2010年8月7日土曜日

ハルキの 「1Q84」を読む



村上春樹の「1Q84」BOOK 1,2,3を読んだ。1650ページ 新潮社。
春樹の7年ぶりの長編小説とあって、2009年5月の発売日に 飛ぶように売れて、その日のうちに重版が決定された。発売10日後に、100万部突破して 早くもミリオンセラーになった。 
これと同時に 小説の中に出てくる ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」のCDも 売れに売れて、英国のSF作家 ジョージ オーウェルの「1984年」も、品切れになったそうだ。春樹の引き起こした ハルキ旋風も、いま又「BOOK3」が出て、引き続き、勢いが収まらない。

少女の書いた小説が契機になって 10歳の頃からお互いに想いあっていた男女が再会して結ばれるというストーリーが、今まで春樹に縁の無かった若い世代にも支持されやすかったのだろう。
春樹は外国でも人気がある。「1Q84」は すでに 中国語、ハングル、ウクライナ語、オランダ、ドイツで翻訳されて出版されているし、フランス、イスラエル、スペイン、ポルトガル、アルゼンチンで 出版される予定。アメリカでは来年9月に翻訳が出る。
彼がノーベル文学賞を取るのも時間の問題だ。

ストーリーは
青豆雅美はスポーツインストラクター。
30歳独身。両親も兄も熱心な宗教団体の会員だったことから 両親に連れられて幼いときから 戸別訪問の宗教の勧誘をして歩いていた。そのことで小学校では完全に浮いた存在、ひとりも友達の居ない孤独な子供時代を過ごした。11歳で 親元を離れ、叔父に引き取られ育ったが 親とは縁が切れて成長した。
大人になってからは、自立心の強い女性になった。優秀なインストラクターとしてジムに勤める。青豆がジムで知り合った年配の婦人は、暴力を受けた女性を救済する活動をしていた。それに青豆も 共感する。そして、ある宗教団体の教主が、まだ幼い少女を虐待していることを知り、その男を殺害することを決意する。

川奈天吾は予備校の数学教師。30歳、独身。乳児のときに母親に死なれ NHKの集金をする父親に育てられる。彼もまた 幼ないときから友達と遊ぶことを許されず、父に連れられて 家々を集金のために歩き回ることを強制されて 孤独で不幸な子供時代を過ごす。神童といわれるほど数学を解く能力に長けていたため、彼は孤独ながらも まわりから尊敬されていた。中学に入ると 奨学金を得て全寮制の学校に入り 柔道の特待生としてスポーツのも学業にも優秀な成績を収める。以来、父親とは ほとんど関わりを持たずに成長した。予備校の教師をしながら小説を書いている。

川奈天吾には、若い作家を育てる目的で新人賞を募集している出版社の編集室に 親しい男が居る。ある日、17歳の高校生が書いた不思議な小説に目を留めた天吾と、この編集者は、その小説に手を加えることにする。思惑通り 作品は新人賞を受賞し、17歳の美少女は 一躍人気者になり、小説はベストセラーとなる。しかし、その高校生は ある宗教団体の教主の娘で、特殊な団体の世界で育ってきた。小説で発表された内容は この宗教の世界では触れてはならない秘密の世界だった。

宗教団体は、青豆と天吾を追う。その過程で 10歳のときに 同じように孤独で不幸な小学校時代を共にした 青豆と天吾は 再び出会う。
というお話。
二人の10歳の時から引き合っている強い想いは、青豆の言葉にすると、、、「チベットにある煩悩の車輪と同じ。車輪が回転すると外側にある価値や感情は上がったり下がったりする。輝いたり暗闇に沈んだりする。でも本当の愛は車輪に取りつけられたまま動かない。」ということだし、それを天吾に言わせると、、 「これまでの20年間、天吾はその少女の手が残していった感触の記憶とともに生きてきた。これからも同じように この新たな温もりとともに生きていくことができるはずだ。ー青豆をみつけよう、と天吾はあらためて心を定めた。」というわけだ。

親から愛されたことの無かった子供達だったからこそ、二人は 純粋に愛し合うことができた。そして、また二人の精神的な結びつきが宗教を越えた、ということが言える。

カルトの教主が出てきて 意味の重い言葉を沢山語り、死んでいく。春樹が1997年に書いた700ページあまりのドキュメンタリー「アンダーグラウンド」が元になっている。この作品は1995年3月の地下鉄サリン事件に会った人々の証言集だ。事件にあった人々 一人一人に会ってインタビューしたものを編集した労作。40人あまりのサリン被害者の生の声を読んでいて たまたまその時 地下鉄に乗っていた というだけで殺された11人の人々、受傷した3800人の方々、いまだに健康を脅かされ 後遺症に苦しんでいる被害者の姿に、しばしば活字が滲んできて、鼻をかむために読むのを中断しなければならなかった。

現実の世界に比べて 春樹の世界は幻想的で不可解な世界だ。「首都高速3号線、池尻出口の手前の非常階段」、、を下ると 月が二つある世界に入りこんでしまった。そこで生活している人々は 以前暮らしていた人と全く変わりがないのだが、月が二つあることに 気がついていない。青豆と天吾は 見えない糸で引き合って この世界に迷い込んできたので月が二つあることに気がついて 愕然とする。
手に手をたずさえて青豆と天吾は月が二つある世界から一つだけの世界にたどり着いた。しかし、そこが以前居た世界かどうか、全く保障がない。タイガーの看板が逆向きになっている。そこは 今まで暮らした世界に似てはいるが 又別のルールのある 鏡の世界なのかもしれない。

続編、BOOK4が出るかもしれない。楽しみだ。