今年度初めての オーストラリア チェンバーオーケストラの定期公演を聴いた。
彼らは今年も年間7つの公演を行う。一つの公演を、シドニーではオペラハウスとエンジェルプレイス、ニューカッスル、キャンベラ、メルボルン、アデレード、パースなど各地を回りながら、多いときは14回演奏するから、年に100日近くを国内で公演している。
その上、毎年一カ月間 海外遠征をして外国の音楽家達と共演するので少なくとも、年の半分は 舞台の上で演奏していることになる。
彼らは演奏中 チェロ以外全員が練習時もリハーサル時も 立ちっぱなしの起立姿勢だ。毎日リハーサルで 団員の一人が間違えると、全員でまた初めから練習やり直しをして 繰り返し練習するのが 団長、リチャード トンゲテイのやり方だそうだが、いかに、プロと言えども団員の苦労が偲ばれる。 アシュケナージが今年主任指揮者になったシドニーシンフォニーでも、故岩城宏之が永久名誉指揮者だったメルボルンシンフォニーでも これほどプロとして厳しい鍛錬しているグループは他にないだろう。結婚して子供もできたのに 全く脂肪のつかない体、頬の肉などこそげ落ちたような厳しいトンゲテイの顔を見ていると 断食で悟りを開いた求道僧のように見えるときがある。そんな彼が 本当に美しい音楽を聞かせる。
定期公演では毎回ゲストがあって ゲストを囲んでチャンバーオーケストラ17人が一緒に演奏をする。
団長のリチャード トンゲテイが使っているのは 1743年 グルネリ デムゲス、セカンドバイオリンプリンシパルのヘレン ラズボーンが弾いているのが 1759年 JB ガダニー二、チェロのベッキオ バルグが弾いているのが 1729年ジョセッぺ グルネリだ。
コンサートプログラムは
1: オーストラリア現代音楽家、JAMES LEDGER のRESTLESS NIGHT
2: モーツアルト シンフォニー29番 モーツアルト18歳のときの作品。弦楽に4人のホーン、2人のバスーン、2人のオーボエが入る。当時の重い交響曲に比べて 斬新な手法でシンコペーションやテーマの繰り返しを歌うなど、若くて、新しくて驚きに満ちた交響曲。
3: 今回のゲストミュージシャン、ソプラノ歌手 ダウン アップショウの歌 。 オズワルド ゴリジョブ作曲のアルゼンチンの曲、べラ バルトク編曲のハンガリア民謡、リチャード ストラウス作曲のドイツ曲。どれも一定の型のあるクラシックといわれるジャンルの曲ではなくて、主にジプシーの悲しい曲だったが、難しい曲をとてもきれいな声で、情感たっぷりに歌っていた。
4: モーツアルト シンフォ二ア コンセルタンテ 作品364番。 バイオリンとビオラのための協奏曲。モーツアルト17歳のときの作品。そう、この曲を聴くために ここに来たのだった。2人のオーボエ、2人のホーン。ホーンは当時の古楽器を使っていた。
バイオリンソロは勿論 リチャード トンゲテイ、ビオラは クリストファ モーア。クリストファは このチャンバーに加わって3年くらいだと思う。若くて、フットボールで鍛えたような体格、モヒカン刈りのトサカを金色に染めて 後ろの長い髪を三つ編みしてたらしている、一見 暴走族、、、そんな彼が見かけによらずデリケートな優しい音を出す。 この曲は 好きな人が自分と同じように弦楽をやる人だったら死ぬまでに一度は その人と一緒に弾いてみたいと思うに違いない曲。オーケストラをバックに バイオリンがメロデイーを弾くと すかさず後からついてきたビオラがそれを繰り返し、またバイオリンが帰ってくると ビオラが対話する。異質な音が絡み合い 同調したり反発したり仲直りしながら共に歌い上げる美しい曲だ。二人が本当に息が合っていないといけない。トンゲテイとクリストファ モーアは親分と弟子の立場だが とてもうまくやっていた。
パールマン(バイオリン)と ズッカーマン(ビオラ)が この曲を弾いているビデオを アメリカ人の家で見せてもらったことがある。素晴らしかった。音が素晴らしいだけでなく、小児麻痺で足が不自由なパールマンのバイオリンをビオラと一緒に持ってきて 彼の椅子や楽譜を用意してやったり、音合わせをしながら冗談ばかり言って とびきり和やかな空気を作ってから 息のあった演奏を始めるズッカーマンの魅力に完全に まいってしまった。二人の組み合わせの良さが 曲の美しさを倍増する みごとな演奏だった。
アマチュアオーケストラでは いつもビオラ奏者が少なくて、仕方がないので バイオリン弾きが 嫌々ビオラに回されたりすることが多い。バイオリンの高い音に嫌気がさしてビオラに凝ったこともあるが、サウンドボックスが一回り大きくなっただけで、重くて 音の振動の幅がおおきくなる。顎の力で楽器を持ち上げている間 振動幅の大きな音が 顎を伝わって直接頭に響いてくるから 長い間演奏していると 頭が割れそうになって吐きそうになる。バイオリンだと何時間弾いていても疲れないのに、ビオラでは楽器が重くて 手を伸ばしきりなので 貧血を起こしそうになる。だからフルサイズのビオラを小さな女の人が弾いているのを観ると、無条件で尊敬してしまう。
それにしても こんなに美しい曲を17歳で作って、自分もビオラを演奏していたというモーツアルトと言う人は なんという素敵。誰がなんといってもモーツアルトがいちばん。なにがなんでも、モーツアルトが絶対、一等だ。 とても満足したコンサートだった。