2015年1月11日日曜日
映画 「ウオーター デイヴァイナー」
題名:「WATER DIVINER」
監督:ラッセル クロウ
キャスト
ラッセル クロウ :ジョシュア コーナー
ライアン コール :アーサー コーナー
オルガ クリレンコ:アイシャ
イルマズ エルトガン:トルコ軍将校ハサン
イルマズ セン :トルコ軍ジェマル
メイガン ゲール:アイシャの従妹
1915年第一次世界大戦の激戦地、トルコのガリポリではトルコ軍、オスマン帝国側の兵士8万人、連合国軍兵士4万人が、数か月の戦闘で死亡した。連合国軍側では、英国軍統率のもとで死亡した兵士の多くはオーストラリア軍兵士だった。その数8700人。
ガリポリはオーストラリア人にとって特別の意味を持つ。ガリポリと聞くだけで涙ぐむ人も居るが、ガリポリはオージーの愛国心の拠り所になっている。かつては英国からの移民として海を渡ってオーストラリアにやってきたオージーは、英国に忠誠を誓うことが心の拠り所だった。第一次世界大戦が始まると、男達は老いも若きも競って、軍に志願して、英国のために命を投げ出すことを厭わなかった。しかし英国軍の誤った統率によってガリポリで沢山の戦死者を出して、初めて裏切られ、英国から一歩離れて、独立したオーストラリア人として自覚するようになる。ガリポリはオージーの愛国心の原初体験になった。毎年8月になると、政府関係者や軍人だけでなく、何千人ものオージーがガリポリに向かって海を渡る。さすがにガリポリ戦の生存者は亡くなったが、その子孫たちや、若い人達が自費でやってきては、オージーの墓に花を捧げる。今年2015年は、100年目に当たるので慰霊祭は盛大なものになるだろう。オーストラリアが英国から独立するためにこれほどの命を犠牲に払わなければならなかったという意味で、命を落としたオージー兵は、国のヒーローとして決して忘れられることはない。
メル ギブソン主演の映画「ガリポリ」は、ガリポリ戦の残虐さを余すことなく映し出している優れた歴史的な作品だ。これを見ると、チャーチルの誤った統率によって若者たちが、トルコ軍が大砲と機関銃で待ち構える正面を、ただただ殺されるだけのために、走って行く姿は、戦争の本質を物語っている。優れた反戦映画だ。
そのような、ガリポリを背景にした映画を、オーストラリアを代表する役者ラッセル クロウが監督、主演し、オーストラリアを代表するアンドリュー レスニーを撮影監督に起用して製作された。ラッセル クロウの初めての監督作品と思えない素晴らしい作品。保守伝統で気取って、小さくまとまる階級社会の英国とも、その英国を小さくして少しだけワイルドを付け加えたようなニュージーランドとも、ハリウッドの戦争映画とも全然違う、オージーによる、オージーテイストの、「これがオーストラリアだ」、というような映画に仕上がっている。
ストーリーは
1915年8月ガリポリの戦闘で、3人の息子をすべて失ったファーマー、ジョシュア コーナーは息子たちの死後、生きる希望を失った妻と二人きりで暮らしていた。コーナーは息子たちを失った悲嘆を決して表には出さず、黙々と畑を耕し、水源を探し出し、農地を広げ一日中汗を流していた。妻は寡黙な夫を責め続ける。どうして息子たちが軍に志願するのを止めなかったのか。息子たちを失った喪失感は4年経ったが、決して癒えることはない。とうとう妻は息子たちを失った怒りをぶつけるようにして、自ら命を絶った。コーナーは、妻を埋葬しながら、隣に息子たちを連れ帰り妻の横に眠らせてやることを誓って、ガリポリに向かう。
戦後4年経っていたが、激戦地ガリポリはまだ英国軍の管轄下にあり、遺骨収集が行われていて、一般市民は立ち入り禁止区域になっていた。コーナーは、イスタンブールに上陸したが、南オーストラリアの僻地で農業をやっていた田舎者に対して、親切に対応してくれる領事も担当官も軍関係者も誰も居なかった。イスタンブールで、コーナーは戦争寡婦が経営する小さなホテルの宿泊する。ホテルの主人アイシャの幼い息子は、父親を失った寂しさからコーナーに付きまとい、コーナーもまた その息子が無垢の信頼を寄せる様子に、癒されていた。アイシャは戦死した夫の兄に、第三夫人として迎え入れられることになっていたが、まだ義兄の妻になる心の準備ができていない。押しの強い義兄が、アイシャの息子に暴力をふるう場に、たまたま居合わせたコーナーは、子供とアイシャを守るために暴力沙汰を起こし、ホテルを追われる。そのときにアイシャから教わった方法で、コーナーはボートでガリポリにたった一人、向かう。
英国軍は、戦争当時トルコ軍将校だったジェマルの案内に従って、英国軍兵士の遺骨収集をしていた。コーナーは英国軍兵士たちに邪魔者扱いされながらも、ジェマルに、息子たちが亡くなった8月3日の戦闘の様子を聴き出して、息子たちが倒れた場所を言い当てる。すると、父親が探し出してくれるのを待っていたように、次男と3男の遺骨が掘り出された。WATER DIVINER:水源を探し当てる霊的な能力を持った男、コーナーの能力が発揮された。しかし英国軍は遺骨を故国に持って帰ることを許可しない。コーナーは、仕方なく二人の息子をその場に埋葬した。そんなコーナーを見て不憫に思ったジェマルは、トルコ軍の資料を調べていた。そしてコーナーの名を、捕虜収容所の名簿の中に見つける。それを聞いてコーナーは 長男アーサーは、捕虜となりまだ生きていることを確信する。しかし、収容所はギリシャとの国境近いアナトリアにあった。その地はまだ国境線をめぐって、ギリシャが侵略を続けていて、戦争状態にあった。コーナーは、ジェマルの後を追って,戦地に向かい、、、、。
というお話。
3人の息子を失った母親の底なしの絶望、それをただ黙って受け止める農業主は寡黙だ。彼が話し相手にするのは長年の友、犬だけだ。 オーストラリアの巨大で荒削りな地形と景観、砂漠と酷暑に立ち向かい、耕地を切り開いてきた開拓者の力強さ、、、砂あらしの場面が素晴らしい。幼い3人の息子たちがウサギを撃ちに行った帰り、砂あらしに巻き込まれて死にそうになる。激しい嵐の波に向かって馬を走らせて救出に向かうグラデイエイターのお父さんが、誠に頼もしい。
水源を探し出し、ひとり黙々と穴を掘り、井戸を掘りあてるファーマー。でかい風車を作って風力発電で、畑を作り、夜になると子供達が眠る前に、本を読んで聞かせる、頼りになるお父さん。トルコ軍独立部隊とアナトリアに向かう列車で、トルコ兵がオーストラリア軍から没収したクリケットのバットを、どう使うか聞かれて、球を当ててみせて、これはオーストラリアではみんなやるゲームなんだ、と答えるシーンなど思わず頬が緩む。そのバットが人の命を救う武器になるなんて。
とにかくストーリーを運ぶテンポが良い。話が分かりやすくてとてもよくできた映画だ。
監督ラッセル クロウは50歳、8歳と10歳の男の子のお父さん。アカデミー主演賞を「グラデイエーター」で取って、ミュージカル映画「ラ ミゼラブル」では、テノールを歌うヒュー ジャックマンを相手に、バリトンの美声を聞かせてくれた。ロックバンドも持っている。役者の一方、「ラグビーやらない奴は男じゃない」オーストラリアで、ラグビーチーム:サウスシドニーラビドーズを持っていて、自分のチームを2014年グランドファイナルで、優勝に導いた。まさにオージーを代表する男なのだ。
その彼が初めて監督した作品とは思えないほど、よくできた作品。はやくも2015年に観た映画ベストテンに入ること疑いなし。ストーリーのプロットがしっかりしていて、構成が良くできている。配役も申し分ない。トルコ側の人々もみな適役だ。戦争寡婦のアイシャをやったオルガ グリレンコの可憐な美しさが際立っている。この女優、貧困家庭に育ったウクライナ人、13歳からモデルで働いていて、後にボンドガールに抜擢されて成功した。薄幸の寡婦役がすんなり合っている。メイガン ゲールが義姉役でカメオ出演していて豪華だ。息子役のライアン コ-ルも純真な好青年を演じている。
映像をオージーのアンドリュー レスニーに任せて成功。「ベイブ」1995、「ロード オブ リング」2001,2002,2003、「ラブリー ボーン」2008、「ホビット」3部作、2012,2013,2014を撮影してきた。「ロード オブ リング」3部作でアカデミー撮影賞を受賞している。「ホビット」3部作でも、きっとまた賞を取るだろう。この人の映し出す映像が、魔法のように美しい。オーストラリアの自然がこんなに美しかったのか。赤い土、真っ青な空、砂漠に沈んでいく太陽。乾いた風が耳元を通り過ぎていく、、、イスタンブールのアヤソフィア大聖堂の天井、素晴らしいタイルとステンドグラスに目を見張る。みごとなキリスト教とイスラム教の融合。ガリポリの美しい岸壁、くるくると白いガウンと帽子姿で舞うトルコの民族舞踊の流れるような美しさ、、、。アンドリュー レスリーの映し出す映像の美しさに言葉を失う。
とても良い映画だ。日本で公開されるとき、どんな邦題がつくか、まだわからない。映像が美しいのでそれだけで観る価値がある。
http://www.rosevillecinemas.com.au/Movie/The-Water-Diviner