2016年9月2日金曜日

オーストラリアの年金と老人ホーム

                          
人は年を取れば色々な障害が出て来る。視野は狭くなり、物忘れするようになり、物事の判断基準が狭まり客観的に物を観られなくなって、自分一人の思い込みが強くなり、一つのことに固執しがちになる。五感の感覚が鈍くなり、手足の動きも鈍くなって運動機能が極端に落ちる。高血圧、痛風、糖尿病、関節炎、白内障などの症状が一挙に出てくる。排尿、排便障害が出てきて手当が必要になって来る。やがて、一人で歩行できなくなり、他人の助けなしで、生活ができなくなる。

日本は世界で先駆けて人口の4分の1が65歳を超え、老人国への道を一直線に突っ走っている。国民が働いて積み立てて来た、巨額の年金を抱えていて、その運用にいくつもの腐敗した政治家たちのスキャンダルが暴露されている。

ここにきて、福祉国家に中で、北欧が良い、いやベルギーが一番だ、ドイツも堅固だし、オーストラリアも老後を過ごすのに良い国だ、いやマレーシアが年金で暮らせて安上がり、フィリピンも良いじゃないか、、などと情報が溢れかえっている。
しかし人は自分が生まれた土地で教育を受けて、働き、税金を納め、その見返りとして老後の生活を、その土地で保証されることが、人の営みの基本だ。自分が税金を納めてこなかった場で老後を安泰に暮らそうと願うことは誤りだ。

オーストラリアでは、雇用者は被雇用者の働いて得る収入の9.5%を年金として積み立てる義務がある。私が1000円働いて、給料をもらったら、職場のボスは95円、私の名前でお金を積み立てなければならない。その雇用者が積み立ててくれたお金を私は投資に使ったり、そのまま貯金として持っていて、65歳を超えると全額引き出したり、少しずつ毎月受け取ったりすることができる。私はシドニーで働いて蓄えたその年金から1千万円下ろして、父の遺産を足したお金で、この1月に小さなアパートを買った。
しかしこの収入の9.5%の積み立て年金制度は、オットの時代にはなかった。福祉国家と言っても、オーストラリアはまだまだ底が浅い。

こういった自分が働いて積み立てた年金以外に、65歳以上年を取って働けなくなったら、国から老齢年金が出る。それを受け取るためには、それはそれは厳しい資産評価が、政府によって行われる。オーストラリアでは税務署とすべての銀行と年金を出す政府とは、綿密な情報のやりとりがあるので、国民は1ドルとして隠し金を持つことができない仕組みになっている。移民でできている国だから、外国から受給している年金や送金もすべて厳しく審査される。
老齢年金を受けられるかどうかは 上下する物価やその時の経済状況で変化するが、、概ね自分が住む家以外の、投資のための土地、財産、貯蓄、毎月の定額収入がある人は、老齢年金は受けられない。自分だけでなく自分のパートナーに財産や収入があれば同様に、年金は出ない。
今回、オットの場合は、2014年10月に大病を患ってから働くことができなくなり、週3日腎臓透析を受けなければならなくなり、以来6回入退院を繰り返し、収入が無くなり、莫大な医療費を払わなければならなくなったのに、パートナーの私に収入があり、処分できないオットの会社がネックになって、年金が出なかった。それを2年間の血の滲むようなバトルによって、政府の資産審査を覆し、オットの年金を獲得した。

それでも一月17万円足らず。自分の家がなければ生活していけない。水道、電気、ガスに電話代を払ったら、借家のために払う家賃は出ない。オーストラリアで年をとっても暮らそうとするならば、自分の家も持つことが第一条件になる。

シドニーでナースをしていて、オーストラリアでは老人施設が整っている、老人ケアの先進国だ、と言われて日本から見学者が絶えない。うなずける一面もあるが、老齢年金を受け、動けなくなった老人が老人ホームに入居するのに、いかに厳しい資産評価の審査をパスしなければならないか、事実として認識する必要がある。

オーストラリアでは民間、私立、教会が経営する老人ホームすべてを、政府が管理している。2014年から、一定の財産を持っている人は、その財産を処分しなければ老人ホームに入居できないようになった。家を持っている人は、家を売らなければ入れない。あるいは、2千5百万円から、1億円までのボンドと呼ばれる預け金を政府に納めなければ、老人ホームに入れない。ボンドを払うかどうかの政府による資産審査も、それはそれは厳しい。
資産審査を受けて、ボンドを払わなくて良いという判断が出て、晴れて老人ホームに入れても、毎日のケアに対する支払いが待っている。一日48.25ドル、毎日4500円ほど、月にして14万円くらいのケアにかかる費用が、自動的に老齢年金から差っ引かれていく。老人ホームに入れば、国が面倒を見てくれるが、年金はほとんど全額、老人ホームにかかる費用として差し出さなければならない。政府がやっと受給してくれた老齢年金の入った銀行口座から、政府が勝手に何の断りもなく老人ホームのケア費用を取っていったのには、はじめは驚いたが、しかし国が年寄りの面倒を見るということは、こういうことなのだろう。

年寄りが、なかなか死ななくなって、親が子供のために財産を残す、ということは、これからの老人社会では、夢の夢の話になるだろう。国は福祉国家を実現したいと考えている。誰もが年を取る。誰もが年をとっても快適に暮らせる社会を望んでいる。
しかしその道のりは遠く厳しい。