ロシアによるウクライナ空爆と地上攻撃によって、空前の数の避難民が近隣諸国に流出している。国に残った者は、NATO、USとUKによる、無制限ともいえる膨大な武器支援をうけて、停戦に応ぜず、交戦を続けている。誰が停戦を拒否させて戦争を長びかせているのか。
避難する人々の群れを見て、1917年のロシア革命を思う。私のヴァイオリンの先生は、このボルシェビキ革命から逃れてきた貴族だった。小野アンナという。ジョンレノンの妻オノヨーコは彼女の姪にあたる。毎週レッスンを受けていたのは彼女の直弟子だから私は孫弟子ということになるが、年1度の発表会前には必ず来て練習を見てくれた。長い髪を後ろで小さくまとめられ、いつも淡い色の服を着た、物静かで気品に満ちた人だった。彼女がロシアに帰国する前の、最後の発表会のために、「庭の千草」の曲を渡されてむくれた。こんな平凡な曲を私に?と気乗りしないまま、その年の発表会を終えた。レッスンは基礎の音階練習と指の練習ばかり、曲を弾きたいのに、1時間のレッスンで曲をなかなか弾かせてもらえない。基本を真面目に取り組まないので彼女の期待に沿えなかった。
それから半世紀以上の時間が経って、シドニーにマクシム バンゲロフが来てくれた。一番尊敬している素晴らしいヴァイオリニスト。その人がコンサートの最後にアンコールに応えて「庭の千草」を弾いた。バリエーションをたくさんつけたそれは、本当に本当に素晴らしかった。アンナ先生は、この曲をこんな風に弾いて欲しかったんだ、と思うと涙が出た。
人の歴史は戦争によって翻弄される歴史だ。戦火から逃れるために小野アンナは日本に来て、自分が生まれた祖国に帰るまでに42年間を要した。ロシアに帰って、幸せな20年間を送って、幸せな死を迎えた、と思いたい。
I am singing [IMAGINE] by the Beatles. There is no Winner in a war. Cease fire immediately!!!