2023年7月1日土曜日

移民のための英語教育

フランスで17歳の少年を撃ち殺した警官の不祥事で、大規模な暴動が起きているが、これは難民、移民の受け入れの問題でもある。外国から来た人への人種差別への怒りが全仏に広がる姿を、世界一難民も移民も受け入れない国、日本の良識ある人々はどう見ているのだろうか。
日本が少しでも難民、移民を受け入れ、やってきた人々を差別をせず、彼らが日本語を上達して生活しやすくする手助けを、誰もが出来るようになって欲しいと願って、自分の経験を話してみたい。

オーストラリアでは移民して永住権が取れると、国民健康保険と、510時間の英語学習が無料で受けられるようになる。国民健康保険は、すべての働く人が、その給料から約12%を自動的に取られた資金がもとになっている。公立病院やクリニックでは検査も入院も診察も、無料で誰でも等しく受けられる。実にフェアなシステムだ。

英語の勉強は各地にある職業訓練所や、公民館で行われる社会人向けのクラスで受けることができる。自分が永住権を取ったのは1997年だが日本のナースの資格をオーストラリアの資格に移行するための職業訓練校20週間コースを勧められていたので、510時間全部は使わなかった。しかし、娘たちが大学に通っている時間に、さまざまな事情で難民でやってきた人々と一緒に、机を並べて勉強する事は新鮮で、愉快な経験だった。
クラスメイトは、ちょうどユーゴスラビア分裂後の、コソボ戦争に重なる時期だったので、旧ユーゴスラビアのボスニア、セルビア、アルバニア、ポーランド、ルーマニア、イラン、アルメニア、ロシアなどからやってきた難民が多かった。セルビアの戦火から逃れてきた若いお母さんは、ボートで決死の覚悟でイタリアに着き、難民収容所の硬いコンクリートの床で赤ちゃんを産んだ。過酷な収容所での1年間の経験で、情緒不安定になって、ちょっとしたことで悲鳴を上げたり泣き出したりするので、英語の先生も私たちも、とても気を使って接していた。

英語の授業ではまず、履歴書の書き方、就職の面接試験の練習だ。みな来たばかりの国で仕事を探して収入を得なければならないから必死だ。この国では大学を出たかどうかは、問題ではない。自分には何ができるか、が基準になる。つぎに公文書の書き方、クレイムの出し方、買ったものの返品の交渉など、生活に必要な知恵を学ぶ。
英語基礎クラスでは、テレビニュースを録画を見たり、新聞をみんなで読んで、15人ほどのクラスで白熱の議論が繰り広げられた。あるときセルビアから来た20代の青年が、中国のプレジデントとドイツのプレジデントが、、と言ってみんなに笑われた。中国は大統領じゃなくて国家代表だし、ドイツも大統領でなくて首相でしょう、というわけだ。みんなにからかわれて、突然彼は、「僕は馬鹿じゃない。カフカだって読んでる。大学だって出てる。」と言って大声で泣きだした。彼が号泣するのを見てみんなシュンとなったけれど、みんな英語の能力が充分でないために、悔しい思いや辛い目にあって、デリケートな傷を抱えているのだ。本当はみんなそろって泣きたい思いだったろう。
英語基礎クラスが終わると、クラスが選択でき、自分は「演劇クラス」を取った。そこではプロの役者だった先生に従って、まず発声練習。クラスの端と端に立って、お腹に力を入れてAEIOーAUAOを大声で発音する。様々な場面に応じて短いセルフを覚えて、役者になったつもりでセリフを言い合う。例えば夫婦喧嘩や、しつこい勧誘者とのやりとりなど、とてもおもしろい。また、1人ずつみんなの前に立って小話をして笑わせてください、というのが愉快だった。
自分は、スーパーに行ったとき、よちよち歩きの女の子が迷子になって、mum!where you are?と言いながら泣いていたのは文法的に正しい。日本では高校生でも間違えて、mum! where are you?言う。という、実際あった笑い話と、役所に行った私は、what is you title? と聞かれて、慌てた。私は貴族じゃない。ごく一般の普通の人です。平民です。と答えたけれど、役所の人は何度も、あなたのタイトルは何?と聞き返す。日本ではもう貴族制度はなくて、、、と言いながら、そこでようやくタイトルという言葉の意味を誤解していた、とわかった。役所に担当者は、タイトルの、ミスかミセスかミズかを聞いていただけだったのだ。そういったやりとりを面白おかしく話して笑ってもらうと、みんな次は、次は、とせかされる。
種切れになって新聞に出ていた笑い話をした。おじいさんがジャガイモを植え付ける時期になったので、警察に行っておばあさんを殺して畑に埋めましたんと自首しました。警察はたくさんの警官を動員して畑を掘り返し、掘り返し、でも死体が見つからないので、お祖父さんを釈放します。おじいさんは畑を見て、やれやれこれでジャガイモを植えられるぞ。というお話。
数週間のクラスが終わるころ、みんな仲良くなって別れがたい絆ができるが、しっかり抱き合って、それぞれ散っていく。みんなオージーの群れの中に入って、もう会うこともない。

日本でも外国から来た人々に、無料で日本語クラスを提供しているだろうか。510時間無料クラスがあるのせよ、ないにせよ、1人1人の日本人が良い日本語の先生であって欲しいと思う。
人は大学の教育学部を出ても、良い教師にはなれない。実際に教えるなかで、生徒たちが教師を育ててくれるのだ。教師は1人教えると、2人目にはもっと良い教え方ができるようになる。だから日本人が、日本に来た外国人に不自由がないように、日本語を教えることが、自分の成長にもなる。1億1千万人の難民が、この地球上にひしめいている。少しでも受け入れて、一緒に学ぼうとすることが、これから大切なことだ。

作詞、加藤まさを 作曲、佐々木すぐるの「月の沙漠」を歌ってみた。
I am singing [ Moon light in Sandhill ] Lyric by Kato Masao and composed by Sasaki Suguru.
Wide open a Desert. 2 Camels are walking across sandhill. One camel is carrying the Prince. Another camel is carrying the Princess. The Sun is going down in the sandhill. One camel has gold saddle. Another camel has silver saddle. The Moon is coming up in the wide open desert. One camel is carrying Prince in white jacket. Another camel is carrying Princess in white dress.