2007年1月13日土曜日

映画 「ブラッドダイヤモンド」



ああ! きみは、世界一平均寿命が長い国に生まれたが、シエラレオーネという国では 国民の平均寿命は34歳と聞いて、涙が浮かばないか?

レオナルド デカプリオ 主演の映画「ブラッドダイヤモンド」を観た。世界一、平均寿命が短い国、シエラレオーネが舞台のあたかもドキュメンタリーのような映画。

一年ほど前「CONSTANT GARDENER」という やはりアフリカで、アメリカを中心にした多国籍企業がもつ薬品会社が、アフリカで、難民を人体実験に使って、薬を開発しては、国連からの援助名目で、高く売りつけて、暴利をむさぼっているという事実を映画にしていた。 観ていて、アレ?こんなに 本当のことばかりを描いて良いの?CIAは介入しないのか?とびっくりした。 今回のブラッドダイヤモンドも、まことに本当の姿を描いている。それだけに、臨床感もあり、社会的に訴える力も強い。

映画を契機に アフリカの貧困は ダイヤ、石油、資源を吸い上げるアメリカを中心とした多国籍企業と、中間に介在する不正 腐敗した軍にあるということに もっと沢山の人々の目が注がれることを期待する。 マスコミのニュースでは内戦といい、アフリカ内部の紛争のように報じられているが、実際には石油、ダイヤ、鉱物の先進国主導の取り合い以外に戦争の理由はない。映画のなかで、デカプリオがいみじくも言う、「とっくの昔に神に見捨てられた土地」それがアフリカだ。

映画のなかで、アメリカ人 ジェニファー コネリーの報道陣としての良心は、ベトナムから帰ってきて、良心の呵責に苦しみ、新たな人生を生きるのに20年もかかった、父親にある。 一方、ダイヤモンドの密輸に手を汚す デカプリオは、アンゴラ紛争で、9歳のときに目の前で、両親を殺されている。

シエラレオーネの平和だった漁村で、漁師だったサイモンは、ある日、反政府軍に拉致されて、ダイヤモンド鉱山の採鉱夫にされてしまう。 そして偶然 希少価値の、数百カラットにもなるピンクダイヤモンドをみつける。 家族の命以外に何の価値も認めない、一転の曇りもない、お父さんとしてのソロモンの愛情の力が この映画のキーになる。 良心のもとであるコネリーのお父さん、父親へお喪失感に苦しむデカプリオ、家族のために何でもできる父性愛の塊のようなサイモン。3人の人間としての、真の価値が試される。 

腐敗した政府軍、さらに腐敗した反政府軍の子供狩り、残酷な少年兵教育、まわりをうろつく 沢山の先進国からのスパイ、ダイヤ密売人、国連軍、外国人報道団。 これらの物語は、1999年のシエラレオーネの話だけではない。今のスーダンであり、ソマリアだ。

レオナルド デカプリオの 演技を超えた演技がとても良い。アメリカンアクセントを捨てて、南アフリカンアクセント(ダッチイングリッシュ)で 役に徹底している。 この人、「タイタニック」、「キャッチミー イフ ユ ーキャン」、「アビエーター」最近では「デパーテッド」と、良い映画を主演して 大金をハリウッドにもたらしているのに、賞に不運で、無縁、何度もアカデミー主演男優賞を逃している。グラミー賞にノミネイトされたらしいが、今度こそ、なにか、この映画で大きな賞を取ってもらいたい。

2007年1月10日水曜日

映画 「フォーミニュッツ」


ドイツ映画「FOUR MINUTSU」(4分間)を観た。デンデイー、クレモンオピアムで、上映中。監督、クリス クラウス(CHRIS KRAUS)。

ピアノ教師と女囚、二人の女のお話。 80歳のピアノ教師に、モニカ ブレブリュー(MONICA BLEIBREU)、20歳の受刑中の女囚にハナ ヘルツプルグ(HANNAH HERZSPRUG)。

すさまじいばかりの個と個のぶつかり合い、自己主張と自己主張の衝突、強制と反抗、薄氷の上を歩くような仮の和解と、その後での、血みどろのぶつかり合い。観ていて ハラハラ、時としていたたまれない思いまでしながら映画を観終わった。

80歳のピアノ教師 トルーデイはクラシック音楽だけを愛して、長いこと刑務所付属の教会でパイプオルガンを弾き、受刑者にピアノを教えてきた。クラシック音楽以外の音楽をすべて、二グロ音楽といって、断固と拒否する差別主義者、レイシストでもある。若かったころ 一人だけ愛した人は、ナチスヒットラー政権下にあって、コミュニスト女性闘志だった。軍政下 密告を強制されて、最愛の女性を失なうという 罪深く、苦い過去から逃げられず、結婚もせずに、一人孤独に生きてきた。

20歳の女 ジェニーは幼いころから音楽専門家の父親に、抜群のピアノの才能を見出され、めきめき才能を伸ばしてきたが、家に帰れば 父親から性関係を求められる ゆがんだ家庭に育ってきた。母親はそれを知って、自殺。思春期に知り合ったボーイフレンドの赤ちゃんを妊娠するが捨てられ、その父親を殺した罪で、逮捕、受刑することになる。タフな女囚刑務所で生き残る方法は、無感情、無感覚になり、暴力で、他に負けない力を養うことでしか生存できなかった。他の女囚からのいじめ、そねみ、によるシゴキで ボロボロになりながら 手負いの虎のごとく 反逆していくジェニーの姿を見続けることがつらい。

自分が 一番の音楽理解者だと思い込んでいる 看守は、ピアノ教師の家を訪ねて 音楽を聴いたり、クラシックの話を聞かせてもらうことが唯一の楽しみだった。ジェニーがピアノレッスンを始めて教師の関心が移ったことが妬ましくて、許せない。ピアノ教師にこびへつらいながら、その後で、ジェニーを執拗に痛みつけ サデイステイックにいじめつける。

心を閉ざして生きるしかない者にとって、ピアノを弾くことが どんなに大きな意味をもっているか はかりようがない。音楽は、語りようのない体験をし、語るべき方法を奪われた者のためのものだ。ジェニーが口を閉ざし ベートーベンや、ショパンを弾くことによって、語られ表現される ジェニーの心の中は 自由への希求以外の何ものでもない。彼女の生命の叫びだ。

そのようなジェニーの音楽を、教師トルーデイは 生徒は従順でなければならない、態度が悪い、二グロのリズムは認めない、私に従うつもりならば、この手紙を食べてみろ、とまで、要求する。 抵抗、そして従順、反逆そして和解 を繰り返すなかで、教師トルードは 彼女自身の生き方 狭い刑務所での教師という権威に守られてきた彼女の偏狭な意識そのものが ジェニーによって 問いただされていく。コンペテイションにどうしても、ジェニーを出したいトルーデイに向かって、「ならば、これを食べてみろ」と、破った楽譜を差し出すジェニーを前に トルードの教えるものとしての本当の生きかたが問われる。

この映画は、人は生涯、学ばなければならない。何十年生きてきたとしても、どんなに経験が豊富でも、どんな権威を持ち、業績をもっていても、人と人は 等しく平等で互いに学びあうことができる、という、学問の真実を示している。

最後、ジェニーの 警官に包囲され銃を突きつけられながら、演奏する4分間のショパンの、パフォーマンスが圧巻。これを見せるためだけのために 監督はこの映画を作りたかったんだと思う。だから、この4分間の演奏を見るだけのために、この映画を観る価値がある。

2007年1月3日水曜日

映画 「バベル」


映画「バベル」を観た。
モロッコと、東京と、メキシコの3箇所で 同時に進行する それぞれ3つの物語が、実は 日本人旅行者が残してきた1丁の猟銃によってひきおこされる事件として全部が 関連してくる。見終わった後、思わず「だからいわんこっちゃない、成金日本人 世界中でトラブルの種ばらまいてくるんだから!」と言ってしまった。

ひとつの銃がモロッコの貧しい砂漠地帯で、わずかな草を求めて羊を移動させて生きる養羊家にとって 狼から羊を守るために必要な生活手段にもなれば、イスラムパワーのテロ嫌疑の元にもなる。日本人同様 金と暇をもち余し あれきたりのヨーロッパ旅行に飽きたアメリカ人は異国情緒を求めて古代遺跡のある砂漠にも、人里はなれた高地でもどこにでも行きたがる。そこが政治的に危険地域でも宗教的紛争地でもおかまいなしだ。そんな 電話もネットも通じない僻地を旅行する若い夫婦の心に安定はない。二人の子供との絵にかいたような幸せは、外観だけで、夫婦の絆は実にもろい。

東京で、昔 狩猟を楽しんだ後 猟銃をガイドにあげてきた男の妻は ろうあの娘を遺して自殺したばかりだ。娘は、大人になりかけているが、ろうあであるハンデイー、母に捨てられた気持ち、母を死なせた父への怒り、誰も、自分をわかって抱きしめてくれないという孤立感からぬけられない。

モロッコで銃による事故にあったアメリカ人夫婦の子供たちを世話しているメキシコ人家政婦は、息子の結婚式のために メキシコに帰らなければならない。夫婦の帰国が遅れて、ほかにだれも子供達を世話してくれる人がいないので、子供達を連れて、メキシコに帰る。行きは よいが 帰りが怖い。違法移民のメキシコ人が、アメリカ人の子供たちを連れて、アメリカに再入国する国境は 死を要求するほどに高い。貧しいメキシコ人移民の労働力なくして世界一豊かなアメリカ人の生活はありえないのに、何十年もアメリカで違法移民として働き、メキシコに残してきた家族の生活をささえてきた家政婦を アメリカ国境警備隊は法の名のもとに意図も簡単に見殺しにする。

バビロンの塔を 人は神のいる天にまで届かせようと,建てた。人間とは神を恐れぬ 愚かな生き物だ。神のいない人間社会では、誰一人として、幸せではない。いつも、死ととなりあわせだ。

現代社会を厳しく 切り取って見せた映画だ。良い映画だ。

ブラッド ピットも、ラリア人のケイト ブランシェットも 私の好きな俳優だ。三度のメシよりも演じるのが好き というブランシェットは、どんな端役でも 力を抜かずにきちんと演技していて好ましい。おととしのアカデミーで、主演女優賞を「アビエーター」で取ったのは 嬉しかった。 この映画の中で、キャサリン ヘップバーンの役をやったんだけど、身のこなしから、話し方、顔の表情まで オオー!!と思うほど 本物のヘップバーンだった。本当の顔は全然違うのに、映画の中ではで、へップバーンとしか見えない。これはすごかった。演技とはこういうことができるんだ、と感動した。ヒース レジャーとの主演で、ボブ デイランの一生を映画化する作品の撮影に入っているといわれている。楽しみだ。