2014年12月23日火曜日

2014年に観た映画 ベストテン 1位ー4位

                            
                       

第1位
「ゼロ グラビテイ」
監督:アルフォンヌ キユアロン
キャスト
サンドラ ブロック:ストーン博士
ジョージ クルーニー:コワレスキー飛行士

2014年1月26日に、この映画の紹介と批評を書いた。
登場人物二人きりの映画。重力のない地球上空600キロメートルの宇宙空間。スペースシャトルを修理中だった二人が事故にあい宇宙に放り出されて、帰るべきスペースシャトルは爆発、遊泳しながら国際宇宙基地にたどり着いて、地球に再び帰ることができるかどうか、というお話。
無重力の宇宙空間を浮遊する宇宙飛行士を撮影するために 製作チームは360度LPライトで囲まれたライトボックスという大きな箱を造り、影のない3Dの立体像を映し出す仕組みを作った。その中で一本のワイヤーに吊るされ特殊装置に繋がれたたサンドラ ブロックが、無重力の中で遊泳する演技をするために、5か月ものあいだ激しい訓練を受けたという。役者は体が資本というが、49歳のサンドラの柔らかい身のこなし、ぜい肉ひとつついていない少年のような体に、好感がもてる。

シドニーのアイマックスは世界一大きいらしい。縦30M、横35Mの巨大スクリーンに映し出される3Dの宇宙は限りない闇で、音のない恐ろしい場所だったが、体験型映画というか、自分も本当に宇宙遊泳しているような気分になれた。重力があって、酸素が当たり前みたいにあって、何の装置がなくても息ができて自由に動き回れることが ありがたく思える。こういったサイエンスフィクションのクリエーターは、日夜、人が考えないような方法で、科学を映像化して、人々の想像力をかきたててくれる。こんな素晴らしい物造りに携わる人々がいて、そういった映像を見ることができることに感謝したい。撮影チームに感服した。得難い映画だ。


第2位                                                           

「ミケランジェロ プロジェクト」
監督:ジョージ クルーニー
キャスト
ストークス中尉:ジョージ’ クルーニー
グレンジャー中尉:マット デーモン
キャンベル軍曹:ビル マーレイ
ヴァルランド:ケイト ブランシェット

3月22日に、この映画の映画批評を書いた。
ヒットラーは世界的価値の高い美術品をヨーロッパ各国から略奪し、世界一大きな美術館をオーストリアのリンツに建設して、収集したものを展示するつもりでいた。6577点の油絵、2300点の水彩画、959点の印刷物、137点の彫刻を含む6万点の美術品を岩塩抗に隠していて、もしもそれらを奪い返されそうのなったら、一緒に隠してある1100ポンドの爆弾で、すべてを灰にしてしまう予定だった。連合国首脳部は、戦争終結に先立って、これらの美術品の隠匿場所を突き止めて奪い返す方策を練っていた。博物館の館長、美術鑑定士、美術史研究者など、8人が選ばれて、ヨーロッパ戦線に送られた。彼らはモニュメント マンと呼ばれ、ヒットラーが隠匿している美術品を見つけて安全な場所に保護して運搬する命令を受けていた。
彼らはパリ美術館館長の秘書をしていた女性の助けを借り、オーストリアアルプスのもと、岩塩抗を見つけ出し、美術品を保護する。実話で、8人のうち2人の犠牲を出しながらも、危険を顧みず世界遺産を守るために力を尽くした。

有名な絵や彫刻がたくさん出てくる。ラファエル、ダ ビンチ、レンブラント、フェルメール、ベルギーのヘントにあるシントバーフ大聖堂の「ヘント祭壇画」、ベルギーのブルンジ教会にあるミケランジェロによる大理石の「マドンナ」。 撤退するドイツ軍が無造作にレンブランドやピカソを火の中に放り投げているシーンなど怒りで叫び出しそうになる。芸術作品に触れることで人は心を動かされ、魂を浄化させ、痛みを忘れ、生きる力を得る。芸術なくして人々の営みに、意味はない。かつても芸術家たちが、自らの命を紡ぐようにして作り出してきた作品を守り、次の世代の伝えていくことは、今を生きる人の義務でもある。この映画は 善良を絵にかいたような8人の「良い人」たちが、略奪や焼失から世界遺産を守った「美談」で、英雄的なお話だから、ちょっとうまく出来過ぎているような気がするけれど、感動せずにいられない映画だ。ジョージ クルーニーの監督した5つ目の作品。繰り返し観たくなる映画だ。


第3位
                    
「優しい本泥棒」 (BOOK THIEF)            
監督:ブレイン パーシバル
キャスト
ジェフリー ラッシュ:養父ハンズ
エミリー ワトソン :養母ローザ
ソフィー ネリス  :ライゼル

1月18日にこの映画の紹介を書いた。
1938年ベルリン。ヒットラーを総督とする軍部の力が日に日に増している。公然と赤狩りが行われ、共産党の活動家夫婦は、娘の安全を考えて、貧しいが正義感の強いぺンキ屋夫婦に娘を養女に出す。引き取られた13歳のライゼルは、字が読めなかったが養父の計らいで学校に通えるようになり、初めて本が読めるようになった。その貧しい家庭にユダヤ人青年が、助けを求めて転がり込んでくる。彼は教養人でライゼルにたくさんの知識を授けてくれて、少女は本が大好きになる。しかし社会はヒットラーのナチスドクトリンだけを読み、軍に忠誠を誓うために、どこの街角でも人々が本も持ち寄って焼きつくすイベントをくりかえす様になっていた。少女は読みたくて読みたくて仕方のない本が焼かれていくことに、ひとりで胸を痛めていた。やがて戦火が広がり、養父は徴兵され、ユダヤ人青年は別のところに逃亡し、養母も爆撃で亡くなり、、、というお話。

このライゼルが、紆余曲折を経てオーストラリアに渡り、年を取り、孫に自分の体験を語り聞かせた。その話を孫が書いて出版した同名の作品がベストセラーとなり、映画化された。
映画では、ナチズムの波が徐々に普通の人々の生活に浸透していく様子がとても怖い。人々が物を言うのを控えるようになり、互いに顔を見合わせて押し黙り、軍人が幅を利かせてくる。昨日優しかった人が、今日はナチ崇拝者になり、昨日までサッカーボールを蹴っていた少年が、少年隊の制服に身を包み声高らかに軍歌を歌い、本を焼き、同調しない者には軟弱者と決めて暴力をふるう。一夜のうちに何もかもが変わってしまう。そうした「集団ヒステリー」の渦に人々が巻き込まれていく様子が、リアルに描かれている。ジェフリー ラッシュとエミリー ワトソン、二人のオージー熟練役者が、戦時下の貧しく善良な夫婦を演じていて、素晴らしく本物みたいだ。13歳のソフィー ネリスも初々しい自然体で演じている。
「本を焼く」という人間の歴史が作り出してきた知の集積を否定する社会が、どれほど愚かなものだったか、を強く訴えている。優れた反戦映画だ。


第4位

フラワーオブワー (FLOWER OF WAR)
監督:チャン イー モー
キャスト
ジョン神父:クリスチャン ベール

8月2日に、この映画の映画批評を書いた。
日本で非公開の映画。1937年日中戦争では日本軍による首都南京陥落によって、14万人が虐殺、2万人の女性がレイプされた、と言われている。チャン イーモーが、これを背景に映画を制作した。「人のために生きてこそ本当に生きたことになる。」というトルストイの言葉を、そのまま映画にしたような良心的な映画。とても感動的だ。チャン イーモーは、「紅いコーリャン」、「レッド ランタン」、「初恋のきた道」、「英雄」などとても良い映画をたくさん撮っているが、この作品も彼の代表作に加えたい。とても完成度が高く、芸術的で、心動かされる映画だ。

南京は日本軍によって封鎖された。12人のクリスチャン学校の女生徒たちと、一人のアメリカ人青年が、南京大聖堂に避難している。そこに12人の娼婦達が、逃げ込んでくる。大聖堂の庭に国際赤十字の旗が敷き詰められているが、爆撃を免れず神父は亡くなり、たった一人のアメリカ人青年が日本軍兵士の襲撃から女生徒達を守ろうと苦心していた。始め、この地域に駐留してきた日本軍将校はクリスチャンだったので、彼は少女たちに讃美歌を歌わせて、戦火で疲れた心の渇きを癒していた。しかし日本軍大連隊が到着すると、彼は少女たちを幹部への貢物として、「供出」しなければならなくなる。登場人物すべてが生き残れる可能性がゼロに近い状況で、みんなが自分だけ生きるのでなく、他の人の為に生きようとする。映画のテーマは、ヒロイズムと自己犠牲だ。

映像が美しい。大聖堂のみごとなステンドグラス、粉々になってもなお光り輝き、清楚な少女達の大きく開かれる瞳、赤十字の赤い旗、娼婦たちのあでやかな美しさ、官能的な歌と舞、爆発で空に舞い上がる色とりどりの絹地、、、色彩の美しさが例えようもない。次々と人が死んでいく絶望的な状況にあって、映像の天才監督が、色彩あふれる美しい作品を作った。すぐれた反戦ヒューマン映画だ。