原題通りに訳すと「ファベルマン家の人々」を観てとても良かった。
映画監督ステイーブン スピルバーグの自伝。
今、大人でスピルバーグの映画を、ひとつも見たことのない人は少ないだろう。アカデミー賞監督賞を8回ノミネートされて「シンドラーのリスト」と「プライベートライアン」で2回受賞。1979年代以降、世界歴代興行収入第1位のレコードを何度も塗り替え、単に娯楽映画を製作するだけでなく、ホロコーストの生存者証言を記録する「ショア―生存者映像歴史財団」を作り活動してきた。それが名誉なのかどうか知らないが、英国王室からナイト爵を授与され、独国連邦共和国功労勲章、ベルギーからも王冠勲章、米国大統領自由勲章を受章した。
監督作品を羅列してみると
この映画はスピルバーグが5歳の時、両親に連れられて見た初めての映画「地上最大のショー」(1952)で、列車が衝突大脱線するシーンに魅せられ、ねだって模型の列車を買ってもらうところから始まる。彼は、その列車を衝突させて16ミリカメラで捉えることで、フイルム造りの面白さに取り付かれていく。
彼は、愛情深いが凡庸な父親と、一緒に住んでいた父親の親友と関係を結び離婚してしまう自由奔放な母親のもとで、多感な少年時代を送る。幼少時代を過ごしたアリゾナからカルフォルニアに引っ越してからは、アメリカ人特有のユダヤ人差別の虐めの対象にもなるが、やがてユニバーサルスタジオに通うようになり、プロの腕を磨いていく。というお話。
テイーンのころ、彼が母親の行状に傷ついていて、その傷をずっと抱えたまま大人になり年を取ったいま、この映画でもってそれを清算したスピルバーグに、とても共感した。誰でも子供時代に人に言えない傷を受け、それを抱えてきていて、どこかで人に言ってしまったことで心が解放される、気持ちが清算される、といった経験があるのではないだろうか。それを彼は映画でやった。
私は彼の作品の中では彼の最初の作品「激突」若干25歳で作られた作品が一番好きだ。NYのサラリーマンが仕事で南部をドライブしていて大型トラックを追い越したことで恨まれ、ただそれだけのことで地獄まで執拗に追われるお話で、この映画ほど怖い映画は後にも先にも見たことがない。彼が映像が与えるインパクトと、悪魔的魅力を叩き込んでくれた訳だ。
おかげでここで、羅列した21本の彼の作品は全部観ている。スピルバーグの観客を引き付ける力量、画面に魅惑させる巧みな手腕に今更ながら感心する。