2016年9月1日木曜日

シドニーで老人介護に疲れて

               

途方もなく長い、真っ暗なトンネルを歩いていた。
今、「地上にたどり着いたんだよ」と言われ、明るい光を顔に当てられ、「大丈夫、まだ飛べるよ」、と励まされても、どうしたら良いのかわからなくなっている。

胃に穴が開くほどのストレスにさらされて、極端に睡眠時間を削られてきた、この2年間。

火曜水曜木曜金曜日と週4日、10時間ずつ病院で夜勤をして、家に帰れば24時間介護を必要とするオットが待っていて、火曜木曜土曜日は、着替えさせて腎臓透析のために病院に連れていく。オットの腕に針を刺し、マシンが動き始めるのを見て、5時間待つ。1時間かけて家に帰り、また1時間かけてオットを拾いに来ると、運転しながら眠ってしまいそうになるので、それは止めて近くの図書館で雑誌を読みながら待つ。5時間後に連れて帰り、着替えさせ、食べさせ、寝かせて、やっと自分も寝られる。3時間後に目が覚めて、オットを食べさせて寝かせて、仕事に飛んでいく。
翌朝仕事から家に帰りトイレに駆け込むと、トイレが汚れていて足の踏み場もない。オットは歩行器を使って、ほとんどカタツムリに速さでしか歩けないので、ベッドからトイレに行くまでの間に排便をコントロールできなくなる。汚れたトイレと、カーペットを洗い、パジャマやシーツについた汚れは洗濯機2回分、洗い流して干して、掃除が終わると、もうお昼。あわててベッドに入り、眠ろうとするが、眠れても眠れなくても夕方には、食事を作りオットに食べさせ、ベッドに入れて、また自分は職場に飛んでいく。
そんな毎日を2年間やってきた。
いつねるんだよ。

老人介護が大変、、、それだけなら良い。
腰痛体操や、ストレッチやヨガをしながら、体力を蓄えて、物理的にがんばる。
しかし
つらいのは、いつまで続くのか。先が見えないことだ。あと1年とか、行く先が分かっていたら我慢できる。オットは何度も死線を彷徨ってきた。あと1年の命、もう駄目かもしれない、と何度も何度も腎不全と心不全を指摘されながら、結構長く生きて来た。私個人で24時間介護ができないので、誰か助っ人が欲しいが、私の給料が基準よりちょっとだけ上回るらしく、コミュニテイーのホームケアが頼めない。コミュニテイーサービスは本当にお金のない人だけのものだ。

私の手に余り介護しきれないので、施設に入れたい。当然の要求だ。オットは17歳のときから80歳の今まで国に63年間高い税金を払ってきた。24時間ケアが必要になったいま、当然施設に入居する権利がある。しかし、オットが元気な時に2つの会社を持っていて、それを処分しない限り、老人年金も出なければ、施設にも入居できない、とセンターリンク(政府)は言う。何の利益ももたらさない名前だけの会社を、政府は1500万円の価値がある資産だと査定した。従って3千万円のボンド(政府に預ける資金で死後家族に帰される)を払わない限り、老人施設に入居させない、と言う。

オットには資産もなければ、老齢年金も出ない。病気で動けなくなった今、政府に3千万円払わないと、老人ホームにも入れない。オットの持つペーパーカンパニーに価値はないのに。私の給料だけではオットを食べさせ、莫大なオットの医療費を支払い続けることはできない。当たり前のことを、政府に訴えて来た。何十通と、数えきれない申請書、嘆願書を政府に送り、政府の「正しい判断」を求めて来た。政府に聞く耳はないのか。
先の見えない暗いトンネルに迷い込んで、ただただ働き、介護を続けてきた。

それにしても20年前に180万円で買った小型車トヨタ エコーが、20年後のいま政府の査定では、125万円の資産価値があるって、、、何だよ。20年前の小型中古車ですぜい。冗談もいい加減にして。わたしは政府に喧嘩売られたのだろうか。

この7月にとうとうオットに政府から老齢年金全額が出るようになった。やっと勝った。ばんざい。この細腕で政府からやっと、ほぼ「正しい判断」を勝ち取ったのだ。正義は強い。
しかし老齢年金全額って、月に17万円足らず。ともかく年金受給者の特権として老人ホームにオットを入れる。年金全額を老人ホームに渡す、ということで何とかボンドなしでやりくりできることになった。
入居したのは、ユナイテッド教会の経営する老人ホームで、運よくオットは個室に入居できて、個室には大型テレビもあるし、食事のメニューも選べる。ぜいたくー! とても満足している。週3回、救急車がオットを腎臓透析するために病院に送迎してくれるようになった。

暗い暗いトンネルから出られたんですよ。そう言われたが体が2年余りのストレスからくる重圧でひしゃげて、ねじまがり、大きな呼吸も出来なくなっている。気が付いたら1日朝から何も食べていなかった、というような2年間だったから、胃袋が何も欲しがらない。寝ても寝ても体が重くて疲れが取れない。

長い事、希望の見えない暗闇の中に居た。
これから太陽の光をあびて浮上しようと思う。