2008年4月13日日曜日

映画「BEFORE THE DEVIL KNOWS  YOU'RE DEAD 」




映画「BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU’RE DEAD 」を観た。今年の映画の中で最高によくできた映画のひとつ、といううたい文句につられていってみた。

題名は、「May you in heaven half an hour before the Devil knows you 're dead」という アイルランドの ことわざというか、慣用句からとったもの。おまえが死んだことを 悪魔が知る30分前に天国に もう着いていますように、、、と言う意味。

不動産会社のマネージャー、アンデイ(PHILIP SEYMOUR HOFFMAN)と、仕事にあぶれて定職のない弟、ハンク(ETHAN HAUKE)は もういい年なのに二人とも生活に四苦八苦している。アンデイーは、仕事の重圧と、愛人関係に行き詰まっており、ストレスから麻薬に手を出して中毒になっている。お金がいくらあっても足りない。

弟ハンクは別居している妻から娘の養育費を厳しく取り立てられていて慢性的金欠病に悩まされている。もともとこの弟、自立心がなくいつも立派な兄に頼っていて、まともに家庭を築いたり ひとつの仕事に就いてしっかり責任を果たすことが出来ない半人前の人間だ。卑劣なこに、兄の愛人と隠れて関係をもっている。

ある日、兄は弟を呼び出して、ショッピングセンターにある 小さな宝石店を襲って売上金と宝石を強奪する計画をもちかける。この店をアンデイーもハンクも良く知っている。なぜなら、彼らの両親が経営する宝石店だからだ。両親は子供達とは離れて 郊外に住んでいるが 二人とも仲がよく、絵に描いたような良い老夫婦だ。

毎朝、決まった時間に店を開け、母親がしばらく一人きりでいる時間に、覆面をして、母親をちょっと脅かせば難なく現金と宝石が手に入るはずだった。 でも、弟はそれを一人きりでやる勇気がない。悪い友達を誘って 彼に強盗をさせて、その間 自分は店の前で車のドアを開けて待っている。しかし、予想外に、母親は襲われても 銃で強盗を撃ち殺す勇気ある宝石店経営者だった。銃の撃ち合いになって 強盗も母親も命を落とすことになる。腰抜けの弟と 強盗を計画してやらせた兄は 母を間接的に殺す役割を果たしたことになる。二人は 突然の母の死に狂乱する父親と向かい合わなければならないことになった。

父親は 妻を殺した憎い犯人を探し出すよう警察に期待するが、小さな宝石店強盗など日常茶飯事のアメリカでは警察はまともに取り合ってくれない。父親は執念で犯人探しをはじめる。そしてとうとう宝石を質入れしたルートを探し当て たどり着いた先は長男アンデイーだったことに驚愕する。

しかしその頃にはもうアンデイーもハンクも自滅 崩壊寸前の体。アンデイーは麻薬のトラブルで瀕死の重傷で病院に担ぎ込まれる。駆けつけた父親にアンデイーは すべてを告白する。父親は いいんだ、気にするなよ、と言いながら、、、、。

ストーリーはたいしたことのないのだが 画面は緊張感が張り詰められていて すごく引き込まれる。上映の2時間を、全然長く感じない。さすが老練監督のこなれた技術。上手な人が作ると こんなに完璧な面白い映画が仕上がるのだということがよくわかる。 監督、SYDNEY LUMET.84歳の老練監督。「12ANGRY MEN 」、「DOG DAY AFTERNOON 」、「SERPICO」などなど。

俳優;アンデイーにPHILIP SEYMOUR HOFFMAN。2005年、「カポーテ」で、オスカーで主演男優賞を取った名優。弟ハンクにETHAN HAWKE、第一線で活躍する俳優さんだ。でもこのイサン ホークが好きな人はこの映画観ない方が良い。本当に小心で卑劣で情けないほどどうしようもない男を演じている。アンデイーのエリートマネージャーがいったん道を外れると加速度のつく早さで凋落していく様子も、腰抜けの弟の落伍者ぶりも とてもリアルに演じていた。 どうしようもない社会のくずのような兄弟に対して 母親と父親の毅然とした生きる態度ががとても好ましい。

金、ドラッグ、セックス、暴力にまみれて、身を持ち崩し、救いようのない兄弟に対して誠実、堅実で、互いにしっかりした信頼で結びついている老夫婦、特に年老いたお父さんがこの映画では唯一、かっこいい。

現代の家族の崩壊を描いた映画、と言うことがいえるが、今のアメリカの姿を端的に表しているのかも知れない。
映画のタイトルは、父親の祈りの言葉のようなものだろう。 観て損はない映画だ。