2009年12月4日金曜日

映画 「2012」



軍縮から核兵器廃絶を理念としている米国大統領オバマが 2009年ノーベル ピースプライスに輝いたことは 米国史のなかで画期的なことだった。
しかし理念は理念、現実には米国の失業率は10%を超え イラクで4000人もの若い兵士を死なせ アフガニスタンに兵力を増強投入することになり外国への介入による損失は 増加する一方だ。ウォールストリートのマネーゲームに踊らされ、家を失い、仕事を失った人々が 朝から食券を手に ボランテイアのスープキッチンに並ぶ人々の群れに2010新年の鐘の音は どう聞こえるのだろうか。

古代マヤ文明の暦が終わる2012年12月21日に地球が滅亡する、という映画「2012」を観た。ソニーピクチャー、2時間40分の大作。制作費2億ドル。 監督 ローランド エネリッヒ。彼は前に「インデペンデンス デイ」と、「デイアフター トモロー」を作って、繰り返し繰り返し 大災害を描いてきた。デザスターマニアとでも言うべきか。
自然災害という逆らいようのない状況の中で 家族が生き残るために身を挺して戦い、強い父親が親や子を守り そこに 一心同体になった家族の愛や夫婦愛が描かれていて、しっかり涙を振り絞らせてくれる。冷酷な敵は、アルカイダでも ヒズボラでも PLOでも ロシアスパイでも、アラブの自爆テロでも、CIAでも イスラエル秘密警察でも、スペインバスクエタでも、タミールタイガーでも、チェチェンゲリラでも、クルドPKKでも、ソマリア海賊でも、IRAでもリアルIRAでも、ビルマ軍事警察でも、ポルポトでも、ジャンジャンウィーでも、フツ族反政府ゲリラでも、イルミナリテイーでもないから、どんなに冷酷無比に描いても 誰からも文句を言われなくて済む。今度は、今までにも増して災害の規模が大きくなって 地球上ほんの僅かの人しか生き残れなかった。陸地が海中に飲み込まれて無くなって、人類発生の地、アフリカ大陸しか残らなかったので、再び人類がアフリカ大陸で生存者だけで再出発して行こう という結論で終わる。

太陽のニュートリノが活発化して地球のコアが加熱、その熱で緩んだ地殻が一気に爆発して大地震が起こり 津波、洪水が起きて大陸が一挙に海中に沈没する。大国の指導者達は、いずれ 地球が大災害で海に沈むことを知らされていた。ひそかに選ばれた大国の中でも 選ばれた政府関係者だけが生き残れるように、政府は2000年から中国の地下に巨大船の建設を着工していた。
しかし、地殻変動は予想を遥かに上回る速さで進行し、逼迫した事態になった。避難の猶予は3日間。選ばれた政府関係者、10億ユーロを支払った資産家に 連絡が入る。すぐに、避難せよ、と。

週末、売れない作家、ジャクソンは別れた妻の家を訪れる。二人の子供をイエローストーンにキャンプに連れて行く約束だ。行って見るとイエローストーンにあったはずの湖がなくなっていたり 地質が変わっていて、おまけに新しい軍事施設が出来ている。事態を飲み込めずにいるジャクソンの前に、 私設ラジオ放送を発信している ちょっとおかしな男が現れて、地球はじきに壊れて人類は破滅していくが、助かりたいならば 巨大船に乗り込まなければ間に合わない。事実を政府は国民に隠していて、事実を公表しようとした科学者は皆、秘密政府に殺されている と驚くべき話をして聞かせる。ジャクソンは にわかには信じられないが イエローストーンの帰途、男の予言どおり道路に亀裂が走り 大地震が起きる。異常事態を見て、エブリマンは家族を守る為に巨大船に たどり着いて子供達を乗船させなければならない と心に決める。小型飛行機で脱出するそばから大地が燃え始まり 空の上から アメリカ全土が火に包まれて つぎつぎと大地が津波に飲み込まれる。

一行は 知り合いの富豪の力を借りて 旧式飛行機で 巨大船の隠してある中国に到着し、巨大船にもぐりこむ、と同時に 中国大陸も津波に襲われて沈んでしまう。ラサのチベット寺院も、日本もあっという間に海の底、ローマ法王に祝福されながらバチカン広場を埋める数万人の人々も沈んでいく。
この映画は大災害で地球上のほとんどの生き物が絶滅していく中で 一組の家族が右往左往しながら生き残り 家族愛でしっかり結ばれていくという 極めて小市民的な映画だ。背景だけが馬鹿でかく地球が壊れてしまうのだけれど。

突っ込み満載
父親のジャクソンは人類生存をかけた巨大船の水漏れを決死の潜水で修理して成功するので皆から英雄扱いされるが、元はといえばこの家族が搭乗資格がないのに、こじ開けて侵入したから水漏れが始まっただけで、彼は英雄でも何でもない。自己責任をとっただけだ。

国連で 巨大船に乗船できるのは主要国のVIPと、10億ユーロ支払った資産家のみと、決議していた。他の弱小国代表は、外に出されていた。主要国ってどこ?米、英、独、仏、伊、露、中、ここに日本が加わるのは不自然に見えるけど、画面では日の丸があった。さては国連常任理事国になれるということか。

地球滅亡 人類生存危機の情報を一部の国の上層部のみが知っていて、国民に隠して何年もの間 巨大船を作る というのは不可能。着工に何万人もの人材と労力を必要とする工事関係者の口をふさぐことは出来ない。国家による情報の独占にも限りがある。
また、中国のチベット地方の地下に隠してあった 3艘の巨大船を、中国政府が他国の人々のために提供するとは思えない。世界最大人口を誇る中国が自国民のほとんどを切り捨てて、イタリアの首相一家とか、イギリス皇室一家とか 日本の天皇一家とかを船に乗せてくれると思えない。

元妻が子供を守る為に大活躍する元夫をみて、同居の再婚相手をゴミのように捨てて元夫とよりを戻すが、女心、そんなに単純だろうか。別れるからには理由だったあっただろうに。そんなに簡単に、二人の子供を巻き添えにして別れたり またくっついたり簡単にしてもらいたくない。

この映画、全体が漫画ちっく。登場人物が すごく良い人か ものすごく悪い人かのどちらかで、良い人は沢山の人を救おうして自分は死んでいく 限りなく良い人だが、悪い人は徹底的にエゴイスト。極端すぎて良くも悪くもなる人間というものが描かれていない。

しかし、デザスター映画「タイタニック」、「ポセイドン」、「インデペンデントデイ」など、基本的に、こういう映画は結構楽しい。もしもの時のために、オートマチックだけでなく マニュアルカーの運転もできなければ、ついでにヘリコプターくらい操縦できるようにしておかなければ、とか、少なくとも1キロは泳げるようにしておこう、などと、映画の後に 軽ーく決意してみたりする。

人はいつか必ず死ぬ。
どんな死に方が見苦しくないか、デザスター映画を観て、疑似体験してみたり、シミュレーターしてみるのも、結構良いかもしれない。