2008年5月22日木曜日

シドニーの普通のレストラン



シドニーはもう冬、6時半に起きる頃はまだ暗い。写真は 起きたときベッドから見た光景。ギリシャ教会の尖塔が日の出の光に美しく映える。

映画「アイアンマン」で、テロリストに誘拐された億万長者が救出されて、アメリカにもどって まず初めに食べたがったのがマクドナルドのチーズバーガー、というシーンがとても気に入ったのは、私も マックチキンでなく、ナゲットでなく一個$2のチーズバーガーがむしょうに食べたくなるときがあるからだ。 家から5分歩いたところにマクドナルドがあり、さらに5分歩いたところに郵便局がある。毎日 私書箱を見に、郵便局に行き、マクドナルドによらず帰って来るのに努力を要することがある。40セントのソフトクリームの魅力も見過ごせない。それをなめながら、ゆっくり歩いてアパートのドアでコーンに達し、エレべータ-でコーンを食べつくし、部屋に入って ポイッなのだ。

娘達がそれぞれ立派な専門職について自立して、一人遊びが上手になった。ひとりでチャッッウッドに映画を見にに行き、一人で回転寿司を食べてくる。寿司飯の上にサラダを乗せたり、エビフライやとんかつが乗ってマヨネーズがいやというほどかかっているような皿ばかりが クルクル回るカウンターで、「ねえ、かんぴょう巻き作ってちょうだい、普通の、ごく普通の奴、、」とか、無理難題を言って嫌がられている。

映画館から一階下りたマンダリンセンターの、韓国チャコールBBQの、$10 バイキングにも よく行く。レストランで一人前ドン と盛られると食べきれない。好き嫌いも激しいから、好きなものを好きなだけ気ままに食べられるとうれしい。バイキングだから、ネギやにんじんをセッセと横にどけて、焼きそばだけをがっしり取ったり、八宝菜の山の中から、ほじくってミニコーンとブロッコリーだけとったり、肉のところをこそげ取ってマーボー豆腐の豆腐だけを取ったりしても、誰も批判がましい顔をしないでいてくれる。四角い顔の主人 元軍人という感じのおじさんもおばさんも、最初に店に入ったとき$10払って入ると、みごとに無表情のまま何時間でも放っておいてくれる。ふと思いついて友達に手紙を書いたり、新聞を読んだりしてゆっくりする。

家族や友人と食べるディナーに、日本食レストランの予約を取ろうと「オタクは日本料理屋ですか」と聞くと 「いいえ」、と明確に否定してからジャパニーズフレンチです、とか、フュージョンですとかの答えが返ってくる。何のことが全然わからない。

でも、気に入ってよく行くレストランは「WAQU」と、「美濃」。

「WAQU」:32FALCON ST CROWSNEST 9906-7736   5コース $49
「美濃」:521MILLITARY RD MOSMAN 9960-3351   5コース $59

先日の「WAQU」のメニューは、
1)ソフトシェル蟹とタコス   牛肉と飛び魚刺身 ポン酢ゼリー寄せ   鶏フィレ肉ゴマソース   にんじ    んスープキャビア添え
2)鱒のタルタルソース   または  
 帆立貝と豆腐のきのこソース   または   
 黒豚フィレ肉照り焼きソース
3)寿司
4)ビーフステーキ   または   
  チキンアジアスパイス   または   
  鱈の西京焼き
5)デザート


先日の「美濃」のメニュー

1)穴子とカニの湯葉まき   または   蒸し海老の梅ドレッシング
2)お造り生カキの盛り合わせ
3)銀鱈の西京焼き
  赤ピーマンと魚介類のポタージュ
  海老真丈
  牛肉たたき
  ソフトシェル蟹の吉野葛揚げ    
    または   

  キングフィッシュとしめじ茸蒸し
  赤ピーマンと魚介類のポタージュ
  アスパラガスの合鴨巻き揚げ
  あぶり帆立貝のマリネサラダ
  霜降り肉のしゃぶしゃぶ風サラダ
4)鰻重     または   
  鶏か鮭の照り焼き     または   
  天ぷら     または   
  すき焼き     または    
  和風ステーキ     または    
  とんかつ     または    
  握り寿司     または   
  寄せ鍋     または   
  かじきトロの煮付け
5)デザート

「WAQU」はテーブルとテーブルの間に充分 スペースがあって、静かで落ち着いている。10人くらいのパーテイーができる個室もあって、良い。
その点、「美濃」は 詰め込みすぎというか、普通。
どちらの店も趣味の良い瀬戸物を使っていて、感じが良い。久しぶりに家族が顔をあわせたとき、食事を楽しめるシドニーの普通のレストランだ。

2008年5月18日日曜日

シドニーで一番のレストラン




シドニーで、和久田哲也がシェフをしているレストラン「テツヤズ」が、イギリス「サン ペレグリーノ世界のベストレストラン100選」で、今年も世界の10トップレストランに選ばれたと、日豪プレスは報じている。去年は5位だったが今年は9位。

トップ10のレストラン
1)EL BULLI スペイン
2)THE FAR DUCK イギリス
3)PIERRE GAGNAIRE フランス
4)MUGARITZ スペイン
5)THE FRENCH LAUNDRY アメリカ
6)PER SE アメリカ
7)BRAS フランス
8)ARZAK スペイン
9)テツヤズ オーストラリア
10)NOMA デンマーク
また 「テツヤズ」は 92年以降毎年、シドニーモーニングヘラルドの、グッドフード賞を受賞し続けている。一人前$285.半年先まで予約いっぱいのレストラン。

3年前、RNS病院の心臓外科病棟にフルタイムで勤めながら、日本人患者のために通訳で、タウンホールクリニックにも勤めていた。でも大学での勉強も始まるのでクリニックの方は 退職することになり、お別れ会を、テツヤズでやってもらった。
テツヤズの良いところは、すべてが個室になっていて、通路がほかの客を顔が合わないような構造になっていることだ。だから、レストランで誰ともばったり会ったりしないで済む。レストランによっては、普段は静かで落ち着いて食事するつもりで来たのに、たまたまほかのグループが耳の遠い老人グループで、大声でがなりたてるのがいたり、しつけのできていない子供を連れてくるアホな若夫婦がいたりすると、食事がめちゃくちゃになる。その点、テツヤズは、中に入ってしまうとハンサムなウェイターしか目にしないで済む。髪の長いウェイトレスを置いているレストランもいやなものだ。レストランは、身の動きの早い、清潔な感じの若いウェイターに限る。

部屋に通されると ウェルカムシャンパン。それが済むと、座って、前菜用のよく冷えたワインと前菜。次に、ワイングラスを下げて 別のワインと焼き物。それが済むと、また、ワイングラスを下げて、別のワインと煮物。という具合に、それぞれの料理に合ったワインが、それごとに注がれる。
メインは「テツヤズ」の代表料理、オーシャントラウトのコンフィ。50度の低音でじっくり火を通したマスの片側に、炒った昆布を胡椒のように貼り付けたもの。見た目も美しくて良いお味。
途中、口を洗うということで、一口シャンパンのソルべートが出て、デザート前にもシャンパンが出てから甘いものが出た。
クリニックのオーナーが払った一人$350のコースが高いと思わなかったのは、痒いところに手が届くスマートなウェイター達のサービスぶりと、惜しげもなくその場で開けられる沢山のワインでせいだろう。とても、良い思いをしたレストランだった。

「テツヤズ」と、「ガリレオ」と、「吉井」 この3つがシドニーでは一番のレストランと言われている。 行って見た。

オブザーバーホテルの中のレストラン「ガリレオ」。犬養春信コック長は、テレビの「料理の鉄人」に出演した。一人$165.  9コース。ソムリエが愚かな男で、お酒を飲まないから食事にしてくれと、言っているのに 飲み物をオーダーさせようと強引な押し売りをされた。わざと食事と食事の間をあけて、飲み物で稼ごうとする。食事が終わるのに4時間半かかって、終わる頃には、誰もが疲れ果てていて、会話を続ける気にもならなかった。これほど愚かなソムリエに合ったことがなかったし、これほどレストランでひどい目にあったことは、前にも後にも一度もない。建物も古びて、汚らしい。絶対行くべきではない。

「吉井」コック長、吉井隆一。漫画「おいしんぼ」で 活躍した料理人。ラリアで一番の億万長者ジェームスパッカーが結婚したとき、彼が腕をふるった。
先日行ったばかりで、メニューを まだ捨ててないので書き写してみる。9コース $130。(ワイン別)
上の写真は、このときのもの。1、と 6、と 8、の写真。
1)ウニ玉
2)筍の前菜盛り合わせ
3)スキャンピのカラスミ焼き、筍のパスタ添え
4)子牛ヒレ肉カルパッチョ
5)アサヒガ二と衣笠茸の鳴門蒸し
6)和牛ビーフ 蓼と西洋山葵のピュレとたまり醤油ソース
7)シャーベット
8)寿司
9)味噌汁
10)デザート
フロアマネージャーが予約受付から、当日の案内、料理の出具合をよく監督していて、彼の洗練され、物腰の穏やかさは、とても良かった。しかしお運びは全員ウェイターでなくウェイトレス。
オントレのウニ玉が、この人の得意料理で、卵に、ウニを乗せて熱いスープをかけて金箔を乗せた物。金箔なんて、趣味が悪い。
前菜(2)と次の(3)で、季節の出し物として出された筍は、ショック!水煮缶だった。ここでも、本当のたけのこは、栽培しているのに、名のあるこのようなレストランで、一缶$5で買える水煮缶が材料だなんて、日本料理屋として許されるとは、思えない。おまけに、(4)も、(6)も、生の牛肉で、血がしたたるような肉だった。
「吉井」には、吉井コース$130か、桜コース$110しかないので、食べに行くと二つしかチョイスがない。(1)ウニ玉の生卵や、(4)と(6)の生肉を食べられない人は少なくないはずだ。現に、夫は ウニ玉を気持ち悪いと言い、生肉が食べられないので、ここの料理は ほとんどパス、食べずに返していた。このレストランは、行く価値がない。

というわけで、「テツヤズ」は、好きだが、半年先にまだ生きているかどうかもわからないのに、予約を入れてもらってまで 行く気はしない。
世界でトップレストランとか、いろいろ言うけれど、食べ物をおいしいと思うには、本当に仲の良い人と、楽しい気分で、会話を楽しみながら食べる食べ物ならば、何でもおいしい。なにも、高いお金をだして、高給レストランに行くことよりも、楽しい仲間をもつこと。一緒にいて楽しい家族を維持すること。これが一番大切なことだ、と思いあたる。

2008年5月12日月曜日

映画「ヒットラーの贋札」


映画「THE COUNTERFEITERS」邦題「ヒットラーの贋札」を観た。

久々に 重いが実のある 良い映画だった。今年見た映画30本位の映画の中で、一番印象深い 見ごたえのある映画だ。

事実をもとにしたドキュメンタリードラマ。オーストラリア映画、ドイツ語、英語字幕。
実際に、彼らが製造した贋札は、130億ポンドで当時の英国の外貨総金額の3倍にもあたる 金額だったそうだ。

監督:ステファンルッオスキー(STEFAN RUZOWITZKY)
2008年アカデミー外国映画作品賞 受賞作。

3人の主要登場人物
贋札作り稀代の職人サリーSOLOMON SOROWITSCHに:KARL MARKOVICS
サリーの仲間 ブルガーに:AUGUST DIEHL
ドイツ将校ヘルツォークに:MARTIN BRMBACK

1936年 ナチ政権下のベルリンで、ユダヤ人サリー(カール マルコビックス)は、地下で、贋札、パスポート、身分証明書の偽造などをしていたが、ナチに捉えられて、強制収容所に送られる。

ナチスドイツは 連合国の経済システムを混乱させ麻痺させるために、ポンドとドルの贋札偽造を計画していた。 ドイツ軍将校のヘルツオークは、印刷技術や、アートに優れた腕をもつ職人を集めて、工場をつくって そこでポンド偽造を始めた。そこに贋札つくりの稀代の天才職人サリーが連れてこられ 責任者に任命される。

集められたユダヤ人のなかで、ブルガー(オーグスト デヒル)は、ロシアから連行されてきたコミュニストのユダヤ人、贋札作りのサボタージュを提案し、ドイツ軍に協力するくらいなら ほかのユダヤ人たちと一緒にガス室に行くと主張して 実際、サリーの仕事の妨害をする。贋札工場に集められたユダヤ人は、ほかの者たちとは格段に良い待遇で、柔らかいベッドや、良い食事が与えられるが、いったん抵抗すれば、いとも簡単に銃殺処刑が、待っている。
サリーは、ドイツ軍将校ヘルツオークに 激しくプレッシャーをかけられながら 黙々と 贋札作りをすすめていく。

実在した人物 サリー(ソロモン ゾロウィック)を演じた カール マルコビックは、シドニーでは テレビ連続刑事ものの番組「インスペクターレックス」で、毎週でてくる おとぼけ刑事をやっている俳優だ。痩せて、背が低く、禿げ上がって あごが滑稽なほど出ている ハンサムとは程遠い俳優だが、テレビ番組では、レックスという名のジャーマンセパード犬が主人公で、毎週起きる殺人事件を解決する。刑事達は、犯人を追い詰めたはずが、逆に追い詰められて倉庫の中で焼き殺されそうになったり、気絶したまま水死しそうになったところで 刑事達より優秀なレックスに助けられ、犯人逮捕にいたり、めでたしめでたしとなる。オーストリアから送られてくる人気テレビ番組で、英語字幕がついている。
しかし、「ヒットラーの贋札」が、アカデミーをとり、カール マルコビックが有名になってしまったため、せっかくのレックスが引っ込んでこの俳優が中心の刑事ものになってしまった。レックスの活躍だけが楽しみだった私には、がーっかり。 しかし、彼は良い俳優だ。この映画に適役。彼の無表情の表情がとても良い。

ナチの命令に出来る限り抵抗しようとしたブルガーと、ナチの命令には卑屈とも思えるほど従順にヘルツオークを喜ばせようとするサリーとは 常に映画の中で対になっている。
しかし ブルガーが サボタージュの責任を問われて銃殺される瞬間を、完璧に仕上げたドル札を手に駆けつけてブルガーの救命をするのはサリーだ。
仲間の中で 絵の上手な少年が結核になって、それをドイツ側に察知されたら殺されるとわかって、ヘルツオークと危険な駆け引きをして結核の薬を手に入れて少年を救命しようとするのもサリーだ。
贋札工場で、誰よりもドイツ軍に従順で卑屈にみえて サリーは贋札工場の責任者として 仲間の誰一人の命も失わずに済むように 奥深く秘めた決意をしていたのだろう。

ドイツ兵が退却し、戦争が終わったことを知ったとき、コミュニスト ブルガーが、大粒のなみだをぼろぼろ落としながら 呆然とたたずむ姿と、サリーの無感情とは、対照的だ。

毎日が死の恐怖と恫喝に中にいた者にとって、終戦、自由、解放、希望、、、など、絵に描いたような道順を歩めるわけがない。

サリーは、解放後、ヘルツオークが隠していた贋札の札束をもって、パリにきて モンテカルロのカジノで 湯水のようにポンドを使い切る。酒も女も金も、彼にとっては 何の意味もない。金を使いきった後、砂浜で海を見つめる彼の目は、何もみていない。絶望以上の絶望をみている。 映画最後の場面だ。

私達は、このような優れた戦争映画によって、たくさんのことを学ぶことができる。
「ソフィーの選択」、「ショアー」などでも、私はたくさんのことを知ることができた。本を読んだり ドキュメンタリーフィルムを見ただけでは わからなかったことを、優れた映画によって、感じ、触り、聞き、味わい 感動することができる。

とても良い映画なので、お勧めする。

2008年5月9日金曜日

映画「壊れた太陽」



映画、「BROKEN SUN 」、邦題「壊れた太陽」を観た。
監督:BRAD HAYNES
出演:JAI KAUTRAE、宇佐美慎吾、原健太郎、橋本邦彦


オーストラリア、NSW州のカウラというシドニーから西の内陸に向かって250キロほど行った田舎町に、第2次世界大戦中は捕虜収容所があった。 カウラは今でこそ、小さな町が中心にあり、そこから一面の麦畑と、牧草地が広がって、牧畜農家が点在している のどかな田舎だが、収容所があったころは、まだ本当に僻地のようなところだったのだろう。

戦争が始まって、フィリピンなどで戦争中に捕虜となった日本人が、イタリア人捕虜や、ドイツ人捕虜と一緒に、この収容所に収容されていた。  当時の日本人軍人は生きて捕虜となるよりは、天皇のために戦って潔く死ぬことを望んで、食事のとき用に与えられていたフォークやスプーンや石で武装して、看守を襲い、集団脱走をした。

1944年8月5日のことだ。1104人脱走、死者234人、負傷者108人、脱走に成功したもの ゼロという記録を残した。生き残って、収容所にもどされた捕虜達は戦後 日本に帰国したが、捕虜を恥と考える日本人捕虜達は、自分の本名を隠し通したため、実際の脱走の首謀者などは、わかっていない。

死者のうち、4人はオーストラリア人看守だった。僅かな数の看守に対して、圧倒的多数の日本人が襲ったため、看守は無残に殺された。脱走を計画したものは、恐らく 誤った情報によって、カウラから脱走して汽車に乗り 港までたどり着ければあわよくば母国に帰れると、思い込んでいたものもいたと思われる。当時、南方戦線に駆り出されていた島国日本の若者に、日本とオーストラリアがどれほど離れているのか、NSW州が地図の どのあたりに自分がいるのかといった知識を まともに持っていた人はわずかだったろう。汽車などなく、港まで何百キロ、カウラから歩いてでは、どこにも逃げる所などない。日本の22倍、このオーストラリア大陸の大きさを正確に知っていれば脱走に異を唱えるものも多かったはずだ。無知を、教条的な精神主義で乗り切った当時の軍国日本の、無謀な集団脱走だった。一部の軍人に踊らされて起きた 集団自決事件ともいえる。

今、カウラには沢山の桜が植えられて、当時の戦死者達の日本人墓を取り囲んでいる。近くには、日本庭園が造られ、池には大きな錦鯉が泳いでいる。日本軍は大東亜共栄圏とかいって、アジアの国々を侵略し、捕虜になった兵士達は オーストラリアでサンフランシスコ条約に即して人道的な捕虜の扱いを受けていたにも関わらず、オーストラリア人の警備員を殺害し、集団脱走して 結果として、沢山の集団自決とも言ってよい死者をだした。毎年、桜の時期には、大使、領事や、日本人会によって、法事が行われている。

この映画は、このカウラ事件を扱った インデイペンデント フィルム。
主人公、ジャックは 若いときに第1次世界大戦でヨーロッパ戦線に送られて帰還した元軍人。結核でひとり、わびしい恩給暮らしをしている。戦場で負傷して、連れて行ってくれと、懇願する親友を無残に見捨ててきた過去から逃げられず、親友がいつも夢に現れて、自分を苦しめる。 そんな時に カウラ収容所から脱走してきた日本人捕虜マサルが、とびこんでくる。ジャックは 素足でボロボロの服を着たマサルに 食べ物を分けてやり、服をやり、足の怪我の手当てまでしてやる。戦争で心の傷を負っているジャックと、絶望的な脱走をはかりうとしているマサルとの間に、いつしか心が通い合う。

しかし、その夜 もう一人の脱走犯がやってきて、自殺をはかるが死に切れなくて苦しむ友人のために首をしめて楽にしてやるマサルをみて、ジャックは 許せない殺人だといって激しく怒る。しかし、朝には、追っ手がやってきて、、、というお話。

この映画は 歴史的に無視することができないような 深刻な出来事を扱っているはずだが、映画としては失敗作、ものすごくつまらない。冗漫で、詩情に流れて、テーマが失われている。安っぽいセンチメンタル。
この監督の日本びいきには頭が下がるが、マサルの友達が 脱走したあと生き残ってマサルと合流できた そのすぐ後に切腹自殺するのは、実情にそぐわない。オー!ニポンジンー、ハラキリ、ゲイシャ、フジー、といった外人さんのイメージには苦笑するしかない。脱走した捕虜がハラキリできるような短刀を持っているのも、謎だ。

脱走の前、一番強硬に看守を殺して潔く死ぬと、アジっていた男が逃げ延びて、女子供しかいない農家に逃れて、食べ物を恵んでもらったあと、主婦に、どっかに早く行ってくれ、と言われて、あわてて、主婦の家事の手伝いに、シーツを干そうとするところは、笑える。当時の日本軍強硬派がこんなことをするだろうか。

初めの脱走シーンも、突然、画面が真っ暗になって、声だけ、ワーとか、ガッシャン,ドタン、グシャ、バンバン、ドッドッドッ、などと、音だけで脱走を仕上げてしまったのも、予算がないのは、わかるけど、もっと、何とかならなかったのかしら。だいたい、せりふあり日本人4人、せいふなし日本人が4人くらいの出演者では、戦闘場面は描けなかったのも無理はないけれど。でも、本当は、二人だけの出演者でも優れた映画を作ることもできる。

ジャックとマサルとの間に国境をこえた友情がめばえるといった テーマを描きたかったのだと思うけれど、そんなに 数時間の間に、簡単にめばえる友情って、何だろう。1944年 オ-ストラリアと日本は 敵味方で戦争をしてた真っ最中のできごとだ。オーストラリアのおとなりさんのインドネシア、シンガポール、フィリピンと、日本軍は侵略の食指をのばし、オーストラリアのダーウィンを爆撃し、シドニー湾にも潜水艦をおくって、人口の少ないオーストラリア人を震え上がらせていた敵だ。そんな日本人に出会って すぐ食べ物を分けてやり、自分の持っている一番上等な服をやれるだろうか。

カウラ脱走事件の当時に関する書物を、随分読んできたが、確かに 腹を空かせ、青白い思いつめた顔の脱走犯をみたカウラの人々の中には、田舎者の人の良さでもって、食物を与えた農家もあったようだ。でも、それは友情ではなくて、同情だ。決して、友情ではない。

インデイペンデントフィルムというのは、スポンサーもなく、限られた予算で どうしてもいいたかったことを、魂をこめて作るフィルムではないだろうか。

こんな程度のセンチメンタルな奇妙な日本びいきのテイスト映画を、男の友情物語とか 戦争悲話とか、ヒューマンドラマなんて、言ってくれるなよ。ムシズが はしるぜい。 

2008年5月5日月曜日

映画「アイアンマン」


映画「IRON MAN」、邦題「アイアンマン」を観た。 監督:JON FAVREAU
鉄人トニー スタックに: ROBERT DOWNEY JNR
秘書ペパーに:GWYNETH PALTROU
親友の米軍総指揮官ジムに:TERRENCE HOWARD
スタック社取締役 オビダーに:JEFF BREDGES

原題を、そのまま読めばアイロンマンなのに、邦題がアイアンマンなのは、日本人がRを発音できないからかしら? 敷島博士が開発し、金田正太郎少年が操作する、鉄人28号は、今も私のヒーローだけれど、これは、ロボットではなく 鉄でできたスーツを着て戦うアイアンマンのお話。

トニー スタック(ロバート タウニージュニア)は、天才的な兵器開発技術者で、スタック社二代目の社長。彼の開発した兵器は世界中で売りさばかれ、国防長も、米軍も、CIAもFBIもトニーとは密接な関係をもっている。会社の取締役でトニーの右腕は 亡くなったトニーの父の親友だったオビター(ジェフ ブリッジ)。 億万長者のトニーは、お酒と女が大好きな プレイボーイ。豊富な財力と、斬新な技術で新しいスーパーミサイルを開発したばかり。

この新しい兵器を売り込みにアフガニスタンに行った帰り、タリバン砲撃にあい、一行は全滅、トニーは誘拐される。トニーは砲弾の破片が心臓に突き刺さり、死ぬところを 同じくタリバンに誘拐されていた東欧のドクターによって、救命される。このドクターは自分が発明したペイスメーカーを トニーに埋め込んで いったん止まった心臓を蘇生させた。 医師とトニーの二人は、タリバンのために 洞窟で 米軍に売ったばかりのスーパーミサイルを大量生産することを要求される。 タリバンは 沢山のスタック社の兵器を米軍から強奪していた。それらを分解して二人は 新兵器を作る。すなわち巨大ロボットアイアンマンだ。

完成直前にタリバンに察知されて、医師は殺されるが アイアンマンスーツを着たトニーは キャンプから脱出、タリバンの網の目をくぐって、砂漠で行き倒れたところを 米軍に救助される。が、アイアンマンスーツは、粉々に崩壊する。

帰国したトニーは自分が作った兵器がタリバンを攻撃するだけでなく、米軍から奪われた同じ兵器が アフガニスタンの市民を殺傷している現実を知って、もう、武器開発はしない、と、主張する。会社取締り役達の混乱を尻目にトニーは一人、アイアンマン第2号の製作に着手する。 自分の心臓のペイスメーカーに 原子力エネルギーを使った新しいエネルギー源を埋め込み、銃にも爆弾にも負けない力を持ったアイアンマンを作る。飛行機より早く飛び、鉄よりも強く、風よりも早く走るアイアンマンは、アフガニスタンで大活躍。親友の米軍総指揮官ジムは、トニーの姿に驚愕する。

しかし、スタック社取締役のオバデイアは 裏ではトニーを裏切り 武器をタリバンにも横流ししていた。そして砂漠で粉々になった、アイアンマン第1号を再生して、トニーの心臓に埋め込まれている新エネルギーのペースメイカーを取り付けて自分がアイアンマン第1号になって、第2号のトニーと戦う。新エネルギーのペースメイカーを奪われたトニーの戦いの勝ち目はないが、秘書(グウェンス パースロー)の機転で第1号はエネルギーを失い、トニーは生き残る。アメリカ市民は、新しいヒーロー アイアンマンの登場に大喜びして、、、。というお話。

結論は、ジョージ ブッシュは、イラクで4000人の米兵をなくしながらも アメリカの自由と正義のために戦争を正当化しているけれども、アメリカの本当の敵は タリバンでもハマスでもアルカイダでもヒスボラでも南米ナショナリズムでもなくって、アメリカ内部の腐敗なんだよね。トニーの敵が 一番身近にいた自分の会社の右腕だったように。

トニーが3か月 タリバンに誘拐された後、無事帰国して、彼が最初に食べたがったのが、マクドナルドのチーズバーガーだったり、仕事しながら、ピザにかぶりついたり、億万長者なのに、なぜか憎めない。

プレイボーイ、トニーの一夜のお相手が 彼の豪邸で次の朝 目が覚めると、秘書のグエンス パースロー以外に誰もいない。女が腹をたてて「なによ、あんた」と言うと、パースローが、「私 秘書なの。トニーのズボンを下ろさせること以外は何もかも、私の仕事なの。」と、スラリと言うところも 彼女らしくて、全然憎めない。やっぱり、スーパーヒーローには、彼女くらいの、品格のある女優を使ってくれないとね。

週に1本以上は 劇場に足を運んで映画を観ているから、映画の始まる前の予告編はたくさん観ている。「インデイアナ ジョーンズ」や、アンジェラ ジョリーの「ウォンテッド」 など、興味深い映画が次々にやってくるのがわかる。でも、このアイアンマンは 一度も予告編をやらなかったので、何の予備知識もないまま、急に劇場に出てきたのを観た。で、観てよかった。とってもおもしろい。

「スパイダーマン」、「バットマン ビギン」、「スーパーマン」など、スーパーヒーローが私は大好き。 「ロボコップ」、「トランスフォーマー」も大好き。天才的な技師が図面をひいて、それが立体的な形をつくり、本物のロボットができていく過程はぞくぞくする。この映画もトニーが ロボットを相手に一人で アイアンマンスーツを作っていく過程がすごくおもしろい。人はいつも鳥のように自由に空を飛び、 風のように早く走り回る夢をみる。スーパーヒーローは、いつだって、いて欲しい。