映画「TEN CANOES」は、今年6月に観たが、この12月に、2006年 オーストラリア映画祭で最優秀賞を獲得、表彰式がおこなわれた。 初めての、アボリジニーの言葉による、アボリジニーの出演した映画だそうだ。
アボリジニーの年寄りによるナレーションに従って、物語が展開する。年寄りが若い成人したばかりの青年達に、カヌーの作り方や、家の作り方を練習させて、生活に必要な技術を伝えていく。話の中で、複数の妻を持つ実力者の、一人の妻が失踪し、人々は他の部族に誘拐されたと思い込み、相手方を殺してしまうが、これが誤解だったとわかり、実力者は、殺された仲間に復讐されて、殺される。年寄りは淡々と かつて あった事件の顛末を語り、正義のあり方を青年達に教えていく。というのがこの映画のストーリー。
監督は、PETER GJIGRR と ROLF DE HEER 。ヨーロッパ人が オーストラリアに定住する前の 先住民族の人々の生活のありようを描いた、という意味で、この作品には政治的なメッセージがこめられている。オーストラリア大陸が白人に占領される前の豊かな人々の暮らしぶりを映画にすることで、現在の白人優先、白豪主義のなかで、先住民族の文化が消滅していったことに、痛烈な批判をしている。
この監督は、自腹で映画を製作し、この映画を持って学校を回り、子供たちにアボリジニー文化を紹介して理解を深めようという地味な活動をコツコツとしている。良心のかたまりのような人だ。 映画撮影には人食いワニがウヨウヨしている河でおこなわれ、身の危険と隣りあわせだったそうだ。制作チームは4年前に「THE TRACKER」という映画を作ったのと同じチーム。このときの主人公の息子が今回の「テン カヌー」の主役で出演している。
「THE TRACKER 」は、白人警官によるアボリジニー虐殺がテーマで、やはりきわめて政治的メッセージがこめられた映画だ。サデイストとでもいうべき警官がアボリジニー集落を繰り返し攻撃、人々を虐殺するのを、警官のガイドのアボリジニー青年が神の名において警官を処刑するというストーリー。
ラリア映画で低予算ローカル映画の典型。でも映画としての完成度が低い割には、世界的に高く評価された。このガイド役のアボリジニー俳優、デビット ガルピルは、映画では 裸で素足、カーリーヘアに漆黒の肌で、典型的なアボリジニーの姿で出演したが、カンヌ映画祭に招待されて、タキシードで正装して 人々をアッといわせた。 とっても、素敵だった。現実には、彼はすごくもてて、女性問題とアルコール問題をずっとかかえていたらしい。
「テン カヌー」映画そのものは 詩情豊かで、すこし冗漫。しかし、こういう映画が手作りで、限られた予算の中で四苦八苦しながら、危険をおかしながら撮影されて、でもそれが きちんと評価される ということに意味があるのだと思う。世界中の先住民族が滅びつつある歴史の中で、政治的なメッセージが、きちんと伝えられ、受け止められいっている、ということが大切なのだと思う。