2009年4月16日木曜日

オペラ 「夢遊病の女」




ニューヨーク メトロポリタンオペラ座で上演中の イタリアオペラ ヴィンセント ベリーニ作曲「LA SONNAMBULA」を観た。
ニューヨークまで行ったわけではない。今、ニューヨークで上映中のオペラを ハイヴィジョンで実況中継したフィルムを 映画館の大型スクリーンでやってくれたので、観にいったものだ。
便利な時代になったものだ。実際の舞台を 何台ものカメラで納めたものをそのままスクリーンで見せているから 舞台を実際にみているような迫力がある上 精密なカメラで追っているから 舞台では見えないような顔の表情や細かい動きが実に良く見える。
クレモン オフェアムにて。$200から$300のオペラのチケットを買わずに、$30で 本場のオペラが観られるなんて なんという粋なことをしてくれるんだろう。それに なんという贅沢。

行ってみたら シドニーオペラハウスに行ったのと同じ 年寄りばかりだった。幕間の休憩時間になっても 杖や歩行器の年寄りばかり、のろのろ歩いていて なかなか出口にたどり着けない。この国では、こんな極度の年寄りにしかオペラが支えられていなくて こんな調子で今後 ここに来ている人たちが死に絶えたら オーストラリアのオペラも絶滅するのか と まわりを見回して 心配になった。いま、ヒップホップをやったり、ロックをアイポッドで24時間流している若い人たちが、歯がなくなって 棺おけに片足突っ込む頃になって 急にオペラが 聴きたくなったりするのだろうか?

ベリーニ作 オペラ「ラ ソナンブラ」、邦題「夢遊病の女」
ニューヨークメトロポリタンオペラ
指揮:エベリノ ピドゥ
出演:アミーナ=ナタリー デウセイ (コロラトーレ ソプラノ)
   エルビノ=ジョアン デイエゴ フロレッツ(テノール)
   領主ロドルフォ=ミケーレ ペルトシ (バリトン)

ストーリーは
第1幕
スイスのある小さな村
アミーナはエルビーノと結婚する日が 翌日に迫っていて、ドレスの仕上げや 式場の準備で忙しい。村中が 清純で優しい娘 アミーナの結婚を祝福している。たったひとり、リサを除いては。
エルビーノがアミータと婚約する前は リサがエルビーノの恋人だった。いまでもリサはエルビーノが忘れられない。そんなことを知らないアミーナは、幸せいっぱいで、エルビーノとデユエットを歌い 愛を誓い合う。

一方、村人達は 夜な夜な幽霊が村を歩き回っている といって怖がっている。そんな夜、領主ロドルフォが 村にやってきて リサのやっている宿屋に泊まることになった。リサは金回りのよいプレイボーイのロドルフォに心ひかれる。夜がふけて、リサがロドルフォの寝室に入っていってロドルフォの くどき言葉を聞いていると、驚いたことに こともあろうに寝間着姿のアミーナが 眠ったままロドルフォの寝室に入り込み そのままベッドで寝入ってしまう。
朝になり 村の人々がロドルフォを起こしに部屋に入ると 何も知らないアミーナがロドルフォのベッドで眠っている。結婚式の前夜というのに、村中は大騒ぎ。騒ぎを聞きつけて 飛んできたエルビーノは 寝間着姿のアミーナを見て 嘆き悲しみ 母の形見の婚約指輪を アミーナから奪い返す。

第2幕
リサはこの時とばかり エルビーノに言い寄り 結婚式は予定通りの日に リサとエルビーノとで 行うことをサッサと決めてしまう。しかし、アミーナの母は、ロドルフォのベッドにあった リサのスカーフを見せて アミーナが来る前はロドルフォのベッドにリサがいたことを 証明してみせる。ロドルフォも アミーナが夢遊病という病気にかかっているだけで無実だ と、村人達に説得する。
そうしているうちに、夜になって、村人達は 建物の屋根の上をふらふら歩いている幽霊を目にする。
それは良く見ると 夢遊病のアミータの姿だった。眠ったまま、アミータは、切々と、エルビーノへの愛の心を歌い上げる。そのアミーナの純な心に、村人達もエルビーノも 涙をさそわれて、アミーナに邪気がなかったことを知る。
最後は、村人達と 若い二人の結婚式、誰もが喜びあふれて、歌い踊って終わる。

たわいないストーリーだが コロラトーレ ソプラノを歌うアミーナの可憐で純粋な心を切々と訴える愛の歌と、夢遊病の花嫁に引きずりまわされるエルビーノの 裏切られ どん底に突き落とされた男の悲しみや、愛の悦びに有頂天になる男の歌の数々が 楽しいオペラだ。

フランス人のソプラノ歌手 ナタリー デユッセイは、小柄で可愛い。日本でも人気があって、CDを沢山出している。とてもきれいな声だ。
相手のテノール ジョアン デイエゴはチリ人 ハンサムで傷つきやすい青年の役を とても上手に歌って演じていた。バリトンをやった、領主役のミケレ ぺルトゥシは 有名な人気歌手らしい。私は知らなかったが 堂々としていて とても美しい声で カップルと3人で歌うところが 素晴らしかった。どの歌手も適役で、本当に見ていて幸せな気持ちになれるオペラだ。

アミーナは、サザランドが一番得意にした役だそうだが、サザランドのあの四角い顔と背の高さでは、可憐で可愛らしいアミータにはならないだろう。サザランドが完全に引退してくれて良かった。

しかし、家に帰ってきて、CDでマリア カラスのアミータ、ニコラ モンテイのエルビーノを聴いてみると、やっぱり全然 いま見てきたオペラと同じ曲と思えない。
ささやくような マリア カラスの気高く 純粋で気品のある声を聞くと やっぱりカラスが世界で一番、と確信できる。アミーナのような役で、ささやき声で心に訴えて聴衆をむせび泣かせるカラス、トスカのように 天にまで響き渡れとばかり 絶叫してその強靭な声で聴衆を狂喜させるカラス。どんなに他の歌手が上手に歌っても、どんな美しいオペラ歌手が育ってきても やはりカラスには 絶対かなわない。若い人たちは くやしいだろう。