原題:「LES MISERABLES」
監督:トム フーバー
キャスト
ジャン バルジャン:ヒュー ジャックマン
コデット :アマンダ セルフライド
フォンテーヌ :アン ハサウェイ
シャベール警部 :ラッセル クロウ
マリウス :エデイ レッドメイン
エボニーヌ :サマンサ バークス
ヴイクトル ユーゴーは フランスを代表する作家で、ロマン派の詩人。ボードーレールを見出して世に紹介たことでも有名。たった23歳で詩作や小説を評価されて、レジオンドヌール勲章を受け、ルイ18世から高額の年金を受け取っていた。にも拘らず、リベラルな知識人として、コメデイフランセーズの台本で、王政を笑い上演禁止になったり 1848年にはルイ ボナパルトが政権をとると これに真っ向から反対して弾圧され、ベルギーに亡命せざるを得なくなった。以来、1870年でナポレオンが失脚するまでフランスに帰ることができなかった。 小説「レ ミゼラブル」は ベルギーで出版される。
クリスチャン精神に裏打ちされた人道主義。人としてより良き人として生きようとする男、ジャン バルジャンの半生を描いた。1本のパンを盗んだゆえに19年間投獄され、出獄後 一晩の宿を許された教会から銀食器を盗み、捉えられるが、神父から、それらは盗んだものではなく与えたものだ、と証言されて罪を逃れる。この神父に 良き人として、人の為に生きることを諭されて良心に目覚める というお話は余りにも有名。 子供の頃は 岩波少年少女文庫で読み、中学では細かい字の大人用の本で読んで、心が躍った。ジャン バルジャンと警部シャベールとの確執、どこまでも追ってくる執念の塊のようシャベールの恐ろしさ、パリの地下水道のドラマテイックな逃走、コデットを虐め抜く叔父叔母のいかさま師ぶり、せっかく安定した生活ができるようになり人々の信頼を得て市長にまで成りながら、他の男がジャン バルジャンとして逮捕されたと知ると、すべてを投げうって出頭する勇気、、、ジャン バルジャンの冒険に息もつけずに読み進んだ。人間として、良き人として生きる決意、少女を守り、幸せになるまで見届けると言う断固とした決断、自分の良心を見つめる厳しい目、本当に素晴らしい名作。感性豊かな子供のうちに 是非読んでおくべき本のひとつだ。
ミュージカルはロンドン コペントガーデンで上演されて大成功、ロングランで、今でも上演が続いている。ロンドンで観られると思っていたが、運悪く、丁度劇場の修理で滞在中に観られなかった。 映画化してフイルムを作ったのは トム フーバー。「英国王のスピーチ」を作った監督。 ジャン バルジャン役は オージーの、歌って踊って演じる、ヒュー ジャックマン。44歳。身長190センチの大きな体で、ミュージカル「オズから来た男」を演じて、オーストラリアよりもアメリカで先に、人気者になった。全然名前のない役者時代に テレビで共演した7才年上のオージー先輩役者デボラリー ファーネス(全然美人じゃない)と結婚して以来、ずっと離れたことが無いという仲良し夫婦だ。
このミュージカル映画は、演技を撮影した後、レコードしておいた歌を画面にくっつける従来のミュージカルの製作方法をやめて、演技と歌をライブで撮影している。そのため どの役者の歌も迫力のある臨場感に満ちている。
映画の最初のシーンに、みな度肝を抜かれるのではないだろうか。オーケストラの重厚な響きで始まる大スペクタクルだ。どでかい帆船を修理するために港のドッグに船を停留させるために何百人もの囚人たちが鎖につながれたままロープで船を牽く。ドッグの畝かと思っていたものが、船をひくロープでそこに豆粒のようにへばりついていたのは 疲れ果てた囚人たちだったのだ。 ここでヒュー ジャックマンが歌う「囚人の歌」がすごい迫力だ。彼いわく、36時間水を飲まないで居ると、顔が4.5キロ痩せることが出来る。そうして自ら激しい頭痛と戦いながら脱水し、骸骨のような形相になってこのシーンを演じたのだそうだ。恐るべき執念。本当に圧倒された。
驚いたのは、コデット役のアン ハサウェイが、とても高い綺麗な声で歌っていたこと。娘のために痩せた体で、身を持ち崩し初めて体を売ったあとに歌う「I DREAMED A DREAM」(夢やぶれて)は、可哀想で不憫で 聴いていて自然に涙が浮かんでくる。 でも、エプニーヌ役のサマンサ バークスには勝てない。彼女の歌唱力は本物だ。たった一人、片想いとわかっていて自分の愛した青年を見つめる けなげな純真さを「オン マイ オウン」で歌い上げる。その姿に胸がつまる。
ジャン バルジャンが富も名誉も地位も捨てて、身代わりに拘束された男を救うために名乗りを上げる決意を示す「WHO I AM」(おれは誰だ)も、すごく良い。もう怖いくらい。
たくさんの登場人物に繰り返し繰り返し歌われる「民衆の歌」は 本当に心に響く。貧しくて もう失うものなど何もない民衆蜂起の歌の合唱が、映画を観終わった後でもずっと頭の中で繰り返されて、忘れられない。
原作が良いので ミュージカルにしても、映画にしても人の心を打つ。古典作品だが 今でも人々は富める物と、何も持たないものとに分断され、厳しい生活の中でも、人は愛する人のために身を投じ、良心をもって良き人でありたいと念じて生きている。150年前に出版された文学作品だが、少しも古くない。今日でも全く新しい。
これだけ力の入ったミュージカルをほかに見たことが無い。2013年のアカデミー賞は、全部これにあげたら良いのではないだろうか。