2011年11月30日水曜日
ロイヤルオペラ 「アドリアナ ルクブルール」
ロイヤルオペラ 「アドリアナ ルクブルール」のハイデフィニションフイルムを映画館で観た。
http://www.roh.org.uk/whatson/production.aspx?pid=13793&claim_session=1
1902年 フランシスコ チレーナ作曲
イタリア語 4幕 2時間30分
初演:1902年 ミラノ テアトロリリコ
アドリアナ ルクブルール :アンジェラ ゲオルギュー(ソプラノ)
マウリッオ :ヨナス カーフマン (テナー)
公爵夫人 :オルガ ボロデイナ (メゾソプラノ)
侯爵 :デヴィッド ソール (バス)
ストーリーは
ルイ14世統治時代のパリの社交界。
実在したコメデイーフランセーズの花形女優アドリアーナ ルクブルールと 公爵夫人が 同時に愛したザクセン伯爵との間に起った、ラブ トライアングルを基にして作られたオペラ。
女優のアドリアナ(アンジェラ ゲオルギュー)は 若き伯爵マウりッオ(ヨナス カーフマン)と愛し合っていて いつか結婚できる日を待ちわびている。一方、ミショネ舞台監督は、アドリアナを娘のように女優になった今までの彼女を育ててきたが、実は愛していて いつか胸の内を伝えたいと思っている。しかしそれは かなわない片思いだ。
ブイヨン侯爵は コメデイフランセーズのパトロンで、女優を愛人に持っている。妻との間はすっかり冷め切っている。
マウリッオは 長いこと公爵夫人と愛人関係にあったが、女優アドリアナと出会ってからは 何とか 公爵夫人と別れたいと思っている。しかし、自分の政治的立場から 侯爵夫人を怒らせると 謀反人として逮捕される可能性があるため、夫人を邪険にすることができない。
ある夜、ブイヨン侯爵の別荘で マウリッオと公爵夫人が逢引しているところを 突然、夫の侯爵が帰宅した。マウリッオは あわてて夫人を小部屋に隠す。そこに、女優のアドリアナまで 夕食に招待されて やって来た。偶然にマウリッオに会えて、アドリアナは驚き、喜ぶ。しかし、マウリッオは、アドリアナに 小部屋に隠れている女を逃がしてやってくれ と頼みこむ。夫人が隠れていた暗闇の小部屋のなかで、アドリアナと夫人は初めて出会う。そこで、二人は互いに恋敵であることを知ってしまう。自分だけがマウツオに愛されていると信じてきた二人は、互いに気が狂わんばかりに、嫉妬する。
後日 ブイヨン侯爵家のパーテイーで アドリアナは再び夫人に会う。楽しいパーティーの出し物のあと、夫人から余興を求められたアドリアナは 夫人へのあてつけから 夫を裏切って浮気をする淫らな女のせりふを 舞台で熱演して 夫人を侮辱する。
その数日後、アドリアナのもとにマウリッオから贈物が届いた。喜々として開けた その箱の中にあったのは 以前アドリアナがマウリッオにあげたスミレの花束だった。スミレは色を失い、すっかり枯れていた。アドリアナは驚き悲しむ。悲嘆にくれる彼女を慰めようと 舞台監督や陽気な役者仲間が来て、つかの間の楽しい時を過ごしている時に、マウリッオがやってくる。公爵夫人と別れてきたところだ と言い、彼はアドリア名に求婚する。夢にまで見た求婚、、。
しかし、アドリアナは「いいえ、私は結婚しない。役者として演技に生きるの。」といって断る。そうしているうちに、アドリアナの意識が混濁してきた。公爵夫人から贈られた枯れたスミレには 毒が仕込まれていたのだった。アドリアナはマウリッオの腕のなかで 息絶える。
というおはなし。
第一幕のアドリアナのアリアは マリア カラスが最も愛したアリアだ。カラスのCDを買うと 必ずこの曲が入っている。「わたしは舞台女優なの。芸術の神のしもべです。」という とても堂々とした素晴らしい曲だ。カラスの突き抜けるような 激しい強靭さはないが、ルーマニア出身の個性派、アンジェラ ゲオルギューが歌うと 優雅で鞭のようにしなやかなアリアで 聴いているだけで胸がいっぱいになってくる。
ミッショネ舞台監督の 片思いもせつない。
ミッショネに対するときは、アンジェラは 子供のような表情と幼女のようなあどけない仕草を見せるが、マウリッオを相手にしている時には 炎のように燃える女に変わる。その変化がみごとだ。役者としてもソプラノ歌手としても超一流ということだろう。素晴らしい。
そして、カーフマン。日本でも一番の人気。今や世界でトップのスターテナー歌手だ。ハンサムで背が高く、姿良し、歌良し、芝居良し、何でも100点満点の歌手。豊かな声量は プラセタ ドミンゴを上回るほどだ。
彼のオペラを観るのは2度目。初めは、ニューヨークメトロポリタンオペラのニーベルングの指環から、「ワルキューレ」で、ジークムントを演じた。歌うだけでなく 演技の冴えに目を瞠った。高音が気持ちよく伸びて あふれるほどの声量で歌い上げる。まったく ただものではない。今回のロイヤルぺラでも、自己保身のために昔の女を捨てることができず、優柔不断な色男の難しい役を 実に リアルに演じていた。
オペラみたいな愛に身を任せてみたいとか、オペラのような恋をしたい という言い方があるが、文字通り舞台の上のカーフマンのように激しく求愛されてみたい と誰もが思うことだろう。
チレアのオペラは 初めて観たが、筋が単純で曲がすべて美しい。アドリアナが求婚を断るところが良い。愛してきて求婚されることを望んできたのに 相手の不実を知って、優柔不断な姿を見てしまったあとでは、謝られても求められても 簡単には受けない女性としての誇りがある。女には純真な思いを傷つけられ、男には悪かったという心の負債があるから、どうあがいても 関係はもとには戻れない。愛した男に求婚されてNONと言える 自立した誇り高い女がここに居る。
チレアのオペラが素晴らしく、歌手たちも申し分なく すばらしい。とても満足した。