2025年11月27日木曜日

岩波書店の「世界」と大叔父大内兵衛

岩波書店が発刊している月刊誌「世界」が創刊から1000号に達した。

昭和21年1月の創刊号には、阿倍能成、美濃部達吉、和辻哲郎、東畑精一、横田喜三郎など、そうそうたる知識人が論評を寄せている。
私の大叔父、大内兵衛もこの雑誌の立ち上げから岩波茂雄に協力していて、「直面するインフレーション」を書いている。彼は、この創刊号から1980年に、92歳で亡くなるまでに100本近い原稿を「世界」に寄稿した。

大内兵衛が、治安維持法で逮捕されたのが1938年のことだ。続いて、美濃部亮吉、脇村義太郎、有沢広巳、大森義太郎、高橋正雄、阿部勇らも逮捕拘留されて、1年半の拘禁の後、出所した。
兵衛は若いころ帝大を出て卒業と同時に大蔵省に入り、そこからニューヨークに派遣され、その後東大に請われて東大で教授職を得てからは、給費でドイツのハイデルベルグに滞在し、マルクスの資本論などを翻訳した。
兵衛と一緒に、治安維持法で検挙された学者たちが全員そろって、連座を認めなかったため、検察は「共同謀議罪」を立件できなかった。のちに全員無罪を言い渡されるが、これらの学者たちは、7年余り発言や文章を発表できなかった。

兵衛は淡路島の洲本出身で、大内家の次男だった。私の父の父は、その長男で、いまのソウルで満鉄に勤めていたので、父はその官舎で生まれたが、父親が早世したため淡路島に引っ越してきて、兵衛に育てられた。兵衛は私には唯一のおじいちゃんだった。父は兵衛のことを「叔父さん」でもない「おやじさん」でもない、「おやっさん」と呼んでいたが、その微妙な語感が、父の心を表している。年下で兵衛の一人息子の大内力への遠慮があったろう。父は小説家を目指していたロマンチストの自由人、力さんはまじめな努力家で学者になるべくして学者になった人だ。父は甘えたい子供時代に親を亡くして、実子には嫉妬も悲哀もあっただろう。兵衛が死の床にあって、通夜まで父は付き添っていたが、力さんは家族やお弟子さんたちに食事をふるまったが、父だけにはそれがなく、父は飲まず食わずで式のあと帰宅して「そういう事をやる奴だったんだ。あいつは本当に子供の時から嫌な奴だった。」と、、、これは今まで言ったことがなかった秘話。
わたしには兵衛は、いつもひょうひょうとしていて早歩きの小柄な人、という印象が強く、亡くなるまで年齢を感じさせない人だった。

雑誌「世界」を飛びつくように熱心に読んだのは、1973年5月から始まった「韓国からの通信」だ。朴大統領の戒厳令下にあった地下の民主化運動を伝える通信だった。活動家がどんどん引っ張られて処刑されている恐怖の戒厳令下の状況報告を「TK生」が毎月送ってきていた。権力に見つかれば極刑、とわかっていて怯まずに権力者を糾弾する「TK生}らの民主化の声は力強く、毎月祈るような気持ちで涙なしには読めなかった。
日本を離れてフィリピンに10年近く住み、オーストラリアに来て30年が経つ。日本の本はなかなか手に入らなかった。それを20年ちかくFB友の山田修さんが、シドニーで紀国屋が出来て本の取次ができるようになるまで、毎月送ってくれていた。親でも、恋人でもやってくれないことを、ずっとしてくれていた山田さんには、うちの家族ともども心から感謝し通しで、南伊豆のあたりに足を向けて眠れない。感謝感謝。

創刊のころから沢山の縁があった「世界」がずっと続いて発刊されていて、読むべき本があるということが、嬉しい。
外地に居ても、日本に居ても、憂うべき世界情勢は同じだ。情報が大切。1946年、憲法草案起草プロジェクトで兵衛が、言論、出版の自由を明確に保護することを、繰り返し求めたことを忘れないでいたい。



2025年11月25日火曜日

G20 とトランプのわがまま

サミットが今週から始まっていてヨハネスブルグに各国のトップが集まって、直接顔を合わせて世界情勢た経済、気候問題について話し合っている。ところがトランプ米国大統領はこれをボイコットした。理由は、南アフリカは白人を人種差別しているからだ、という。

はてな。  南アフリカはかつて、人口の10%に満たない白人によってアパルトヘイト(人種隔離政策)をもった警察国家だった。黒人解放闘争を戦ったネルソンマンデラは、実に27年間獄中に閉じ込められていた。最大多数の黒人は、白人農業主に奴隷のように働かされていた。20世紀にこのような人種差別的奴隷制度があってはならないという国際社会の非難が高まり、ネルソンマンデラが釈放されたのは1990年のことだ。選挙が行われ彼が大統領になり、白人農業主は土地を長年働いて奴隷状態だった人々に譲り渡さなければならなかった。

トランプは、こうした南アフリカの現代史を認めたくないらしい。彼が大統領になって、南アフリカのシリレ ラマポーザ大統領が表敬訪問したとき、トランプは「なかなか英語がお上手だ。」と彼流お世辞を言った。しかしこれは前代未聞の侮辱発言だ。南アフリカは子供の教科書から英語で学んでいる。トランプは日本の女性首相が通訳を横にして日本語でしゃべったら、「なかなか日本語がお上手で。」とほめてくれたようなものだ。彼女なら飛び上がって嬉しがるかもしれぬが、両者とも、とても恥ずかしい。

トランプは、絶対にハマスが承認できないような「ガザピースプラン」を、EUの合意をとって強引に進行させようとしている。ハマスがこの70年、戦ってきたのはパレスチナ民族によるパレスチナの土地奪還、イスラエル軍事国家からの解放であった。パレスチナはパレスチナ人のものだ。にも関わらず米英を中心とする国際組織がハマスの武器放棄を強制しようとしている。

またロシアでは、28か条の「トランプピースデール」を米国のマイケル ルビオがウクライナに取り付いてゼレンスキーに認めさせようとしている。ウクライナは、1)NATOメンバーにならない、2)停戦のための外国軍進駐にNATO軍は加入させない、3)部分的にロシアに占領地を譲渡する、といった条件だ。ゼレンスキーは、武器産業と癒着して私腹を肥やしすぎた。それをいま暴露され、追い詰められていて、米国の条件をのまざるを得なくなっている。

イスラエルにさんざん武器を送り続け、ウクライナに武器支援をしてきて、いまになって「トランプピースプラン」を両国に突き付けている。なんのことはないトランプは米国の武器関連企業、死の商人を喜ばせ、自分も儲けただけだ。
そして今、またベネズエラに本格的な戦闘を仕掛けている。

いま南アフリカでのG20を、ボイコットしているように、トランプは根っからのレイシストで、札束で世界をおちょくっている。
それが困ったことなのは、トランプのわがままがこんなに許されるのなら、自分もやっっちゃっていいんだ、と思い込んで馬鹿をやる太平洋の反対側の小さな国の首相が出てきたことだ。
世界の良識は、どこにいったのだろうか。



2025年11月13日木曜日

世界の石油埋蔵量

世界の石油埋蔵量を、その国の順位から見てみると、米国がどれほど世界の産油国を蹂躙してきたかがわかる。
石油埋蔵量第1位
ベネズエラ
今年の9月からトランプ大統領はカリブ海に原子力潜水艦、巡航ミサイル搭載の軍艦、ジェット機満載の空港母艦を配置して、たくさんのベネズエラの船を撃沈させてきた。中南米麻薬カルテルを取り締まるためだと言うが、公海で他国の船を拿捕することも、乗務員を取り調べることもなく問答無用に船を沈没させて乗務員を殺している。国際法にも国連憲章にも米国憲法にも違反している。
ベネズエラはコカインの生産国でなく、麻薬の流通国でもない。南米産コカインはコロンビアとエクアドルで栽培され、太平洋沿岸から米国に向かう。にも関らず民間船を撃沈させたうえ、ベネズエラの人々が民主的選挙で選んだニコラス マドロ大統領の首に5千万ドル(75億円)の懸賞金をかけた。
マドロ大統領は、前大統領チャベスの後を継いで、ベネズエラの石油を国有化した。世界一の埋蔵量を誇るベネズエラの国有財産だ。
それが欲しくて米国は長いことCIAを使って政権転覆をはかってきた。その手先がノーベル平和賞を授与されたマリアマチャドだ。彼女は、2002年、CIAの豊富な資金を得てクーデターを試みて失敗したが、米国やイスラエルにベネズエラに軍事介入するように要請している。米軍のベネズエラ介入を許してはならない。

石油埋蔵量第2位
サウジアラビア
この国は完全に米国に取り込まれている。自国の原油をドル建て決済で供給する代わりに、米国に安全を保障してもらう約束のために、国内にはたくさんの米軍基地を擁している。米国の思惑通り、サウジ連合軍はイエメンを攻撃しイランと対立している。

石油埋蔵第3位
カナダ
トランプは、大統領就任当時カナダは米国の一部だと言っていた。カナダのマーク カーネイ首相が米国に迎合しないとわかると、彼は米加間の関税を50%かけることにした。

石油埋蔵量第4位
イラン
1979年ホメイニ師によるイスラム革命後、イランは西側諸国に経済封鎖され石油、天然ガス、石油化学製品の輸出を止められ、核施設ではウラン濃縮を制限させられてきた。常に経済活動を監視され、核施設を検査されているうえ、経済封鎖によりイラン中央銀行の資産、3520億ドルの国家資産が凍結されている。
2025年6月には、イスラエル軍が事前にイランに密入国しドローンをセットして、遠隔操作でイランの対空防御施設を破壊して、大規模な空爆を開始、イラン軍指導者を暗殺し、核施設を破壊した。
これに続いて米軍はイランの3か所の原子力発電所を地中深くまで破壊するバンカーバスター貫通砲で攻撃。18時間で215トンの爆弾が投下され、1000人余りの市民が命を落とした。イスラエルと米国の軍事介入は許されない。

石油埋蔵量第5位
イラク
イラクに大量化学兵器があると報じさせ、イラクに侵攻した米英連合軍は、100万人のイラク人を殺した。実に人口の5%だ。サダムフセイン大統領を、その地位から引きずり下ろし反裸にして首に縄をかけ西側全メデイアの前で凌辱したあと絞首刑にした。独裁者サダムフセインを打倒した、と彼の銅像を引き倒した民衆は、いま、米軍基地に囲まれて植民地同様のみじめな姿をさらしている。サダムフセイン打倒は、米国主導によるオイルを強奪する目的で仕組まれたものだった。世界はまだ、この件について十分検証し反省していないのではないだろうか。

石油埋蔵量、第6位から10位は、クエート、UAE、ロシア、リビア、ナイジェリアと続くが、それぞれすべて米国が介入している。

環境保全という世界の潮流を逆行するトランプは、「掘って掘って掘りまくれ」と言っているが、その暴力的で地球破壊的な言動は許させるべきではない。

またガザの沖合には莫大な資源330億立法メートルの天然ガスが手つかずで眠っていることも忘れてはならない。



2025年11月11日火曜日

ホワイトオーストラリアン

去る11月8日土曜の朝、シドニーのニューサウスウェルス州(NSW州)議会前で、約60人の黒服ネオナチグループが集会を持った。よりにもよって彼らは「ABOLISH JEWISH LOBBY」(ユダヤ人圧力団体をつぶせ)というでっかいバンダナを前面にして20分間、示威的集会をした。ポリスに警備されながら、彼らは20分後に解散し人ごみに紛れて消えていった。シドニーの議会のあるマッコリー通りは議会以外には古い旧官庁のビルがあるだけで店もカフェもないから、土曜の朝に通行する人も居ないが、彼らはマスコミ受けを狙って行動した。

それを知って、労働党でNSW州知事クリス ミンは激高の記者会見をして「こんな人種差別者が公の場で集会することが許されるなんて、何という恥、実に恥ずかしい。州民を侮辱している。二度とこんなことが許されることがないようにNSW州の法規制を厳しくする。」と息巻いた。

豪州にはたくさんの差別禁止法がある。しかし現在の豪州連邦法でも、NSW州法でも、事前に申請されたデモや集会は、人々の安全を脅かさない限り禁止も、規制もできない。この団体は、デモをしたわけではないから、交通妨害を理由に規制できない。禁止されているナチのカギ十字を身に着けていないから逮捕できない。ヒットラー式敬礼をしていないから、人種差別法で検挙できない。民族憎悪を発言していないから反差別法で取り締まれない。
この団体名は「THE NATIONAL SOCIALIST NETWORK」(豪州社会主義ネットワーク)と名乗っている。ソーシャリストとは、もともと労働者階級の生活を社会保険制度によって、すべての国民の生存権を保障する制度のために働く人々のことを言うのだけれど、、、。

彼ら黒服黒マスクの団体は、「WHITE AUSTRALIAN」(白人だけの豪州)をモットーとしている人種差別、レイシズム団体で、白豪主義、ヒットラー礼賛、ユダヤ人虐殺説否定、白人優性主義、反ユダヤ、反モスリム、反パレスチナ、反アボリジニ、反先住民族、反LGBTQ、反移民、反難民、を標榜している。

しかし豪州の国民の4分の1は外国生まれ、そうした「移民」だけでなく戦後だけでも100万人の「難民」を受け入れ永住権を出してきた、移民と難民で形作られた国が豪州で、じっさい純粋な「ホワイトオーストラリアン」など居ない。必ずどこかで血はミックスされている。
日本も同じ。氷河期が終わって日本は中国大陸から切り離された。純粋な大和民族などという生き物は居ない。だから日本人ファーストとか、先住民差別や移民や難民差別をすることは、とても恥ずかしいことだ。

この黒服グループは、メルボルンを拠点に徐々にシドニーや、地方に影響力を浸透させてきた。論理が単純なほど多くの人を引き付ける。歴史に無知なほど、今の社会に不満な若者の心をとらえる。
だから、いつまでも放置して笑っていてはいけない。ミュンヘン一揆のヒットラー、そして今回の日本の選挙結果という前例がある。差別社会は誤りなのだ、ということを大人はあきらめずに、自分の周りの若者たちに語り掛けていかなければいけない。



2025年11月4日火曜日

中国のレアアース

10月26日から、韓国で開催されたAPECアジアサミットで、トランプ米国大統領は、カナダ、インドネシア、南アフリカ、豪州、フィリピン、東チモールなど24国のトップリーダーと顔を合わせて経済、通商問題の話し合いを持った。

注目されたのは、30日のトランプとシージーピン中国主席代表との会談だった。世界経済のナンバー1とナンバー2との6000憶ドルの交渉だ。トランプは、会談前には11月1日からすべての中国からの輸入品に100%の関税をかけると息巻いていた。
結果は100%の関税は1年先送りして、中国からのレアアース(希土類)は、これまで通り米国に輸出されることで合意が得られた。かねてからトランプは、「中国はレアアースで世界を人質に取っている」と中国を非難してきた。

文字通り、この20年間、中国は世界のレアアースの生産における圧倒的優位に立っており、中国からのレアアースがなければ、電気自動車のバッテリーも、スマートフォンも、戦闘機のレーダーも、風力タービンも、人工知能AIも、再生可能エネルギーシステムの半導体も、動かなくなる。戦闘機も生産できない。例えば、F-35戦闘機は1機に数千ドルのレアアースが使われているそうだ。
希少なのは、使用するに当たっての濃度の分離工程がきわめて複雑なためだ。中国は、レアアースの豊富な自国で採掘し、秀でた精製技術で世界全体の需要の90%を精製加工している。
また中国は、原材料のレアアースの生産だけでなく、電気自動車、風力発電、エレクトロ二クス、などの最先端技術でも優位に立っている。

トランプは、アメリカファーストと言いながら、イスラエルとウクライナに、米国製の武器を湯水のように注いできたが、米国の防衛産業、一つを取ってみても、中国からのレアアースがなければ、製造できない、実のところ、米国の武器防衛産業は、中国に依存している。
中国を脅し、卑しめ、見下し、宥め、懐柔し武器の原料を売ってもらって、作った武器で台湾をダシにして中国に戦争を仕掛ける、、、という漫画のようなことが今、世界では進行している。
最後に笑うのは誰だろう。

「死んだ男の残したものは」作詞:谷川俊太郎 作曲:武満徹