2013年7月4日木曜日

映画 「マリーアントワネットに別れをつげて」

                                    


原題:「LES ADIEUX A LA REINE」
英語版タイトル:「FAREWELL MY QUEEN]
邦題:「マリーアントワネットに別れをつげて」
原作:シャンダル トマの同名の2002年ベストセラー小説
監督: フツワ ジャコー
キャスト
マリーアントワネット:ダイアン クレイガ―
シドニー朗読係:レア セドウ
ポーリヤック夫人:ヴィルジニー ルドワイアン

本当に本当のヴェルサイユ宮殿で撮影したフランス映画 ということで、是非観なければと思って観に行った。日本では、この映画、去年の12月に公開されたらしいが、シドニーでは今になってやっと、ハリウッドものでなくマイナーな外国映画を上映する小劇場で、短い期間だけ上映された。
ヴェルサイユを管理する公団が、この映画製作に全面協力し、2か月間休館日の月曜日と平日の日暮れ以降の夜間に、撮影が行われたという。ヴェルサイユの使用料金、、、1日2万ユーロなり。
ヴェルサイユは、パリを旅行したときに訪れたが、グループ旅行の悲しさで通り一遍見て、通り過ぎただけで、ゆっくり見る余裕がなかった。ルイの寝室に飾ってあった画をもう一度 フイルムで見られるだろうか、庭園の様子を当時の人々がどんな風に楽しんでいるだろうか、もう一度じっくり見たかった。映画製作にあたって キャストなどの人件費よりも、ヴェルサイユ使用料の方が 費用が掛かったのではないだろうか。 映画には、「ヴェルサイユ最後の3日間を、マリーアントワネットの朗読係シドニーの目から見た宮廷歴史物語」という説明がついている。

スト-リーは
1789年7月14日、バスチーユ牢獄襲撃の日から、この映画が始まる。この日、パリから遠く離れたヴェルサイユでは、王侯貴族たちは普段と変わりない生活を楽しんでいる。アントワネットは、お昼寝の時間に朗読係シドニーに本を朗読させるが、移り気な王妃は すぐに飽きてファション雑誌を取り寄せて、注文するドレスの相談をしている。アントワネットを敬愛するシドニーは、王妃のためなら何でもしたいと思っている。その気持ちはほとんど恋に近い思いだ。侍女にアントワネットが注文したダリアの刺繍を自ら引き受けて、心をこめて刺繍する恋する乙女だ。
王妃はポーリヤック夫人を特別に気に入っていて、自分の思い通りにしたいと思っているが、ポーリヤックは、それほど王妃に執着していない。そういった二人のやりとりを覗きみているシドニーは、王妃に同情を、ポーリヤックには嫉妬をしていて、心穏やかではない。

やがて蜂起したパリ市民は ヴェルサイユに処刑リストを送りつける。286人のギロチンリストを見て卒倒するものが続出する。勿論国王と王妃がリストのトップに挙げられている。宮殿は急に不穏な雰囲気に包まれる。浮足立って、夜の闇にまぎれて逃げ出す貴族たちが沢山いる。それを見てわれ先にと召使や近衛兵までもが 逃亡を始める。神父やシドニーに教育を施してくれた図書係のモリエール氏や 仕事仲間も次々と立ち去った。しかし、シドニーは 王妃に忠誠を誓っている。心から恋焦がれている王妃のために最後の最後まで付き従っていきたいという気持ちに揺ぎは無い。
しかし王妃はポーリヤック夫人がギロチンリストに入っていることに心を痛め、彼女を宮殿から脱出させ、オーストリアに逃す計画を立てる。シドニーを呼びつけて、ポーリヤック夫人の身代わりとして、彼女ののドレスを着せ、ポーリヤック夫婦には使用人の服を着せ、宮殿から脱出することを命令する。シドニーは、心敗れて、貴族の服に身を包み、愛する王妃に送り出されて、恋敵のポーリヤックの身代わりとして馬車に揺られて行くのだった。というお話。

ヴェルサイユ宮殿の あの豪華絢爛な鏡の間で、ルイ16世が貴族たちに危機的な現況を語る場面がある。シャンデリアが燦然を輝いている。アントワネットが自分のベッドでゴロゴロしながらシドニーに本を読ませるシーンや、暖炉のある寝室で、ギロチンリストを火に放り込むシーンもある。興味深いのは使用人たちの専用通路や、使用人部屋だ。当時は灯りが貴重だったので 廊下や調理室に窓の灯り取りがついているが、それでもとても暗い。暗い食堂に、使用人が交代でスープとパンの食事をとりにきて、情報を交換したりゴシップに明け暮れる。そんな暗いところを浮き足たった人々がごった返しててんやわんやになる雰囲気がよく伝わってくる。

ヴェルサイユ宮殿はルイ14世によって莫大な予算を使って建設された。宮殿建設に2万5千人、庭園に3万6千人の労役が投入された。どうしてそんなに大きな宮殿が必要だったかというと、ルイ14世は、10歳の時「フロンドの乱」で、貴族たちに命を脅かされた経験をもっていたので反乱を予防するために、貴族をヴェルサイユに強制的に移住させたからだった。単なる散財ではなかったのだ。しかし太陽王、ルイ14世の大盤振る舞い以降、ルイ16世即位のときにはすでに フランスは慢性財政難に陥っていた。にも拘らずルイ16世は、イギリスの勢力に対抗するためアメリカ独立戦争を支援し、財政を一層困難にする。三部会を招集し、貴族勢力に対抗する平民層に政治参加の機会を与えた結果が、市民蜂起の力を呼び起こす結果となった。

マリーアントワネットは、オーストリア大公フランツ1世とマリア テレシア皇后の娘で、当時敵対していたプロイセン王国の威勢からフランスとの同盟強化する必要があったために、人質として15歳で フランス王ルイに嫁いできた。ひとり外国に送られてきた孤独を紛らわせるためにギャンブルに興じたり散財を欲しいままにして浪費をした。お気に入りのポオーリヤック夫人に年金の下賜金として年間50万ルーブル(30億円余り)を与えていた。おまけに王権が剥奪されたあと、フランス王妃として誇りをもって市民の裁きを受けると、言っておきながら、オーストリア貴族の変装してオーストリアに逃げようとしてヴアレンスで捕まって(ヴェレンス事件)、完全に市民から憎しみを対象にされる。断頭台への道は、歴史の必然だった。

映画で、マリー アントワネットを演じたダイアン クルーガーは、クールビューテイーの役柄によく合った美人だ。2006年に ソフィア コッポラが「マリーアントワネット」という映画を作って、アントワネットにクリステイン ダンストを登用した。この品のない庶民の代表みたいな顔をした女優の登用には驚いたが、今回のクルーガーは、王妃らしくて良かった。しかし、主役の朗読係シドニーを演じたレア セドウーという17歳のフランス女優だが、なんと表現力のない大根女優であったろう。顔の表情もひとつしかなく、およそ喜怒哀楽も抑揚もない。王妃に恋をしているのに、恋敵の身代わりになって自分の身を危険にさらすことになった、恋心敗れる哀しい、絶望的な女の役だが、この女優は出てきた時から最後まで、重度のうつ病みたいな顔ひとつで通した。プラダの香水のコマーシャルに出ているらしいが、やっぱり笑っていないで 哀し気な顔をしている。一体何だ。役者としてやっていきたいならば、次回は喜劇でも演じてみて、表現するということの大切さを知って自分を磨いてもらいたい。

ヴェルサイユで撮影したフイルムということだが、本物のヴェルサイユだから一番良い映画ができるはずだと思ったら間違いだ。映画とはフェイクの世界だ。本物を使って本人が演じたら上出来かというと、そうではない。フェイクの役者が作り物のセットで演じた方が本物らしく出来上がるのはなぜか。それは、映像という手段によって、本物以上のものを効果的に見せようという監督の意思が通じるからだ。ドキュイメンタリーでない限り、映画は映像を通じて、どう表現したら人に本物以上の本物を伝えることができるか監督の手腕にかかっている。
この映画、本物のヴェルサイユで撮影したが、ヴェルサイユの豪華さや、歴史の重みを観て感じることができなかった。監督の力量不足ゆえだろう。