2023年2月13日月曜日

医療崩壊

英国の医療崩壊が言われて久しい。もとはサッシャー首相による新自由主義による思い切った医療体制の合理化で公費を抑えるために公立医療を営利目的の企業に売りさばき、医療に極端な予算削減を強いた為、優秀なドクター、ナースらが一斉に海外に流出した事柄の上に、3年間にわたるCOVIDによる医療ひっ迫が、問題を露呈させた。救急車は2時間待ち、手術や癌の治療のための入院がすぐできず自宅待機させられ、待っている間に亡くなる人が週に500人という。12月には10万人のナースが職場を放棄して街をデモした。150年の歴史を持つロイヤルナースカレッジにとって史上初めてのデモだったという。インフレによる生活苦にもかかわらずサラリーが5%しか上がらなかったので賃上げを要求してのデモだった。

オーストラリアでも2年余り、政府がCOVIDを予防するという名目で鎖国政策をとったため、スキルワーカーを外国人に頼っていた医療社会では、未曽有の労働者不足に陥った。ナースも待遇改善と賃上げを目標に、病院ごとにナースアソシエーション主導のもとにデモをして、わずかだが賃上げに成功。とくにエイジケアではCOVIDによる国の死亡者の70%がエイジケアのお年寄りだったにもかかわらず、職場に留まったナースたちに、政府からボーナスが出た。そんな程度のことで、ちょっと嬉しかった自分も情けない。実にCOVIDで過去2年間、苦しい思いをしたのだ。

COVIDが老人を死に追いやることが分かって、流行し始めた2020ころ、医療現場で70過ぎても働く私は、まず確約書にサインさせられた。現場に残ればCOVIDに感染し、年齢から言うと死ぬリスクが大きいがそれを理解しており、仮に死ぬことになっても訴訟を起こさない、という誓約書だ。幸い感染せずCOVID患者も看護してきた。現在でも仕事始めに、職場の入り口でラピッドテストをしてから仕事に入り、外科用マスクをつける。1人でも患者や職員で感染者が出れば、マスク、フェイスマスク、ゴーグル、靴カバー、全身を覆うガウンの再登場だ。これをこの3年の間に何度も繰り返してきた。

この3年でナース不足による過重任務で辞めて行った職員は数えきれない。1番の親友だったドイツ人ナースに死なれた。2人の職場仲間は若いのにストロークを起こした。ウィルスという目に見えない敵への不安と、自宅から職場まで往復するだけで、娘たちにも会えない、遊びに行けないといった都市封鎖による心理的ダメージは大きかった。酷い時期にはダブルシフト、18時間勤務を引き受けざる負えないこともあった。そのため互いにカバーしあう仲間同士の友情が育ったともいえる。
政府は2万3千人のドクターとナースが必要だと言っている。海外からのワーカーと留学生に期待を寄せている。

世界的な老人人口の増加により、COVIDが終息しようがしまいが、どの国も医療ひっ迫、国民健康保険の存続が厳しくなっている。資本主義社会では利益になる商業活動が優先されるから、医療と教育は常に取り残される。もう一度、新自由主義の幻想から目を覚まし、国が医療と教育を先導するシステムに帰るべきだ。私は大叔父、大内兵衛が支援した美濃部亮吉の東京都都政で、授業料無料の看護大学で学び、おまけに奨学金までもらいながら資格と取って働き始めた。それがいま必要なのに、どうして今できないのかわからない。
100%返済金なしの奨学金で医学を学んで、優秀なドクターやナースを育てる公立の大学を各県に作るべきだ。現在、日本政府は武器を大量に買い込み、人を殺すことばかりに夢中になっている。人ならば、人を殺すことより、人を生かす医療と教育を。声を大にして叫びたい。殺すな!