2014年12月22日月曜日
2014年に観た映画 ベストテン 第5位―第10位
第5位:
「エクソドス 神と王」
監督:リドレイ スコット
キャスト
クリスチャン ベール:モーゼ
ジョエル エドガートン:ラメセス王
旧約聖書の「出エジプト記」を映画化した作品。「グラデイエーター」、「プロメウス」を制作した監督による1億4千万円かけて制作した3Dの超大型映画。同じ監督仲間で実の弟、トニースコット(トップガン、ビバリーヒルズコップなど)がカルフォルニア、サンペトロの橋から飛び降り自殺で亡くなったので、この映画を彼に捧げる、との前書きがあって、映画が始まる。
古代エジプトの強権のもと、奴隷となっていた60万人のヘブライ人を率いて、エジプト軍に反旗を掲げ、シナイ半島に脱出したモーゼの生涯を描いた作品。
BC1300年、エジプトのセチ王には、実の息子ラメセスと同い年の養子モーゼが居た。二人の息子は兄弟として仲良く共に成長し、国王の死後は、ラメセスが国王に、剣の立つモーゼがエジプト軍将軍となる。国土拡張の戦闘とピラミッド製作などのために奴隷がいくらでも必要だった。将軍モーゼが、戦闘で勝利を収めたパイソンの街を視察に訪れたモーゼは、エジプトの捕虜となったヘブライ人の長老から、実はモーゼはヘブライ人だと言われる。エジプト人の誇り高い勇士モーゼは自分の血の由来を聞いて激怒する。しかしその日から自分の中で疑問が湧き上がって長老の語ったことが耳から離れなくなる。やがて、密告者が現れ、モーゼの出生の秘密が暴かれて、彼はエジプトから追放される。
たった一人砂漠を彷徨い 山を越えシナイ半島にたどり着き迎えられた家で羊飼いとして生き、妻を迎える。9年後彼は神のお告げを聞き、エジプトの暴政下、抑圧されるヘブライ人の姿を目にして妻子を置いてエジプトに向かい、奴隷を組織して反乱を起こす、という旧約聖書のストーリー。
水が血となり、カエルの襲撃、ハエの蚤の襲来、家畜が伝染病で倒れ、石が天から降り、子供たちが次から次へと死んでいくシーンは、臨場感いっぱい。60万人のヘブライ人を率いて追ってくるエジプト軍に押され、紅海を前に行く手を阻まれたモーゼたちが、海を渡っていくところが映画の見せ場だろう。チャールトン ヘストンが映画「十戒」で海を渡る時、海が二つに割れるところは、ちょっと漫画的だったが、今回クリスチャンが苦労して浅瀬を渡るシーンのほうが現実っぽい。チャールトン ヘストンの醜い顔は、モーゼ役には合っていたが、クリスチャン ベールのモーゼはハンサムすぎて、笑顔が可愛すぎて、モーゼっぽくない。
でも今年最大の資金をかけて制作された超豪華3Dの大型映画だし、役者の中で最も役者魂をもったクリスチャン ベールが主役だし、せっかくだからベストテンに加える。エジプト人なのに色の白い青い目のオージーなまりのジョエル エドガートンがエジプト王、ブラウンヘアでロンドンなまりのクリスチャン ベールがエジプト軍将軍をやっているのは、史実に忠実ではない、などといっている外野もいるみたいだけれど、彼らが主役じゃなかったら誰が聖書物語など観るか。
このような大型映画は映画館のうんと前の席で、画面からバッタ襲撃シーンでは全身痒くなり、戦闘シーンでは血しぶきを浴び、紅海の水しぶきかかかってくるくらいの迫力を感じながら観るのが正しい見方だ。
第6位
「それでも夜は明ける」
製作:ブラッド ピット
監督:ステイーブ マックイーン
キャスト
キエテル イジョ―ホー:ソロモン
ブラッド ピット:建築士
ベネデイクト カンバーバッチ;ファーム家主
3月11日に、この映画の紹介を書いた。
原作「12YEARS SLAVE」は、150年前ソロモン ノーサップによって書かれて出版された。ニューヨークで自由の身であった大工、ソロモンが誘拐されて南部に送られ、12年間奴隷として働かされた自分の記録だ。この本はその後のアメリカ市民戦争に大きな影響を与えた。
1841年ニューヨークで家庭をもち大工として働き、バイオリンの名手でもあったソロモンは騙されて南部のルイジアナのコットンファームに売られていった。南部の農家では綿を摘み取る奴隷がいくらでも必要だった。奴隷は自由を奪われ、白人家主の虐待を受けながら、過酷な労働を強いられる。自分が自由の身で、奴隷ではないなどと南部で訴えても、誰も耳を貸さない。救いようのない状況で希望を失っていく、足枷手かせで生きる底なしの絶望が伝わってくる。カナダ人の建築技師の奔走によってソロモンは助け出されるが、彼を見送るファームの奴隷たちは、もっと悲惨だ。
奴隷と同じ肌の色をもった自由黒人とはいったい何だったのだろう。肌の色に関わりなく誰もが同じ人権を認められるようになるまでの、気の遠くなるような人権回復への道。彼の自伝は、ストウ夫人が「アンクルトム」(1854年)を書く契機になり、やがて市民戦争を経て、奴隷が解放され、さらに黒人人権運動に結実していく。そして、いまだに人種差別はなくならず、黒人の少年が白人警官に殺されている。なんという罪深い世界だろう。
第7位
「ウルフ オブ ウォールストリート」
監督:マーチン スコセッシ
キャスト
レオナルド デカプリオ:ジョーダン ベルフォ―
2月7日にこの映画の映画批評を書いた。
学歴もコネもない証券会社に勤めていた男が26歳で、ブローカーとしてウォールストリートで成功、巨万の富を得る。年収60億円を稼ぎ、栄華を極めるが収賄と株の不正取引で逮捕され何もかも失うという実在人物のお話。3時間の長い映画で21秒に一度「F-CK」言葉が出てくる。その数506回。デ カプリオが裸の女の肛門にコカイン粉を振りまいて、それを鼻で吸引するところから映画が始まる。禁止用語の吐き捨て、ヌードシーン、暴力シーン、ドラッグシーンのてんこ盛り映画。粗悪株を嘘八百並べて年金生活者に売りつけて、わずかな蓄えさえ情け容赦なく取り上げて集めた金をスイスでマネーロンダリング、自分の会社の社員にストリッパーのドラッグパーテイーを功労賞に、小人症に滑稽な真似をさせて笑いをとり、女性社員の髪をバリカンで剃って大はしゃぎ、仕事中に机の下に娼婦をはべらせジッパーを開けさせる。公然と弱者を馬鹿にして障害者を笑いものにする。男の下劣な欲をこれでもかこれでもかと見せてくれる。人としても品性も教養も誇りもない。成り上がり者の俗物極致、金銭至上主義で、下衆の消費中毒のアメリカ人の極致。
そんな男が250人の社員の前で演説を始めると熱が入り、アジりまくって社員全体が興奮して総立になって熱狂する。ここまで下劣な俗物下衆男になれるものかと、あきれて言葉もないが、そんな男をデ カプリオが実に楽しそうに演じてる。どんな役でもものにしてしまう、実力をもった役者だ。彼が演じた映画は全部観ているが、どんな作品でも徹底して役にはまっている。ジョーダン ベルフォ―はくずだが、役を演じたデ カプリオは一流。
第8位
「ダーク ホース」
監督:ジェームス ナビア ロバートソン
キャスト
クリス カーテイス :ダーク ホース
ジェイムス ロレントン
12月12日に、この映画の紹介文を書いた。
ニュージーランド先住民族のマオリ出身で、ダークホースという愛称で慕われたチェスのチャンピオン,ジェネシス ポテイ二のお話。彼は幼い時に自閉症と診断され、家族やコミュニテイーから切り離されて、施設で育ち、大人になった。チェスだけを唯一の友達にして成長したあと、国を代表するチェスのチャンピオンになった。
彼は中年になってやっと施設から出所を許され、弟の家に居候をしてその息子に出会う。ギャングの根城で生まれて育った少年だ。孤独が当たり前のダークホースが、道しるべを探して彷徨う少年の魂を引き寄せる。二人の孤独な魂。マオリの文化、習慣が随所に出てくる。マオリ独特のマッチョ文化、だいたい女が全然でてこない。唯一、ダークホースに「お母さんに会いたかった。」と言わせているだけ。
先住民族マオリとは、どんな人々なのか、百科事典で見るより、こうしたマオリの映画を観たほうがよく理解できる。マオリの映画、というだけの理由で、この映画を観る価値がある。
第9位
「トラックス」(道程)
オーストラリア映画
監督:ジョン クーラン
キャスト
ミア ワシコスカ :ロビン デビッドソン
3月14日に、この映画の映画批評を書いた。
1977年、ロビン デビッドソンという20代の若い女性が単独でオーストラリア中央のアリススプリングから西海岸ジェルトンまでの2700キロの砂漠を走破した記録を再現した作品。4頭のラクダと犬を連れて9か月かけて、彼女は一人で砂漠を歩き切った。途中数か所で、ナショナルジェオグラフィックに撮影された写真は、その後本になって出版された。
360度砂ばかりのオーストラリアの原風景が、素晴らしい。過酷な旅路だが自然の美しさに圧倒される。彼女は、人との関係を作るのに不器用な、何が悪いわけでもないのに心を開いて人と関係をつなぐことが得意でない。子供の時、母親が自殺して、親戚に引き取られていくために、生まれてからずっと一緒に寝起きしてきた親友の犬を安楽死させられた。そのことがずっと心の傷になっている。大人になって信頼できる父親も友達もいるが、孤独が好き。人といるのがわずらわしい。そんな女の子がひとりきり、自分の犬を連れて冒険の旅に出る。生きて帰れないかもしれない砂漠のただ中で、9か月。まねのできないことだ。
実在のロビンはまだ60代の美しい人だ。映画ではこの役を、ミア ワシコスカが演じたが、「プリテイーウーマン」のジュリア ロバーツが演じる予定だったと言う。ロバーツのほうが本人に似ているが、決して笑わない、いつもふてくされているみたいな表情のオージー俳優ミアが演じていて、それなりに良かった。本人は、マスコミ嫌いで 砂漠単独走破記録を出した後は、全くマスコミの登場しないで、ひとりマイペースで生きている。そんな自分の人生を生きている姿が清々しくて、好感がもてる。
第10位
「ザ ドロップ」
キャスト
トム ハーデイー:ボブ
ジェームス ギャンドルフィー二:マービイ
ノオミ ラパス :ナデイア
ボブはニューヨークで、従兄が経営する酒場のバーテンダー。チェチェンからきた移民だ。酒場は一見すると地元の人々の気の置けない飲み屋だが、カウンターには穴が開いていて、犯罪で巻き上げた金を「ドロップ」する場になっていた。ボブは前科もあるが、日曜には教会に行くような、どこにでもいるような好青年だ。ある夜、アパートのゴミ箱に怪我をして捨てられた子犬を見つけて、そのアパートに住む女の助けを得ながら犬を世話することになる。しかし女には別れた男がいて子犬を傷つけて女のゴミ箱に捨てたのはこの男に仕業だった。男は執拗に女とボブに付きまとう。一方、酒場に強盗が入りドロップされた大金を奪われる。そのためにマフィアの元締めは、ボブと従兄のマービイを追い詰める。実はマービイが強盗犯だった。酒場の従兄に裏切られ、犬と女のことでチンピラにまといつかれて身動きができないボブは、、、
といった犯罪映画。
ニューヨークのマフィアの空恐ろしい存在。チェチェンギャング組織、それらの手足となるチンピラたち、くたびれて収賄に弱い警察。暴力と銃が当たり前のアメリカ社会を描いた今日的な映画。映画を観ていて初めから最後まで不安と緊張が続いていて、いつどんなに怖い場面を見せられるのか、はらはらし通しだった。主役のボブが笑顔さわやかな、口数の少ない好青年なので、なおさら次はどんな事態で残酷な事態が起こるのか身構えていたので、映画が終わったときは、ぐったり疲れていた。ニューヨークに住むって、こんな感じなのか、なんかわかったような気がする。
虫も殺せないような感じのトム ハーデイが好演している。相手役のノオミ ラパスはスウェーデン人で「ミレニアム ドラゴンタットーの女」シリーズで主演した。人の百倍くらい苦労してきた勝気な女の役がよく似合う。酒場の主人をやったジェームス ギャンドルフィー二は、この映画に出演したあと心臓発作で51歳で亡くなった。ギャング役をやるために役者になったような風貌だが、まだこれから晩年のリノ バンチェロとか、ジーン ハックマンがやったみたいな渋い役で良い味を出せたのに残念。合掌。