2010年8月31日火曜日
映画「マッチング ジャック」と小児白血病
映画「MATCHING JACK」を観た。
監督:ナデイア タス(NADIA TASS)
キャスト
母マリサ:ジャシンダ バレット
息子ジャック:トム ラッセル
父コーナー:ジェイムス ネスビット
息子フィン:コデイ スミット マクフィー
オーストラリア映画。オーストラリア人のナデイア タスが監督をして、その夫のデヴィッド パーカーがカメラを回して、メルボルンで撮影した映画。
ストーリーは
9歳のジャックは、たまたまサッカークラブの定期検査で血液検査を受け、急性白血病と診断されて、即、入院することになった。父親は出張中だ。検査、医師との面談、入院手続きなど、母親のマリサは、衝撃を受けていることを隠して、息子の手前、何事もなかったように笑顔で振舞っていた。いつもと変わらない母親の様子に、急に入院することになったジャックも 何事が起こっているのか あまり心配する気にならない。
入院部屋には、フィンというアイルランド人の ジャックと同じくらいの年頃の子が居る。化学療法を受けているフィンの頭には 毛がない。フィンには父親のコーナーが付き添っている。コーナーは活発で素敵な男だ。新入りのジャックとマリサを、フィン父子は とても自然に受け入れてくれて、すぐに仲良くなった。
コーナーは船大工だ。息子のフィンのために 亡くなった母親の姿を実物大に彫り ボートの舳先に取り付けて、航海の守り神にしている。フィンのベッドの回りをボート材で囲み、マットを立てて帆を張る。そこを扇風機で風を送ると フィンのベッドは まるで本物のボートのように、今にも海の上を滑り出しそうだ。フィンとジャックを乗せたベッドを コーナーが押して、病棟の端から端まで 移動すると、航海中の子供達を夢中になる。フィンとコーナーは、母親が亡くなった後、二人で世界中を航海している途中だったのだ。
フィンは いつも達観したような、物静かな少年だった。フィンに、君は血液の癌といわれる白血病なんだよ と言われてジャックはびっくりする。ジャックは 母親に否定してもらいたくて、母親を問い詰める。するとマリサは、笑顔で「そう、あなたは白血病なの」と言う。本格的な治療が始まる。
出張からジャックの父親が帰ってきた。ふとした偶然からマリサは夫が出張していたのではなく 若い愛人と休日を過ごしていたことを知ってしまう。夫の留守の間に 息子の発病と入院を経験し、息子に病状を理解させなければならなかった。ずっと息子のベッドの下に簡易ベッドを置いて 眠れない夜を 病院で過ごしてきた。夫の裏切りを知って 今まで一人で耐えてきた母親の思いが 一挙に爆発する。
一方、マリサとコーナーは、共に白血病の子供を持つ親同士の共感と友情が芽生えていた。
フィンの化学療法に 治療効果が認められない という残酷な医師からの説明がなされる。ジャックにも、助かる方法は 骨髄移植しかないことがわかる。ジャックの骨髄と同じ もしくは似ている遺伝子を持った人が親にも親戚にも どこにもいないことが分かり マリサは独自に骨髄移植ドナーを探し始める。すなわち、それはマリサの夫が関係した昔の女性をすべて洗い出して訪ねて回ることだった。尋常なことではない。しかし、夫が几帳面に関係した女性すべての記録をとっていた日記をもとに、マリサは夫の子供を産んだかもしれない女性を求めて家から家へと訪ねていく。
ある日 16年前に 夫が関係を持っていた女性が 16歳の娘をもっていて その顔が夫に似ていることがわかる。昔のことを ほじくりり返すマリサにたいして、怒り狂う女性の前で、16歳の娘は意外にも「私に弟がいるなんて素敵じゃない。」と言い、自ら病院に来て検査を受けてくれる。果たして、骨髄はジャックにマッチしていた。同じ夫の遺伝子を持っていたのだ。この16歳の娘のおかげでジャックは 骨髄移植に成功して完治する。
一方、フィンは ひとりコーナーを残して 母親のもとに旅立ってしまう。というお話。
今日 小児白血病の治癒率は毎年上がっていて、ほとんどが完治するようになった。しかし小児白血病を宣告された親の衝撃や、嘆きや怒りは 想像に余りある。
30年前、病院の輸血科で 高速回転血小板分離機の機械を操作していた。当時まだ何台も日本にない機械だった。血液ドナーを集めてきて、片腕の静脈から 2000-4000MLの血液を取って、白血球と血小板だけを採取して、もう片方の腕の静脈に返血する。採血に2時間以上かかり、沢山の血液を動かすので 同じドナーから何度も 繰り返して採血することができない。せっかく健康な人から取った 白血球と血小板は 取っても取っても その場でどんどん壊れていく。採血したばかりの血液を患児に輸血しても輸血しても足りない。
自分の体の骨髄の中で 正常な骨髄細胞ができなくなって 血小板と白血球が造られない状態になった子供達は 内出血や鼻血を止めることが出来ない。細菌感染に弱く すぐに熱を出し肺炎を起こす。子供達の命は どれだけ新鮮で良い血液を輸血できるかに拠っている。骨髄移植も移植手術に耐える体力があるときでないとできない。同じ遺伝子を持った親や兄弟から骨髄移植しても成功するとは限らない。
自然、どれだけ延命できるかは、どれだけドナーを集められるかが大きな鍵になる。ドナーを集める親の苦労な並大抵のことではない。30年も前のことだが、病気を持った親達の悲嘆も、怒りも祈りも 今も全く変わることはないだろう。当時の 治療に関わって亡くなった子供達 ひとりひとりの顔も名前もいまだに忘れることが出来ない。
小児白血病の子供を映画化した もう一つの映画「わたしのなかのあなた」 原題「マイ シスターズ キーパー」は、2歳で発病した娘を助ける為に、両親がもう一人、娘を産んで、その下の娘を 治療のための輸血や骨髄移植のドナーとして利用する、というむごい 実際にあった実話を映画化したものだった。キャメロン デイアスの母親役と、天才子役のアピゲール プレスリンが 熱演していた。
今回の「マッチング ジャック」はドナーを求めて、夫がむかし関係した女性達を 妻が訪ねまわるという これまた尋常でないお話だ。どっちの母親も狂っている。しかし狂わずにいられないところが この病気の残酷さだ。
大人たちの狂騒をよそに、2人の子 フィンとジャックは実に子供らしくて しっかりと死を受け止めて、印象深い。二人して、病院を抜け出して遊園地に遊びに行くところが美しい。夜の遊園地で乗り物に乗り、遊びまくって疲れ ふたりして呆然として立っている後姿の寂寥感、、。
逃避行がいつも美しいのは 必ず破壊的な終末が 迫っているからだ。
それと、妻を亡くし、フィンもまた無くしてしまったら、もう何も大切なものなど持たない海の男コーナーが やるせない。息子のためにならどんなことでもする。
ひとりボートを漕いで、360度見渡す限り海ばかりの 遠くまできて、そして息子の骨を 海に流す。輝く太陽を背に、白い骨が海風に乗り 波に交わって消えていくところが、一遍の詩のように、美しい。
2010年8月30日月曜日
春がきた
2010年8月24日火曜日
映画 「ソルト」とロシアスパイ
つい最近 米国各地に10人のロシア人スパイが 市民を装って住んでいて情報を収集していた。なかには夫婦として 子供を地元の学校に通わせていたスパイもいたし、若い美人の妻がスパイだったと聞かされて寝耳に水の夫まで出てきたが、一斉に逮捕された。彼ら10人のロシア側スパイは ロシアに逮捕 拘束されているアメリカ側のスパイで原子物理学者と交換に 超法規処置によってロシアに送り返された。10人のスパイの代わりに 米国に戻ってきた物理学者は 自由の身になったにも関わらず 自分はもともとロシア人なので、ロシアに帰国すれば また逮捕されるが それでも帰国したいという意志を表明した。
米ソ冷戦終結から時が経っても 依然として米ソ核兵器縮小交渉に毎回難渋しているように 互いのミサイル攻撃と防衛の対立は持続しており、スパイ合戦も続いているようだ。
何十年も互いの敵国に市民として潜入して 情報を定期的に母国に送り なんらかの指令を待っているスパイが あちこちにいるのは事実だろう。
15年前に成人移民英語講座で ロシアから来たスラーという青年と親しくなった。2メートル近くの身長があり、青い目で金髪の美青年。結婚したばかり。私も再婚したばかりだった。
当時、永住権を取得した移民には その人のレベルに合わせて沢山の英語講座が用意されており 510時間まで無料で講義を受けることが出来た。民間の英語学校に1年間通うより はるかにレベルも高く良質な教育プログラムだった。同じクラスには 若い人が多く、イラン、トルコ、レバノン、ポーランド、ボスニア、ルーマニア、ハンガリア、チェコスロバキア、チリ、ホンジュラス、などなど、様々な国の人がいて、友達になった。
でも ロシア人のスラーだけは、特別だった。会ってすぐ仲良くなった。いつも彼と二人で文学の話をした。彼は 驚くほど博識で、芥川龍之介の本など みな翻訳で読んでいた。私も彼も、英語のボキャブラリーが豊富でないので、適当な言葉が見つからず 時には互いに悔しい思いで歯噛みしながら、日本文化について語り、禅や山岳仏教などの話に熱心に討論した。またフランツ カフカの文学をどう捉えるか などという話にも及んだ。
彼の両親は共に軍人だったので、北極に一番近いニューアイランドというロシアの北の極限に暮らしたことがあると言っていた。1年のうち3分の2は、太陽が出ない島。この島はロシアの軍事基地で、数家族が交代で派遣されているが、1年のうち数ヶ月しか 昼と夜がない厳しい生活でうつ病に陥りやすいので 派遣期間は2年が限度だそうだ。家の外を5メートルもの高さのある大きなシロクマがノシノシ歩き回り、毎晩激しいブリザードが吹き荒れるという。そんな彼の話に夢中になった。
510時間の講座が終了したあとも、2回ほど彼と会った。1度はレストランで 互いにパートナーを紹介しあって、2度目は、オフィス街を歩いていた時 AKIKO-と大声で 呼び止められた。来週日本に行くんだ、と嬉しそうに言っていた。それが最後で、その後 何度か携帯電話を かけてみたが 誰も出なくて二度と彼を見ることが無かった。彼は健康そうな肉体を持ち 裕福そうだった。
今でも私は 彼はスパイだったのではないかと思う。何らかの目的で ここに送り込まれて、前触れもなくどこかに去っていった。彼と話に夢中になって二人で共有した時間をときどき思い出す。
映画「ソルト」を観た。ハリウッド映画で アンジェリーナ ジョリー主演の新作。トム クルーズが主役をやるはずだったのが、かねてよりジェームス ボンドのような役をやりたいと言っていたアンジェリーナが主役に抜擢されて話題になった。3人の赤ちゃんを産んで 養子を入れると6人の子供のおかあさんとして、子育てをしながら 国連親善大使を務めている。芯が強く しっかり者で 自分のスジを通すというイメージから決して外れない。173センチの長身で 目鼻立ちがはっきりした美人だ。
ジョン ヴォイドの娘。彼が米国のヌーベルバーグの切っ掛けになった「真夜中のカウボーイ」で登場したときの衝撃は忘れられない。「チャンプ」も良かった。
アンジェリーナ ジョリーの映画で一番好きなのは「MR&MRSスミス」2005年だ。
新作「ソルト」のストーリーは
CIAエージェントのソルトは 子供の頃ロシアで KGBの中でも過激派のグループに捉えられて、スパイとして特殊教育を受けて育った。しかし、KGBの中で二重スパイをしていた両親を殺されたことを切っ掛けに ソルトはアメリカに戻り CIAとして働く。北朝鮮で拘束されて拷問を受けるが、CIAの仲間に助け出された経験を持つ。
その後、博物館に勤めるドイツ人の昆虫学者と 恋に落ちて結婚、仕事を続けながらも 幸せな結婚生活を送っていた。
ワシントンCIA本部で ソルトは逮捕されたロシア人スパイを尋問することになる。CIAの仲間が注目する尋問室で ロシア人は尋問に答えた後 ソルトがロシアのスパイであると言う。いっせいに仲間から疑いの目で見られてソルトはあわてる。今度は同じ尋問室でソルトが尋問される番だ。彼女は 家にいるはずの夫に危害は及ばずにすむようにしなければならない。逃亡することにする。監視カメラを消火器やパンテイーで覆い、消火器と掃除に使う薬品で迫撃砲を作って 追手から逃げる。辛うじて家に戻ってみたら すでに夫は何物かに連れ去られていた。
ソルトの次のターゲットは ニューヨークで、米国副大統領の葬儀に渡米しているロシアの大統領を暗殺することだ。黒髪に変装して 首尾よく大統領を処分、そして、ソルトが向かう先はKGBの米国内本拠地だった。着くや否や、ソルトを待っていたのは 愛する夫が処刑される場面だった。 顔に出さず、慟哭するソルト。しかし休むことなく さらに、ソルトは 男装してホワイトハウスに潜入して米国大統領の命を狙う。ソルトはCIAエージェントなのか、それともKGBの2重スパイだったのか、、、。というお話。
ハリウッドで活躍するオージー映画監督 フィリップ ノイスによると、アンジェリーナは ほとんどスタントマンを使わずに 危険なアクションを自分で演じたそうだ。
彼女は橋の上から高速道路に落ちて 走ってきたトラックの幌につかまる、、手錠姿でパトカーを乗っ取り カーチェイスの末 逃げ切る、、大統領の乗ったエレベーターを追って 何十階段分もシャフトを滑り降りる、、走っている地下鉄から飛び降りる、、驀進中のヘリコプターから海に飛び降りる、、、そして教会でロシア大統領を暗殺し、ホワイトハウスで米国大統領を襲う。細身の彼女が スーパーマンと バットマンと スパイダーマンと、アイアンマン全部あわせたくらいの 活躍をする。
まったく現実感がないが、おもしろい。
観ていて 時としてソルトと一体となって、逃げ惑い 時として味方だと思った こっち側の相手を無慈悲に殺し、ええっ? それじゃあ 前に殺したあっちは、何も殺すことなかったんじゃないか?と期待を裏切られ そうか、やっぱりCIAの中でも こういう一匹狼が必要なのか と なるほどと納得したり、またそれも疑ってみたり、、、。とても忙しい。
これを娯楽映画という。
とてもお金のかかった 贅沢な娯楽映画だ。こういう映画の評価は ひとこと 「おもしろかった」と答えるのが正しい。
じつにおもしろかった。
2010年8月17日火曜日
ポランスキーの映画「ゴーストライター」と湾岸戦争
2003年 米軍と英国軍がイラクを侵攻して、戦争を仕掛けた時 ジョージWブッシュ大統領は サダム フセインが政権独裁をしているイラクには大量生物化学兵器があり、自由世界が危機下にあると断言した。続くトニー ブレア英国首相も イラクの大量破壊兵器を潰すことなしに平和はない、として足並みを揃えた。
ジョージWブッシュと トニー ブレアの開戦と同時に オーストラリアのジョンハワード首相も開戦に同意して特殊部隊を投入、小泉純一郎首相は 開戦を支持する声明を出した。
国連の決議なしに フランス、ドイツ、ロシア、中国の強硬な反対を押し切っての決断だった。国が戦争を始めるという大事な決断を米国ブッシュが言い出すやいなや 英国もオーストラリアも日本もすぐ同時に、賛成したのは 何故か。
ソースが同じだったからだ。
情報の「もと」が たったひとつ。その「もと」とは 何だったのか。
CIAだ。CIAの作った軍事情報をもとに 各国は兵を送り、イラクに戦争を仕掛けた。そして、それはいまも続いている。
1991年湾岸戦争のとき、停戦決議で イラクの大量破壊兵器の保持が禁止された。しかし兵器はある、として2001年ブッシュが大統領就任するとすぐに 米軍がイラクへの空爆を開始し、2003年、全面的開戦となった。投入された米軍26万3千人、英軍4万5千人、オーストラリア2千人。
サダム フセイン大統領が倒れ、2006年に処刑された後も 米国を中心とする連合軍によるイラク占領政策は続き、戦闘終結宣言以降に、大量の死者が出ている。米軍が36万6千人の兵力で イラクのマリキ政権を擁護しても、治安の悪化とシーア派、スンニ派との対立を抑えきれない。マリキ政権が 米英軍占領軍の繰り人形にすぎないことがわかっているからだ。
第1次湾岸戦争のときブッシュの国防長官だったデイック チェイニーは 第2次湾岸戦争のジョージWブッシュのときには 副大統領を勤めた。彼はハリバートン社の経営者で所有者でもあり、この世界最大の石油掘削機会社をして、イラクの復興事業や軍事関連サービスを提供して 二つの戦争で巨額の利益を得ている。イラクに眠る 油田の権益のためにも米国は何が何でもイラクを占領しなければならなかった。
戦争ほど儲かる商売はないからだ。
米軍兵4000人余り、民間傭兵1000人以上の死者を出してやっと、ブッシュは 選挙で負け去った。2009年1月オバマ大統領は 就任後イラク駐留米軍を5万人に削減、2011年には全面撤退を約束した。
今年に入って、英国議会では イラク参戦に関する独立調査委員会の公聴会で、トニー ブレアを証人喚問した。ブッシュのペット プードル犬と呼ばれた男だ。彼は大量兵器がない とわかって何故 戦争を続けたのか と厳しく追及されている。
CIAの情報をもとに イラクで亡くなったイラク市民15万人、アメリカ人5千人余り、英国人179人、この戦争のために起こったニューヨーク貿易センタービル倒壊で亡くなった2千人余り、州兵がイラクに行ったため救援できずハリケーンカトリーナで亡くなった2000人、ロンドン爆発事件で亡くなった56人、スペイン列車爆発事件で亡くなった191人の人々、、、おびただしい死者の列、、、。
映画「ゴーストライター」を観た。ロマン ポランスキー監督の新作。ロマン ポランスキーは 去年2009年9月に チューリッヒ映画祭に参加した際 スイス当局に逮捕された。30年近く前に彼が起こした13歳のモデルの子への淫行容疑のため ずっとアメリカから逮捕状がでていて、身柄引き渡しを要求されていた。昔のことで 当時のモデルは訴訟を取り下げている。何故、今になってパリに住むポランスキーが突如、スイスで拘束されたのかわからないが、ともかくもスイスは米国への身柄引き渡しは拒否、2010年7月になってやっと、ポランスキーを釈放した。これは 遅れをとりもどすようにして、彼が力を注いで発表した作品だ。
ポランスキーが拘束されたときスイス映画祭に来ていた 映画関係者たちが 口々に「彼は生涯のファイターなのに、、、。」と言っていた言葉が印象的だ。
ユダヤ教徒のポーランド人。母はアウシュビッツで殺され 本人は収容所から逃亡、ドイツ領となったフランスで ユダヤ狩りから隠れ 転々と逃げながら成長した。
1969年には 自分の子供を妊娠中の妻、シャロン テートが惨殺され、その現場の惨状の第一発見者だった。
2002年「戦場のピアニスト」でアカデミー監督賞を受賞。今年、釈放されてやっとこの映画「ゴーストライター」を発表することができた。彼の一生を見ると、文字通りの生涯のファイターなのだ。
ストーリーは
湾岸戦争に兵力を投入した前英国首相アダム ラングは責任を問われて退陣、今は追及を逃れてアメリカ東海岸の孤島で引退している。伝記を出版する予定でそのための ゴーストライターを探している。ラングのために、600枚あまりの伝記を書き下ろした前任者が この島と本島を結ぶフェリーから 酔って転落して 死亡してしまったので その後を継いで 伝記を仕上げて欲しい。一か月で仕上げてくれたら25万ドル報酬を出すという。願ってもない仕事に ゴースト(彼の本当の名前は映画の中で終始出てこない)は喜んで フェリーに乗って孤島に向かう。
しかし着いて すぐラング前首相が、戦争犯罪人としてハーグ国際戦争裁判所で裁かれるかもしれない というニュースが飛び込む。テロリストを違法な方法で拷問した という件が問題になっていた。押しかけてくるマスコミ勢に追求から逃れる為の声明作りまで ゴーストが引き受けることになってしまった。
夫婦仲の良くないラング前首相、事務的で高飛車な秘書、愉快でないラングの家で ラングへのインタビューと執筆が始まる。亡くなった前任者の部屋を片付けていて、ゴーストは引き出しの裏に、テープではりつけてある秘密の封筒を見つける。そこにはラングの大学時代の仲間の写真があり、それらを渡すべき人の電話番号が 走り書きされていた。
ゴーストは 前任者が 酔ってフェリーから転落死したのではないのではないか、と疑い始める。自転車でラング邸から出て、岬に行ってみる。そこでゴーストは人の良い年寄りに出会う。老人は フェリーから転落した死体は 波の関係でこの島に打ち上げられるはずはない、と言う。でも死体を発見した夫人は その後 階段から落ちて昏睡状態に陥ったので、死体がどんな状態だったのか、事実はわからずじまいだ、と言う。
ゴーストは 本島に渡り、写真をもとに調べ始め、写真に写っている男がラングが首相だったときの閣僚の一人で 兵器会社の持ち主であり、CIAに通じる男であることを突き止める。この男は ゴーストに刺客を差し向けてくる。手に汗を握る逃亡、、、。
ゴーストは 前任者が残していった電話番号を回す。現れた男に従って最終的に出会えたのは、現在の英国政府 外務大臣その人だった。判明した段階の事実だけを報告して、ゴーストは島に帰る。
そこで彼を待っていたのは、、、。
スリラーなので この先はいえない。
ラング前首相とは トニー ブレアのことだ。この映画では 伝記を書き残した前任者と、ラングの残した言葉がキーになる。ヒッチコックの映画のように、よくできた映画だ。そして、ヒッチコックの映画のように 素晴らしいラストシーン、、、。 興奮した。
胸が潰れるような 悲愴な思いに陥るラストシーンが忘れられない。
生涯のファイター ポランスキーの描いた湾岸戦争が、そこにある。
キャスト
前首相:ピアース ブロンストン
妻 :オリビア ウィリアムズ
秘書 :キム カトレル
ゴーストライター:エバン マクグレゴール
2010年8月13日金曜日
オペラ 「フイガロの結婚」
モーツアルトの傑作中の傑作、「フイガロの結婚」を観た。オペラハウスにて オペラオーストラリア公演。イタリア語。3時間。
監督:二ール アームフィールド
音楽:オーストラリア オペラバレエオーケストラ
指揮:パトリック サマーズ
キャスト
フイガロ:テデイ タフ ルーデス (バリトン)
スザンナ:タリン フイビッグ (ソプラノ)
伯爵:ピーター コールマン ライト(バリトン)
伯爵夫人:レイチェル ダーキン(ソプラノ)
マルチェリーナ:ジャクリーヌ ダーク(ソプラノ)
オペラは同じ作品を何度観ても そのつど新しい発見と、新しい感動がある。今年になって、「椿姫」、「トスカ」、「真夏の世の夢」と「フイガロの結婚」を観た。来月「ペンザンスの海賊」を観る。
席は舞台から13列目の真ん中。こんな良い席で 毎年オペラを観るなど、私の年収からみたら とてつもない出費だ。しかし、そのことによって得られる満足という名の代価は大きい。しょせん、人生は自己満足 と割り切っている。
去年は 「魔笛」、「アイーダ」、「ムチセンスクのマクベス夫人」、「ミカド」、「コシ ファン トッテ」をみて、」アイーダ」が一番 豪華な舞台だったので 強く印象に残っている。
今年観たオペラの中では 「真夏の世の夢」が一番印象的だった。舞台全体が意表をついて 青く神秘的な森の中になっていた。その森に本当に水を張った湖があり 森に住む不思議な動物達、幻想的な舞台を飛びまわるインドの子供たちや妖精。アクロバットなみに自由自在に動き回り 踊り 歌も歌うパックが素晴らしく、忘れられない。
今回のフィガロは 正統的というか、モーツアルトの時代のコスチュームだった。当初は べネデイクト アンドリュー監督の 前衛的な舞台になるはずだった。設定も、伯爵邸ではなくて刑務所で、出演者の衣装は刑務官の制服という現代的な解釈でオペラが演じられるはずだった。しかし、オペラサポーターからの、ブーイングがひどかったらしくて、何年か前にニール アームストロング監督で成功したとおりの舞台に 急遽変更したもようだ。まあ、どっちでも良いのだけれど、保守的なオペラファンの声に負けて、演出が変わるというのも、おもしろい。プログラムもポスターも全部無駄になったわけだ。
今回のオペラは モーツアルトの良さをたっぷり味あわせてくれた。やはりモーツアルトは最高。これ以上の作曲家は望めない。3時間あまりの舞台でせりふが全くない。全部が歌だ。激しい動きの芝居をしながら3時間余り、歌いっぱなしの役者たち、、、それも2重唱、3重唱、4重唱の連続だ。一つ一つのせりふが 完結した歌になっている。コーラスも入って、歌の祭宴だ。モーツアルトが亡くなる5年前の作品。この頃、家賃も払えない 食事も充分とれない貧困のどん底で これほど笑いの満ちた 愉快で楽しい音楽を作るために命を紡いで そして死んでいったモーツアルトを思うと涙がでてくる。
1786年初演だから、フランス革命勃発直前の作品。まだ権力者が絶大な力を持っていた時代に 使用人たちが 伯爵を懲らしめて、大笑いするという反骨的な喜劇。モーツアルトの 権力者を茶目っ気でおちょくるユーモアの傑作だ。圧倒的な庶民のあいだでもてはやされ 人気を得たという事が うなずける。ストーリーは
18世紀半ば、スペイン セビリアでのお話。アルマビーバ伯爵家に仕えるフイガロと 小間使いのスザンナは結婚を間近に控えている。それを知っていて好色な伯爵は スザンナをものにしようと しつこく言い寄っている。スザンナの防御が固い とわかると 伯爵は女中頭のマルチェリーナをけしかけて、彼女とフイガロと結婚させてしまおうとする。
一方、純情な伯爵夫人は 伯爵の浮気が悲しくてたまらない。そこでスザンナと伯爵夫人は 二人で秘密の悪巧み。ニセの手紙で 伯爵を庭におびき寄せて 伯爵にはスザンナの服を着た伯爵夫人が、フイガロには伯爵夫人の服を着たスザンナが待っている。まんまとワナに はまった伯爵は闇にまぎれてスザンナに近ついて、口説き始める。しかし なんだか騒がしい。何とスザンナとフイガロが、目の前で逢引をしている。立腹する伯爵。では、口説いていたのは、、、実はなおざりにしてきた 美しい妻だった。長いこと妻に悲しい思いをさせてきたことを反省して、伯爵は心から謝罪する。
最後はフイガロとスザンナの結婚式が伯爵の祝福のもとでおこなわれる という 愉快で楽しい喜劇だ。
このオペラが成功するかどうかの鍵は 何といってもフイガロとスザンナに、「演じて良し」、「歌って良し」、「「観て良し」の 歌手を配役にする事にかかっている。フイガロのバリトン:テデイ タフ ルーデスは背が高くてハンサム 若くてかっこ良過ぎるフイガロで申し分ない。スザンナのタリン フィブリグが おちょぼ口で美人とはいえないが ソプラノではオペラオストラリアの顔だし、可愛くてとても良かった。ふたり共 演技がとてもうまい。声も良い。
伯爵のバリトン:ピーター コールマン ライトは腹が出ていて好色漢らしくて とても良かった。声がのびのびとして堂々としていて美しい。
しかし中でも伯爵夫人をやった ソプラノ レイチェル ダーキンが一番好きだ。彼女は「コシ ファン トッテ」でも、「真夏の夜の夢」でも準主役をやった。背が高くて 顔はジュリア ロバーツなみの美人。声に伸びがあって、声量もある。何よりも大学を出て何年もたっていない 若い成長盛りの歌手だ。出てくるたびに 良くなっていく。
オペラオーストラリアはこういう人を 海外に流出させないように、大切に大切にしてもらいたい と思う。いままで 同じように 大学を出たばかりでテノールを歌っていて、出演するごとに成長しているのがわかる イタリア人オージーの歌手が一昨年までいた。その声が アンドレア ボッチェリに似ていて大好きだったのに、もう外国に引っ張られていってしまった。レイチェルには この土地で成長して ずっと歌っていて欲しいと思う。
死ぬまでに あと何本 オペラを観られるか わからないが 何百年も前に優れた芸術家が 命を削るようにして作ってきた 総合芸術の中でも、とりわけすぐれた芸術の結晶であるオペラをみるたびに ありがたい、幸せなことだと思う。
2010年8月7日土曜日
ハルキの 「1Q84」を読む
村上春樹の「1Q84」BOOK 1,2,3を読んだ。1650ページ 新潮社。
春樹の7年ぶりの長編小説とあって、2009年5月の発売日に 飛ぶように売れて、その日のうちに重版が決定された。発売10日後に、100万部突破して 早くもミリオンセラーになった。
これと同時に 小説の中に出てくる ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」のCDも 売れに売れて、英国のSF作家 ジョージ オーウェルの「1984年」も、品切れになったそうだ。春樹の引き起こした ハルキ旋風も、いま又「BOOK3」が出て、引き続き、勢いが収まらない。
少女の書いた小説が契機になって 10歳の頃からお互いに想いあっていた男女が再会して結ばれるというストーリーが、今まで春樹に縁の無かった若い世代にも支持されやすかったのだろう。
春樹は外国でも人気がある。「1Q84」は すでに 中国語、ハングル、ウクライナ語、オランダ、ドイツで翻訳されて出版されているし、フランス、イスラエル、スペイン、ポルトガル、アルゼンチンで 出版される予定。アメリカでは来年9月に翻訳が出る。
彼がノーベル文学賞を取るのも時間の問題だ。
ストーリーは
青豆雅美はスポーツインストラクター。
30歳独身。両親も兄も熱心な宗教団体の会員だったことから 両親に連れられて幼いときから 戸別訪問の宗教の勧誘をして歩いていた。そのことで小学校では完全に浮いた存在、ひとりも友達の居ない孤独な子供時代を過ごした。11歳で 親元を離れ、叔父に引き取られ育ったが 親とは縁が切れて成長した。
大人になってからは、自立心の強い女性になった。優秀なインストラクターとしてジムに勤める。青豆がジムで知り合った年配の婦人は、暴力を受けた女性を救済する活動をしていた。それに青豆も 共感する。そして、ある宗教団体の教主が、まだ幼い少女を虐待していることを知り、その男を殺害することを決意する。
川奈天吾は予備校の数学教師。30歳、独身。乳児のときに母親に死なれ NHKの集金をする父親に育てられる。彼もまた 幼ないときから友達と遊ぶことを許されず、父に連れられて 家々を集金のために歩き回ることを強制されて 孤独で不幸な子供時代を過ごす。神童といわれるほど数学を解く能力に長けていたため、彼は孤独ながらも まわりから尊敬されていた。中学に入ると 奨学金を得て全寮制の学校に入り 柔道の特待生としてスポーツのも学業にも優秀な成績を収める。以来、父親とは ほとんど関わりを持たずに成長した。予備校の教師をしながら小説を書いている。
川奈天吾には、若い作家を育てる目的で新人賞を募集している出版社の編集室に 親しい男が居る。ある日、17歳の高校生が書いた不思議な小説に目を留めた天吾と、この編集者は、その小説に手を加えることにする。思惑通り 作品は新人賞を受賞し、17歳の美少女は 一躍人気者になり、小説はベストセラーとなる。しかし、その高校生は ある宗教団体の教主の娘で、特殊な団体の世界で育ってきた。小説で発表された内容は この宗教の世界では触れてはならない秘密の世界だった。
宗教団体は、青豆と天吾を追う。その過程で 10歳のときに 同じように孤独で不幸な小学校時代を共にした 青豆と天吾は 再び出会う。
というお話。
二人の10歳の時から引き合っている強い想いは、青豆の言葉にすると、、、「チベットにある煩悩の車輪と同じ。車輪が回転すると外側にある価値や感情は上がったり下がったりする。輝いたり暗闇に沈んだりする。でも本当の愛は車輪に取りつけられたまま動かない。」ということだし、それを天吾に言わせると、、 「これまでの20年間、天吾はその少女の手が残していった感触の記憶とともに生きてきた。これからも同じように この新たな温もりとともに生きていくことができるはずだ。ー青豆をみつけよう、と天吾はあらためて心を定めた。」というわけだ。
親から愛されたことの無かった子供達だったからこそ、二人は 純粋に愛し合うことができた。そして、また二人の精神的な結びつきが宗教を越えた、ということが言える。
カルトの教主が出てきて 意味の重い言葉を沢山語り、死んでいく。春樹が1997年に書いた700ページあまりのドキュメンタリー「アンダーグラウンド」が元になっている。この作品は1995年3月の地下鉄サリン事件に会った人々の証言集だ。事件にあった人々 一人一人に会ってインタビューしたものを編集した労作。40人あまりのサリン被害者の生の声を読んでいて たまたまその時 地下鉄に乗っていた というだけで殺された11人の人々、受傷した3800人の方々、いまだに健康を脅かされ 後遺症に苦しんでいる被害者の姿に、しばしば活字が滲んできて、鼻をかむために読むのを中断しなければならなかった。
現実の世界に比べて 春樹の世界は幻想的で不可解な世界だ。「首都高速3号線、池尻出口の手前の非常階段」、、を下ると 月が二つある世界に入りこんでしまった。そこで生活している人々は 以前暮らしていた人と全く変わりがないのだが、月が二つあることに 気がついていない。青豆と天吾は 見えない糸で引き合って この世界に迷い込んできたので月が二つあることに気がついて 愕然とする。
手に手をたずさえて青豆と天吾は月が二つある世界から一つだけの世界にたどり着いた。しかし、そこが以前居た世界かどうか、全く保障がない。タイガーの看板が逆向きになっている。そこは 今まで暮らした世界に似てはいるが 又別のルールのある 鏡の世界なのかもしれない。
続編、BOOK4が出るかもしれない。楽しみだ。
2010年8月1日日曜日
映画 「インセプション」
映画「インセプション」を観た。原題「INCEPTION」
監督:クリストファー ノーラン
キャスト
コブ:レオナルド デカプリオ
サイトウ:渡辺謙
妻マル:マリオン コテイアード
ロバート:キリアン マーフィ
アーサー:ジョセフ ゴードンレヴィ
アリアドネ:エレン ペイジ
(なお、アリアドネとは、ギリシャ神話で迷宮から脱出することを教える神様の名前)
ストーリーは
眠っている人の無意識の頭の中に潜入して その人のアイデアや情報を盗み出す という特殊な能力を持つ企業スパイ、コブ(レオナルド デカプリオ)は 重要犯罪人としてインターポールから 国際指名手配されていて、子供達の居るアメリカに帰ることが出来ないで居る。
妻、マルも、同じ仕事をしていたが、仕事のストレスによって、夢の世界と現実の世界の境界がわからなくなって 自ら命を絶ってしまっていた。子供達は コブの 大学教授をしている父親と母親が 世話をしていてくれている。自分がこのような仕事をしているために 自殺してしまった妻に対しても また会えなくなった子供達にも コブは深い罪悪感を持っている。
ビジネスマン サイトウから仕事の依頼があった。成功したらアメリカに帰国して子供達に会えるように手配してくれるという。それは サイトウのライバル会社の社長ロバートの潜在意識の中に入りこみ、情報を盗みだすのではなく、自分で自分の会社を潰すという考えを植え込む「インセプション」という仕事だった。それは夢の中からアイデアを盗むよりも はるかに難しい仕事だった。
コブは 仕事を請け負うに当たって、心理学者の父親の助言を得てアリアドネ(エレン ペイジ)という女子学生を 仲間として協力を得ることにする。彼女は夢をデザインすることができる。また「泥棒」という名の情報をスリとって それをコピーすることができる男や、「薬屋」という夢に導入するための薬を調合できる男をチームのメンバーに入れる。
世界のオイルを一手に収める大富豪の息子ロバートが 死の床にある父親に会いに行く為に 乗っている飛行機の搭乗時間は10時間。その間にロバートを眠らせて チーム全員が同じ機械に取り付けて 眠ったロバートをチームのデザインした夢の中におびき寄せる。そこまでは 守備よく成功する。
しかし予想外に、ロバートは自分の潜在意識の世界を守る訓練を受けていた。彼の夢のなかには それを読み取ろうとするものを攻撃する敵や戦士達が沢山居る。ロバートの無意識の意識を守ろうとする無数の敵と、コブたちチームは激しい戦闘をしなければならなかった。運の悪いことに、サイトウが銃で撃たれて大怪我をする。強い催眠薬で 夢に導入された場合 夢に中で殺されると無意識の虚無に陥り 廃人になってしまう。一時もはやく、チームは仕事を済ませなければならなくなった。
コブは現実世界と夢の世界の境界がわからなくならないように ポケットにコマを入れてる。コマを回して 永遠に回り続ける世界は夢の世界で コマが止まるのが現実世界だ。
夢の世界では重力も距離も時間もない。数秒の眠りの中で人は何十年も年をとる。眠りのなかで死ぬと目が覚める。催眠薬を使って夢に導入されて 夢に中で殺されると潜在意識の無に陥り現実世界で廃人になってしまうので、そうならないように、チームの仲間は、睡眠中の仲間に水をかけて強制的に起こさなければならない。
チームは 激しい戦闘の末、ロバートの心の奥底に仕舞われていた金庫を開ける。ロバートは大富豪で偉大な事業家の父親に育てられて 父に「期待はずれだった」と言われたことで、深く傷ついている。父の期待に答えて 仕事を継ぐことだけを念じて生きてきた。しかし、こじ開けられた夢に中で再会した死の床にある父は、「おまえが自分の生きたいように生きなかったことが期待はずれだった。」という意味だったのだということがわかる。そして、父に愛された子供の時の写真とともに、父が作って 彼が大事にしていたカザグルマが 父の金庫に しまわれていた。ロバートを苛んでいた長年の心の傷が癒された。父との心からの和解。
こうして しっかりロバートはチームの思惑通りに 無意識の中で自分に会社を潰す考えを植え付けられていたのだった。
夢の中で銃撃を受けたサイトウを 救うことができるだろうか。彼は戦闘の途中で死んでしまう。
また、コブの夢の中には、死んだ妻マルが いつも出てきてコブの仕事の邪魔をする。コブはマルから開放されることが できるのだろうか。
以前、コブとマルは二人で共通の夢を共有していた。二人でデザインした夢の世界を作って 50年先まで二人が仲良く暮らせる世界を作っていた。そこでは コマはいつまでも回り続け、二人の子供達はいつも背を向けている。マルが心変わりしないように、、実はコブは二人の夢をデザインするだけでなく、モルに「インセプション」を実験したのだった。そのために、マルは現実の世界と夢の世界の境界線がわからなくなって、自殺してしまった。その罪が余りに深いゆえに、コブが仕事で 無意識の世界に入るたびに マルが必ず出てきて邪魔をする。
チームの面々は 航空機の中だ。
10時間の長い眠りから一人一人と、目を覚ます。着いたところはアメリカ。荷物受け取りのところで それぞれは自分の荷物を受け取り 笑顔で別れ別れになっていく。
コブが出口を出ると 父親が迎えに来てくれている。そして、父親と共に着いた家に足を踏み入れると 二人の子供達が待ち構えていた。飛びついてくる子供達。しっかり子供達を抱きしめて 喜びにふるえるコブ。幸せすぎて コブは思わずコマを回してみる。しかし、それは いつまでもいつまでも回り続ける止まらないコマではなかったか、、、、。
というストーリー。
画面を見ていて それが現実世界のお話なのか、夢の中かわからない。嘘か真か わからないまま 激しいアクションシーンが続いていく。同じ デカプリオ主演の映画「シャッターアイランド」のほうが分かりやすかった。「シャッター、、」では 精神病患者の頭の中で起こっていることと、現実との2極に別れた世界だった。
今回の無意識の意識、潜在意識の世界は、現実世界に限りなく近いため、どこにいるのかが、とてもわかりにくい。
それだけに それぞれの人の解釈がちがってくるだろう。難しい映画というのは 自己流の解釈ができて、それが他の人と全然ちがう おもしろさがある。私の書いた解釈を これは違う!と言う人も多いだろう。これは私の解釈したストーリーであって、他に人と違って それで良い。
ハッピーエンドだった と思っている人も多い。
コブの心の傷が余りに大きくて 子供たちにも会えない姿が可哀想で可哀想で 何とか子供達に会わせてあげたい、、映画の観客の無意識の願望が 最後をハッピーエンドにするのだろう。ここで すでに観ている人は「インセプト」されているのだ。
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