主演男優賞、ベスト監督賞を含む 8つのオスカーにノミネイトされている 160分の大作 映画「THERE WILL BE BLOOD」を観た。
原作は アプトン シンクレア(UPTON SINCLAIR)が1927年、テキサスの石油王 ダニエル プレインビューの生き方を描いた「OIL」(オイル)。それを映画化したもの。 監督 ポール トーマス アンダーソン(PAUL THOMAS ANDERSON)。彼は過去に 映画「BOOGIE NIGHT 」、「PUNCHI-DRUNK LOVE」、トム クルーズの「MAGNOLIA」などを撮っている。
主演は石油王 ダニエル プレインビューを、ダニエル デイ ルイス(DANIEL DAY LEWIS)が演じた。 この人は 1990年に「MY LEFT FOOT」でオスカーを獲っている。
この映画は 主演ダニエルの一人芝居のような趣だが、主演のほかに 二人の重要な登場人物がいる。一人は、息子の、デイロン フレイザー(DILLON FREASIER)で、もう一人は、若い牧師で ポール ダノ(PAUL DANO)が演じている。
ダニエル デイ ルイスなくしてこの映画の成功はなかったと 監督をはじめ 沢山の人が 絶賛している。160分の映画の間 この人が映像に出ていない画面が全然なかった。文字どうりのこの俳優のワンマンショーだ。彼はオスカー主演男優賞を取るだろう。この人が取らないで 他の誰が取るというのだ。
タッチはドキュメンタリーの切迫力、映画の始まりから終わりまで 極度の緊張で 見ている者を縛り続けてくれた。この俳優の迫力に圧倒されて、見終わったときには、ものすごく疲れていた。こんなに重くて、疲れる映画 久しぶり。
事業のために生きた男のお話。ダニエルは 石油採掘に命をかけ その事業欲を満足させるためには 反社会的な行為も殺人だって厭わない、孤高の男。彼は、事業に成功して石油王になってから、人から仕事以外に何も持っていない、家族もないと言われることを極端に恐れていた。事実は、恋愛も結婚にも家庭のも興味がない。偏愛する息子は かつて採掘現場で死んだ仲間の息子だ。この映画には全然女性が出てこない。石油堀りの男達にあやされていた赤ちゃんが、ずっと、後で 母親は出産時に亡くなった と説明されるだけだ。無言で いつも従順な犬のように ついて回る息子に、人から愛されたことのない石油王ダニエルが 狂気じみた愛にのめりこんでいく様子が よくわかる。極端な息子への偏愛。にも拘らず 成長した息子が 自立に苦しみだすと、裏切られたと断じて、押しとどめることの出来ない憎悪と激情をむきだしにする。
石油王ダニエルの宿敵ともいうべき聖職者、カリスマ的な若い牧師が登場する。この作品のテーマには 強烈な個性を持った実業家と、宗教家の対立が複線になっている。事業の持つ 非人間性、物欲、弱肉強食,資本主義の腐敗的体質、堕落、罪深さと、宗教とは 対立するかのように見えるが、時として、事業一筋に生きてきた男が 金も名誉も欲しい聖職者よりも 純粋であることもある。石油王は一生を通じて 神を必要としたことがなかった。 石油を掘るために彼はいくつもの人命と血を犠牲にしてきた。自身が採掘穴から生還できたのは、神の力ではなく、自身の意思の強さによる。富を得て、集めた骨董品を並べて それを銃でぶち壊しては 楽しんでいる。破壊的、破滅的な 成り上がり石油王の後ろ姿の 何という孤独感。何という寂寥感。
60年前にオーソン ウェルス(ORSON WELLES)は、映画「市民ケーン」で、新聞王(CHARIES FOSTER KANE)を描いた。この新聞王と、石油王の共通点の多いこと。強烈な個性、反社会的性格、エゴイズム、自己愛の延長の偏愛、権力、留まることを知らない事業欲。
こういう映画を観ると、なんか 給料とか残業とか有給休暇とかで ヤキモキしたり、争ったりしている普通の人が馬鹿に見えてくる。
神も、人の愛も要らない男、100%事業に燃えて燃え尽きる男。ああ、、、男にとって、仕事って一体何なの?
音楽では 最後のブラームスが 切り刻むような激しいヴァイオリンの鋭利な音が 男の心象を表現していて、とっても良かった。