2017年11月12日日曜日

オージー議会:二重国籍てんやわんや

オーストラリアでは国民の26%が海外で生まれ、49%が自分自身または親が海外生まれだ。そして二重国籍者は記録では全人口の6分の1ほどだが、実際にはもっと多いだろう。
4人に1人以上の割で外国生まれだから、日本でいう国際結婚は当たり前だ。オーストラリア生まれの日本人夫婦の子供は、二つのパスポートを持ち二重国籍で育つが、日本は例外なしに二重国籍を認めない珍しい国なので、21歳になると、どちらかの国籍を選び、どちらかのパスポートを返さなければならない。しかし今後は日本も、国籍に関しての鎖国政策を止めて徐々に様々な例外を認めて行くようにならなければならないと思う。

オーストラリアは、18世紀にイギリスとアイルランドから送られた囚人によって国の基礎が作られ、その後ドイツ、デンマーク、北欧、イタリア、ギリシャなどの移民を受け入れた。1930年代にはユダヤ人、東欧の国々が入国、ベトナム戦争ではボートピープルが難民として、また天安門事件のあとでは数万人の中国人を難民として受け入れて来た。移民によって形造られてきた国という意味ではアメリカやカナダに似た多様な文化を持つ。しかし、3国ともに、移民が始まる前に住んでいた先住民族を、極めて残酷な武力によって迫害してきた醜悪な歴史を持つ。

オーストラリアでは二重国籍は違法ではないことは勿論のことだ。49%の外国生まれの
国民の国籍を、いちいち審査し規制することなどできない。
しかし、国会の連邦議員は、憲法によって違法とされていて、二重国籍者は、排除される。憲法第44条第1項では、「外国に忠誠を尽くし、服従もしくは加担すると認められる者、外国の臣民もしくは市民であるもの、または外国の臣民、もしくは市民の権利や特権を有するもの」は、議員資格がない、と明記されている。
二重国籍を持った議員が悪いことをするとしたら、選挙で選出され連邦議員でいる最中に、不正取引や収賄でスキャンダルを起こし追放されたあと、別の国に行ってまた議員になって居座る、とか、国家の重大秘密情報を議員でいる間に収集して他国のスパイ活動をする、とかだろうか。

しかしこれほど外国生まれが多いオーストラリアで、寝た子を起こす、とはこういうことか。今年の7月に突然、グリーン党の連邦上院議員スコット ラドラムと、ラリッサ ウオーターズが、自分は二重国籍者だったと表明して辞任した。ラドラムは10代のときに親がオーストラリアに帰化したがニュージーランド国籍がいまだに残っていたという。ウオーターズは、出生日の1週間後にカナダ国籍法が改正されたため自分にカナダ国籍が残っていたことを知らなかったと表明。どちらも精錬潔癖なグリーン党の若い議員で、彼らの潔癖な人柄を思わせたが、自由党党首マルコム ターンブル首相は彼らのことをケチョンケチョンにけなし、労働党も口をとんがらかして批判、二人はこれまで受けた議員報酬もすべて返却して辞任した。

これで済めば良かったものの、マルコム ターンブル首相の閣僚で資源相マット カナバツが、本人の承諾なしに母親がイタリア国籍を申請していて、本人はそれを知らず、イタリアに行ったこともなかったのに国籍があった、ということで現職閣僚が辞任。
続いて極右政党のワンネーション党、マルコム ロバーツと、ジャステイン キーの二人が英国国籍を持っていて、英国国籍を放棄したのが選挙の5か月後だったことがバレて辞任。

その後、誰もがあっけにとられたのが、副首相バーナビー ジョイスで、彼はニュージーランド生まれの父親を持ったため、自動的に二重国籍を持っていた。ターンブル首相より人気のある、「できる男」。副首相でいわば国の顔、現職の農業水資源大臣だ。ターンブル保守連合政権は、自由党と国民党の連合政権だが、バーナビー ジョイスは上院議員でなく、下院議員なので、150議席の76席が保守連合、バーナビー ジョイスが抜けるとターンブル首相は議会で過半数を取れなくなる。首相は右腕を失い、議会では多数派でなくなった。 上院議員の場合、議員が辞めても同じ政党の次の候補者が繰り上げ当選して後を継ぐので党派を確保できるが、ジョイスの場合下院議員なので国民党議員が後を継ぐことはできないのだ。

バーナビー ジョイスは彼の地元、ニューサウスウェルス州ニューイングランドに戻って連邦下院選挙区で補欠選挙が行われることになった。もちろん彼は立候補したし、再選が確実視されている。ここでもうターンブル政権の傷に塩を擦り込むのは止めればいいのに、バーナビー ジョイスと同じ国民党副党首、ナッシュが英国国籍を持っていたことが分かり、辞任した。それにしてもオーストラリアのファーマー達からオーストラリアの歴史以来代々と信頼を受け支持されてきた頑固者、保守政党国民党の党首と副党首が外国人(半分)だったとは何という皮肉。

止めればいいのにブルータスお前もか。ニック ゼネフォン党のニック ゼネフォンが、父親はキプロス生まれのギリシャ人だったと名乗り出て大騒ぎ。彼はサッサと辞職して、故郷のアデレードに帰ってしまった。そして南オーストラリアの州選挙に出馬すると言っている。優秀な弁護士出身で、ポーカーマシン賭博規制を公約し、出馬して行動力と力量と、独特のカリスマ性をもって連邦議員になり、マスコミに顔が出ない日はないほど活躍中の58歳。人権問題に真摯に向かい合い、マレーシアで反政府団体を支援してマレーシアから強制国外退去処分にあったこともある。自分の名前を党名に着けて、3人の上院議員を送り込んだ。国籍問題ばかりに大騒ぎして政治上の重要項目をまったく審議さえしていない現在の中央政府を早々と見限って、州政府に自分の場を作るということだろう。

このように多国籍国家、移民国家のオーストラリアであるのも関わらず、二重国籍ということで役職を辞任した連邦議員が今のところ8人、灰色議員と言われる議員が3-4人まだいて、追及が留まるところを知らない。たまたま自分の党に該当する議員が居なかった労働党の党首ビル ショーテンは有頂天で嬉しそうに厳しく政府を追及している。
「この国の法を作る議会で、議員が法を違反していることを赦してはいけない。」たしかにそうだろう。だが、もういい加減にしたら良い。
この争いは何も生まない。

二重国籍者、多重国籍者が何をしたというのだ。何を壊し、何を傷付けたというのだ。
一方、多国籍企業の方はどうだ。
世界中の富を奪い、圧倒的多数の人々から、石油を奪い、水を奪い、食糧を独占し苦しめている。怒りの矛先を向けるべきなのは、そっちだ。

(写真はニック ゼネフォン)