2009年2月28日土曜日

映画 「愛を読むひと」




映画「THE READER」、邦題「愛を読むひと」を観た。
ドイツの小説家、ベルナルド クリンク原作。
ステファン ダルトリー監督。
俳優:ケイト ウィンスレット:(ハンナ)    
   デビッド クロス:(15歳のマイケル)    
   ラルフ フィネズ:(マイケル)
ストーリーは
1958年 ベルリン。15歳のマイケルは学校の帰り 気分が悪くなってアパートの入り口で吐き気に襲われる。アパートに住む中年の女に介抱されて 家に帰ることが出来た。後で しょう紅熱にかかっていたことがわかる。数週間後、すっかり病気が治ったマイケルは花を買って、女のところに行く。女は路面電車の車掌だった。初めはマイケルを「KID」(坊や)と呼んで 相手にもしてくれなかったが きれい好きだが 無口で頑固な一人暮らしの女も、マイケルが何度も 訪ねてくるうちに心を開いて、笑顔を見せるようになっていく。やがて、二人は大きな年齢の隔たりにもかかわらず、恋に落ち、互いに愛し合うようになる。恋するマイケルは 有頂天になって、学校帰りに 女のところに寄らずには居られない。

女はハンナといった。自分の過去にはぴったり口を閉ざし、何も語ろうとしない秘密めいた女だった。いったんマイケルが文学好きで、朗読が上手だとわかると ハンナは毎日 マイケルに本を読んで欲しがって、語られる物語に夢中になった。ハンナに読んでやるために マイケルも、前にも増して勉強を熱心にするようになり、望まれるままギリシャ神話から ロマンス、「チャタレー夫人」や、コミックにいたるまで読んできかせた。そんな二人の関係は誰からも秘密の関係だった。 しかし、ある日、突然女はアパートを引き払い 姿を消す。マイケルは混乱し、絶望する。

マイケルは数年後、大学で法学を専攻している。ゼミナールの教授について法廷を傍聴することになった。そこで、マイケルは法廷の被告席にいるハンナを見出す。ハンナは42歳。ゲシュタポのもとでユダヤ人収容所の監守だったという。毎日、収容所からガス室に送る人の人選をしていたことと、教会に600人のユダヤ人を閉じ込めて火を放ち 死に追いやった罪で、収容所生存者の証言をもとに、元監守だった女達が裁かれているのだった。 中でも ハンナの発言が注目を集めていた。ハンナのまじめすぎる愚直は答え方が 郡を抜いて 目立っていたからだ。

ハンナは どうして収容所から収容者をガス室に送り込んだのか、と問われて、「毎日新しい収容者がどんどん送られてくるから 古い収容者は処分するしかないではないか。」と答え、「燃える教会から逃げようと収容者がドアに殺到しているのに どうして外から鍵をかけて皆を死に至らせたのか と問われて 「ドアを開ければ 人々が飛び出してきて収集がつかなくなるではないか。」 と答える。収容所の監守としての責任を全うすることしか考えられないハンナにとって 監守の義務が正しいことだったのかどうかを考える頭脳はない。教育のないハンナにとって 与えられた仕事は絶対服従であり、他の選択肢はない。 その結果何が起こったのかを、考える能力さえない。
 
他の被告達が全員、監守としての義務を果たしたのは、それをしなかったら自分が殺されていたから 仕方がなくてやったのだ、と、自己弁護する。自己保身も自己弁護もできないハンナは 被告席の中で 人々の憎しみを一身に背負うことになってしまう。そのうちに、仲間だったはずの被告達が一斉にハンナを指差して、この女が収容者をガス室に送り込んだ責任者だった、教会に火を放ったのもこの女だった、と言い出す。そこで、裁判長は、証拠品となった虐殺報告書を書いたのは、ハンナか、問い正す。法廷の衆人の注視のもとで、筆跡を確認するために、紙とペンを出されて、ハンナは言葉を失う。そして、虐殺報告書を書いたのは、「私です」と、ハンナは答える。そのために、ハンナは殺人罪に問われて 終身刑を言い渡される。

そして、このときになってマイケルは 初めて ハンナが文盲だったことに思い当たるのだ。15歳のときの二人の愛の日々、ハンナはいつも本を読んでもらいたがった。自分からは本を見ようともしなかった。カフェでメニューを渡されても 見ようともしなかった。マイケルは法を学ぶ学生でありながら 自分が愛したたった一人の女が 真実からかけ離れた誤認のために 人々の憎悪を一身に負って罰を受けていく姿を 黙って見ていることしか出来ない。 字を読むことも書くこともできない 貧しい境遇に育って、与えられた仕事だけを生真面目にやりとげてきた 無教養の女は、ゲシュタポを憎む人々の生贄にされてしまった。ハンナは自分を恥じるあまり 衆人の前で自分が文盲であることを さらけ出される屈辱に甘んじるよりは 終身刑を受けて自分の体面を保つことを選択したのだ。
15歳でハンナに出会ったマイケルはここで再び ハンナを失うことになった。

時がたち、マイケルは結婚し、娘ができて、離婚をし、弁護士になっている。誰にも心を閉じて 親しくなることができない。誰にも言うことの出来ない 抱えている秘密が重すぎたからだ。 一人きりになって マイケルはハンナのために 物語を読んでテープに吹き込んで獄中のハンナに送り始める。昔読み聞かせて、ハンナがお気に入りだったロマンスや物語を次々と吹き込んで送ってやる。ハンナは獄中でマイケルの なつかしい声を聴く。そして、、、 というお話。

この映画でケイト ウィンスレットはアカデミー主演女優賞を獲った。主演男優賞は 予想どうり「ミルク」のショーン ペン。
この「愛を読むひと」を観たあとは、ケイト ウィンスレットの相手役を演じた ラルフ フィネズと、デビット クロスの二人に主演男優賞をあげたい。そう思うほど 3人が3人とも 真迫の演技で印象深い映画になった。映画は映像の美しさ 音楽、そして演技がものいう総合芸術だが この映画では3人の役者の演技が特別光っている。15歳のマイケルをやった デビッド クロスがとてもせつなくて泣かせる。気の強い 強情で無学な女に振り回されながらも愛に満たされて 少年がひとりの大人になっていく姿を見ることが出来る。

そして、ラルフ フィネズ。この人の 深い深い悲しみをたたえた瞳がとても良い。適役だ。心の傷の痛みにじっと耐えながら 誰にも悲しみを打ち明けることなく一人きりで立っている。彼は「イングリッシュ ペイシャント」「ナイロビの蜂」(「コンスタントガーデアン)の主演をしたが 物静かで繊細、貴品があって優雅だ。役だけでなく、実際の人柄もそんな感じの人なのだろう。

ケイト ウィンスレットも、頑固で無知なドイツ女の役が適役だ。実に良い演技だった。死ぬまで、自分の姿が見えないままだ。無学であることは悲しい。ものの考え方を総合的に捉えることが出来ない。物事の善悪を判断することができない。間違っていたと、指摘されても どうして自分が間違っているのかわからない。そんな哀しい女を とても哀しく演じて涙をさそった。