シドニーという一番人口が多く、進歩 繁栄している街にいると、オーストラリアが もともとはアボリジニの国だったことを忘れそうになる。
だから日常から非日常への旅は 思い切り文明から離れた土地に行ってみるのが 良い。そこに砂漠、湿地、荒野といった 本当のオーストラリアの姿が見られるかもしれない。アボリジニの人々の本場に足を踏み入れてみよう。

北北西に進路をとって、行く先は トップエンドと呼ばれるオーストラリア大陸の先端 一番日本に近い点、ダーウィン。

ダーウィン地域は 熱帯モンスーン気候だ。明確に乾季(5-10月)と、雨期(11月ー4月)に分かれている。ここで4万年前から暮らしてきたアボリジニにとって 季節は6つに分かれる。すなわち 1-2月のモンスーン期、3-4月の収穫期、5-6月の冷涼期、7-8月の乾燥期、9-10月の灼熱期、11-12月のモンスーン期の6つだ。灼熱のダーウィンを歩くことになった。

ダーウィン カカドウ国立公園は 四国全部の大きさ。アボリジニが4万年前から暮らしてきた伝統的な生活と 今もあまり変わらない生活を 続けている。自然が豊かな土地で、1600種の植物、1万種の昆虫、60種の哺乳類、132種の爬虫類、290種の鳥がいる。人類史上最古といわれるアボリジニの壁画(ロックアート)がたくさん残っていて、豊かな動植物が繁殖していることで、ユネスコから世界遺産に指定されている。

先住民族アボリジニは 約4万年前に(5万年前と言っている学者もいる) インドネシアからカヌーでやってきて大陸に住み着いた人々だ。地球が氷河期にはいったのは 5万年前と2万年前が最後と言われているが 気温が下がり 地表の水分が凍ったため海面が今から比べると100メートルくらい低かったので カヌーによる大陸どうしの行き来ができたらしい。

アボリジニは 文字を持たない人々だ。語る言語は部族の数だけある といわれていて600くらいあったらしいが、今では200くらいになって、ひとりの人が 4つも5つもの方言を話すことができるようだ。年寄りが若い人に知識を語る口頭によって伝承文化が 維持されてきた。

人類最古の壁画といえば、学校の教科書ではスペインのアルタミラ洞窟の壁画や フランスのラスコー洞窟画が 紹介されていて、記憶に新しい。赤茶けた岩に バッファローの絵が描かれていて、それが1万7千年前の作品とは思えない迫力だ。しかしアボリジニの壁画は それらの絵よりももっと古い、少なくとも2万年昔に描かれたものだそうだ。鉱石や土、植物の樹脂などを混ぜ合わせて造られた顔料や、焚き火の木炭で 人やカンガルー 魚、カメなどが描かれている。

中でも興味深いのは ナマゴン NAMARRGON というライトニングマンの絵だ。これは雷をおこす神様のことで、雷を持った人の姿をした絵だ。また、2000年前の作品では、レントゲン画法といわれて 人や動物の姿を ものの内部を透かしてみたときの骨組みを描写したものもある。 アボリジニのアートは とても豊か。シドニーではコピーしか見られないので、本物を観てこようと思う。
とっても楽しみ。