2011年3月11日金曜日

オペラ 「カルメン」を3Dで観る




イギリスロイヤルオペラシアターのオペラ公演「カルメン」が、ハイデフィニションフィルムに収められて、それを3Dで立体的に観ることが出来た。
「なに、それ?」「アバターやシュレクやアリスワンダーランドなら わかるけど どうして古典オペラを 3Dで観なくちゃならんのか?」と言われそうだが、実際行って見て これがとても良かった。

日本でも 映画配給会社がこのような舞台ライブのフィルムを 映画館で公開しているようだ。オペラだけでなく、歌舞伎や文楽のフィルムもあるようで、うらやましい。
地の果てのような 南半球のオーストラリアに暮らしていて、ニューヨーク メトロポリタンオペラや、ロンドンのロイヤルオペラシアターのライブを観ることが出来る贅沢が とても嬉しい。映画館の大画面で観られるだけでなく、幕間の休憩時間に 舞台裏で働く人を カメラが追って見せてくれるサービスも嬉しい。時として 出演者にプラシボ ドミンゴが インタビューするのを見せてくれたりもする。大サービスだ。

3Dで観たのは ビゼーのオペラ「カルメン」。本物の オペラオーストラリアが演じた舞台は ひと月ほど前に観たばかりで 報告を2月10日の日記に書いた。これが2006年 コベントガーデンで初めて好演されて大好評だった舞台を基にしているので 3Dで観た ロンドンの舞台と ほとんど同じだった。でも お金のかけ方が 2倍も違う。ロンドンの舞台の方は、少年合唱団など 40人以上 使っているが オーストラリアの舞台では、12人だった。出演者の数が断然 ロンドンの方は多い。衣装や道具も ずっとお金がかかっている。やっぱ、本家は違うんだ、、と 再認識させられて、ちょっと くやしい。

3Dフィルム というのは 右目用と左目用の映像を高速で交互にスクリーンに映し出して 特殊眼鏡をかけて 片方ずつしか見えないようにすることで 映像を立体的に感じさせる技術だ。初めの頃は きれいな色が出せないとか、立体的と言われれば 立体的かな?というくらいで、あまり特別な感じは しなかったが 序序に画面の質が良くなってきている。
3Dしか見られない 大型の3Dテレビが売りに出されて、自宅で3D映画が楽しめるようになったが 学校関係者や幼児専門医療関係者は 子供の目の成長に良くないので 3Dテレビは買わないように というキャンペーンをしていた。確かに 幼児に距離感がわからなくなるような映像ばかりを見せていたら 危険だし良くないだろう。

さて、オペラの舞台を3Dで観ると どう見えるのか。
自分の目から舞台までの距離が 無くなる。自分の手の届くような近さでオペラが繰り広げられる。舞台が私だけのためにある、よう。舞台を独り占めしている感じだ。
接写カメラのおかげで、表情はよく見えるし、カルメンの涙が 頬を伝い 鼻水が落ちそうなところまで見える。ドン ホセのひげの剃り残しまで はっきり見える。
特殊眼鏡をかけているから、隣や前の人が見えないので、他人が居ないも同然。ふつう、舞台を観ていると 前の人の頭が邪魔だったり 咳やクシャミをする人がいて 腹が立つが、そんなことは 見えないので全く気にならない。
舞台では フランス語のオペラを英語字幕が舞台の上に出てくるので 見上げて字幕を読みながら 舞台を観るので 首が疲れるが フィルムだと 映画のように 画面下に字幕がつくので観やすい。
普段の舞台では、オーケストラは 舞台下に隠れていて暗いので 指揮者の頭くらいしか見えないが、序曲のときは、オーケストラの奏者達を ひとりひとり しっかり写して見せてくれて、どんなに質の良い音を出しているかが ちゃんと見られる。指揮の指揮の仕方が華麗で とても感動的だった。

監督:ジュリアン ナピエール
キャスト
カルメン :クリステイン ライス
ドン ホセ:ブライアン ハイメル
ミケーラ :アリス アリギリス
エスカミリオ:メイヤ コバレスカ

カルメンのメゾソプラノを歌ったクリステイン ライスは黒髪の美女。素足でタバコ工場で働く姿は、野性的で実に魅惑的、最後のころエスカミリオの恋人になって闘牛場に向かう正装した姿は貴婦人のようだ。とても魅力的でパワフル。一頭の馬に エスカミリオと二人で乗って登場する姿は 立派で美しい。
エスカミリオのバリトンが とても通る 太い声で、堂々として力強い。何度も馬に乗って舞台に出てきて しっかり演技もして、歌も歌う。満足度95%のエスカミリオだった。
肝心の ドンホセ。ブライアン ハイメルの よく伸びてよく通るテノールが とても良かった。
 
コンサートはCDを買わず コンサートホールで聴く。映画はDVDを観ないで 映画館で観る。オペラは 舞台でしか観ない。そう決めている。
しかし、優れたオペラを 質の良いフィルムで よく編集された画面で しかも3Dで観ることが、こんなに楽しいことだった とは知らなかった。
新しい発見だ。誰にも邪魔されず 自分だけの舞台を独占して、至上の時を過ごした。