2025年12月23日火曜日

ボンダイ乱射事件から1週間

12月14日に起きたボンダイ銃乱射事件から1週間経った。
事件翌日と、3日目に書いた記事に続いて書いているが、ここであったことをまとめてみたい。
ユダヤ人のお祭りハヌカ(HANUKKA)は8日間続くが、その初日にお祝いのイベントがボンダイパークで行われ、1000人の人々が集まっていたところを、2人のライフルを持ったIS ジハデイストが銃を乱射して、15人が死亡、40人が受傷した。被害者の中には10歳の子供も、87歳のホロコーストの生き残りも、ユダヤ教のラビも、ボンダイビーチの救命救助隊員もいた。

事件が起きて2人の犯人はポリスに撃たれたが、43歳のシリア人、アハメドさんが、2発の銃創を受け、計5発の銃撃を受けながらも犯人から銃を奪ったために犠牲が少なくて済んだ。ムスリムが、ムスリムの過激行為を制したのだ。彼の英雄的な行為は、瞬く間に情報拡散されて、首相や州知事や英国王チャールズを含む、人々から称賛と感謝の声が上がった。彼のために人々から24時間以内に1億円の募金が集まり、1週間以内にそれが2億5千万円になった。また怪我人のために献血台に上った人の数は、7万5千人に達し、まだ増え続けている。
ボンダイビーチには「ウイットネス サポートセンター」が設けられ、米国のユダヤ人援護組織ZAKAからも、支援組織がやって来て事件のトラウマに苦しむ人々のメンタルサポートに当たっている。

私は、ボンダイから40分ほどのところにある施設でナースをしているが、友達の中にも、この時大勢の怪我人が出たので、病院から緊急呼び出しを受けた人も居た。
ちょっと驚いたのは、私自身にも職場のビッグボスからメッセージがきた。「この事件でもしショックを受けたり、気持ちが沈んで辛い気持ちになるようだったら、早めにここに電話をして」と言われ、心理療法士の電話番号を渡された。
メンタルサポートは国民的課題なのだ。若者の自殺率が高い。また人は、一生のうち1度は誰でもメンタルな病気に罹患する、と言われてる。いまの社会で、無視できない現代事情だ。

事件後、政府は銃規制を厳しくした。インドから来ていた犯人が免許を取って問題なく6丁の銃を持っていたことを批判されて、今後は、ライセンス条件を厳しくして4丁にするという。メルボルンの警官は、国内で禁止されていたセミオートマチックの銃を持つことを許された。都会ではなく田舎で農場経営をしている人々は、銃の制限に怒っている。政府は銃のバイバック、銃の買い取りを始めている。

またユダヤ人差別禁止、アンチセミチズム行為を禁止する「ヘイト スピーチ法」「ヘイト シンボル法」を強化する。かねてからヒットラー式敬礼や、鍵十字や、アウシュビッツ否定論などは、アンチセミチズムということで禁止されて、実刑を含む罰の対象になっていたのは理解できる。
しかし今回、強化される差別禁止法には「インテイファーダ」という言葉や、テロリスト組織の「IS]、「アルカイダ」、「ヒズボラ」、「ハマス」という言葉まで公の場で旗にしたりスローガンで叫んではいけない、という。
しかしパレスチナを、フランス、カナダに次いで、1国の独立国として承認した豪州政府が、パレスチナの人々が正式に選んだハマス政府を一方的にテロリスト組織として認定するといった状況は、あってはならないのではないか。
事件が起きて、怒れる人々の突き上げに押されて、慌てて作った法律は、いつも問題満載だ。

ともかく今労働党政府は、豪州のユダヤ人の強い怒りを受け、世界的にはパレスチナの子供たちが、毎日爆弾と飢餓と寒さで殺されている現実の前で、苦渋の日々を送っている。昨日、ハヌカの祭りの最終日、ボンダイビーチの集まりにやってきたアルバニー二首相をぶん殴ろうとしたユダヤ人が逮捕された。

政府はユダヤ人差別も、ムスリム差別も、アボリジニ差別もない社会を目指して、ユニテイー「UNITY」を繰り返し叫んでいる。メデイアではユダヤ帽をかぶったユダヤ人と、ヒジャブを被ったムスリム女性が抱き合って涙ぐんでいる映像などを映しだしてユニテイを強調している。4人に1人は外国生まれの、移民で形作られてきた豪州でも、民族差別のない社会への道は厳しい。



2025年12月17日水曜日

ボンダイライフル乱射事件から3日目

事件から3日目。
ボンダイビーチでのライフル銃乱射事件は、15人の死者と42人の怪我人を出して、その興奮と余波の中にいる。
自宅から車で40分、ボンダイは私にとっては心の晴れる場所だった。曲がりくねった坂道を降りていくと、目の前に突然、真っ青な海が現れる。その瞬間、胸が大きく開かれ広がっていくような、沈んでいた心がカラリと晴れるような、そんな場だ。

事件が起きて、怪我人らが搬送された、数時間後にシドニーのアイコン、オペラハウスではその屋根に、マノーラと呼ばれるユダヤ教のお祭り、ハヌカの間に灯される9本の枝も持つ燭台を映し出した。同情と共感が込められている。

オージー魂も健在で、事件の24時間以内に、怪我人のため献血した人の数は、7万5千人、献金は1億円を超えた。
「ZAKA」という米国を拠点にするユダヤ人組織が来豪して、亡くなった方々のユダヤ式葬儀を執り行い、事件でトラウマを抱えた人々の回復と治療に当たるそうだ。

いま分かったことは、ポリスに撃ち殺された50歳の犯人と、病院に運び込まれた24歳の息子は、ひと月前に4週間ほどフィリピンに滞在していた。南フィリピンのISアブサヤフと関係して軍事訓練を受けていたようだ。犯行声明が出ていないので、わからないが、ISの旗が車から見つかった。
話題は、ライフル銃を乱射中の犯人に、タックルして5発の銃撃を受けながらも犯人から銃を奪った43歳の勇敢な人が、シリアからきた移民だったことだ。ムスリムがムスリムを制した。これこそが多種多様なマルチカルチャーの豪州だ、ということで、首相も、州知事も大喜びだ。どうでもいいけど豪州の主王国英国王のチャールズとカミラからも、彼の勇気を称え、感謝の言葉が伝えられたそうだ

ユダヤ人がひどい目に遭うと、ヒジャブを被ったムスリムに暴力をふるう馬鹿が出てくる。ユダヤ教のシナゴクに火をつけると、イスラム教会が放火される。しかし今回の事件では、こんな報復合戦が繰り返されないように、政治家たちは最大の注意を払っている。政府はくりかえし、これはユダヤ人憎悪ではない、移民の問題でもない、ムスリムの問題でもない、と強調している。報復が起きてはならない。
豪州では英国教会信者が最多数で、ユダヤ教信者は国民の1%にも満たない。しかし差別禁止法、ヘイトクライム法が連邦議会で決議施行されていて、ユダヤ人迫害は、禁固刑を含む実刑を課されている。私の目からはユダヤ人は法的にも、警察による保護においても十分保護されていると思う。

ユダヤ人のお祭りに集まった1,000人の市民にライフルを乱射した2人の父子の頭の中には、パレスチナで日々殺されている子供たちの姿があったのだろう。7万人のおびただしいパレスチナの人々の葬列を見つめていたのだろう。
頭を撃たれて命の危機にあった犯人が、意識を取り戻したそうだが、命を取り戻して、強く生きてほしい。

ユダヤ人であってもなくても、ムスリムであってもなくても、亡くなった犠牲者を悼み、さらにパレスチナの7万人の人々の葬列を心から哀悼したい。
また、こうした事件が再び起きないように、
イスラエルのシオニストは、パレスチナから手を引け!
パレスチナを殺すな!



2025年12月15日月曜日

ボンダイ乱射事件

いまシドニーのボンダイビーチは、数千の花束で埋まった。
昨日の12月14日、日曜日の夕方、ビーチの公園では、ハヌカ(HANUKKA)というユダヤ教のお祭りを祝うイベントが行われていた。そこで、2人のライフル銃を持った男が、銃を乱射して犯人を含む、15人が死亡、40人が負傷した。犯人1人を含む数人が生死の間をさまよっている。死亡した15人の中には、ラビとその親戚の10歳の子供も居て、87歳のホロコーストの生き残りもいた。

犯人の2人は親子で、父親は30年前に移民してきて、息子はオーストラリア生まれ、2人とも前科はなく、イスラム過激派といった様子もなく豪州スパイエイジェンシーのテロリスト要人物でもなかった。父親は銃撃戦でポリスに殺されたが、銃のライセンスを持ち、法に沿った方法で銃を手に入れていた。犯行声命はなく、現在負傷して意識のない息子の回復を待って、取り調べが行われる。

この事件は明確にユダヤ人を攻撃したもので政府も、警察も、マスコミも「アンチセミチズム」反ユダヤ主義による犯行とみている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、いち早く、豪州はパレスチナを独立した国家として認める、といった軟弱な政府でユダヤ人をまっとうに守っていないから、こうした事件が起きた。豪州政府は、WEAK 弱虫で弱虫で弱虫だ、と非難した。嬉しそうにWEAKと連発するネタ二ヤフは、他国政府を平気で侮辱する下品な奴で、本当にうんざりする。
EUの国々のトップや米国政府でさえ、亡くなった無垢の市民とその家族への慰めを表明しているのに。

豪州政府とニューサウスウェルス州知事は、これを機会に銃規制を厳しくすることを約束した。すでに豪州では一度の自動射撃で沢山殺せるオートマチックガンの所有は禁止されている。今後銃所有者や新たに購入する人には厳しい条件が設けられるだろう。

こうした事が起きたときに、特異に感じられることは、豪州ではまず事件をニュースで知った一般の人々が、花束やメッセージを書いたカードを持って現場に集まってくることだ。悲しみを共有するために、直接関係のない人々が行動に出る。20年近く前に、シドニー中心街で、カフェに銃を持った男が立てこもって犠牲者が出た。現場近くに居たのだが、そのニュースが流れたとたんに、たくさんのオフィスから 人々が花束を抱えて、そのカフェの前が花束の山になった。また献血所もすぐに人々が並ぶ。採血室がいっぱいになって人々が2時間も3時間も並ぶ。犠牲者への献金もたちまち集まる。今回亡くなった10歳の子供のために24時間足らずで1,800万円も集まったが、そのスピードに驚かされる。クリスチャンバックグランドの国ならでは、だ。

ユダヤ人攻撃が起きて、一番心配されることは「報復」で、モスリム、アラブの人々が攻撃されることだ。
アルバニー二首相は、銃を乱射していた犯人に飛びついて、自分は、2発も銃を撃たれたのに怯まず、犯人から銃を奪った人が、43歳のシリア人移民だったことを、インタビューで強調した。モスリム犯人の暴発をモスリムが防いだ。おかげで犠牲者が少なくて済んだのだ。それを強調することで「モスリムがユダヤ人を攻撃した」といった単純な理解を、人々がしないように気を付けている。
ユダヤ人が攻撃されたことで、報復攻撃が起こらないように、いま報復警備に500人の特別警備隊が出動している。

また「ウィットネスサポートセンター」が、ボンダイに設置された。事件を目撃したり聞いた人が、心理的にトラウマに陥らずに済むように、心のサポートをする場が設けられた。人は人が死ぬところを見たり、血を見ただけで心に傷を負うことがある。早いうちに対策が設けられたこと、これは高く評価したい。

圧倒的な国家権力や、戒厳令的な完全武装した軍や、統制、訓練された国家殺人部隊など、こういった強力な敵にはゲリラ戦、レジスタンスで対応するしかない。さらに残忍でスパイ組織を持った権力に抗するためには北一輝のような1人1殺のテロ抵抗するしかない場合もある。だからテロが起きたとき、PTAのおばさんみたいに「暴力はいけない、テロは間違っている他の方法があるはず。」などとは私は思わない。テロでしか対応できないこともある。ただ、今回の出来事は、イスラエルのユダヤ主義のためにパレスチナの人々が苦しんでいる事実に密接に関わっている。
マスメデイアや、政府当局がどう動くか、人々がどう反応するか、冷静に見ていきたい。



2025年12月13日土曜日

最低賃金法

円安が止まらない。
ニュースを聞いてドル100円が103円になり、さらに下降しているスピードが怖いほどだ。
厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2025年の最低賃金を、全国加重平均で60%引き上げ、時給1118円とする目安を決めた。昨年の目安を50円上回り、過去最高の上げ幅を記録した、という。現在の最低賃金は全国平均で、時給1055円だが、政府は2020年代に1500円に上げる目標を掲げている。
米国で時給1500ドルを要求して、労働者が大規模デモを繰り広げたのは去年で記憶に新しい。

日本の最低賃金が問題なのは、それが政府や雇用者の「めやす」であって、義務ではないことだ。
全国共通の最低賃金法という守るべき法があって、最低賃金を守らない雇用主を、厳しく取り締まり罰則を設けなかったら、意味がない。日本のGDPが増え続けているが、格差の大きさを示すジニ係数は上昇している。ということは、全体の収入は増えているが、リッチな層の収入が増えているだけで、プアな層の収入は変わらない。パート、非正規労働者は物価高のなか、益々プアになっている。

だから最低賃金を引き上げるだけでは意味がない。リッチから取るべきものを取る「税制」を本気で変えないといけない。
正規労働者と、女性では43%が従事する非正規労働者の待遇改善、格差是正、地方と都市の賃金格差の調整、最低賃金を外国人労働者にも適用するべき、など、政府がすべきことはたくさんある。
豪州では現在、最低賃金が、時給24.95ドル(2495円)、これが義務化されている。

雇用主は、雇った人がパートであろうと、非正規労働者であろうと、留学中の学生であろうと、ワーキングホリデイの若者であろうと、フルーツピッキングなどの季節労働者であろうと、正規労働者同様、最低賃金は保証される。それを守らずピンハネする雇用主は、通報され適正賃金を払うまで、怖い怖い税務署から、重い重い重い罰金で、罰せられる。
また、雇用主は労働者に払った賃金の9-12%の金額を、それぞれの労働者の指定する年金会社に納めなければならない。稼いで、さっさと豪州から自分の国に帰っていく季節労働者や、ワーキングホリデイの若者は、その年金をもって帰国する。

また正規労働者には年に1週間の有給病気休暇があって、診断書によっては長期療養が必要な場合は病欠を伸ばすこともできる。有給休暇は、職種によって異なるが、医療従事者の私の場合は、年に6週間有給休暇が取れて、それを翌年、翌翌年に繰り越すこともできる。
さらに、10年以上同じ職場で働いてきた人には、3か月間の長期有給休暇が、ご褒美にあって、その休暇を取らずに給与に換算して受け取る人も居る。私の場合は年休も長期休暇も一挙に取らず、ちびちびと使って家族と共に過ごす時間を大切にしている。

日豪労働者事情の一番の違いは、非正規労働者への扱いかもしれない。
病欠や有給休暇のある正規労働者よりも、それがない非正規労働者の方が、時給が25%高い。非正規労働者は、時給3119ドル(3119円)で働いている。有給や病欠がない分、当然の資格だ。

日本では、人手不足を言われて久しいが、日本の公立病院の人員募集で「40歳以下の有資格者」とされているのを見て、カッと頭に血が上った。わたしは今75歳で現役フルタイムで働く医療従事者。私が女性で、日本人で、若くなく、英語もジャパグリッシュなまりだが、豪州では差別禁止法がしっかりしているので、誰一人「仕事を止めろ、とか、頼むから引退してくれ。」とか言う人は、絶対居ない。好きでやっていることだから 放っといてもらいたい。で、放っといてもらっている。

日本に必要なのは、人を人種、職業、性別、性的嗜好、出身国、言語、宗教などで差別してはいけない、という「包括的差別禁止法」、それと「最低賃金法」ではないか。
日本の深刻な人手不足に対応し、インフレ物価高に対処するには、労働者をきちんと保護すること以外に方法はない。
「埴生の宿」を歌ってみた。


2025年12月10日水曜日

世界の核弾頭

世界中ですでに配備されていて、いつでも発射できる状態の、現役核弾頭は、計9615発あると推定される。これは2025年6月に長崎大学核兵器廃絶研究センターが発表したデータだ。
ちなみに、他のデータから、地球上のすべての命ある生き物を皆殺しにして絶滅させるのに必要な核弾頭は、6発あれば十分なのだそうだ。
9615発 対 6発
現役核弾頭保有数は
ロシア:4310発
米国 :3700発
中国  :600発
仏国  :290発
英国  :225発
パキスタン:170発
イスラエル:90発
北朝鮮 :50発
国民の直接選挙で選ばれた米国大統領には、他国にない大きな権限が与えられていて、この核ボタンを自分の判断で、いつでもどこでも押すことができる。大統領が外遊などで、ホワイトハウスの司令塔に居ない時でも、ボタンが押せるように、ニックネイム:ニュークリアフットボールという核ボタンの入った黒カバンを大統領従者が持っていて、大統領からは一時も離れないで居ることが義務化されている。
かつて現職大統領で初めて、広島の原爆記念碑を訪ねたオバマ大統領にも、この黒カバンが催行されていた。
大統領就任式で、この黒カバンは大統領から次の大統領へと直接手渡しされる。

ところで、大きな権限を持つドナルドトランプも79歳。会議中眠ってしまうなど、彼の脳の老化を危惧する声が出ている。
かれは、今年10月29日、自身のツイッターで、中国の習近平国家主席との会談後、「米国はどの国よりも多くの核兵器を保有している。私の大統領第1期目に、既存兵器の完全な更新と改修をした。ロシアは米国に次いで世界第2位、中国はそれに大きく離れて、やがて5年以内に第3位になるだろう。他国が実験計画をしているので、米国も同等の実験をするように戦争省に指示した。」と書き込んだ。
びっくりしたのは米国市民よりもペンタゴンだろう。米国の核兵器を管理しているのはエネルギー省であって、戦争省ではない。世界最大の核弾頭保有国は、米国でなくロシアだ。いま、核兵器を実験している国は皆無だ。ロシアはソビエト連邦時代末期以来、35年間核実験などしていない。

だいじょうぶか ドナルドのおつむ!

今すぐ発射できる核弾頭を3700発もっていて、世界のどこにいても、いつでも発射ボタンを押せる黒カバンを持ち歩いている世界最強の男、だれもが憎んでいる、にもかかわらず無視することができない。モニカルビンスキーのスキャンダルごときで、大統領罷免運動が議会に上ったかつての米国議会、今どうしてドナルドを引きずりおろせないのか。日本も同様。どうして彼女を、、、。
写真はニュークリアフットボールとバイデン



2025年11月27日木曜日

岩波書店の「世界」と大叔父大内兵衛

岩波書店が発刊している月刊誌「世界」が創刊から1000号に達した。

昭和21年1月の創刊号には、阿倍能成、美濃部達吉、和辻哲郎、東畑精一、横田喜三郎など、そうそうたる知識人が論評を寄せている。
私の大叔父、大内兵衛もこの雑誌の立ち上げから岩波茂雄に協力していて、「直面するインフレーション」を書いている。彼は、この創刊号から1980年に、92歳で亡くなるまでに100本近い原稿を「世界」に寄稿した。

大内兵衛が、治安維持法で逮捕されたのが1938年のことだ。続いて、美濃部亮吉、脇村義太郎、有沢広巳、大森義太郎、高橋正雄、阿部勇らも逮捕拘留されて、1年半の拘禁の後、出所した。
兵衛は若いころ帝大を出て卒業と同時に大蔵省に入り、そこからニューヨークに派遣され、その後東大に請われて東大で教授職を得てからは、給費でドイツのハイデルベルグに滞在し、マルクスの資本論などを翻訳した。
兵衛と一緒に、治安維持法で検挙された学者たちが全員そろって、連座を認めなかったため、検察は「共同謀議罪」を立件できなかった。のちに全員無罪を言い渡されるが、これらの学者たちは、7年余り発言や文章を発表できなかった。

兵衛は淡路島の洲本出身で、大内家の次男だった。私の父の父は、その長男で、いまのソウルで満鉄に勤めていたので、父はその官舎で生まれたが、父親が早世したため淡路島に引っ越してきて、兵衛に育てられた。兵衛は私には唯一のおじいちゃんだった。父は兵衛のことを「叔父さん」でもない「おやじさん」でもない、「おやっさん」と呼んでいたが、その微妙な語感が、父の心を表している。年下で兵衛の一人息子の大内力への遠慮があったろう。父は小説家を目指していたロマンチストの自由人、力さんはまじめな努力家で学者になるべくして学者になった人だ。父は甘えたい子供時代に親を亡くして、実子には嫉妬も悲哀もあっただろう。兵衛が死の床にあって、通夜まで父は付き添っていたが、力さんは家族やお弟子さんたちに食事をふるまったが、父だけにはそれがなく、父は飲まず食わずで式のあと帰宅して「そういう事をやる奴だったんだ。あいつは本当に子供の時から嫌な奴だった。」と、、、これは今まで言ったことがなかった秘話。
わたしには兵衛は、いつもひょうひょうとしていて早歩きの小柄な人、という印象が強く、亡くなるまで年齢を感じさせない人だった。

雑誌「世界」を飛びつくように熱心に読んだのは、1973年5月から始まった「韓国からの通信」だ。朴大統領の戒厳令下にあった地下の民主化運動を伝える通信だった。活動家がどんどん引っ張られて処刑されている恐怖の戒厳令下の状況報告を「TK生」が毎月送ってきていた。権力に見つかれば極刑、とわかっていて怯まずに権力者を糾弾する「TK生}らの民主化の声は力強く、毎月祈るような気持ちで涙なしには読めなかった。
日本を離れてフィリピンに10年近く住み、オーストラリアに来て30年が経つ。日本の本はなかなか手に入らなかった。それを20年ちかくFB友の山田修さんが、シドニーで紀国屋が出来て本の取次ができるようになるまで、毎月送ってくれていた。親でも、恋人でもやってくれないことを、ずっとしてくれていた山田さんには、うちの家族ともども心から感謝し通しで、南伊豆のあたりに足を向けて眠れない。感謝感謝。

創刊のころから沢山の縁があった「世界」がずっと続いて発刊されていて、読むべき本があるということが、嬉しい。
外地に居ても、日本に居ても、憂うべき世界情勢は同じだ。情報が大切。1946年、憲法草案起草プロジェクトで兵衛が、言論、出版の自由を明確に保護することを、繰り返し求めたことを忘れないでいたい。



2025年11月25日火曜日

G20 とトランプのわがまま

サミットが今週から始まっていてヨハネスブルグに各国のトップが集まって、直接顔を合わせて世界情勢た経済、気候問題について話し合っている。ところがトランプ米国大統領はこれをボイコットした。理由は、南アフリカは白人を人種差別しているからだ、という。

はてな。  南アフリカはかつて、人口の10%に満たない白人によってアパルトヘイト(人種隔離政策)をもった警察国家だった。黒人解放闘争を戦ったネルソンマンデラは、実に27年間獄中に閉じ込められていた。最大多数の黒人は、白人農業主に奴隷のように働かされていた。20世紀にこのような人種差別的奴隷制度があってはならないという国際社会の非難が高まり、ネルソンマンデラが釈放されたのは1990年のことだ。選挙が行われ彼が大統領になり、白人農業主は土地を長年働いて奴隷状態だった人々に譲り渡さなければならなかった。

トランプは、こうした南アフリカの現代史を認めたくないらしい。彼が大統領になって、南アフリカのシリレ ラマポーザ大統領が表敬訪問したとき、トランプは「なかなか英語がお上手だ。」と彼流お世辞を言った。しかしこれは前代未聞の侮辱発言だ。南アフリカは子供の教科書から英語で学んでいる。トランプは日本の女性首相が通訳を横にして日本語でしゃべったら、「なかなか日本語がお上手で。」とほめてくれたようなものだ。彼女なら飛び上がって嬉しがるかもしれぬが、両者とも、とても恥ずかしい。

トランプは、絶対にハマスが承認できないような「ガザピースプラン」を、EUの合意をとって強引に進行させようとしている。ハマスがこの70年、戦ってきたのはパレスチナ民族によるパレスチナの土地奪還、イスラエル軍事国家からの解放であった。パレスチナはパレスチナ人のものだ。にも関わらず米英を中心とする国際組織がハマスの武器放棄を強制しようとしている。

またロシアでは、28か条の「トランプピースデール」を米国のマイケル ルビオがウクライナに取り付いてゼレンスキーに認めさせようとしている。ウクライナは、1)NATOメンバーにならない、2)停戦のための外国軍進駐にNATO軍は加入させない、3)部分的にロシアに占領地を譲渡する、といった条件だ。ゼレンスキーは、武器産業と癒着して私腹を肥やしすぎた。それをいま暴露され、追い詰められていて、米国の条件をのまざるを得なくなっている。

イスラエルにさんざん武器を送り続け、ウクライナに武器支援をしてきて、いまになって「トランプピースプラン」を両国に突き付けている。なんのことはないトランプは米国の武器関連企業、死の商人を喜ばせ、自分も儲けただけだ。
そして今、またベネズエラに本格的な戦闘を仕掛けている。

いま南アフリカでのG20を、ボイコットしているように、トランプは根っからのレイシストで、札束で世界をおちょくっている。
それが困ったことなのは、トランプのわがままがこんなに許されるのなら、自分もやっっちゃっていいんだ、と思い込んで馬鹿をやる太平洋の反対側の小さな国の首相が出てきたことだ。
世界の良識は、どこにいったのだろうか。