10月14日、ロンドンのナショナルギャラリーで、ビンセント ゴッホの「ひまわり」に2人の女性活動家がハインツのトマトスープをかけた上、接着剤で手を貼り付け、気候変動への注意を喚起した。エネルギー危機でスープを温められない人々が居る中、大企業は政府から減税を受け、石油会社と電力会社は莫大な利益を受けている。またハインツ社はインドネシアの熱帯雨林を破壊しパームオイル畑を拡大、自然破壊の当人である、とアピールした。
10月23日、ドイツのバルベリー美術館で、モネの作品「積みわら」に2人の活動家がマッシュポテトを投げつけ「人々が飢え凍え死んでいる。私たちは気候変動による破局の中に居る。トマトスープやマッシュポテトがかけられた絵がそんなに心配か?2050年には食べ物がなくなる。人々が食料を奪い合うことになる。」と訴えた。
10月27日、オランダのハーグ、マウリッツハイツ美術館で、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」に活動家が、自分の額を接着剤で張り付けて、もう1人の男がトマトスープをかけて「美しく貴重なものが目の前で破壊されるのを見た時にどう感じるか?憤慨しますか?地球が破壊されるのを見た時に同じように感じますか?」と訴えた。
環境保護活動家たちによる、有名絵画を使った抗議活動が続いている。各国のマスメデイアはその詳細を報道したがらない。大きく取り上げることによって、そうした動きが繰り返されるのを恐れるし、大騒ぎになることが活動家達のアピールの一つの目的でもあるから、恣意的に事を小さくとらえて僅かな報道で済ませているように思われる。活動家たちの言っていることはよくわかる。近頃の若者は、、などと小言を言うつもりもないし、戦略がひどく間違っているとも思わない。
すでに地球は産業革命前のレベルと比べ1.1度の気温上昇が確認されている。2050年までにCO2排出を実質ゼロにするためには、化石燃料の開発を直ちにやめなければならないし、2030年までに世界全体で温室効果ガスの排出を半分までに減らす必要がある。しかし、笛吹けど踊らずの国々の対応に、環境保護団体は怒り心頭に達している。北極で白クマが飢え、南洋の国々が沈んで住む土地が無くなっていっているのだ。
活動家たちの言うことはよくわかる。しかし、1枚の絵は沢山のことを私に伝えてくれる。ピカソの「朝鮮虐殺」の絵には実際に見て、胸が熱くなった。ゴッホの「ひまわり」も、モネの「積みわら」も、フェルメールの絵も私の最も好きな絵画だ。だからそれらが攻撃されて悲しい。悲しみの海に溺れそうだ。
フェルメールの絵画は、世界で35点しか残っていない。彼の絵には動きがあり、そこに居る人の動きや感情まで描かれてる。
一生でたった1枚の絵しか売れなかったゴッホは、不器用な生き方をしながらどんなに貧しくても自分が見た「美」を描き続け若くして死んでいった。シドニーのNSW美術館にはピカソの絵は3点、ゴッホが3点ある。その中の「ペザント」(百姓)の絵が好きで、時々会いたくなって会いに行く。美術館に入り画家たちの作品に囲まれると心が大きく広がって体が喜んでいることがわかる。誰もが、1枚の絵によって疲れ切った心が癒された経験を持っているのではないだろうか。
人々は古い絵画を何百年もの間大事に、埃を払い汚れを取り、傷を修復してきた。本場イタリアでは芸術作品を修復する職業は芸術家同様に尊重されていて、国家資格がありプロの修復士になるには美術大学の大学院を出た後さらに専門を学ばなければならない。彼らの何世紀も前に描かれた絵の顔料をよみがえらせ修復する気の遠くなるような作業を経て、いま私たちはゴッホやフェルメールを鑑賞することができる。