2008年8月25日月曜日

映画 「96時間」(「TAKEN)」



新作映画 「TAKEN 」(邦題「96時間」)を観た。92分。
監督:LUK BESSON
主演:ブライアン:ライアン ネーソン
        キム:マギー グレイス
ハリウッド アクションスリラー映画。
暴力満載。
ストーリーは、
カルフォル二アでは18歳以下の子供が海外旅行するためには、両親の承諾書が要る。キム(MAGGIE GRACE)は高校を卒業して18歳になったばかりだが、親友と二人でパリを始発点にヨーロッパ旅行を計画している。母親も、再婚した大富豪の養父も キムには やりたいことは何でもさせてやりたいと思っている。 しかし本当の父親、ブライトン(LIAN NEESON)が、なかなか承諾書にサインしてくれない。彼は 警備会社で働いている。元は、CIAのエイジェントだった。テロ対策専門のエイジェントで、テロ予防のために特殊技術を使っていたため、敵もいる。娘の海外旅行が心配で 気安く娘の旅行に行っておいで とは言えないでいる。そんなブライトンに元妻もキムも怒っている。しかし、娘の度重なる懇願に 頑固なブライトンも とうとう折れて 携帯電話を娘に渡して 必ず毎晩電話をするように約束させて、送り出してやる。

キムと親友は 両親の許可がおりて おおはしゃぎでパリに向かう。パリの滞在先は親友の親戚の家のはずだが、その親戚は休暇旅行中で、二人だけで勝手気ままに使えるアパートだ。親友は両親から首尾よく離れられてパリで思い切り羽を伸ばして遊びたいと思っている。空港に着いて タクシーを待つ間、ハンサムな青年に タクシー代を倹約する為に相乗りしないかと誘われて 二人とも勿論OKだ。 娘からの電話を待っているブライトンは 待ちくたびれて 深夜娘に電話をする。その娘と話している最中 4人の男達が親友を連れ去っていく。父親はうろたえる娘の事態を 即座に飲み込んで、キムにベットの下に隠れるよう指示し、仮に賊に連れて行かれても携帯電話を身から離さないように、、また 必ず見つけ出して助けに行くから、と約束する。しかし、賊は キムをベッドの下から引きずり出し 携帯電話を踏み潰して彼女を誘拐していく。

このグループは 若い女性旅行者を誘拐して性奴隷として人身売買するアラブの犯罪組織だった。娘が売り飛ばされて中東に送られるまで3日しかない。ブライアンは ただちにパリに向かい、娘達が連れ去られたアパートに忍び込み 娘達の足跡を追って、、、。 という おはなし。 56歳のライアン ネーソンが、たった一人で 大きな犯罪組織と戦う。もとCIAエージェントでなければ 絶対不可能な頭脳戦と 肉体的にも激しい暴力戦の連続。「ダイハード4」のブルース ウィルスも娘を人質にとられて奪いかえす ものすごい暴力と、戦車、ヘリコプター、戦闘機まで動員してのオンパレードだったけれど、彼はまがりなりにも警察官、、、やりすぎても警察の後ろ盾があった。しかし、こんどのブライアンはただの市民であり パリという外国で 誰一人頼れる人のない中での孤独な戦いだ。ブライアンの役は、「シンドラーのリスト」「バットマン ビギンズ」などの役者。一種 虚無的な顔が とてもこの役にはまっている。笑い顔や平和なシーンにこの人ほど似合わない人は いないのではないか。

パリ郊外の巨大な建築現場で、急ごしらえのテントのアパートを造った売春宿で 誘拐され、麻薬を打たれ続けて抵抗も逃亡もできなくなった年若い娘達が売春させられている。また秘密カジノで 一人一人裸の娘達がバイヤーのオークションにかけられて、2千万円とか3千万円とかで取引されている様子は 衝撃的だが、かなり本当の話だろう。 世界中から 旅行してきて、憧れのパリに着いたとたんに 誘拐された若い女の子達がただただ哀れだ。 高級ブテイックで試着室の床が羽目板になっていて、服の試着に入った若くて綺麗な子は、羽目板で地下に落とされて 中東に連れて行かれてハーレムに売られるらしい、、、という冗談のような話も聴いたことがある。

この映画を見た人は 親の反対を押し切って友達同士で旅行するなんて、、、だから、いわんこっちゃない、と言いそう。では、しっかりしていれば こういう羽目に陥らずに済むだろうか? どんな時代にも どんなところにも 性犯罪は起きてきたし、これからも起き続けるだろう。しっかりしていれば大丈夫ということは、絶対にない。若くて美しい女は(男も)いつの時代にも、どんなところでも性犯罪の犠牲になりうる。もちろん、充分被害にあわないように注意を怠らないことは大切だ。しかし、仮に被害にあってしまった場合は 生き延びるために どんなことでもすること。そして、生き延びることができたら、自尊心を取り戻すために、最大の努力を払うべきだ。大切なことは、自分をとりもどし、希望を失わないこと。

犯罪の中で、最も卑劣な犯罪はぺデファイルと呼ばれる小児性愛だが、物言えぬ状況の中で力によるレイプも根は同じだ。犯罪は同じ加害者によって幾度でもくり返される。

つい先週、東南アジアでは有名なぺデファイル、ギャリー グルッター(GARY GRITTER)が、タイの刑務所で5年間の刑期を終えて出所した。イギリス人で、もと歌手だ。出所後、ベトナム入国を希望したが、入管局に拒否され、タイ、シンガポール、フィリピンに入国を打診したが、拒否された。いやおうなく イギリスに帰国していったが この男による 未成年の性犯罪被害者は、何百人にも上ると言われている。イギリスで、パスポートを取り上げられたというが、当たり前だ。

オーストラリアでは 繰り返し性犯罪を起こした人には出所後でも 電子バンドをつけさせて、いつもどこにいるか警察が確認できるようにしている。しかしこんなことに膨大な資金を使っても、本人が電子バンドを外して逃亡してしまえば 再犯を防止することはできない。性犯罪を繰り返す者には、刑務所で再教育を期待したり、出所後に監視をしたりすることよりも、去勢手術をすべきではないか。自分でコントロールできない 暴力的な性犯罪者には、手術でその元を絶つべきではないか。そうなれば、性犯罪の再犯予防のために、膨大な税金を使って 刑務所で再教育をしたり、出所後 監視をしたりしないで済むばかりか、まじめに一人前に働いて労働者として 社会に貢献することもできる。地元の子供たちも安全だ。人権に反するというならば、物言えず性犯罪の犠牲になった弱い者達の人権と、加害者のどちらの人権を優先させるのか。被害者が ともすると 深い傷ゆえに、口をとざしてしまう性犯罪。 加害者の刑罰については、もっと活発に討議されて良い。 ライアン ネーソンの絶望的で孤独な戦いを見ていて そんなことを考えた。

2008年8月18日月曜日

オペラ「ランメルモールのルチア」


オペラ「LUCIA DI LAMMERMOOR」 作曲ドンゼッテイ 1835年作 を観た。
オペラハウス。
ストーリーは、
17世紀のスコットランド。 アッシュトン家の当主、エンリコは、宿敵レヴェンスウッド家のエドガルドが、妹ルチアと恋仲であると知って 激怒する。ルチアは母親の墓参りに行った際 エドガルドに命を救われて以来、エドガルドに夢中だ。しかし、エドガルドの父親を殺したのは ルチアの兄エンリコだった。二人は憎しみ合う二つの家の間で 許されざる恋人達だった。

そこで、エドガルドが王の使いでフランスに行っている間に エンリコは エドガルドに恋人が出来たという偽りの手紙を妹に見せて 妹に 政略結婚を強いる。そして、結婚式の当日、ルチアが結婚承諾書にサインした瞬間に、エドガルドが駆け込んでくる。事情を知らないエドガルドは ルチアの心変わりを激しく怒って ルチアをののしる。ルチアは何も言えずに気を失う。

アッシュトン家の広間で 人々が喜びうかれているところを、新郎を刺し殺してしまったルチアが 真っ赤な血で染まった姿で現れる。そして、エドガルドの名前を呼びながら狂って死んでいく。 傷心のエドガルドに、ルチアの死が告げられる。ルチアの本当の心を知らされたエドガルドは ルチアの後を追って 自害して果てる。

愛のために生き、ひとつの愛のために死ぬ、最もオペラらしいオペラ。
3幕 2時間30分
指揮:  リチャード ボニンゲ
音楽:  オーストラリア オペラバレエ オーケストラ
ルチア: エマ マチュー
エドガルド:エリック カトラー
エンリコ:ホセ カルボ
牧師:  リチャード アンダーソン
ルチアの侍女:ローズマリー ガン
ルチアの夫:カネン ブリーン

オペラの見せ場は、第一幕のルチアとエドガルドの愛のデュエット。
それと、第2幕の 祝宴の場で、ルチア、エドガルド、兄エンリコ、牧師、ルチアの新郎、ルチアの侍女 この6人による6重奏だ。 ルチア(コロラトーラ ソプラノ)は エドガルドが 心変わりしたと思い込まされている。エドガルド(テノール)は、ルチアに裏切られたと思っている。兄のエンリコ(バリトン)は 一刻も早くエドガルドを殺して自分が仕組んだ悪巧みを隠したい。ルチアの新郎(テノール)は ルチアが自分のものになるので、浮かれている。牧師(バス)はすべての事情を知っているので ルチアとエドガルドに深く同情している。ルチアの侍女(アルト)は ルチアが可哀想でならない。この6人6様の思いを6重奏するところが圧巻。6人がそれぞれ思いのたけを歌って 3幕のクライマックスに導いていく。オペラのなかで、一番興奮するところだ。

第3幕のルチアの狂乱が、このオペラの一番の見所聴き所だ。愛のない政略結婚をさせられた新婦ルチアが 新郎を刺し殺した血染めの寝衣、裸足の姿で 踊りながら狂って歌う。無垢な小鳥のさえずりのような、コロラトーラ ソプラノだ。フルートの音にあわせて独唱する長いシーンには、超技巧的なテクニックを要し、おまけに演技も要求される。ソプラノ歌手でも、このコロラトーラが出来る人は多くはない。

永遠のオペラ プリマドンナ、マリア カラスが愛して止まなかった このオペラ。
彼女が歌うルチアを CDで何度も聴いているから いやでも舞台のルチアの声を比較してしまう。というか、初めから 期待しないで観にいった。期待して行って、ぺしゃんこにされて、丸つぶれになって帰ってくるのではたまらない。 ところが 観てみたら、とてもよかった。

何よりも、テノールのエドガルドが ものすごく良い声だった。2メートルの背の高さ、がっしりしてハンサム こんな人に命を助けられたら ルチアでなくても夢中になる。考えてみたら、オーストラリアには良いテノールがいなかった。去年見た「リゴレット」のテノールは イタリア出身オージーで、声が良かったが、太って背が低い。今年の「ラ ボエーム」では、主役テノールがオールバックヘアに4頭身の中国出身オージーのおっさんだった。「トランドット」も、「ラクーメ」も声は良いが、見栄えの良くない韓国人だった。一体オペラオーストラリアは何をやっているのか。プレミア席に$190払っている観客達は 反乱くらい起こしても良いはずだ。 人の声の中で テノールが一番美しい音だ。かつて、王族貴族達はカストラートの声を愛した。思春期前に去勢して高い美しい声を維持させられた歌手達は教会で、オペラの舞台で活躍した。現在は テノールが人々の心を掴む。エリック カトラーというテノール、声も歌も演技もとても良い。アメリカ人だそうだが、この出し物が終わっても、ここに留まって欲しいものだ。  

肝心のコロラトーラ ソプラノのオージー歌手、エマ マチューだが、技巧的なソプラノをちゃんと立派に歌っていた。象のように 太って大きいルチアが両手を血で真っ赤にして、白いネグリジェに血しぶきあびてドタドタ出てきたら どうしようかと思っていたが、彼女 声も姿も美しい人だった。
総じてとても満足なオペラだった。満足以上のオペラだった。

2008年8月12日火曜日

映画 「ザ バンク ジョッブ」



実際に起こった事件をもとにして出来たイギリス映画。当時のことをよく憶えている私には すごくおもしろかった。

1971年、何者かが ロンドンの銀行の貸し金庫室に、となりのビルから地下にトンネルを掘って侵入して 大金が盗まれた。ビッグニュースは即時、世界中に報道されて、大胆不敵な銀行強盗の手口に びっくりした。被害金額は30億円とも言われていた。 そんなに簡単に盗めるほど銀行の警報システムが脆弱だったことが証明されて、ロンドン警察も銀行も面目まるつぶれになった。当時、イギリス政府による北アイルランド占領に真っ向から反対して 連日爆弾テロを繰り返していたIRAが、当然この事件を起こしたのだと人々は推測した。IRAのように、大きな軍事組織でないと とてもこんな大胆なまねはできないだろう と。

ロンドン警察は まもなく報道管制を布いた。事件に関する報道は一切止まり 犯人は誰だったのか、その後どうなったのか、わからないまま時が過ぎた。私は これはIRAの快挙だったと思い込んでいた。政府も警察も黙り込んだのは、IRAと、政府との間でなにか政治的な取引が行われたのだと思っていた。この映画をみるまでは。 その後 この事件が語られることはなかった。人々の記憶から完全に忘れられていた。ベトナム戦争の真っ只中、、アイルランドもパリも神田も火を噴いていた。学生達は街に出ていた。流動する世界の動きに気をとられていて ロンドンでひとつの銀行が襲われたことなど気をとられている暇もなかった。

30年たった今 迷宮いりしたはずの この事件が明るみにでる。どうして報道管制が布かれたのか。どうして銀行の警報は鳴らなかったのか。事実はこんなことだったのか と映画で知らされる。もちろん、これは事実を基にして 作られた映画だから、事実以上に 脚色されているだろう。真相暴露に映画のストーリーテラーとしての色付けが なされているに違いないが、それでもすごくおもしろい。

ストーリーは
モロッコから ドラッグを仕入れてロンドンに帰ってきた美女、マーテイン(サフロン バロウズ)は、空港で荷物検査で引っかかって逮捕される。5,6年の懲役を覚悟しなければならないところを、政府の秘密エージェントから 取引を持ち込まれる。もし、ある銀行の貸し金庫に預けてあるものを 無事に盗み出してくれれば 罪に問わないで自由にしてくれるという。銀行のアラームは、システム変更のために数日間電源が切られるので、容易に貸し金個室に侵入できると エージェントは保障する。

マーテインはさっそく 昔のボーイフレンドのテリー(ジェイソン ステイサム)を誘って、地下のトンネルを掘って 銀行の貸し金個室に侵入する計画を立てる。テリーは自動車修理工場をもっているが、やばい仕事にも手を出していて、資金繰りに困っている。テリーは仲間4人を引き入れて、地下を掘り始める。 貸し金庫に到達したグループ6人は 片端からボックスをこじ開けて現金や宝石などを袋につめて逃げる。当然これを政府の秘密エージェントは 監視していて、マーテインが、約束どうり 指定された番号のボックスを持ってくるのを待っている。しかし、テリーはマーテインが 何かを隠していて男と 秘密に連絡しあっているのに気がついていた。だから、当初予定していたのとは別の車で 別のところに逃げる。

逃げた先で盗んだものを見てみると ざくざく 宝物が出てくる。  マーテインが エイージェントに頼まれて渡さなければならなかったものは、エリザベス女王の娘、プリンセスが、ウェスト インデイーの独立運動家たちと乱交している写真だった。ウェスト インデイーの独立運動派は、この写真を 政府を脅迫するために大切に保存していたのだった。当時、カリブ海のイギリス領土だったウエスト インデイーでは、独立運動が起きていた。エージェントは 女性エージェントをウェスト インデイーに送り込んで 情報を得て、独立運動をけん制していたが、女王のスキャンダルは 早めに潰しておく必要があったのだ。

またテリーは 盗んだものの中に、ロンドン警察署署長が、当時は 違法だった売春宿で、サド マゾ プレイに興じている写真を見つける。売春宿のオーナーが 自分達の商売の存続に関わる問題が起きたときのために、いつでも警察署を告発できるように 写真を確保していたのだった。

さらに、ロンドンギャングの親玉が 警察署内部に 高額の賄賂を手渡して手なずけていた。ギャングの出納記録まで 出てきた。これが暴露されるとギャング団も 警察署の半数の役人の首が飛ぶ。

貸し金庫の中身をごっそり持ってきたために マーテインもテリーも予想外の宝物のために、政府のエージェントからも、警察からも、ギャングからも、汚職刑事からも 追われる身になる。 というお話。 同時進行で、警察の動きやギャングの動きをカメラが追うので、怖くておもしろくてゾクゾクする。動きの早い映画だ。

人々は貸し金庫に誰にも言えないような秘密を仕舞っていたり、闇で得た裏金を隠していたり、盗んだ宝石をかくしていたりする。だから、この事件で 盗まれたものの被害額は いちじ30億円位と、推定されたが、いまでも全くわからない。被害者が被害額を申請できない事情があるからだ。

それにしても、たったひとつの銀行の貸し金個室が襲われたくらいで イギリスの王室も警察も 根底から震かんさせられた、と言う話、実におもしろいではないか。 30年たってみて この映画はウソだ、王室にスキャンダルはなかった、警察に汚職はなかった、ウェスト インデイーに介入はしなかった、というのならば、イギリス政府はこの事件に報道管制を布いたのは どうしてだったのか。事件直後に迷宮入りを宣言して 一切の報道が止まったのは どうしてなのか。ちゃんと説明してくれなければならない。

2008年8月11日月曜日

ステブン イスラレスのチェロを聴く


ACO(オーストラリア チャンバー オーケストラ)の定期公演会に行ってきた。
エンジェルプレイス シテイー リサイタルホール。
ゲストは イギリスから、チェリストのステブン イスラレス。
監督:リチャード トンゲッテイ
曲は

1)CPE バッハ チェロコンチェルト 作品172番
2)バージル 弦楽8重奏曲 作品15番

3)ラベル  二つのヘブライのメロデイー
4)バルトーク 弦楽変奏曲

リチャード トンゲッテイを含めて、第一バイオリン5人、第二バイオリン5人、ビオラ3人、チェロ3人、コントラバス1人の計17人。これにコンサート チェリストのステブン イスラレスが加わった。 演奏会に先立って、世界的に名前のあるステブン イスラレスのチェロという宣伝文句に期待をして行った。
が、みごとに裏切られた。
というか、世界で高い評価を受けているチェリストが かすんでしまうほど、リチャード トンゲッテイ率いる室内楽団がのレベルが高い と言うことかもしれない。だから、このゲストチェリストが下手だったと言うわけでは決してない。
肩までのカーリーヘアを振り乱して、バロックを演奏するハンサムなイスラリスは、なかなかビジュアル的に見ごたえがあったし、軽々とテクニックを披露してくれて 簡単にはマネできない実に優れたテクニックをもっていた。でも心に染み入るようなチェロの音を聞くことが出来なかったのは、残念だった。

なかでは 弦楽8重奏が良かった。弦楽4重奏は、何度も二人の娘達と演奏したことがあるが 8重奏はない。複雑な構想、曲そのものの難解さ。8人のうち、一人が1拍 早まっただけで、綿密に組み立てられている曲そのものが、がらがら音をたてて壊れてしまう。とてもアマチュアには演奏できない。それを互いの音を聴きながら、実にみな楽しそうに演奏していた。

むかし、オーストラリアに来たばかりの頃は NSW大学を拠点において活動しているオーストラリア アンサンブルの音に魅了された。デイーン オールデイングの率いる室内管弦楽団だ。オールデイングの繊細なバイオリンの音は なにか特別な、取って置きの音と言う感じで 聞いていると泣きたくなるような音だった。若くてシドニーシンフォニーオーケストラのコンサートマスターだったが、大所帯を飛び出して、自分の仲間だけで演奏を始めた。彼らの室内楽を3年くらい 熱心に聴いていたが ある日突然 禅問答のような現代音楽ばかりに挑戦しているオールデイングの音が嫌になった。

その頃には リチャード トンゲッテイは 自分の仲間とともに、オペラハウスで定期公演会をもてるほどに 実力をつけていた。かれは 間違いなくオーストラリアでナンバーワンの演奏家だ。ソロイストとしての名声がついていると、えてしてわがまま坊主になりがち。世界のソロイストは皆そうだ。出来る人はわがままでいい、一人のソロイストを100人の演奏家達が支えてやればいいというのが常識の世界。しかし、リチャード トンゲッテイは あくまで謙虚でソロイストとしても 楽団のリーダーとしても きちんと立派に仕事をしている。この10年間、定期コンサートで、同じ曲をやったことがない。常に新しい曲に取り組んでいる。 毎回 世界からピアニストや、ハーピストや歌手やリュート奏者などを招いて、一緒に様々な曲を演奏している。毎年1ヶ月は、ヨーロッパなどに演奏旅行にでかけて、世界の演奏家達と交流をしている。 小さなグループだから 資金繰りは大変だと思う。10年間 彼らのコンサートを聴いてきて、スポンサーシップも続けているが 今後も期待して見守っていきたいと思っている。

2008年8月10日日曜日

映画 「ウォンテッド」




映画「WANTED」を観た。
監督:TIMUR BEKMAMBETOV
配役:JAMES MCAVOV         MORGAN FREEMAN    ANGELINA JOLIE

派手なカーアクション 銃やナイフでの殺し合い、ガンさばきと、流れる血、、、ハリウッドの娯楽映画の典型の、最新のフィルムだ。 とてつもない規模の破壊、今回の映画も おびただしい数の車が派手なカ-チェイスの末に ぶっ壊れ 火を噴いた。車だけでなく 列車や人も沢山 崖から落ちていった。

アメリカ人がこんなにも 建物や車やバイクやヘリコプターや飛行機が火を噴いて壊れていくのを 映画で見るのが好きなのは、毎日の平凡でまじめな生活に疲れて飽き飽きしているので、せめて画面の中で 物が壊れるのを見て うさばらしをしたいのだ という心理学者の解説を読んだことがある。
本当だろか?
むしゃくしゃして 不満がつのって、そのはけ口に、大きな音でガラスを蹴破ったり、食器を床に投げつけたり、無抵抗な女をぶん殴ったりして不満をぶちまけないと気がすまない というタイプの人がいるということも、知識としては知っている。
が、本当だろうか?
私だったら、うさばらしや不満をぶちまける暇があったら、不満の原因を冷静にたどって、そちらから解決するように努力してみる。仕事がつまらなくて耐えられないほどだったら、別の仕事を探し始めるし、夫が退屈でたまらなかったら別のを探す。

破壊や流血を見るのには痛みを伴う。
それでもそういった映画が封切られるそばから観るのは それが現在 最大規模の映画産業ハリウッド文化の主流だからだ。

ハリウッドで一番女性からも男性からも人気のある女優、アンジェリーナ ジョリーが、凄腕の殺し屋で、 そのボスは モーガン フリーマン。そこに今が「旬」の ジェームス マックボイがリクルートされてくる。という俳優ぞろいだとわかれば、ちょっと映画の好きな人ならば見逃すことができない。 まあ、日常生活からは、程遠い おとなのおとぎばなしを見るという感じだ。

ジェームス マックボイ扮する ウェスリーは、全然うだつのあがらない銀行員だ。職場ではヒステリックでサドの女性上司に頭が上がらず、毎日嫌味を言われながら 過重な仕事を押し付けられている。家に帰れば 長年付き合っているガールフレンドがいるが 彼女はウェスリーの同僚と浮気をしている。それをうすうす知っていながら 慢性的金欠病の彼にはどうすることもできない。銀行貯金の残金は$14というわけだ。誰にもももんくをいえるわけでなく ただただダメ男の代表のような凡人だ。

だがある日、立ち寄ったドラッグストアで 拳銃の撃ち合いに巻き込まれる。逃げまくっている最中、目の覚めるような美しい女性の運転する車に拾われて 命拾いする。連れて行かれた 砦のようなお城で、ウェスリーは 4歳のときに死んだと聞かされていた父親が、実は 秘密結社の殺し屋で、昨日殺されたばかりだ、と言われる。そして、天才的な 狙撃手だった父親の後を継いで 狙撃手として教育訓練を受けて欲しいと要請される。夢のような話に 一度は断って自宅に戻るが、自分には何も失うものはないと 思い直して、プロの殺し屋としての訓練を受けることを決意する。文字どうり何度も瀕死の怪我を受けながらも 優秀だった父の血筋を受けているだけに、めきめきと力をつけて、様々な武器を使えるようになって、命令どうりに、敵を殺す仕事をこなしていく。 しかし、そうしているうちに、父親を殺した仇を討つつもりでいて その仇が実は 本当の父親だったという真相がわかり、、、。 というストーリー。

つまり、この秘密結社は ライバルの秘密機関にいるウィリーの父親を殺す為に、ウィリーを リクルートして 父殺しをさせる計画を立てたわけだ。殺し屋ナンバーワンを消すためには、ナンバーワンの血筋を引いた息子に ナンバーワンになってもらって、父親を消すしかなかったというわけ。そうしたことのために、沢山の車が壊され、建て物が破壊され、巻き添えにあった沢山の人の命が失われる。

アンジェリーナ ジョリーの派手なアクションと 彼女の指導によって うだつのあがらない普通の男が一人前の殺し屋になっていく過程が とっても おもしろい。

なかで、目新しいのは、ガンさばきだ。従来のプロの狙撃手にとって、大事なのは 限りなく遠くから、限りなく正確に 相手の心臓または頭を一発で打ち抜くことが究極の仕事だった。 しかし今回は 見えないターゲットを 殺すテクニックが開発される。建物の後ろに隠れている人に向かって 腕をまわし撃ちにして 流れ弾のようにして撃ち殺す。弾はまっすぐ飛ばないで 弧を描いて飛ぶ。肩を支柱に 腕を回すことによって 目の前にあるものを避けて その後ろにあるものに当たって 隠れている人を確実に殺すのだ、、、。ウェスリーは これをマスターする。

回し撃ちで 見えないターゲットを撃つ なんて、そんな馬鹿な、、、! 
もうほとんど「巨人の星」の「魔球」の世界だ。「弾が き、、きえた、、。」というわけだ。 

ゴルゴ13も、びっくり。 そんなテクニックをアンジェリーナ ジョリーに 手取り足取り指導されれば 本当に出来るようになってしまうかもしれない と、観客に信じさせてしまうところが この映画の醍醐味だ。

だから、これは おとなのおとぎばなしだ。この映画を観た後は、日常生活に戻って、こつこつとまじめに仕事して 嫌味な上司にも頭を下げて、飽き飽きしているパートナーにも優しくしてやって 金欠にも耐え、そうしているうちに、いつか、突然、アンジェリーナ ジョリーみたいな とびきりの人が あなたの人生に飛び込んできて 日常をぶっ壊くれるかもしれない。その日を夢みよう。

2008年8月4日月曜日

オペラ「マイ フェア レデイー」


マイ フェア レデイー」は、劇作家、ジョージベルナルド ショーが書いた芝居「PYGMALION」をもとにして フレデリック ローイが音楽をつけてミュージカル化したものだ。初演は 1956年、ニューヨーク マークへリンガ劇場。そのミュージカルが映画化されたのは 1964年。オードリー ヘップバーンと、レックス ハリソンが主役を演じ、その年のアカデミー賞を総なめした。

ヘップバーンの愛らしさに魅了されて、この映画は永遠のヒット作になり、今でも人々から、変わらず愛されている。同じ年に、ミュージカル「サウンド オブ ミュージック」が 大ヒットしたにも関わらず、「マイ フェアレデイー」のインパクトが大きくて、そちらは、何の賞も獲得できなかった。ヘップバーンの姿が多くに人の目には焼きついているから 今さらながら これを舞台で上演するなんて、わざわざ不評を買うためにするようなものではないか。そんな勇気ある、というか考え無しのオペラを、オペラオーストラリアがやったので、観にいってきた。

舞台は、 時は1912年 所はロンドン、コベントガーデン。今しがたロイヤルオペラハウスでオぺラが終わり、紳士淑女が 出てくるところ。 貧しい花売り娘達が 紳士達に群がっていく。劇場から出てきたヒギンス教授と、ピケリング将軍は 余りに汚い下町言葉で話しかけてくる 花売り娘達を見ながら、下町なまりは教育によって変えられるものかどうか 論議している。ヒギンス教授は言語学者なので、賭けをして、半年間で目の前にいる娘を誰よりも立派な上流階級の言葉を話せるようにしてみせる、と豪語する。

翌日、チョコレートを食べさせてもらえる という餌に釣られて、イライザが 教授邸にやってくる。教授はイライザに半年間 自分の家に住み込んで その間お小使いもあげるが、言われたとおりに学習するように と娘に約束させる。娘の父親は貧しい掃除夫で 娘が花を売って得たお金で 飲んだくれてばかりいるお調子者。さっそくヒギンス邸のお金を無心にくる。 イライザの英語のレッスンは毎日毎日深夜まで 厳しく続けられるが、徐々にイライザの物腰からしぐさ、言葉にいたるまで上流階級のレベルに達する。ヒギンス教授は テストのつもりで、アスコット競馬場に イライザを連れて行くが、馬の走行に興奮したイライザは、馬に向かって下品な声援を送って大失敗をやらかす。しかし、それが若い貴族フレデイの心を捉える。

最終テストと称して、ヒギンズ教授はイライザを大使館主催の舞踏会に連れて行く。そこで、各国大使達から イライザの品のよさと美しさが絶賛され、注目の的になって、ヒギンスは、鼻高々。一介の花売り娘を上流階級の娘に育てた自分の業績に自画自賛する。そんなうぬぼれの頂点に立ったヒギンスを見て、自分はただピッケリング将軍との賭けに使われただけだったと知ったイライザは、もう自分はヒギンスにとって用無しになったと思い込んで、家出する。しかし、生まれ育った下町では、変わってしまった自分を受け入れてくれる人々はいない。貴族で自分を愛していると言うフレデイも、若すぎて頼りにならない。

一方、教授はイライザがいなくなって 初めて彼女の存在が 自分の日々の喜びであり、彼女が自分にとってなくてはならない存在になっていたことを思い知る。テープレコーダーに録音されたイライザの声を聞きながら 呆然としているヒギンス教授の背後に 帰ってきたイライザが 立っていて、、、という 余りにも有名なストーリー。

オぺラは、2幕 3時間。
演奏:オーストラリア オペラバレエ オーケストラ
指揮:ANDREW GREENE
監督:STUART MAUNDER
イライザ ドリトル:TARYN FIEBIG
ヒギンス教授: REG LIVERMORE
ピケリング将軍:RHYS MCCONNCHI
フレエデイー:MATTHEW ROBINSON
イライザの父:ROBERT GRUBB

何よりも、衣装が派手で綺麗な舞台だった。
衣装、舞台の華やかさに比べて ソプラノの声は貧しく 高音と低音がマッチしていない、など、主役にはちょっと物足りないソプラノだったが、衣装の華麗さ、帽子の美しさで 欠点をカバーしている。ヒギンス役のバリトンは、テナーともバリトンともいえない。だいたいオペラ歌手ではない。長年ミュージカルや劇で活躍してきた人。最初の出だしで、声の質がオペラにマッチしない、好きになれない声なので 一瞬 出てきてしまおうかと思ったが、大人気ないことはせず、きちんと見た結果、これはこれで良い。もとが、ミュージカルなのだから、これで立派ではないか、と思うことにした。

イライザとヒギンス、ピッケリング将軍以外にも、ヒギンスの母親、ヒギンス邸の執事、女中頭、イライザの父など、みな役柄によく合った役者達が配役されていて、重要な舞台回しをしていた。 イライザの父と飲んだくれ仲間達のよるコーラスや、花売り娘達のコーラスも良かった。 貴族達が集まるアスコット競馬場でも目にも鮮やかな 女性達の豪華な衣装と帽子は1920年代のファッションショーのようで、見ていて楽しい。それと、唯一、フレッドのテナーは、聞きごたえのある、よく延びる美しい声で、特筆に値する。

ヘップバーンが演ずる映画を観たのは、1964年、今 再びオペラで観て 中で歌われる曲 全部をよく憶えていた。それほど良くできた曲ばかりで、印象も深かったのだろう。そして最後の場面 おなじところで、昔と同じように ホロッとした。楽しいオペラだった。
このオペラを観終わった後、ロイヤル劇場で、ミュージカル「マイ フェア レデイ」が、10月10日から1ヶ月間 同じソプラノ歌手で、上演されることがわかった。ソプラノ以外は 別の歌手で見せるらしいが、オペラハウスではプレミヤ席 $190 だったのが、ロイヤル劇場では プレミヤでも $125なので、かなり得かも知れない。それだけオペラハウスでは、使用料が高いのと、オーケストラや舞台装置に お金がかかるということか。この見世物ならば、ロイヤル劇場で、ジーンズ姿で、アイスクリームをなめながら見たほうが、楽しいような気がする。