2010年6月30日水曜日
W杯 日本が敗けたと思わない
サッカーに、判定勝ち判定負けというものが あったならば日本は判定勝ちしていただろう。
これほど気持ちの良いサッカーゲームをみたのは 初めてだ。
良いゲームとは、こういうゲームを言うのだろう。
6月30日、FIFA ワールドカップで ベスト16カ国の中に残った日本チームは パラグアイとの試合をした。
ゲームの様子は、シドニー時間では、深夜12時から実況中継された。最初から日本チームは 早いピッチで ボールにくらいつき、走りに走った。何度も何度もシュートをトライした。デイフェンスの良さ、チームワークには、目を見張るものがある。
90分試合で、決着がつかず、30分の延長戦。
そこでも選手達は、全く疲れを見せず、走り続けた。がむしゃらに 突っ込んでいって、ボールを 相手から奪う。
ひとりひとりの選手たち、本当に 立派だったと思う。結果など関係ない。良いゲームを観た後の 満足感がずっと、残っている。
私の職場では オーストラリアの縮図みたいに、沢山の国からきた人たちが働いている。
イギリス、オーストリー、イタリア、スペイン、ハンガリー、セルビア、チェコスロバキア、チリ、ガーナ、セオラレオーネ、フィージー、ネパール、香港、マレーシア、タイ、フィリピン、韓国、東チモール ちょっと、思いつく顔を 数えてみただけで、18カ国。
前回のワールドカップでは、イタリアが優勝したので イタリア人のナースが鼻高々だった。今年は日本もガーナも健闘していて、みな、仕事中、仕事そっちのけで 仲間の国をみんなで応援している。
今朝は、夜勤のみんなが、日本チームの活躍に沸いた。
みな自分のことのように、応援していて、チャンスがくるごとに私の肩をつかんだり、足踏みしたり、、。試合が終わって、皆が ジャパン、よくやった!!!と言ってくれた。負けた気がしない。本当に良い試合だった。
ゲームが終わって、外にでたら 今朝はこの冬一番の寒さ。
駐車していた車のフロントガラスが みごとに凍っていて、固まっている。
いつもは無口で気難しいセルビア人の 掃除のおじさんが、走ってきてホースで水をかけ、ガラスの氷を溶かしてくれた。おまけに、”ジャパン ウェルダウン よくやったぜーい”と、言いながら力強いハグ。
なんか、とても心温まって、誇らしくて嬉しい朝だった。
2010年6月23日水曜日
映画「瞳の奥の秘密」
アルゼンチン映画 原題「EL SECRETO DE SUS OJOS 」、英題「SECRET IN THEIR EYES」を観た。
監督:ジュアン ホセ カンパネラ
キャスト:リカルド ダリン、ソレダー ヴィリャミル、パブロ ラゴ。
第82回アカデミー賞 外国映画賞受賞作。
カテゴリーはサスペンス。133分。
ストーリーは
ブエノスアイレスの郊外、1970年代。結婚したばかりの若く美しい女性が乱暴され 残忍な殺され方をして発見された。同じ時間にアパートに、改築工事に来ていた二人の外国移民が逮捕された。
裁判所刑事ベンジャミンと、相棒パブロは 早速逮捕された犯人たちに会いに行く。犯人とされた彼らが 警察の自白強要によって犯人に仕立て上げられたことが明らかだった。しかし、警察が突き出した 移民たちを助ける為には 真犯人を逮捕しなければならない。警察は協力をしない。裁判所刑事達の捜査は行き詰まる。
ベンジャミンの上司、アイリーンは警察から出された証拠をもとに 判決を下し、事件を一件落着せざるを得なかった。
納得のいかないベンジャミンとパブロ、そして殺された被害者の夫、リカルドは必死で真犯人を捜し求める。
妻は殺される前に、アパートのドアを自分で開けた。犯人は知り合いだったに違いない。過去の写真や記録を洗い流し、3人は真犯人が 妻の昔の幼馴染 ゴメスをいう名の男だったことを突き止める。すでに 判決が下りてしまった事件の捜査は困難をきわめる。真犯人を捕らえるために、夫リカルドは仕事を辞めて 毎日駅に張り込みを続ける。その真剣な姿を見て ベンジャミンとパブロは 執念で、何度も上司、アイリーンに再審査を要求する。そして、彼らは、遂に真犯人の逮捕に成功した。裁判の再審を経て、犯人は刑務所に送られる。
喜びもつかの間、テレビニュースを見ていたベンジャミンは、実刑となり刑期を務めているはずの 殺人犯ゴメスが、ブエノスアイレスで、要人の護衛をしている姿を見て驚愕する。こともあろうに この殺人犯は銃を与えられて ガードマンとして雇われているのだった。警察上部の職務特権で決められたことなので、地方都市にいるベンジャミンたちには どうすることもできない。妻を殺されたリカルドとともに、歯噛みをするしかないのだった。
パブロが 耐え切れず酔って ブエノスアイレス警察と争いを起こした。その夜パブロはベンジャミンに間違われて プロの殺し屋に殺される。身の安全のために、ベンジャミンは仕事を辞めて、地方に逃れるしかなかった。そのためベンジャミンは 上司のアイリーンに恋心を持ったまま去っていった。
25年たった。
ベンジャミンは 25年前のこの未解決事件について 書き溜めたものを 本にまとめようと心に決めて、もとの職場にもどってくる。美しい上司アイリーンは 今は裁判長だ。会えば 昔の恋心が よみがえる。
ベンジャミンは すでに辺鄙な田舎に引っ越しているという被害者の夫リカルドに会いに行く。リカルドは荒れ果てた田舎屋にひとり住んでいた。その後、再婚することも無く、居間には若くして亡くなった 25年前の妻の写真だけが飾ってある。
リカルドの不審な様子、、、そして ベンジャミンはリカルドの秘密を知ってしまう。リカルドは、毎日一回だけ、水とパンのかけらを持って 離れの小屋に、行く。その先には、変わり果てた殺人犯が、、、。
というお話。
ベンジャミンを演じているのは、アルゼンチンで一番人気のある俳優、日本で言えば高倉健みたいな、または、渡辺謙、または浅野忠信のような人。とくにハンサムではないが、存在感がある。
133分と、長い割りには 内容が詰まっているわけではない。冗漫だ。ベンジャミンとアイリーン、25年前 互いに抱いていた恋心、かなわなかった恋が人生の終盤で再燃する。25年前の駅での別れのシーン、列車が動き出し、走り去る列車を追う女、、、。情景がセンチメンタルすぎて この同じシーンを繰り返されると もう、ベンジャミンが 笠智衆の顔に見えてくる。
カメラテクニック、自然描写、物語の流れの編集テクニックなど、すべてについて キレがない。全く持って、洗練されていなくてダサい。これが、アルゼンチン映画か。
無駄なシーンなど ひとつとしてないクリント イーストウッド監督の作品などに比べて そんな無駄ばかりのアルゼンチン映画がかえって ローカルなところが評価されて 外国映画賞を受賞したのかもしれない。
しかし、罪と罰という人間社会の永遠のテーマに触れている。
25年前の未解決事件を、どう自分なりに解決にもっていくか、ベンジャミンは事実を書き残すことによって 自分なりの結論を出したいと思った。 アイリーンは25年間待って いま やっとベンジャミンをとりもどした。
そして被害者の夫リカルドは 法で罰することが出来なかった殺人犯を自分で捕らえ罰することで、復讐を果たした。3人3様の これが 25年間の生き方だった。罪を問われなかった殺人犯を罰することが出来るのは 被害者を失って嘆く身内だけだ。リカルドは、生かさず殺さず 加害者を苦しめることで、きっぱり落とし前をつけた。
しょせん、人生は自己満足だ。自分が満足できる生き方をするしかない。他人がどう言おうが 法がどのように裁こうか、社会がどう判断しようか、自分が裁き、判断して生きることが 幸せなことにちがいない。
殺された妻は 夫に復讐して欲しいと願いながら 死んでいったかもしれない。でも、25年間 復讐し続けることを 望んだだろうか。案外、1年たったら、忘れて、夫に別の人生を歩んでいってもらいたい と思うのではないだろうか。夫を愛する妻として。
2010年6月20日日曜日
もう サッカーなんか 嫌いだ
サッカーは まれに見るアンフェアなスポーツだ。
FIFAワールドカップで 昨夜、日本はオランダに敗れ、カメルーン戦でとった1点と合わせて、1勝1敗。シドニーでは 土曜の夜9時半から、ゲームが同時中継された。国際試合に弱い侍ニッポン。FIFAワールドランキング 45位。試合運びが遅い。もっと走れ。もっと攻撃してくれ。
最後のデンマーク戦では 良い試合を見せて欲しい。勝っても負けても良い。良い試合をみせてもらいたい。
試合が 終わっても、世界中のコメンテイターが、これはこれは 良い試合でしたね、フェアプレイで、これこそがサッカーです と言われるような 程良く攻撃的なゲームをやってもらいたい。
日本 オランダ戦のあと、深夜から朝2時まで、オーストラリア ガーナ戦が行われた。この試合を見て、オーストラリアでは、サッカーからは大幅にファンが離れていったのではないだろうか。わたしも、もうサッカーなんか、嫌いだ!
試合が始まってすぐ、24分で チームの勝敗を握るハリー キューエルが、「相手の決定的シュートを手で止めた」というペナルテイーで 突然レッドカードで、退場させられた。あまりの突然の決定に、誰もが信じられない思いだった。スローモーションビデオを見ても、キックが偶然 キューエルの肩に当たったとしか 思えない。あと5センチずれて胸に当たっていたら、問題なかった。ものすごいスピードで、近くからキックされたボールを故意に、肩で妨害することなどできない 偶然当たった と考えるのが普通だ。イエローカードなしに、突然 文句なしのレッドカードだ。
最初のオーストラリア ドイツ戦で、チームのストライカー テイム ケーヒルが、レッドカードで、場外に出され そのあと2試合出場禁止措置をとられたかと思ったら、またしても 悪夢のレッドカードだ。テイム ケーヒルのレッドカードで 退場だけでなく その後2試合出場禁止という、処置にもびっくりした。
サッカーは、まれに見るアンフェアなスポーツだ。
たった一人の審判が全権を支配いて、審判に公正さを再考させることも 抗議することも違反になる。審判全権支配のサッカー試合に民主主義はない。たったひとりの審判に、良し悪しのすべてが決定されてしまう。選手達とともに、審判も走っているのだから、角度によっては 見えないところだって 誤解だってあるはずだ。人には間違いもあるし、人間の視野には限界だってある。だから、相撲には行司以外に、審判席があり 勝敗に疑問のあるときは 協議できるし、相撲の取り直しもある。テニスも ボールがライン上か、内側か、ビデオで確認して判断をすることができる。サッカーフィールドは 縦105メートル 幅68メートルの広さ。たったひとりの審判の判断が公正かどうか、どうやって、審判するのか。
もともとオーストラリアではサッカーはマイナー。何と言っても クリケットとフットボールが国民的スポーツだ。それでも 日本よりも弱かったオージーチームが 国際試合を重ねるごとに強くなって、今ではFIFAワールドランク20位になって、日本の大きく差をつけた。これから良くなって 若い人たちが育っていくはずだった、オージーチームを思うと、今回の試合には、納得がいかないし、残念至極だ。
2010年6月12日土曜日
映画 「ロビン フッド」
イギリス映画 新作「ロビン フッド」を観た。第63回カンヌ映画祭のオープニングに、上映された作品。
ロビン フッドは 中世イングランドの伝説上の義賊だ。
いつの時代にも 義賊は人々から愛される。権力に楯突いて 権力者の独占する富を 民衆にばら撒いたりする。人々は抑圧者を憎むけれど、反逆する勇気や力を持たない。だからごく普通の人にとって反逆者は、時として、自分の代弁者であり、英雄でもある。鼠小僧、石川五右衛門、紅はこべ、ネッド ケリーなども人気者だ。
今まで ロビン フッドは、何度も何度も 映画化されてきた。1976年には、「ロビンとマリアン」という題で、ロビンをショーン コネリー、マリアンをオードリー ヘップバーンが演じている。デイズニーアニメの「ロビン フッド」は、キツネだ。1991年にはケビン コスナーがロビンをやった。
新作では、ロビンは オージーのラッセル クロウ、マリアンを これまたオージーのケイト ブランシェットが演じている。監督は「グラデイエーター」、「ブラック ホークダウン」、「エイリアン」を作ったイギリス人 リドリー スコット監督だ。
オーストラリアはその昔 イギリスで有罪を宣告された受刑者が送り込まれて できた国。もとはイギリス人とは言っても イギリス英語はしゃべらない。そんなオージー俳優ケイト ブランシェットに「エリザベス」その1も その2も演じさせて、アカデミー賞までオーストラリアに持っていかれてしまった。イギリスには英国女王を演じられる役者が居ないのかしら。まあ、それほどオージー俳優の質が高いということか。15年オーストラリアに住んでいるから という理由からかどうかわからないけれど ケイト ブランシェットは一番好きな女優だ。フィルムよりも、舞台を大切にしている本当の役者。育ち盛りの3人の男の子のお母さんとは思えない。本当に美しい女優だ。
ラッセル クロウも良い。同じオージーのニコル キッドマンがメデイアを嫌って ものすごく高い塀と監視カメラで守られた家に住み、外出ごとにパパラッチを巻くために 同時に3台の車が家を出るようにして、パパラッチがそれを追ったとたんに ゴミ自動車に隠れて外出する というようなことをやっているのとは、違って、ラッセル クロウは何も隠さない。表も裏もない人。フットボールチームを持っていて その運営に財産をつぎ込んでいる 私生活でもマッチョな人なのだ。彼はこの同じ監督の「グラデイエーター」でアカデミー主演男優賞を獲った。体が大きいし、アクション映画が良く似合う。この人が 馬に乗って全力疾走させながら、両手で剣を持って敵に向かっていく姿は、まったくもって 黒澤監督の三船敏郎の姿に重なる。
ストーリーは
12世紀後半のヨーロッパ。
十字軍遠征中のロビンは 勇敢な戦士だ。腕も立つが、口もたつ。獅子王リチャードに、率直に「敵国を侵略するのは 仕方が無いが、無意味な殺戮はすべきでなない」と進言して、王の怒りに触れ 仲間とともに刑罰を科せられる。しかし、戦闘で獅子王リチャードは あっけなく殺される。王の死をロンドンにいる王子ジョンのもとに、知らせるための使いが、フランス軍の密使に襲われて全滅した。そこをロビンとその仲間が通りかかり、獅子王のヘルメットと白馬を奪い返す。虫の息になっていた使いの男は、ロクスレイといい 自分の父親から授けられた家宝の刀を父親に返してもらいたい とロビンに言い残して息絶えた。 ロクスレイの父親を思う姿に心をうたれ、ロビンと仲間は 彼の故郷のノチンガムに向かう。
ノッチンガムでは、年老いた盲目の父親が 息子の妻とともに、ロクスレイの帰りを待っていた。ロビンの報告は 息子を失ったノッチンガム領主の父親にとっても 夫を失った妻マリアンにとっても残酷な知らせだった。10年余りの間、男はみな十字軍に駆り出され、働き手の不在に農民達は 疲れきっていた。女達は農作業にやつれ果てていた。
ロクスレイ家で休養をしていたロビンに、やがて、父親は このまま居て 息子として家を継いで欲しいと、懇願する。帰る家がある訳ではないロビンは 乞われるまま ロクスレイ家に留まる。そしてマリアンを妻として 領主の跡取りとして農地の世話をまかされることになった。
しかし、ジョンが国王になると税のとりたてが厳しくなるばかりで 領主達は不満をつのらせていた。ジョン王はフランス人の王女を愛人にしており、裏ではフランス密使が暗躍、イギリス国の内部から すでに独立が蝕まれていた。フランス側の密使は 税の取立てに不満を持っている領主たちの反逆を助長して、イギリス内部から反乱と崩壊を画策していた。そして、遂にフランス軍は大挙して、ドーバー海峡を越え、イギリスに侵攻してきた。
ジョン王も、税の取り立てに抵抗していた領主達も力をあわせて、フランス軍に立ち向かう。激しい戦闘ののち、ロビンの指導力のもとで、戦果をあげ、イギリス軍の勢いに負けたフランス軍は退却を余儀なくされる。
ようやく他国の侵攻の危険が去った。しかし、時を移さずジョン王は、反抗的な領主達すべてを処刑するという暴挙に出た。ロビンはマリアンを伴い、仲間達を集めて、シャーウッドの森に入って身をかくした。
というお話。
ロビン フッドと聞いて、シャーウッドの森を拠点に 悪い金持ちから富を奪って 人々に分けて与える大泥棒を想像しているとちょっと違う。そうなる前のお話だ。どうしてロビンが シャーウッドの森に身を隠さなければならなくなったのかという事情を映画化したもの。
130頭の馬、500人の戦闘術に長けた戦死をエキストラに使ったそうだ。フランス軍の侵攻をくい止める戦闘シーンは 迫力満点。
この映画ではロマンチックなシーンがない。ロビンとマリアンとの結びつきが 普通の男と女の結びつきを越えている。
一度として関係を持たなかったロビンが死地に向かうときに、マリアンに向かって、これが人生の最初で最後という心を込めて アイラブユーと言い、それを受け止めながら マリアンがそっぽを向く。そのときの二人の間に流れる空気の密度の濃さに、思わず涙がこみ上げる。このとき二人は 他のどんな夫婦よりも 心で強く結ばれていたのだ。とても心に滲みるシーン。
やたら体が大きくて、無口で強い。無表情だが心は優しい。そんな、オージーの 代表選手みたいなラッセル クロウが、あまり好きじゃない人も、この映画を観て、「あ、、、頼りになりそう、こんなおとうさん欲しい」と思うかもしれない。無精ひげに白いものが混じるようになって ラッセル クロウ ますます良い味のある役者になってきた。
2010年6月10日木曜日
映画 「プリンス オブ ペルシャ 時間の砂」
映画「プリンス オブ ペルシャ 時間の砂」を観た。
監督:マイク ニューウェル
キャスト
プリンス ダスタン:ジェイク ギレンホール
プリンセス タミーナ:ジェマ アーターモン
9世紀 ペルシャ王国。
アクションゲームを映画化したもの。ふんだんにCGを使って チェイス バトル、壁を走って登り 建物から建物へと飛び移り 屋上から飛び降りながら敵を戦う アクションのてんこ盛りだ。大人気のゲームというのが うなずける。こんなゲームならおもしろいはずだ。
アクションの連続でいて 不思議と残酷さを感じさせない。みな きれいな英語を使って映画が上品に仕上がっている。さすが、ハリーポッターを作ったイギリス人監督 マイク ニューウェルだけのことはある。
ストーリーは
古代ペルシャ王国の国王には2人の王子がいたが、ある日 王が街に出た際に 一人の少年が 横暴な衛兵を相手に一歩も譲らない勇気のある姿を見て 連れて帰り養子にする。この少年ダスタンは 国王の3番目の息子として、他の二人王子と一緒に 分け隔てなく仲良く育てられた。人徳のある国王を3人兄弟は 心から敬愛し、王国を盛り立てていった。
3人のプリンスが成長し立派な戦士となったころ、伝説の聖地アラムート王国に 侵攻することになった。プリンス ダスタンの戦略が功を奏して アラムートの堅固な城壁を破る事が出来、アラムート王国を征服することができた。戦いの最中、ダスタンは 敵から美しい短剣を奪取する。
しかし、アラムート王家が降伏し、勝者ペルシャ王国の戦士達が祝宴を上げている最中に、こともあろうに、ペルシャ王国の国王が 毒殺される。その場にいたプリンス ダスタンに、嫌疑がかかり、ダスタンは追われる身となる。必死に追手から逃げるダスタンに、人質になっていたアラムート王国のプリンセス タミーナが後を追って逃げる。そして、ダスタンとタミーナの逃避行が 始まる。
ダスタンには何故 タミーナが追ってきたのか わからない。タミーナは ダスタンが奪った短剣を取り戻そうとしていたのだった。アラムート王国の国宝だったこの ガラスの柄の短剣は、時を繰る力が秘められている。この短剣をかざすと 時を巻き戻し過去に戻って 時をやり直すことが出来るのだった。
ダスタンは ペルシャ王国にもどって 敬愛していた父親を殺した真犯人を見つけ出し 自身の無実を証明しなければならない。そして、ペルシャ王国がアラムートを侵攻した歴史を過去にもどして もう一度やり直して あやまちを正さなければならないのだった。
というお話。
美少年俳優としてテイーンのアイドルだった ジェイク ギレンホールが 初めてアクションヒーローに抜擢されたことで、話題になっている。
ジェイク、29歳 アメリカ人。彼はこの映画に主演する為に 3ヶ月余り 英語の発音訓練を受けて キングイングリッシュを、話せるようにしたという。この映画では、サーの称号をもっている英国俳優 べン キングスレーが重要な役どころを演じているが ジェイクも同じようにきれいな英語を話している。
聞き比べれば英国英語とアメリカ英語は 聞き分けられるが、この映画では全員がきれいな英語を使っている という映画評を読んで 初めて ああ、そうだったんだ、と思い当たった。言われるまで気が付かなかったのだ。それでやっと、1分ごとに、名詞に ブラデイーや、F、、KINGをつけて話す癖ができている 汚いアメリカ英語の映画とちがって 映画が上品に仕上がっている訳がわかった。
ジェイクは 撮影に入る前、半年かかって 筋力集中トレーニングを受け、体重を5,5キロ増やしたそうだ。何千回もの 剣の立ち合いのトレーニングも積んだという。そんなトレーニングを積み重ねた結果 美少年俳優を脱却して、アクションヒーローに変身したわけだ。役者も楽じゃない。
ジェイクは 「ドニー ダーコ」では、うつ病の青年を演じ、「ゾーデイアック」では 殺人犯を追い詰める まじめ一方の新聞記者、そして、ヒース レジャーと共演した「ブロークバック マウンテン」では、ゲイの青年を演じて アカデミー助演男優賞のノミネートされた。目が大きくて どちらかというと、憂い顔のほうが 笑顔より似合っている。まじめでいつも真剣、唇かみしめていて、 今回の映画でも プリンセス タミーナとの逃避行で、二人して命の危険に身をさらしながら タミーナを、およそ、女として扱っていない。え、君、女の子だったの?と、最後の最後に、気が付くみたいなところが ジェイクらしくておかしい。
アクションでは、スタントマンを使っていないそうだ。何ヶ月もの訓練のおかげで 彼のアクションやチェイス バトルもなかなか 良くて 楽しいアクション映画だった。
アラニス モリセットが主題歌を歌っている。
それよりも、何と言っても ペルシャ王国の映像が美しい。風に砂が舞い、砂に模様を描き、音も無く そのすがた形を変える。砂漠の上から日が昇り、砂漠の上で日が沈む。砂漠の例えようも無い美しさ。
それにあわせた音楽が良い。「アラビアのロレンス」の世界だ。砂漠のシーンでは、映像も音楽も この監督は デヴィッド リーンのアラビアのロレンスを思い描いていたに違いない。
アメリカから来た新聞記者の、「どうしてあなたは砂漠にいるんですか」という問いに、ロレンスは「砂漠は清潔だから」と ひとこと答える。そんなシーンがよみがえってくる。ロレンスにとって、軍事戦略や 戦争や軍人としての英雄行為や、外交と言う名の利権 取引、そういった俗世間にはまったく興味はなく、ただただ、彼は砂漠を愛していたのだ。
伝説の時を繰る短剣。
ロレンスには、過去に戻って やり直したいことが沢山あっただろう。時を巻き戻すことのできる伝説の短剣があったなら、ロレンスは あんなにも早く 若くして死に急ぐことは無かったかもしれない。
写真は ジェイクのプリンス ダスタンと、コンピューターゲームのダスタン。
2010年6月7日月曜日
映画 「ドン ジョバンニ」
新作、イタリア映画「ドン ジョバンニ」(IO DON GIOVANNI)を観た。オペラ「ドン ジョバンニ」は モーツアルトによって作曲され、1787年に初演されたが、スペイン人で1003人の恋人を持っていたといわれるドン ジョバンニという伝説のプレイボーイをオペラ化したものだ。日本では、「ドンジョバンニ 天才劇作家とモーツアルトの出合い」という長い邦題で、公開されたらしい。
オペラとは 200年も300年も前に作られたものだ。華やかなヨーロッパの最高芸術の傑作の数々をいま、わたしたちは繰り返し観ている。大昔にできたオペラを観る人が 今もなお感動して 心洗われる思いをするのは、そこに真実があり、芸術家の魂がこめられているからだ。
この映画をみると、ドン ジョバンニというオペラがモーツアルトによって どんな時代背景のもとに、どのような過程を経て製作されたのかがわかる。イタリア語が耳に優しく バックに流れる音楽が良い。聴いて心地よく、観ていて素晴らしい作品だ。
監督:カルロス サウラ (CARLOS SAURA)
キャスト:ロレンソ:ロレンソ バルドッシ
エミリイ:エミリア ヴェルジネリ
モーツアルト:リノ グニシエラ
カサノバ:トビアス モレッテイ
1763年 ヴェニス。
ロレンソ ダ ポンテは、詩人で作家、女たらしで、女泣かせだ。何と言っても カサノバの親友だから女たらしもプロ並みだ。また、イルミナルテイのメンバーでもある。子供の時から科学への強い探究心と、信念からカソリックの洗礼を拒否してきた。イルミナリテイが 教会から厳しく糾弾、弾圧されている時代だ。
ロレンソの素行が悪いとのことで、彼は遂にヴェニスから立ち退きを命令される。秘密結社イルミナリテイのメンバーのひとり、裕福な商人から、ロレンソは 一人娘のエミリアを紹介される。商人は自分が病気がちで、跡継ぎもいない。一人娘をロレンソに託して安心して死んでいきたいという。ロレンソは 娘に会って、一目で恋に陥る。しかし、ヴェニス立ち退きを前に、妻を持つ身分ではない と言い残して ロレンソは単身 ウィーンに向かう。
老作家で、名の知れた親友 カサノバの紹介で、ロレンソはウィーンで活躍する作曲家サリエリに会いに行く。サリエリに オペラの台本書きとして雇ってもらえることを期待して出かけていった教会で、ロレンソは若いモーツアルトに出会う。同じ年頃のロレンソとモーツアルトは すぐに 出会って親しくなった。
モーツアルトは このとき、死の数年前。若く才能をもてあましていた。作曲した作品は評価されず、妻コンスタンチンとともに、貧困にあえいでいた。その日の生活のために、教会でオルガンを弾き、貴族の娘達にピアノを教えなければ ならなかった。
サリエリは 宮廷からオペラを作るように命令をうけていたが、思うような作品が作れずに、名前だけを自分のものにして、モーツアルトにオペラを書かせようと画策していた。
ロレンソは、親しくなったモーツアルトに 新しいオペラの構想を次々を出してモーツアルトと共同でオペラを製作し始めた。モーツアルトは 眠る時間を作曲のために費やしながら 残る命のともし火を燃やすようにして作品を作っていく。
ロレンソには どうしてもドン ジョバンニを完成させて成功しなければならない理由ができた。ヴェニスで一目会って、恋におちたエミリアがロレンソを頼って ウィーンに出てきたのだ。
一方、オペラの数々のアリアを作曲している最中、モーツアルトには、父親の死という 悲報が届く。自分を音楽家として育ててくれた尊敬すべき父親を失い その死にインスパイヤされて、とうとうモーツアルトはオペラを完成させる。
1787年 プラハ国民劇場での初演、国王、皇族の前で、モーツアルト自身が指揮する。オペラが終わって、満場の観客は、静まり返って王の判断を待っている。否か是か。オペラは成功だった。
というお話。
映画の主役はロレンソとその恋人エミリアなのだけれど、彼らの出合い別れ、そして再会する筋書きに、平行して、登場する大物達がすごい。モーツアルトと妻コンスタンチン、サリエリ、王族、貴族たち、美しいオペラ歌手たち、そして、老いてなお魅力あるカサノバなどが、それぞれ主役でもある。
モーツアルトの無邪気で自由奔放な姿に心うたれる。
オペラのなかのひとつひとつの曲がうかびあがってくると、夢中で自ら歌いながら作曲をする。そうしているうちに熱にうかされた病人のように曲にのめりこむシーンなど、芸術家の熱が伝わってくるようだ。31歳のモーツアルト。4年後にリューマチで死ぬ。生活苦のなかで、邪気など全く無縁で、純真であり続けたモーツアルトの短い一生を思うと ただただ 痛ましい。
ジアコモ カサノバは、ヴェニス生まれの作家。
実在の人物でドン ジョバンニばりのプレイボーイだった。1976年、フェデリコ フェリーニが ドナルド サザーランドを主役に使って 映画「カサノバ」を作っている。このころのドナルドは本当に美しかった。
2005年 ヒースレジャーが 映画「カサノバ」を演じた。貴族から修道女から人妻にいたるまで放っておけない。カーリーヘアーのヒース レジャーがカサノバになると 女たらしも おちゃめで可愛い。当時のヴェニスの人々の暮らしぶりを彷彿をさせる楽しい映画だった。
そのカサノバが この映画では年老いても魅力的な老紳士の姿で、オーストリア人俳優、トビアス モレッテイが演じている。知的で深みのあるカサノバだ。
わたしはこのトビアスが大好き。過去15年間 テレビの人気番組「インスペクター レックス」で 毎週顔を見てきた。15年間やっている長者番組というわけではなく、SBSでは何度も何度も同じシリーズを繰り返して見せるので もう前に見てしまったのに、繰り返して見ているのだ。レックスとは、ジャーマンセパードの警察犬で、ウィーン警察殺人課所属。頭が良くて 鼻がきくので、殺人犯人を必ず見つけ出して捕まえてしまう警察犬なのだ。
ウィーン観光庁が スポンサーしているテレビフイルムなので、毎回殺人が起きる場所も、宮殿やウィーン国立博物館や、ウィーンオペラハウス、国立バレエ学校、ウィーン駅だったりして、観ているとウィーン観光ができる。刑事達が住むウィーンのアパートも、石作りの古い歴史的な重みのある建物だ。そのレックスの持ち主で殺人課刑事を このトビアス モレッテイが演じている。本当に犬が好きな人にしか わからない犬語をちゃんとわかっていて、彼も犬も演じていると思えない自然さだ。
レックスを演じている犬が むかし持っていた犬にそっくりで、番組を見始めると 目が離せない。走り方も、匂いの嗅ぎ方も 甘え方もそっくりだ。そんなわけで、トビアスが、ドイツ語でなくイタリア語で 実際年齢より老け役でこの映画に出ていて うれしい。テレビでみても映画でみても良い俳優だ。この映画で、彼が一番光っていた。
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