2013年11月3日日曜日
オットと上野で科学博物館へ
夜中じゅう嵐が吹き荒れていた。日本滞在最後の日、朝になると、大型台風は過ぎ去りつつあったが、風がとても強い。私一人なら行きたい美術館も、行きたいコンサートも、観たい映画もたくさんある。でも オットには遠くが無理なので、ホテルのまわりを タクシーで出かけてはタクシーで帰ってくることを繰り返している。それでもオットには 初めてのカフェ、初めてのレストラン、初めて見る美術館や博物館に、珍しいものがたくさんあって、とても嬉しそうに眺めている。オットが日本に居ることを知らないオーストラリアの仕事仲間から 携帯電話に電話がかかってきて、「ジャパンは素晴らしい、食べ物は美味しいし、人々が親切で、謙虚で、優しい。喘息も起こさず最高のホリデーを過ごしているよ。」と熱弁している。
風で髪が、ぐしゃぐしゃになりながら、タクシーで上野科学博物館に行く。入口にシロナガスクジラがある館で、娘たちが子供のころ一番好きな遊び場だった。中には、「忠犬ハチ」が居て、南極から生きて帰ってきた「ジロー」が居る。カメに入ったミイラも健在だったし、恐竜のレプリカがたくさんある。いくつになっても楽しいところだ。
ダイオウイカという世界最大のイカも居る。マッコウクジラの前身骨格も組み立ててある。アンモナイトもたくさんあって、フーコーの振り子もあって、地球が自転していることを実感させてくれる。
ゼロ戦機が展示されているのを初めて知った。前にも見ていたのかもしれないが、ゼロ戦に否定的だったから目に入らなかったのかもしれない。パブアニューギニア沖で発見されて海から引き上げられて復元されたという。オットは、嬉しそうに、「オーゼロー!!!」と叫ぶ。オーストラリアでも有名だ。日本ではゼロ戦は、ジブリの宮崎駿による「風立ちぬ」で、一挙に話題になって関心が持たれた。この映画を観たかったが、日本滞在中は無理だったので、上下2巻のアニメを本にしたものを、帰る前に空港で買った。帰りの飛行機を待つ間、読むというか、見ていたら、見ず知らずの中年のおじさんに、シドニー行の飛行機を待つゲートで、「それ、いくらでしたか?」と聞かれたので、びっくりした。ジブリはもはや子供むけのアニメではなく 大人も中年も老年も共通で愛されていることがわかって、嬉しかった。
ゼロ戦については、百田尚樹の「永遠のゼロ」を読んでいて、ゼロ戦がいかに低予算にもかかわらず優れた戦闘機だったか、を知った。「今思い出してもあのゼロには悪魔が乗っていたと思う。550ポンドの爆弾を腹二抱えてあれほどの動きができるなんて信じられない。」とアメリカ人パイロットに言わせた攻撃性と機動性を持っていた。しかし、日本軍は、「参謀たちはゼロの搭乗員は消耗品と言い、整備士は備品と呼んでいた。」のが実情だった。この作品は、ゼロ戦パイロットを主人公に、戦争の非情さと人間愛を描いた稀有な小説だ。漫画化されたようだが、小説に感動したのと、好きな漫画家が書いていないので漫画は読まない。
オットは第2次世界大戦前とベトナム戦争の中間に青春時代を送ったために どちらの戦争でも兵役を免れた。彼の2歳上の人々は強制的に徴兵でヨーロッパ戦線に送られた。彼より5歳若い人々は懲役制で、一兵卒としてベトナムに送られていた。この不人気なベトナム戦から帰ってきたオージーたちは、徴兵で行かされたのに、「ベトナムで女子供を殺してきた」、と帰れば非難され、世論に叩かれた。このころはアメリカもオーストラリアも兵役は国民の義務で、反戦思想から兵役を拒否すれば 「アカ」のレッテルを張られて国家犯罪者として刑務所に送られた。オーストラリアでベトナム参戦者が第1次世界大戦や第2次世界大戦の退役兵士として国の功労者として認められるようになったのは、つい最近のことだ。望もうが望むまいが 否応なしに戦場に送られたのだから すべての退役者が同等に評価されるようになったのは時の流れゆえだろう。しかし、オットがもしベトナムに送られていたら、私との結婚は絶対無かっただろう。
戦争が悲劇なのは、それを望む者はわずかな者なのに、実際に戦場で戦う圧倒的多数の若者たちは、自分の意思ではなく強制されて、それが必要だと思わされて戦うからだ。何て非人間的なことだろう。だから、どんなことがあっても兵役を強制する徴兵制だけは 絶対に認めてはならない。
阿部首相は、福島原発事故以来、1000トン単位の放射線汚染水を海に垂れ流しているのを知りながら、それを否定して見せたり、28万6千人の被災後 避難生活を続けていて、10万人の人が仮設住宅生活を強いられているのに、東京オリンピックを誘致した。辞退すべきだろう。28万6千人の人が避難生活している、そのとなりでお祭りをして誰が楽しいか? 3年たっても家に帰れない10万人の人々が仮設住宅で、不便しているとなりで、スポーツをやって誰が楽しいか?2020年にオリンピックが東京に決まった時、オットは「トーキョーよりフクシマが先でしょ?」とぼそりと言った。当たり前だ。本当に、東京オリンピックに使うお金を全部福島に回しても足りない。それが、オージーの常識だろう。
そんなことごとを話しながら、ホテルの夜は更ける。明日の今頃は シドニーに向かう飛行機の中だ。