2012年1月26日木曜日

メトロポリタンオペラ「ファウスト」


ニューヨークメトロポリタンオペラで昨年12月に上演されたオペラ「ファウスト」を、ハイデフィニションフィルムに収められたものを、映画館の大スクリーンで観た。

北米だけで850の劇場で公開されて、9万人の人がこのフイルムを観たそうだ。またヨーロッパや日本を含めて他の国々で これを観た人は23万5千人にのぼるという。
フイルムは 単に公演を中継するだけでなく、メゾソプラノのジョイス デイドナトがホステスになって、幕の間に、いま歌い終わったばかりで汗だくのヨナス カーフマンがインタビューに応じてくれたり、舞台裏で人々が走り回り、背景の建物がクレーンで運ばれたりする様子が紹介されるなど、とても貴重な価値のあるフイルムに編集されている。二回の幕間を含めて 4時間半が、観ていて全く飽きない。

ニューヨークに飛んでいって、オペラを観ることはできないが、映画館で劇場公開されたばかりの話題のオペラをフイルムで観ることが出来ることが、本当に幸運だと思う。
日本の歌舞伎や能、文楽や人形芝居なども、優れた専門知識をもった人をホストにして、フイルムに収めて世界に向けて紹介してもらいたいものだ。

ファウスト
作曲:グノー
原作:ゲーテ
初演:1859年パリ リリック劇場 5幕 ドイツ語
製作:デス マヌアヌフ
キャスト
ファウスト :ヨナス カーフマン:テノール
メフィストフェレス:レネ ペイプ:バリトン
マルがリート:マリア ポプラビスカヤ:ソプラノ
ジーベル  :ミケーラ ロジエール:メゾソプラノ
バランタン :ラッセル ブラン:テノール

ドイツの文豪ゲーテによる戯曲をグノーがオペラにした作品。16世紀のドイツを舞台にしたお話だが、製作、演出のデス マクアヌフによって、作品は現在21世紀が舞台になっている。主人公のファウストはここでは、原子力研究所の科学者。白髪のヨナス カーフマンが美しい。

ストーリーは
ファウストは長年研究所に閉じこもって、研究に明け暮れてきたが、自分達が開発した原子力は武器として活用、悪用され、人々を傷つける結果しか生まなかった。いつしか年をとり、人生を楽しむこともなく、孤独に生きてきたが、もう生きることがむなしくなって、神を呪いながら毒をあおって死のうとする。それを見ていた悪魔のメフィストフェレスがやってきて、ファウストに もう一度生きるために一体 何が欲しいのかと問う。ファウストは、自分が欲しいのは「若さ」だ と言う。悪魔に魂を売ってしまったのだ。

願いはかなえられた。
若さを取り戻したファウストは 清純な乙女マルガリートに出会って、恋をする。マルガリートには、妹思いの兄、バランタインがいる。バランタインを戦争に送り出したばかりのマルガリートは、ファウストの激しい求愛に逆らえず、ファウストの思いのままになる。二人は 愛し合い、家庭を築く。しかし、ファウストはマルがリートが妊娠すると もう彼女を捨てて、欲望んまま他の女達のところに行ってしまう。マルガリートは 世間の笑いものになり、ファウストに裏切られ、戦争から帰ってきた兄バランタインに厳しく告発される。

マルガリートは愛するファウストを心から慕い、彼の帰りを待ち続ける。そんな妹を笑いものにされたバランタインは、怒ってファウストに決闘を申し込む。しかし、彼は逆にファウストに 殺されてしまう。マルガリートは 悲しみに打ちひしがれて 生まれてきた赤ちゃんを殺して、気が狂ってしまう。
殺人罪で牢獄につながれたマルガリートに ファウストが会いに行く。そして、彼女を牢獄から脱出させようとするが、マルガリートは誘いを断り、自ら死を選ぶ。マルガリートの魂が救済され、天国に向かう。後悔して、同時に真摯な祈りを神に捧げるファウストの前で、悪魔メフィストフェレスは 天使に倒されて地獄に落ちる。
というストーリー。

悪魔と天使、魂の救済がテーマになった宗教、哲学的な作品。
出産前の大きなおなかのマルガリートを兄が怒って蹴飛ばして足蹴にしたり、男達が決闘で殺しあったりして、恐ろしいシーンが多いにも関わらず、曲はあくまでも流麗で、どの曲も優しく、気品に満ちている。やっぱり、グノーはすごい。重唱よりも、美しいアリアがたくさんある。ファウストのテノール、マルガリートのソプラノ、メフィッストフェレスのバリトン、バランタインンのテノール、、、それぞれが とても美しい。

ヨナス カーフマンのギリシャ彫刻のような美しい顔と、素晴らしい声があれば もう何も他に要らない。最高のオペラだ。間違いなくカーフマンはいま、世界一のテノール歌手。演技も抜群に上手い。同じくドイツ人のレネ パイペのメタフィスフェレスの堂々としたバリトンも良かった。
残念ながら、マルガリート役のロシア人、マリア ポプラビスカヤが、美しくないことと、声が少し弱い。もう少し声量のある、本当に清純な乙女の姿をしたソプラノがマルガリートだったら100点満点、最高のオペラになっていたに違いない。