2010年6月7日月曜日

映画 「ドン ジョバンニ」


新作、イタリア映画「ドン ジョバンニ」(IO DON GIOVANNI)を観た。オペラ「ドン ジョバンニ」は モーツアルトによって作曲され、1787年に初演されたが、スペイン人で1003人の恋人を持っていたといわれるドン ジョバンニという伝説のプレイボーイをオペラ化したものだ。日本では、「ドンジョバンニ 天才劇作家とモーツアルトの出合い」という長い邦題で、公開されたらしい。

オペラとは 200年も300年も前に作られたものだ。華やかなヨーロッパの最高芸術の傑作の数々をいま、わたしたちは繰り返し観ている。大昔にできたオペラを観る人が 今もなお感動して 心洗われる思いをするのは、そこに真実があり、芸術家の魂がこめられているからだ。
この映画をみると、ドン ジョバンニというオペラがモーツアルトによって どんな時代背景のもとに、どのような過程を経て製作されたのかがわかる。イタリア語が耳に優しく バックに流れる音楽が良い。聴いて心地よく、観ていて素晴らしい作品だ。

監督:カルロス サウラ (CARLOS SAURA)
キャスト:ロレンソ:ロレンソ バルドッシ
     エミリイ:エミリア ヴェルジネリ
     モーツアルト:リノ グニシエラ
     カサノバ:トビアス モレッテイ

1763年 ヴェニス。
ロレンソ ダ ポンテは、詩人で作家、女たらしで、女泣かせだ。何と言っても カサノバの親友だから女たらしもプロ並みだ。また、イルミナルテイのメンバーでもある。子供の時から科学への強い探究心と、信念からカソリックの洗礼を拒否してきた。イルミナリテイが 教会から厳しく糾弾、弾圧されている時代だ。

ロレンソの素行が悪いとのことで、彼は遂にヴェニスから立ち退きを命令される。秘密結社イルミナリテイのメンバーのひとり、裕福な商人から、ロレンソは 一人娘のエミリアを紹介される。商人は自分が病気がちで、跡継ぎもいない。一人娘をロレンソに託して安心して死んでいきたいという。ロレンソは 娘に会って、一目で恋に陥る。しかし、ヴェニス立ち退きを前に、妻を持つ身分ではない と言い残して ロレンソは単身 ウィーンに向かう。

老作家で、名の知れた親友 カサノバの紹介で、ロレンソはウィーンで活躍する作曲家サリエリに会いに行く。サリエリに オペラの台本書きとして雇ってもらえることを期待して出かけていった教会で、ロレンソは若いモーツアルトに出会う。同じ年頃のロレンソとモーツアルトは すぐに 出会って親しくなった。
モーツアルトは このとき、死の数年前。若く才能をもてあましていた。作曲した作品は評価されず、妻コンスタンチンとともに、貧困にあえいでいた。その日の生活のために、教会でオルガンを弾き、貴族の娘達にピアノを教えなければ ならなかった。

サリエリは 宮廷からオペラを作るように命令をうけていたが、思うような作品が作れずに、名前だけを自分のものにして、モーツアルトにオペラを書かせようと画策していた。
ロレンソは、親しくなったモーツアルトに 新しいオペラの構想を次々を出してモーツアルトと共同でオペラを製作し始めた。モーツアルトは 眠る時間を作曲のために費やしながら 残る命のともし火を燃やすようにして作品を作っていく。
ロレンソには どうしてもドン ジョバンニを完成させて成功しなければならない理由ができた。ヴェニスで一目会って、恋におちたエミリアがロレンソを頼って ウィーンに出てきたのだ。
一方、オペラの数々のアリアを作曲している最中、モーツアルトには、父親の死という 悲報が届く。自分を音楽家として育ててくれた尊敬すべき父親を失い その死にインスパイヤされて、とうとうモーツアルトはオペラを完成させる。

1787年 プラハ国民劇場での初演、国王、皇族の前で、モーツアルト自身が指揮する。オペラが終わって、満場の観客は、静まり返って王の判断を待っている。否か是か。オペラは成功だった。 
というお話。

映画の主役はロレンソとその恋人エミリアなのだけれど、彼らの出合い別れ、そして再会する筋書きに、平行して、登場する大物達がすごい。モーツアルトと妻コンスタンチン、サリエリ、王族、貴族たち、美しいオペラ歌手たち、そして、老いてなお魅力あるカサノバなどが、それぞれ主役でもある。

モーツアルトの無邪気で自由奔放な姿に心うたれる。
オペラのなかのひとつひとつの曲がうかびあがってくると、夢中で自ら歌いながら作曲をする。そうしているうちに熱にうかされた病人のように曲にのめりこむシーンなど、芸術家の熱が伝わってくるようだ。31歳のモーツアルト。4年後にリューマチで死ぬ。生活苦のなかで、邪気など全く無縁で、純真であり続けたモーツアルトの短い一生を思うと ただただ 痛ましい。

ジアコモ カサノバは、ヴェニス生まれの作家。
実在の人物でドン ジョバンニばりのプレイボーイだった。1976年、フェデリコ フェリーニが ドナルド サザーランドを主役に使って 映画「カサノバ」を作っている。このころのドナルドは本当に美しかった。
2005年 ヒースレジャーが 映画「カサノバ」を演じた。貴族から修道女から人妻にいたるまで放っておけない。カーリーヘアーのヒース レジャーがカサノバになると 女たらしも おちゃめで可愛い。当時のヴェニスの人々の暮らしぶりを彷彿をさせる楽しい映画だった。

そのカサノバが この映画では年老いても魅力的な老紳士の姿で、オーストリア人俳優、トビアス モレッテイが演じている。知的で深みのあるカサノバだ。
わたしはこのトビアスが大好き。過去15年間 テレビの人気番組「インスペクター レックス」で 毎週顔を見てきた。15年間やっている長者番組というわけではなく、SBSでは何度も何度も同じシリーズを繰り返して見せるので もう前に見てしまったのに、繰り返して見ているのだ。レックスとは、ジャーマンセパードの警察犬で、ウィーン警察殺人課所属。頭が良くて 鼻がきくので、殺人犯人を必ず見つけ出して捕まえてしまう警察犬なのだ。

ウィーン観光庁が スポンサーしているテレビフイルムなので、毎回殺人が起きる場所も、宮殿やウィーン国立博物館や、ウィーンオペラハウス、国立バレエ学校、ウィーン駅だったりして、観ているとウィーン観光ができる。刑事達が住むウィーンのアパートも、石作りの古い歴史的な重みのある建物だ。そのレックスの持ち主で殺人課刑事を このトビアス モレッテイが演じている。本当に犬が好きな人にしか わからない犬語をちゃんとわかっていて、彼も犬も演じていると思えない自然さだ。
レックスを演じている犬が むかし持っていた犬にそっくりで、番組を見始めると 目が離せない。走り方も、匂いの嗅ぎ方も 甘え方もそっくりだ。そんなわけで、トビアスが、ドイツ語でなくイタリア語で 実際年齢より老け役でこの映画に出ていて うれしい。テレビでみても映画でみても良い俳優だ。この映画で、彼が一番光っていた。